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吸血姫と朝倉準一

「ふーん」とクイーンシェリエスは声を出し、窓から離れ、メルヘンチックな自室を見渡すと、チェックの柄のベットのシーツに腰掛け、すぐ前の円形テーブルからカップを取り、ポットから紅茶を淹れ、一口飲む。


「もう着いたかな」


 シェリエスは自分が発動していた確認用の魔法が無力化されたのを感じた。

 彼女の発動させた魔法は、防衛用の騎士の召喚術式。しかし、彼女は防衛用に使ってはいない。

 あくまで、侵入者へ接触させ、破壊されれば警戒。倒してしまえばそのまま、と状況確認用にしか使用しない。


「じゃあ、城に入る前に歓迎しなきゃ……」


 そう言い、術式を組むと目の前に騎士が現れる。「ねぇ、朝倉準一の歓迎。よろしく、本気でね」

 騎士は頷き、盾から剣を抜き、部屋を出る。

 そして、騎士と入れ違いに、布を被った巨漢が入室し膝を着く。


「クイーンシェリエス、姉妹の片割れですが、如何致しますか? 儀式場の準備が整いましたが」

「なら移動させて。多分、別の奴が地下に向かうから。その前にね」


 御意、と巨漢は立ち上がり、部屋を出る。




 城の入り口であろう門の前、朝倉準一は術者10人を斬殺し終えた。その為、飛び散った血は雪とブレード。準一自身を染めている。

 さっさと入ろう、と準一が城の入り口に向いた瞬間、銀の甲冑に身を包んだ騎士が前に立つ。


「クイーンの命により、貴様を歓迎しよう」


 抜いていた剣の切っ先を準一に向け、騎士は言う。準一は息を吐く。


「行くぞ」と騎士が準一に向け、突っ込み、剣を振るう。そのすれ違い様に騎士は両断され、準一はブレードを下ろす。「時間が無い」


 一言言うと、準一は両断され、動かなくなった騎士を一瞥すると門を切り裂き、城の中に入る。

 大きな広間、左に地下への階段。


 この下? まさか


 思いながら階段を見ると真っ暗。視界が悪い、と思った直後、階段の壁のロウソクが一斉に点灯。「歓迎されているな」

 準一はブレードを構えたまま螺旋階段を駆け下りる。

 

 降りた先は、結構広い部屋で、地下なので窓は無い。壁際には、牢屋があり、牢屋の前には処刑人の様な人間が巡回している。

 準一の役目は、他2人の囮に近い。

 なれば、と飛び出し、加速魔法で処刑人1人を両断し、次々に殺す。


 倒れた処刑人を見ると、人間ではない。顔はのっぺらぼう、と確認した直後、溶けて水になる。


「雪……魔法人形か」


 と牢屋を見る。まだ10代前半だろう、少女達だ。恰好は白衣。かなりボロボロだ。

 教団実験を思い出させ、目を細める。

 すると、準一の後ろの牢やの鉄格子が音を鳴らし、振り向く。


「お願い! 助けて!」 


 鉄格子に掴みかかり、準一に涙目を向け、叫ぶ少女。アジア系だろうが、日本人ではない。

 連れて来られた訳だろうが、必要以上の人数になれば、連れて帰るのは容易ではない。


「私も! お願い!」

「助けて!」


 次々と声が響き、その区画の牢屋に入れられている人間達は準一に救済の声を送っている。

 これじゃ、キリがない。

 だが、ここで解放すれば、この人間達は囮として有効に使えるかもしれない。

 

 そう考え、準一は左の牢屋に寄り「離れてろ」と日本語で言う。そのままブレードを振り、鉄格子を切ろうとするが斬れない。


「斬れない?」


 このブレードで傷すら付かない、硬化魔法の一種だろうが強力だ。


「日本人?」


 1人の少女が鉄格子の前に立つ準一に声を掛ける。準一は頷き、牢の中の少女を見る。


「助けてくれるの?」

「この鉄格子がある限り、無理だな」


 少女は顔を一度下に向け、上げ、準一が降りてきた階段の反対側の扉の前に立つ巨漢の男に気づき、怯える。

 その怯えっぷりは尋常ではない。他の少女も同様だ。

 巨漢に振り向き、準一はブレードを構える。


「おい、あのデブは?」


 準一は怯える少女に聞く。「ここの! ……私たちを!」

 少女は頭を両手で抱え、しゃがみ込んでいる。袖口から見える腕は鞭で叩かれたのか、赤い線が幾つも入り、脚は膨れ上がっている。


「成程な……お前たちを苛めてたわけか」


 息を吐き、準一は巨漢の取り出した巨大な斧を見る。


「まさか、地下に来るとはな」

「なら、ここは当たりか? 姉妹の片割れが居ただろう」

「ここではない。別の地下区画だ」


 成程、と準一が言った瞬間、巨漢はその巨体を跳躍させ、斧を一振り。

 準一はブレードで防ぐと、下から巨漢の顎を蹴り上げ、回し蹴りで壁に叩き付ける。

 そのまま巨漢の腹部を蹴り、首筋にブレードの刀身を付ける。


「聞くが、吸血鬼のお姫様はどこにいる」

「喋ると思うか」

「あの機械魔導天使―――」


 準一が続ける前に、沸いて出た甲冑が迫り、巨漢を投げ飛ばし、対処。その中、巨漢は地下から逃げ、準一は舌打ちしながら甲冑を切り裂く。


 


「吸血鬼のお姫様、言えば、吸血姫よ」と言ったシスターライラは、ジェシカと一緒に地下区画に居た。


 ジェシカはライラを見ず「吸血姫ねぇ」と呟く。「凄いの?」


「それなりにね。血は神聖で、魔力的な意味合いを多く持つ。それを取り入れる吸血鬼は、かなり身体能力が高いわよ」


 聞きながら、ジェシカは牢屋を視野に入れる。「その血を引いているのがお姉ちゃん?」


「なんでしょうね。ほら、あそこよ」


 ライラは先ほど、衛兵を拷問し、マリアの場所を吐かせた。その場所は、区画の一番奥。

 ジェシカは駆け寄り、牢屋を覗くが、もぬけの殻だ。


「嘘……」

「あら、いないわ」


 ため息を吐き「遅かったわね」とライラ。「既に儀式場は出来上がってるみたいね。祭壇が準備できていたらお終いよ、行きましょう。朝倉準一の囮は、ちゃんと機能しているみたいだから」


 頷き、ジェシカは踵を返したライラに続く。





 甲冑を全て倒し、朝倉準一は一息ついた。牢屋の鉄格子は、硬化魔法の一種。なれば、発動させている術者が居る。

 しかし、どうするべきか。と準一は牢屋の中の彼女たちを見る。


 助けるべきか、助けないか


 いや、ついでだ。助けよう。準一は日本人の少女による。「おい」


「え……?」


 少女は準一を見る前に、辺りを見る。「か、看守は?」


「逃げた。それより、助けてやる。術者を倒せば、この牢屋はこじ開けられるからな」

「ほ、本当に?」

「ああ、本当だ」


 と準一が踵を返すと「待って!」と声が掛る。「あの、名前は?」


「朝倉準一だ」


 答え、準一は区画から去った。





「……」


 目を覚ましたマリア・ミレイズは、自身が拘束されている事に気づき、周囲を見渡す。「ジェシカ?」

 漏らした声、妹はどこに?

 見当たらない、ここは? 自分の身体を見る。


「札?」


 長い紙で身体を巻かれ、紙には札。札には、達筆な漢字。何が書いてあるかは分からない。  

 場所は部屋? いや、それにしては悪趣味だ。

 ただ広い部屋、壁には黒い飛沫の様なモノ。天井の照明は薄暗い。


「これ……日本式の魔法」


 とマリアに声が掛る。若い、女性の綺麗な声。「強力でしょう? 御舩、南雲の使用する系統の魔法」

 声の主、クイーンシェリエスは、白い歯を見せ微笑む。

 20代前半か、と年齢を察し、マリアは目を細め、シェリエスを睨む。


「そう睨まないでよ……ほら」


 言い、シェリエスは長いスカートの中から長い剣を取り出す。「これ、知ってる?」

 シェリエスの取り出した剣は、フランベルジェ。

 波打つ刀身の剣、真ん中には赤いラインが入っている。


「血が流れれば、この剣、フランベルジェは力を得る」

「力?」

「そうよ。力、不死の吸血鬼を殺せる力をね」


 シェリエスは長く息を吐き、剣の切っ先をマリアに向ける。「私もあなたも例外じゃなくてね」


「まぁ、吸血鬼だけじゃないけど。殺せるのは、召喚獣、アンデット。他にも色々とね」


 ただ、嬉しそうに、剣にうっとりとするシェリエス。マリアは少し不気味だった。

 一体、彼女は何なのだろうか……?


「ああ、そう。私、吸血鬼だから。短い、本当に短い間だけど。よろしくね。マリア・ミレイズ」


 その微笑みにマリアは不快感を覚え、顔を背けた。




「あー」

「……何? その声」


 声を出したライラ。隣のジェシカは訝しげに見る。


「ごめん。よく考えたら、迷ったわ」


 ああ、そう。とジェシカは大きくため息を吐いた。




 マリアの運ばれた儀式場。その扉を開け、準一は儀式場に入った。

 部屋の中心はへこんでおり、そこにベットの様なモノがあり、その上に拘束されたマリア。隣にはフランベルジェを持ったクイーンシェリエス。


「いらっしゃい。儀式を見に来たの?」

「いいや」


 シェリエスからの言葉の後、準一の手からブレードが消える。「そのフランベルジェ、受け取りに来た」


「渡す予定はないわよ?」

「こっちには貰い受ける予定がある」


 困ったように笑い、シェリエスは剣を降ろす。そのシェリエスに歩み寄り、準一はマリアを見る。


「久しぶりだな。マリア・ミレイズ」


 声を掛けられたマリアは「何故あなたがいるの?」と言いたげだ。説明しておくか、と準一は口を開く。


「一応、目的はフランベルジェだが、もう1つ。お前たち姉妹をここから連れ出す」

「な、何を?」

「お前たち姉妹は、日本国領内で倒された。よって、日本国の所有となる。不当な方法によってここに送検されたお前たちを連れ戻すのが、任務だ」


 建前、大義名分。まぁ、ただのこじ付けだ。フランベルジェ奪取を行う為の。


「まぁ、こじ付けだがな。しかし、任務は任務だ」

「ちょ、ちょっと待って! ジェシカは!?」

「安心しろ、仲間といる。危害は加えない」


 妙に信用できてしまい、マリアは少し安堵するが、気に入らない。

 

「ありがとう、と言っておくけど。プライドが許さないわ」

「お前の意見は聞いていない」


 準一に一蹴され、マリアは睨み付けるが準一は顔をシェリエスに向ける。「遅くなったが、初めまして。朝倉準一だ」


「初めまして、クイーンシェリエスよ」


 シェリエスは笑みを向け、続ける。「あなたの噂はかねがね。かなり強いらしいわね」


「どうかな」


 準一が答えると、シェリエスはフランベルジェを置き、準一に顔を近づける。「私は吸血鬼よ?」


「だから?」

「血を吸いたいわ。あなたの」

「御免だな」


 一歩下がり、準一は手を挙げる。「残念」とシェリエス。「で、儀式を邪魔しに来たんでしょう? どうする気?」

 とぼけるなよ、と準一。

 

「この儀式場。機械魔導天使や召喚の類を封じる空間魔法が発動されている」

「あら? 鋭いわね」


 シェリエスはスカートのポケットから数十枚の護符を投げる。

 使用済みの護符で、地面に落ちる前に消える。


「枚数は大目にしたわ。簡単には破れない魔法よ。ここに居る限り、あなたは武器を使えない」

「だが、魔法は使える」


 やりようはあるぞ、と準一が言うとシェリエスは指をパチンと鳴らす。すると、先ほどの看守が同じように斧を抱え、部屋に入る。

 やはり来たか、と準一は目を細める。


「じゃあ、お願い。足止め」とシェリエス。看守は無言で頷き、斧を後ろに構えると跳躍。


 先にシェリエスからフランベルジェを奪おうとするが、シェリエスは居ない。

 次の瞬間には、細い足が迫り、準一はしたにかがみ、避けると背中に斧が迫り加速魔法を発動させ、左に飛ぶ。


「吸血はしてきたから。ある程度の身体能力は向上してるのよ」


 吸血鬼特有の能力。準一は舌打ちし、斧を振り上げた看守を見、回し蹴りを腹部に決める。

 加速魔法無しだが、効く、と思ったが微動だにせず斧を振り下ろし、準一は硬化魔法を発動。

 腕で斧を止め、脚部を硬化させ、左足を横に振り上げ、看守の頭部に振り下ろす。 

 流石に効いたらしく、看守は顔を押さえ、斧が離れ、準一は間髪入れずに蹴りの連撃。

 看守は後ろに飛ぶ。

 次は吸血鬼を、と振り向いた瞬間、準一は首筋を噛み付かれる。

 シェリエスの顔が近くにある、と確認した直後、吸血が始まり準一は腕を振り、シェリエスから離れる。


「残念。もう吸わせてもらったわ」とシェリエス。しかし、次の瞬間、彼女は口元を押さえ、膝を付く。


 そのまま手を口から離し嘔吐。マリアは驚く。

 シェリエスの口からは、赤い嘔吐物。

 朝倉準一の血、と理解したが何故?


「お気に召さなかったか」


 首筋を押さえ、準一が聞くとシェリエスは立ち上がる。「お、お前……何なんだ」

 不気味がっている。そんな様子のシェリエスは準一を睨む。

 

「誰の血だ? これは」


 シェリエスの言葉は、準一には理解できたが、マリアには理解できなかった。

 その血は、朝倉準一の血ではないのか?


「誰のかは知らないが、少なくとも、俺の血じゃない」準一は首筋から手を離し、噛まれた箇所から付着した血を見る。


 理解できぬまま、マリアは2人を交互に見る。「どういう事……?」


「アルぺリスが初めて俺の前に姿を現した時、召喚の際生贄にかなりの人間が犠牲になった。知っているだろう? 第二北九州空港事件」

 

 その事件を知っている2人は黙って耳を傾ける。

 シェリエスは、口元に腕をやり、拭う。


「血で書かれた紋章。どういうわけか、アルぺリスの操縦者になった俺の体内には、その生贄になった人間の血が入っている。かなりの量が、混ざりに混ざってな」


 準一が言うと、シェリエスはフランベルジェを持つ。「初耳よ」


「誰もが知る情報じゃないからな。これは、日本政府すら把握していない情報の1つだ」 


 言い、準一はシェリエスに近寄る。「さて、どうする?」

 問いに、シェリエスは微笑み「カレンデュラ」と小さく呼ぶ。

 すると、天井から巨大な手が伸び、準一に迫る。しかし、その手は横から伸びた巨大な腕に掴まれ、止められる。


「何が!」とシェリエス。

 上を見て、驚きの声を上げる。カレンデュラの腕が止められた?


「ここじゃ、お前も天使を召喚できない。だから、外に機体を待機させていた」準一は驚くシェリエスを一瞥すると、マリアを抱き上げる。「対策はしていたんだ」 


 くっ、とシェリエスはフランベルジェを振るうが、準一は前に盾を形成させ、フランベルジェは止められる。


「アルぺリス」


 準一が言うと、カレンデュラは掴まれていた腕に引かれ、壁に叩き付けられ、煙が広がる。

 それを翼で切り裂き、アルぺリスが腕を準一に伸ばす。


「生身で戦うよりいいだろう? クイーンシェリエス」


 挑発、とも取れる準一の言葉。シェリエスは笑みを浮かべる。


「望むところよ」


 言葉の後、カレンデュラ・オフィシナリスが立て直し、シェリエスに手を伸ばし、2機の機械魔導天使はにらみ合い、翼を広げた。

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