表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/166

嫁だとよ

 目を開けると、白い天井。朝倉準一は半身を起こし、辺りを見る。

 いつぞやの病院。

 窓に近づきカーテンを開けると、碧武のショッピングエリア。日差しが眩しく、カーテンを閉めベットに腰掛ける。

 傷は無い。

 痛みもだ。


 ―――さて、一体何があった事やら


 準一が頑張って記憶を絞りだし、回想しようと思った矢先。テーブルに怪しいノートを見つけ、表紙を見る。


『代理&シスターライラの事の顛末を書き記したヤバいノート☆』


 取りあえず、掛っていた学生服のポケットからジッポライターを取り出し、窓を開け、ノートをつまみ出すと火を近づける。


「読みなさいよ」


 掛った声にベットを見る。先ほどまで誰も居なかったのだが、シスターライラが居る。


「フランベルジェだが、偽物だっただろ?」準一が言うと、シスターライラは驚いた顔を浮かべる。

「気付いてたの?」

「いいや。確証は無かった。儀式場で、クイーンシェリエスは、フランベルジェをさっさと使わなかった」


 ああ、それで、とシスターライラはどこから出したのか、フルーツ盛り合わせをベットの隣のテーブルに置く。「ねぇ、取りあえず。読んでみたら?」


「目を通したくない」

「あら、子供ね」


 とシスターライラは立ち上がると準一に近寄り、ノートをパッと奪い取ると一ページ目に目を落とす。「じゃあ、読んであげる」

 

 ―――頼んでないよー


 準一の心の突っ込みは通じる訳もなく、音読は始まる。


「シベリアでの戦闘後。朝倉準一には婚約の義を結んだに等しい女性が出来ました」


 動きは早かった。傷の完治した準一はノートを奪い取り見る。1ページ目、一字一句間違いはない。


「誰の陰謀だ」

「さぁて、シスターには分かりかねるわ。まぁ、すぐに分かると思うわよ」シスターライラは一度微笑むと扉に向かう。「間違ったお嫁さんの情報を手に入れてしまってないか、心配だけどね。そうそう、言い忘れてたわ。ミレイズ姉妹の妹の方。私の方で面倒を見るわ」


 準一は顔を向ける。「どうする気だ?」


「何もしやしないわ。ただ、ここには姉の方が残るからね、2人は一緒に出来ないらしいから。安心して、本当に。ただ可愛いから」

「可愛いから? どうする気だ」

「取りあえず、抱きしめて愛を囁くわ」


 顰め面を浮かべ、準一はノートを閉じる。「魔法とか、呪いとか。その類だが使うなよ」


「使わないわよ」とライラは扉を開ける。「じゃあね。落ち着いたらジェシカを連れて遊びに来るわ」


 手を振りながら「来なくていいよー」と準一は心の中で思った。

 扉が閉じられると、カーテンが風でなびき準一は外を見る。


「俺……セクハラでもしたのか?」





 夜中、準一の居る病室。その中に1つしかないベットで眠る準一の隣。パイプ椅子の上にちょこんと正座した、マリア・ミレイズは準一の顔を覗き込む。


「……どうやら、私はお前の嫁らしい」


 直後、嫁という単語に反応した朝倉準一は起き上がり、マリアを見る。「嫁だと?」

 いきなり起き上がった準一に驚きながらも「あ、うん」とマリアは頷く。


「……やっぱり、覚えて無い?」


 マリアが聞くと準一は考え込む。「俺は、お前にセクハラを?」


「いや、どちらかと言えば私が」

「え?」

「キスしたから」


 準一は左手を口に当てる。「マジか」


「ええ。本当よ。……何? 嫌なの?」

「嫌ってわけじゃ。だが、理由は?」


 聞くと、マリアは準一の腹部を指さす。「傷。直してあげる為」

 そんな事、聞いても準一は頭に?を浮かべ、仕方なくマリアは口づけによる治癒効果を説明。

 すると、準一の顔はみるみる引きつっていく。


「つまり……その口づけだが」

「一種の婚約よ」


 一呼吸置き、マリアは準一と目を合わせる。「行っておくけど、責任は取ってもらうから」

 男なら、言われて見たいその台詞。

 今は聞きたくなかった。


「悪い、確認の為に聞く。責任とは?」

「だ、だから」少し頬を染め、そっぽを向いたマリアは口を開く。「お嫁さんに、してもらうから」


 ―――可愛い。


 素直にそう思ったが、駄目だ。落ち着け、と準一は自分に言い聞かせ、朝を迎えた。





 じゃあ、お嫁さんで。何て事で終わることは無かった。碧武九州校校長代理の手の速さは、準一の想像以上で、なぜか、マリアの入学は決定した。

 しかし、マリアはジェシカと共にミレイズ姉妹、と恐れられる傭兵だ。そんな人間を学校に?

 準一の疑問に代理はにこやかに


『下手な動きを見せれば、妹を人質に。無理なら消せばいいでしょ?』


 かなり残忍な答えだった。 

 まぁ、そうだな。と準一は渋々入学を了承し、マリアに確認を取ると、どうやら、嫁の件だが……かなり、本気らしい。




 そして、準一は帰宅せず学校へ当校。案の定、転校生の紹介が行われた。

 

『嫁確定のマリアです。どうか、よろしくおねがいします』


 礼儀正しく挨拶。最初の確定事項を言った時点で、マリアと準一と親しい女子生徒との間に亀裂が走った。

 誰かが言った。


『これで、何人目かな』


 それが聞こえ、準一は机に突っ伏し大きく息を吐く。

 





「別に、そこまで律儀に従う理由は無いだろ?」と屋上、ベンチに座る準一は隣に腰掛けたマリアを見る。

「何の事?」

「お嫁さんがどうとか」


 ああ、とマリアは購買で購入したパンを取り出し、クロワッサンを準一に渡す。「本気よ」 

 準一はクロワッサンを受け取り、パックのコーヒーを渡す。「何で、そんなに律儀なんだ?」


「感謝はしてるもの。でも、借りは返したわ」

「なら」


 何か言う前に「ジェシカの分はね」とマリア。「え?」準一は聞き返した。

 言っているのは口づけでの治癒魔法だろうが。


「私が返したのはジェシカの分。私自身の借りは、返せてないわ」コーヒーを受け取り、マリアはストローを刺す。「私を助けてくれた借りをね」


 ねぇ、とマリアは準一を見る。「あなたは、助けたとして、私とジェシカに何を望んでたの?」

 クロワッサンを人差し指を親指で千切り、準一は前を見る。


「戦力だ」

「え?」

「お前たちは、金さえ出せば従う。なれば、金で雇って戦力にするつもりだった」


 へぇ、とマリアはコーヒーを一口。「従わなかったら?」


「……どうだかな。俺は、フランベルジェみたいなお前たちを魔法的に有用する必要は無い」

「殺してた?」

「選択肢の一つだが、それはしない。殺すのなら、お前たちの為にシベリアまで行った意味が無いからな」


 え? とマリアは準一を見た。準一はそのマリアからの視線に気づき、目を合わせる。「な、何だよ」


「今、私たちの為にって言った? 言ったわよね?」


 何だかマリアは嬉しそうに隣の準一を肘で叩く。準一は何とも言えない顔で、千切ったクロワッサンを口に放り込む。


「建前だって言ってたのに。違うのね」とニヤニヤするマリア。準一はクロワッサンを咥え、肘で叩き返す。


 このやり取り、傍から見ればとても仲が良い。

 が、2人にそんなつもりはない。


「で、聞くが。何で借りを返すのに嫁にまでなる必要が?」

「本音を言えば、私自身があなたに興味があるからよ」


 マリアはクロワッサンを一口食べる。「話に聞いていたより、ずっと優しいようだから」


「付け入る隙があるかも」


 その口調は、本気ではない。 

 感じ取り、準一は長く息を吐く。


「まぁ、そういうわけだから。お嫁っていうのは。いい?」とマリア。

「……分かった」

 

 準一は嫁、を承諾するとコーヒーを飲む。「なら、お前は」


「俺の嫁……で、いいのか?」

「間違いないわ」


 ここに、夫婦が誕生した……んだろうか。

 聞いていた妹、結衣は扉の後ろで、作って来た弁当を胸に抱き、下唇を噛んだ。 

 屋上のベンチ裏。塀の陰。その小さな隙間に納まった校長代理は、クリームパンを呑み込み、コーヒー缶を手に持った。


「やだ。修羅場?」


 隣でしゃがんでいたカノンは代理を見る。「みたいですね」とパンを一かじり。


「カノンちゃんは慌てないの? お兄ちゃんが嫁オッケーしちゃったよ?」

「やだなー代理。……後々仕掛けますよ」


 苦笑いし、代理は空を見る。


 ―――言っておくけど、今回の事はあたしの所為じゃないからね


 よし、何か言われたらこう言えばいいのか、と代理はガッツポーズしコーヒーを一口。

 カノンは、何をすれば仲を引き裂けるかを考え、頭を悩ませた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ