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依存義妹

 戦闘終了後、ミレイズ姉妹は拘束され、格納庫より1つ下の区画にある拘置所に置かれた。2人は別々、口しか動けない状態。

 ミゼル2機は回収され、碧武に置かれ、ミゼルの装備していたランスは魔力を解かれ、ケージ下のウェポン収容スペースに入れられた。


「こいつは……想定以上だ。関節部、フレームへの負荷が大きい」


 格納庫では戻った椿姫に端末を繋げ、整備員達が驚いた。

 魔術兵器を、何の改修も無しでベクターで使用すればこれだけのダメージがある。

 それを知った整備員達は驚きながらも整備を始める。

 傍ら、フォカロル、ブラッド・ローゼンも格納庫へ降り、戦闘の場所となったショッピングエリアでは復旧班が修繕を始め、立ち入り禁止区域も設定された。



 フォカロルから降りたカノンを待っていたのは兄である準一だった。しかし、準一の顔は無表情だ。

 準一は「カノン。来てくれ」とカノンを格納庫外のエレベーターホール前に連れ出した。


「カノン。何故出て来た?」


 質問にカノンは両手を合わせ、バツが悪そうにした。

 兄の言いつけを破った事に、罪悪感はあったからだ。


「に、兄さんのお役に立てればと」


 カノンは準一の顔を見て、目を見開く。

 褒めてもらえる、なんて思ってはいなかった。

 でも、そんな顔をされるとは思わなかった。

 

 ―――まるで、ゴミを見るような目


 カノンの中で不安が高まり、何か言おうと手を出すが、準一のため息の方が先だった。


「聞けば、大和が来た時、お前は俺の許可なく零式弾の系列弾を受け取ったようだが」

「そ、それは……対魔術師戦で兄さんの役に立とうと」

「そう言っておいて、お前はどうだった?」


 負けだった。言いつけを破って勝手に出撃し、許可なく武器を調達し、負けた。


「保険を掛けておいてよかった」


 保険? とカノンは聞き返した。


「エリーナだ。ブラッド・ローゼンで支援できる態勢に入ってもらっていたんだ」


 言った準一はカノンを見る。義妹の顔は恐怖にゆがんでいる、今にも泣きだしそうだ。

 

「どうやら、エリーナで正解だったようだ」


 この準一の言葉に、カノンは身体を震わせた。

 

 エリーナで正解だったようだ


 それって、とカノンは背中を向け、エレベーターに向かう準一に手を伸ばすが、既に届かない。


「私は……必要ない」


 力なく手を下ろし、カノンはその場で膝を着いた。「や、やだ……捨てないで」


 小さな呟きは準一には聞こえず、準一はエレベーターに乗り、振り返る事無く扉を閉めた。

 エレベーターの動く音が響く中、カノンは両手で顔を覆った。




「あーあ。あのミサイル発射機。高いんだよ?」


 全身を拘束され、口しか動かないマリアのいる牢の前に立った代理は一言言うと、パイプ椅子を立て座る。「ねぇ、どこから依頼を受けたの?」

 代理は、清城甲斐家の依頼だと知らない。

 マリアは口を開かず、代理を見る。


「随分と若いようだけど、あなたは何なのかしら?」

「質問してるのはこっち。答えて?」


 一瞬マリアは睨み付けると、諦めたようにため息を吐く。「清城甲斐家当主よ。朝倉準一を殺してくれと」


「ふーん」と声を出すと、代理は椅子から立つ。「じゃあ、準一君は知ってたかなー。君たちの事」

「でしょうね。私たちの事を前の通り名で呼んだんだから」


 あの悪ガキ、と代理は背中を向ける。「じゃ、あたしはこれで」


「ちょっと待って。妹のジェシカは?」

「別の区画よ。安心して、ここに乱暴な人間は居ないから、でも、ミレイズ姉妹の2人は引き渡しになってるから」

「引き渡し? どこへ?」


 聞くと、代理は顔を向けず「さぁ、雪国じゃない?」


「シベリアとかね」


 マリアは目を見開き、驚いた。シベリアにあるのは非合法な魔術関連施設。

 知っている範囲では、儀式場だとか。

 別名は、監獄。

 

 しかし、そんな非合法な施設と日本国政府管轄下にある碧武が繋がっているわけが無い、何か、碧武の利益になる事、いや日本の利益になる事と自分たちは取引される。


「最悪ね」

「何を言っても遅いよ。ウチのエースに喧嘩を売ったのは間違いだったね」


 確かに、と力なくマリアは倒れた。


「自殺でもしてみる?」


 代理が聞くと「まさか」とマリア。「しないわよ。妹がいるんだもの」




「お前は、どの程度戻ったんだ?」


 聞いたのは準一。彼の視線の先にはエリーナが居る。場所は、格納庫に続くエレベーター内。


「どの程度って?」

「感情の基盤は壊れたが、時間が過ぎれば回復する。どの程度回復したんだ?」


 分からない、がエリーナの答えで準一は息を吐いた。「今の段階で、敵対する気はあるか?」


「ううん」とエリーナは首を振る。「私は、ここに居たいから」

「そうか」


 準一が言うとエリーナは顔を覗き込んだ。「準一。さっきはカノンにキツく言ったね?」


「ああ。ああやってでも言わないとな、普段は俺からの指示は破らないんだが」

「嬉しいの?」

「え?」


 エリーナを見る。「まぁ、自発的に動いてくれるのは嬉しいんだがな。だが」

 準一が言うより先にエリーナが口を挟む。


「やっぱり、血は繋がってなくてもお兄ちゃんだね。危険に合わせたくないんだ」

 

 その言葉にうなずき、準一は数字の変わるパネルを見る。「カノンの使ったライフルの弾は新型の弾で、あいつはそれのデータ採取用に使われているんだ」


「それじゃ駄目なの?」

「どんな不具合があるか分からないからな。そんなデータ採取は俺でいいんだ」


 それにな、と準一は続ける。「押し付けがましいが、俺はカノンには戦闘から外れてほしい」


「どうして?」

「自分より俺を優先し、変に自信過剰な所があるからな」 


 準一は瞼を閉じ、ため息を吐く。「悪かったな。今日は参加してもらって」


「ううん。気にしないで。カノンはピンチだったし、準一は割と好きだし」

「あんがとよ……まぁ、エリーナ。俺は結構留守にするからさ、その時は皆を頼むな」


 ガッテン。とエリーナは親指を立てた。




 自宅に戻った朝倉準一を待っていたのは、玄関、靴の置いてある地べたに土下座するカノンだった。


「お帰りなさい。兄さん」


 カノンは顔を上げずに準一に言う。


「お、おい」と準一が何か言う前に「ごめんなさい」とカノンの声。


「兄さんの言いつけを破ってしまい、私は妹失格です」


 何もそこまで、と思った準一は短く息を吐く。


「で、でもこれからは、ちゃんと言いつけも守ります。勝手な事はしません、ですから」


 デコを地べたにこすり付け、カノンは続けようとするが「顔上げろ」と準一に言われ、泣きじゃくったであろう顔を上げる。


「ったく、さっきの事なら悪かった」

「え?」

「俺の言い方が悪かったな」

「ち、違います! 私が! 言いつけを破って!」


 なーんでこんなに大袈裟になったんだろうな、と準一は自分の発言が義妹に与える影響に驚く。


「俺からすれば、言いつけを破ったのはあれだが、来てくれたのは嬉しかったよ。ありがとう、カノン」


 するとカノンは泣き始め、準一は宥めてやり、帰って来たエルシュタ、結衣、エリーナの3人に「泣かしたー!」「鬼畜!」「このドS野郎! マニアックだな!」と罵られた。


「なぁ、俺が悪いのか?」


 すんすん、と鼻を啜るカノンに聞くと「ええ。兄さんが悪いです」と返され、息を吐く。

 

「でも」とカノンは準一の胸に顔を埋め、顔をこすり付ける。「私も悪かったですから、これでおあいこです」


 おあいこ? と準一が聞き返すと、カノンの唇は準一の頬に優しく当たる。

 驚愕する3人を余所に、真っ赤な顔のカノンは、呆気に取られた準一にデコピンをする。


「兄さん。私、はっきりしました。やっぱり私は、兄さんから離れて生きていけません」


 カノンは微笑み、再び顔を埋める。「だから、私はこうなったんですから、お嫁にもらって下さいね?」 


 顔を上げたブロンドの髪の妹の顔はとても可愛らしく、準一は再び呆気に取られたが、その直後の実妹の後ろからの抱き着きにより我に返った。





「んー……タイミング最悪ね」と呟くのは黒妖聖教会所属のシスターライラ。「フランベルジェ、まさかあんな所に」


 彼女の見る地図は、シベリアが記されていた。

 魔法具、フランベルジェの現在の所在はシベリア。


「私はいけないか……そうだ」


 シスターライラは携帯を開き、アドレス帳から朝倉準一の欄を押し、音声通話を仕掛ける。

 出たのは、2コール目だった。


「もしもし? フランベルジェについて、話しておこうと思ってね」


 電話の向こうでは、ミレイズ姉妹を倒して疲れ切っている準一のため息が聞こえた。

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