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大義名分

「初めまして、朝倉準一です」


 一礼した準一は相手の顔を見る。黒いスーツの初老の男性。「初めましてだな。朝倉準一」

 男は、一度襟を握ると手を下ろす。


「聞かずもがな、私は清城甲斐家当主、清城甲斐光寿だ」

「当主自らご足労頂いた事、感謝します」


 心にもない事を、と光寿は準一を見ると大きく息を吐く。「さて、移動しよう。場所が場所だ。ドライブでもどうだ?」


「息子さんも、同じ方法でしたよ」


 2人は、横断橋前から車での移動を始める。




「あれ? 兄さんは?」


 格納庫に入ったカノンは、弁当の小包を胸に抱え、篤姫の前で端末を見て居た結衣に聞く。「兄貴ならさっき内線で呼ばれて校長室だよ」



「え? 準一君?」


 代理は校長室に来たカノンに微笑む。「お仕事」

 言われ、カノンは「もー! 兄さんのバカ―!」と叫び、代理の前に弁当の小包を置く。


「早起きして作ったんです」

「どれどれ、あたしが食べましょうかね」

 

 と開くと、デカデカとハート。他は準一の弁当とそっくりだ。


「カノンちゃん、料理は準一君に?」

「ええ。お前の料理は美味しいって、褒められてますよ?」


 どれ、と代理はから揚げを食べると目を見開く。「にんにく?」


「ええ」

「こりゃ美味しい」


 代理はパクパク食べ始め、代理はため息を吐いた。


「兄さんのバカ」





「さて、私から接触しておいて何だが、よく応じたものだ」とハンドルを握る光寿は隣の準一を見る。


「迷惑を掛けられましたから、俺としては」準一は目を向ける。「どんな人かと見ておきたかったものでね」


 その言葉に光寿は息を吐く。「含みのある言い方だな」


「ありますから」

「何だ。言ってみろ」


 分かりました。と準一は袖を捲る。「甲斐三家の内の清城甲斐家、聞けば上には御舩家が付いているそうですね」


「そして、魔法の一家として有名な清城甲斐家当主、あなたは趣味の悪いクラブに所属しているとか」

「どこで調べた」


 光寿は準一を睨み付ける。「誰も口に出したくない筈だが」


「叩けば出て来ます」

「拷問か?」

「そんな事はしたくありません。ただ、弱みを握られた人間は口が緩くなり、親切になります。だから、あんた達みたいな連中はつつき易いんだよ」


 話よりも手の早い準一に驚きながら、光寿は舌打ちし、ハンドルを強く握る。「私を、どうする気だ? それはばらすのか?」

 ばらされた場合、清城甲斐家はお終いだ。

 地に落ちる、魔術師の恥さらし、となってしまう。


「ばらす等と、これはカードです。そのクラブには、清城甲斐家以外に名の知れた人間は出入りしています。ここでばらせば、ガサ入れなんか入っちゃうんで、このカードは残しておきます」

「言葉を選べよ」


 光寿の目が睨みを利かせると、準一は目を細め笑みを浮かべる。「それは此方の台詞ですが、そっくりそのままお返ししますよ」


「あなたが不都合になるカードはこっちにあると申し上げた筈ですが、先に言っておきますが、俺はあなたをかなり恨んでいるんですよ」


 準一の目が向けられ、光寿は前を見て、ゆっくりとハンドルをきる。


「あなたは、最低のタイミングで彼女たちをシベリアに送った」


 既に、ミレイズ姉妹は先日、シベリアに送られた。


「この件に関して、あなたの友人が請け負ったそうですね」

「……何故それを?」

「推測ですよ、俺を殺し損ねたら、彼女たちを消す。しかし、ただ消すだけじゃ勿体ない。その為のシベリアでしょう?」


 詳しいな、と光寿はタバコを咥える。


「吐かせたんですよ」

「吐かせた? 誰に?」


 誰でしょうね、と準一ははぐらかす。「でもまぁ、いくつかは、秀人さんにね」

 賢明な息子さんですよ、と準一が言うと光寿は煙を吐く。


「やはり、あいつは私に刃向うか」


 父親に反発、いわば、家に背いたから秀人はドラ息子、と言われていた。


「もういいでしょう? 話す事はありません」

「私的には、満足していないのだが」


 それはまた、と準一は車を停めてもらい、降りる。すると車は走りだし、準一は自分の下りた場所を見る。

 高速道路前のスーパー。

 自宅から自転車で2時間ほどの場所だが、随分と遠くまで来たものだ、とスーパーに入る。


 考えてみれば、文化祭とやらが近づいているのだが、準一は実感が無く、それより先に来るであろうシベリアの件を考えようと思った。

 

「何だ。奇遇だな」


 掛った声に聞き覚えがあり、準一は振り返る。「ここは学校から結構離れてるぜ?」

 清城甲斐秀人だ。


「……何であんたがいるんだ?」

「俺の台詞だっつの。お前、碧武だろうが。ここは福岡県のほぼ中央だぞ?」


 知ってるよ、と準一は自動ドアに近づく「取りあえず帰るよ」


「いーや。送ってやるよ」


 秀人は準一に鍵を見せた。「ついでに飯なんてどうだ?」

 いいね。と準一は乗り、2人は近くの定食屋に入り食事を済ませ、学校へ戻った。

 



 朝倉準一が清城甲斐秀人に外線で呼ばれる前、シスターライラからの連絡があった。

 内容は、彼女の欲していた法具『フランベルジェ』についてだ。


 まず、フランベルジェの在り処が伝えられた。それは、シベリア。ミレイズ姉妹が運ばれた施設内で、儀式用に使用されているらしい、との事で、シスターライラからは「奪って来てほしい」と。


 

 機甲艦隊に所属している魔術師、朝倉準一はシスターライラの依頼を成功させるためには、ロシア国領内シベリアに入らなければならない。

 しかし、ロシアから信用されていない日本は、シベリアへの進入など許可は降りない、なれば、極秘裏に入るしかないのだが、その作戦状況下に入ってしまえば、朝倉準一は通常任務を疎かにしてしまう、なれば大義名分が必要だ。

 任務を疎かにしてまでの作戦。


『ミレイズ姉妹奪還』


 疑問しかない大義名分だったが、理由はこじつけられた。

 彼女たち姉妹は、機甲艦隊所属の朝倉準一特級少尉に倒された事によって、その身柄は日本国政府が預かる、予定だったのだが、有権一部勢力の圧力によって、事態は変化。

 何らかの意図があろうと無かろうと、彼女達は国内で監視下に置かれる。

 それを阻害する行為は、日本政府、ひいては機甲艦隊所属・朝倉準一・特級少尉への敵対とし、奪還行為は一種の報復戦である。


 らしい、のだが言ってしまえばそのシベリアの組織は、どこの国の組織であろうが日本と敵対、と決定付けられた訳だ。

 強引すぎる案だが、断れないのが機甲艦隊だ。

 シスターライラからの依頼は、報酬も用意されている正式なモノだ。日本政府は喜んで受ける。



 そして、準備は着々と進んだ。シベリアの気温に備えての防寒具。

 シベリアに入ってからの朝倉準一は、通信機器の使用を無しにされる為、シスターライラからの護符を受け取ったりと、文化祭準備中に結構忙しい。


 準備中、カノンからは婚姻届を書くように執拗に迫られ、料理の試作品提出が迫ったり、代理がすき焼きを食べたいと言うので作ったり。

 女装男子2人に追いかけられ、元イギリスのお姫様にプラモデルの作り方を教えたり。

 

 割と、短時間で準一はあちこちを行き来し、日はやって来た。



 朝倉準一はシベリア平原に入った。どういうわけか、その日、雪は多く、風も強く吹雪に近い状態だった。


「さて」と準一が声を出すと、口からは白い息。「行くか」


 雪の中、準一は歩きはじめ、目的地へと向かう。

 目的は、フランベルジェを奪う事だ。

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