再び過去へ
放課後・帰宅後
「ねーカノン」と呼ばれ、カノンは振り向く。「ん?」とカノンは自分を呼んだエルシュタを見る。エルシュタは、カノンの自室でベットに腰掛けている。
「カノンさ。その大袈裟な狙撃できそうなライフルは?」
「ああ」
とカノンは磨いていたライフルを構える。「これで、ハンティングをするの」
「何を狩るの?」
「うーん……メス?」
ん? とエルシュタは?を浮かべ、考え込む。「敵?」
「そうねそれに近いわ」
「正確には?」
カノンは弾の込められたマガジンを装填し、引き金を引く。「恋敵よ」
無口な結衣は、かなり不気味で、準一達は結構ビビっていた。ちなみに、マリアは第3女子寮の一室に住む事になった。
結衣は、無口。怒っている? いや、拗ねている。
何で? が準一の問い。呆れ気味にエリーナ、カノンはため息を吐く。「あのね、準一。結衣はね。充電切れなの」とエルシュタ。
さて、全く意味が分からないぞ、と準一。仕方ない、と3人は一斉に準一に抱き着く。
「兄さん。これをすればすべて解決です」
え? 何? つまり、俺に抱き着けと?
イエス。と3人は口を揃えた。
渋々承諾し、準一がリビングを出ると、追いかけて来たエルシュタが耳打ちした。
「後で、ちょっと相談があるの」
相談? 一体全体何を? と思ったが、今必要なのは、さっきの抱き着きだ。
後でな、とエルシュタに言うと準一は2階に上がり、結衣の部屋の前まで来る。そのままノックを3回。
「結衣。いいか?」
「……どちら様?」
準一は口を開けたまま止まる。
怒ってらっしゃる。
「俺だ。準一だ」
「どちらの準一ですか?」
「お、お前の兄貴の準一だ」
扉が開き、大正時代の娘の恰好をした結衣が顔を出す。「あたしの兄貴は女に対して節操無いたらし野郎ですが、間違いないですか?」
「ち、違います」
「面会無しで」
閉まりそうになった扉を掴み「わ、分かった。間違いない」と準一は結衣を見る。
「……入って」
準一は従い、部屋に入る。
結衣の部屋は、きれいに片づけられており、置かれている可愛らしいテーブルの上には、全科目の模擬試験問題。参考資料集。
勉強していたのか、と棚を見るとファンシーな人形が置かれている。その隣には、幼き日の準一、結衣の双子兄妹の仲の良さそうな写真。
写真の隣には、いつか海に行った時の集合写真。
「兄貴。ん」とベットに腰掛けた結衣は床を指さす。「正座」
へい。と準一は結衣の向かいの床に正座する。
「兄貴。最近本当にマジで、節操無いとかそんなレベルじゃないよね?」結衣は目を細め、準一を見下ろす。「何か、出掛けて帰ってきたら、1人は増えてない? 女の子が」
そりゃ言い過ぎだぜ。と思い言おうとするが、妹の目力に押され「はい」と頷く。
「えーっと? これで何人目?」
いや、俺は知らないよ。本当に、と準一。結衣はため息を吐き紙切れを取り出す。「はいこれ」
「何これ」と準一はそれを見て止まる。「……婚姻届?」
「うん。爺ちゃんと婆ちゃんの名前で、ほら、何だっけ? 証明人? 的な」
的な、じゃない。忘れていた。こいつ、勉強なんかではトップレベルだが、馬鹿だった。
逃げるか、と思うが遅く、退路はぬいぐるみに塞がれていた。
「さぁ! 兄貴サインして! 結婚するから!」
の結衣の声の直後、扉が吹き飛び、ドラムマガジンを装備したアサルトライフルみたいなショットガンを持ったカノンが入室。「兄さん! 私のにサインです!」
「兄貴! あたしのに!」
「兄さん! 私のです!」
案の定、2人は取っ組み合いを始め、準一はぬいぐるみを棚の上に置き、部屋を出た。そこで待っていたのはエルシュタだった。
「多分、頃合いだと思うから」とエルシュタ。多分、天使とか魔法関係の話だろうな、と思う。「前に言ったよね。私の記憶、戻ったって。召喚を、止めようとしたって」
準一が頷くと、エルシュタは準一に近づく。「気になってない?」
「何をだ?」
「その、準一に流れる血の事」
他の人間の血が幾つも混ざった、魔法的な力を持たない血液。まぁ、気になってはいた。
「私も、自分にあの時、何があったか気になってるの。だから、一緒に行かない?」
どこへ、とは聞かなかった。分かっている。
2年前の12月へ。
第二北九州空港事件。