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合わぬ記憶

 コンビニへ入り新聞を取り日付を見ると2年前の12月。第二北九州空港事件当日。コンビニから出たエルシュタ、準一はちゃんと暖かい恰好をしている。


「さて、まだ昼だ。どうする?」

「え? んー。腹ごしらえ」


 分かった。と準一は辺りを見渡し蕎麦屋を見つける。「蕎麦屋でいいか?」


「うん」とエルシュタ。2人は、蕎麦屋に入った。




 昼休み。失礼、と碧武九州校2年3組の西紀綾乃は、マリア・ミレイズに声を掛けられた。「え? どうかした?」


「いや、私の夫を探しているのだけれど」

「ああ、準一なら今日はお休みだね」

「? 理由を知ってるかしら?」


 えっと、と綾乃が答える前にカノンが出て来る。「兄さんは、ちょっとお仕事関係で」


「機甲艦隊の?」と聞くとカノンは頷く。「ですから、すいません。兄さんはいません」

「なら仕方ないわ」


 とマリアは作って来たであろう重箱を開く。「よかったら、一緒に食べない? 折角だし、みんなで食べようと思って」

 なんていい人なんだろう。とカノン、綾乃は思いながらマリアと昼食を取った。




「はぁッ!? 過去!?」と校長室で代理は結衣に聞く。「ええ。何でも、兄貴の大事な事件に関してだって」


 教えてくれませんでした、と結衣。代理は察する。第二北九州空港事件の事だ。

 妹に言わなかったのは、必要ないと判断したからだろう、と考え代理はカップのコーヒーを飲む。


「いつごろ帰って来るって?」

「何か、すぐに帰って来ると」


 なら、いいか。と代理は言うと椅子をクルクル回し天井を見た。




 蕎麦屋を出て、準一とエルシュタは空港に近づいた。ハッキリ言って、何が起こるか、分かり切っていたので、事件に近づくにはどうしたらいいかを考えた。

 あまり目立つのはよくないので、起こるであろう混乱に便乗して、飛行機へ近づく。これがベストだろう。

 しかしそうであっても、自分たちが実行犯のカルト狂信者と鉢合わせはよくない。

 居るであろう、自分の記憶の中のエルシュタ、それと会うのも良くない。


 ―――何より

 

「来てから言うのもあれだけど……さ。準一。もしかしたら、見ちゃうかもしれないよ?」


 準一は顔を向けず「分かってて来たんだよ」と答える。

 何を見るかもしれない、かといえば、準一のかつての友人たち。その彼らの死にざまだ。




 第二北九州空港は、陸地から離れた人工島の空港で、渡る為の横断橋を破壊してしまえば、結構時間稼ぎができる。その為、第二北九州空港の、惨劇の時間が近くなると横断橋数十箇所が爆発、落ちた。


 夕刻時になり、準一は爆発音のした箇所へ目を向けた。


「始まりだな」と上がる黒煙を見て準一がエルシュタに言う。エルシュタは頷き、2人は空港に入り、ターミナルに目をやる。案の定、爆発の影響で外と同じくパニック状態だ。

 人が出入り口へ、はたまた別の場所か、と忙しく行きかう中、準一は、一瞬通り過ぎた圧倒的存在感に振り返る。


「あいつ」


 声を出し、存在感の元を見る。エルディ・ハイネマン。辺りを見ると、謎にイベントがあり、その中にサーカスがあったらしい。その為の彼だろうが、まさか実行犯を嗾けた人物自ら居るとは思わず驚いた。

 しかし、ここは過去、彼は準一を知らない。

 ここで自分を知る人間は、京都の一家、それに関わる者。姿を見られてはマズイ。


「エルシュタ。下に降りよう。俺の乗っていた飛行機は3番に入る機だ。多分、滑走路前で止められる」

「うん」




 下に降り、荷物を運ぶためのカーが機に近づくと、機の扉が開き、姿を現した男が発砲。運転手は射殺され、カーは横転し滑り、火花が散った。

 この時、自分は機内で驚いていた事を思いだし、準一は目を細めエルシュタと共にコンテナを辿って、機にいちばん近いコンテナの陰に隠れた。

 程なく、動きがあり男達が姿を現し、窓を破壊。主翼上に操縦士、副操縦士、CAを連れ出し、記憶にある、猟奇的な殺しを始めた。

 下級魔法を使用しての殺し。

 それが終わると、一般の客を連れ出し、生きたまま音を立てて刃を回すチェーンソーで、背中を貫く。痛いだろうに、耳に刺さる様な悲鳴だ。


「あんな事があってたの?」

「ああ」


 あまり口を開く気にはなれず、準一はジッと、黙ってその惨劇を見て居ると、一般客が一段落した。胸騒ぎがし、準一は息を呑む。

 案の定、主翼に連れ出されたのは、中学時代一番仲の良かった友人。

 まだ動いている。生きている。自分の記憶では死んでいたので、見られたことは嬉しかったが、次の瞬間には、生きたまま、チェーンソーで背中を横に裂かれ、断末魔か悲鳴か分からないそれが聞こえ、ハッとした。

 一瞬、自分の足が動き出しそうになったのを見て、準一は頭を押さえる。

 そのまま気を取り直し、目を向ける。

 短時間の間に、親しかった人間は全て殺された。

 下では、別の男達が死体を集め、切り刻み、血液で何かを書いている。

 多分、召喚術式だろう。

 そして、とうとう出て来たのは


「準一……」


 エルシュタは無意識に声を出していた。準一の記憶では、この主翼に立たされた時、丁度自分たちが居るコンテナから離れた場所に、エルシュタが居た筈。

 準一は少し遠くに目を向けると、赤い夕陽に染まったそこに、半透明なエルシュタがいた。

 エルシュタはも目をやり、自分が居る事に驚きながらも、主翼に目をやる。準一も同じように主翼を見た時だった


 ―――主翼に立たされた朝倉準一は、チェーンソーで首を刎ねられた


 自分の視界の先の、2年前の自分は、首を刎ねられた。

 つまりは、死んだ。いや、おかしい。そんな記憶はない。

 

 直後、巨人が降り立ち、首が落ち、膝を付き硬直していた朝倉準一の死体は無くなっていた。

 巨人、いや、機械魔導天使、アルぺリスが降り立ったとき、自分はコクピットに居た。

 アルぺリスは動きだし、機内から狂信者を引きずり出し、掴み上げると主翼に叩き付け、逃げる仲間を踏みつぶしていた。

 すると、待機していたのだろう、戦闘ヘリが姿を現すが、アルぺリスにコンテナを投げつけられ撃墜される。

 

 しかし、こんな事知らない。  


 一方のエルシュタに目をやると、既に居ない。

 そして気が付けば、碧武の自宅前に居た。

 いきなりでついて行けず、隣を見るとエルシュタが大きく息を吐いた。


「準一……どうだった?」

「そうだな。記憶と合致しない点が」


 準一はそのまま座り込み、背中を塀に預けた。

 死んだはずの友人が生きている様を見て、次にそれらは殺された。悪趣味だ。

 2度も死にざまを見るなんて、しかも2回目ははっきりと記憶に焼き付いている。

 精神によくないな、と準一は大きくため息を吐いた。



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