深紅の助っ人
「さーて。大きな捕り物だ。お姉ちゃん。行こうよ」
「いいわ。行きましょう」
ミゼル2機はユニットを全開にし、碧武へ向かう為高度を上げる。そして2機はレーダーから消える。
レーダーステルスを使う2機を捉える事は出来ず、すぐに碧武近くまでの侵攻を許す。
しかし、姿を捉えてしまえば攻撃は出来る。碧武九州校のミサイル発射機がミサイルを飛ばし、学校からは白い煙が幾つも空に伸びる。
当然、生徒たちは驚いている。
「来た来た来た」
ジェシカはミゼルの高度を下げながら、両手に持ったショットガン2丁を連射し、ルート上のミサイルだけを破壊。頭部バルカンをAAWオートに設定。
爆発の花道を行くジェシカ機に続くマリア機はアサルトライフルを構え、ショルダーアーマー内のミサイルを撃つためにマントを投げ捨てる。
すると、2機の先から速度の速い一機が迫る。
「ジェシカ。きたわよ」
椿姫、と聞いていたが
「随分見てくれが違うわね」
マリアの言葉にジェシカ機は加速、ランスを持つが、それより早く砲弾、電磁弾が掠める。
遠距離から片づける気、と気付いたマリア機は海面擦れ擦れまで降り、ミサイルを椿姫に撃つ。
椿姫は腕からボックスを飛ばし、ボックスは四方に分かれ、内部から小型の破片が爆散し、ミサイルは爆発する。
「クラスター系の迎撃兵装。いいもの持ってるのね」
椿姫に直接通信回線を開いたマリア機から聞こえるマリアの声、準一は椿姫を宙返りさせながら、離れた2機に射撃を続ける。
「急な来校だな。いくらなんでも」
「あまり長居は出来ないでしょ? にしても殊勝な心がけね」
ジェシカ機が電磁弾、砲弾を避けながらミサイルを撃つ。だが、AAWオート状態のバルカン、腰のバルカン4門に迎撃され、ジェシカ機は上に上がるが、それを追うように発射機からのミサイルが続く。
「何が殊勝な心がけなんだ?」
椿姫の装備した砲の砲口が、マリア機に向き、発射されるが、マリア気の動きが早く既に居ない水面に水柱が立つ。
準一は舌打ちする。
ここまで、3機の距離はほぼ縮まっていない。
「だって、私たちの居場所をほぼ特定していたでしょうに、何もしなかった」
「ああ、その事か」
ジェシカ機にレール砲を向け、3発連射すると、準一はマリア機に砲を向ける。「今の椿姫は遠距離戦に特化した急造突貫装備なんだが、お前たちを先に倒してしまえば実戦でのデータが採れないだろ?」
「私たちはデータ採取の実験台代わりってわけ?」
「実験台にフル武装でこないさ」
すると、後方で爆発が広がり準一は振り向く。いつの間にやらミサイル発射機幾つかは無力化されている。
上のジェシカ機は、隠し持っていた射程の長い狙撃銃を構えている。
狙撃銃の形状は、M82にそっくりだ。
「ざんねーん。後方支援はやっちゃった」
ジェシカ機が狙撃銃の銃口を椿姫に向けると同時、マリア機は加速。
ユニットの最大噴射で水が捲れ上がる。
そのマリア機に椿姫ミサイルを撃つが、上昇しての旋回で回避され、レール砲を狙撃銃の弾丸に撃ち抜かれ、マリア機の接近を許す。
マリア機の右手にはオレンジに光るランス。
レプリカ・レーヴァテイン
振るわれたランスをギリギリで回避し、マリア機の腹部に回し蹴りを叩き込むと後ろにさがり、左に回転しながら砲をジェシカ機に撃つ。
回りながらの正確な射撃に、ジェシカ機の狙撃銃は銃身に砲弾の命中を喰らい、使えなくなり投げ捨てる。
「お姉ちゃん! こいつ強いね!」
楽しそうなジェシカは、ミゼルに持たせたランスを構えさせ、ショットガンを前に出し椿姫に接近しようとする。
だが、まだ残っている椿姫の砲により、右にそれ、椿姫からミサイル数発が迫り、ショットガンで落とす。
その爆発の煙をランスで裂いたマリア機、持ったアサルトライフルを斉射。
椿姫の砲の弾倉が爆発し、取り付けに使用していた腕部追加装甲もろとも砲をパージし、腰にマウントしていたサブマシンガンを持ち、間髪入れずに発射する。
「っ!」
あまりの対応の速さに、マリア機は高度を下げ、アサルトライフルを発射。2機は互いに弾を撃ち、避け、飛行起動の軌跡を描く。
「私も居るんだけどな!」
叫ぶジェシカはターゲットサイトに椿姫を入れ、ミサイル全弾を撃つ。
だが、新型ユニットの椿姫は爆発的急加速で上昇し、迫るミサイルを掻い潜り、依然危険なミサイルは頭部バルカンが撃ち落とし、サブモニターの椿姫の頭部残弾が0になり、予備弾倉に切り替わる。
「お姉ちゃーん! あいつ早いよ!」
椿姫から放たれたミサイルを避け、ジェシカは言う。マリア機もミサイルを落としている。
すると、椿姫は追加されていたミサイルを撃つポッドを全てパージした。
「ジェシカ。これで五分五分よ」
言うと、マリア機はアサルトライフルを投げ捨て、頭部20mmバルカン横のスペースから大容量ボックスマガジンがパージされた。
ジェシカ機もショットガンを投げ捨てる。
「って事は!」
「ジェシカお待ちかね」
椿姫は背中のラックにマウントしてあった槍を持ち、右腕に付けていた盾を持つ。
「近接格闘戦よ」
言ったマリアには、ジェシカの笑顔が見えるようだった。
ショッピングエリア湾岸区域。そこはカップルや恋仲に発展しそうな男女に好まれる場所だが、そこには現在フォカロルが膝を付き、実体弾を装填した狙撃銃を構えていた。
フォカロルの視線の先には、戦闘の光が見えていた。
高台の学校からも、戦闘の光は見えており、見えていた生徒たちは何事か、と見守っていたが、先ほどからミサイルに似た白線や、オレンジの曳光弾が見えなくなっている。
彼らも碧武の人間だ。向こうで戦闘があっていると、何となくだが分かっており、準一と関わりのある人間はまた朝倉準一が。
と、無事を祈った。
「同型機か。二機。……魔法を貫くから」
動くターゲットサイトに頼らず、スコープに敵を収めようとする。長めに息を吐き、カノンは前を見る。
この特殊弾は、対魔術師戦に使用できるのだが、難点としては次弾装填の遅さだ。
特殊弾で、量産が間に合わず、専用弾倉が無かった為、一発一発の装填までの動きが遅くなるからだ。
―――2機。どっちを
カノンは2機のどちらか、と考え、椿姫に後ろから接近するジェシカ機、そのランスを狙う。
狙いは完璧で、フォカロルの指はカノンの指がトリガーを押すのと合せ、引き金を引いた。銃口の下から火薬炸裂の火を吹き、弾が発射される。
それはすぐにジェシカ機のランスを撃ち抜き、傷を入れられたランスは魔法の効果を失い、オレンジの輝きを消した。
「あれ? あー! あたしのランス!」
気付いたジェシカはランスを投げ捨て、背中のマウントラックからサーベルを抜く。
そのミゼルのメインカメラは、湾岸地区で膝を着いていたフォカロルに向く。
「お姉ちゃーん。変なの紛れてるから」ジェシカの声と同時、ミゼルのユニットは全開。「殺してくるね!」ジェシカが叫ぶと、ミゼルは渦を纏いながら急加速し、高度を下げ、フォカロルに向かう。
ランスの振り、その灼熱の一閃を避け、準一は顔を湾岸地区に向けた。
「あのバカ……!」
構う余裕はなかった、マリア機には余所見しながらの近接など自殺行為だ。
仕方ない。と準一はマリア機からのランスを避け、下に逃げると腰にぶら下げていた鞘を、サイドアーマーから無理やり外し、中から刀身が碧に光るブレードを取り出す。
「それは何かしら」
マリアはミゼルを加速させ、ランスの切っ先を椿姫胸部に向けるが、その一突きは想定外に止められた。
「?」
ランス切っ先は、刀身が碧に光るブレードの刀身で止まっている。
何故? どうして溶けない?
レーヴァテインのレプリカは伊達ではない。力は確かだ。
今まで、貫けなかった物は無い。
「魔法を使わないハンデだ。これはいいだろう?」
聞こえた準一の声にマリアは冷や汗を浮かべた。
神話の武器、そのレプリカを防ぐ、そのブレード。
「機械魔導天使の武器かしら。にしても、にわかに信じられないわね。神話の魔法のレーヴァテイン。そのレプリカよ?」
マリアの目は、刀身が光るブレードに向いていた。
「何なのかしらね。そのブレード」
碧に輝くその色は、マリアにとって不快感しかなかった。
綺麗? そんな事無い。
―――あの光は、天使の光じゃない
フォカロルの前にミゼルは着地した。装填する暇はなかった。カノンは焦らず、ライフルを捨て、腕に仕込んでいたトンファーを抜き、持たせ、息を吐く。
「ねぇ。何で出て来たの? 馬鹿だねー。わざわざ死にに来るなんて」
ミゼルはサーベルを左右に悪戯に振る。操縦者は子供のような人間、とカノンが思った瞬間、ジェシカはフォカロルに映像通信を開いた。
「お? 見えてるー? 初めまして。ジェシカ・ミレイズでーす」
ジェシカ・ミレイズの顔を見た瞬間、カノンは記憶を穿り返された。
見覚えがある。
彼女を知っている。
「ん? ……あれ? 気のせいかな。なんか、見た事あるよ?」
ジェシカも気づいた、とカノンは驚きながらもトンファーを構える。
関係ない、記憶なんて知った事ではない。今は、兄の手助けだ。それだけ、それだけでいい。
カノンはフットペダルを踏み込み、ユニットでフォカロルを跳躍させ、ミゼルにトンファーを振るうが、ひらりと躱され回し蹴りを叩き込まれ、浅瀬に落ちるがすぐに陸に上がる。
そのまま蹴り、トンファーでの攻撃を繰り返す。
「あっはははは! 動きが大きーい!
無邪気な声の直後、自機が吹き飛ばされる感覚を味わい、コクピット内で上下に揺られたカノンはサブモニターに開かれている映像を見る。
すると、ジェシカは思い出した様に笑みを浮かべた。
「あー! 思い出した。あたしと一緒に居た人だ! ねぇ、教会に居たんでしょ?」
教団の実験。その場所になった教会のひとつで、カノンは彼女達姉妹と出会っていた。
随分記憶力が良いようだ。
「答えてよ」
ミゼルが肉迫し、フォカロルの突き出した腕は切断される。
「くっ」
兄が手こずった理由が分かった。強い、だが相手に射撃武器は無い。
遮蔽物を利用し、隠れながら戦えば勝機はある。
そう考えたカノンは市街地に機体を滑り込ませ、ビルの陰に機体を潜ませると、腕部ガトリングガンを起動させ、近づくミゼルに撃つ。
しかし、ミゼルはそれを剣をクルクルを回転させ、盾の要領で防ぐ。
そして、弾かれた弾丸は周辺建築物に当たり、破片が散る。
今日、ショッピングエリアに人が居なくて良かった。と思うカノンだった。
今日は文化祭に向けての準備、その為、大半の人間が学校エリアでの出店の為学校エリアに居た。
「あー! もしかして格闘戦苦手?」
見抜けないわけが無い、ジェシカ機から距離を取ろうとフォカロルを後ろに跳躍させようとするが、脚部をワイヤーに引っかけられ倒れる。
そして、すぐ前にミゼル。フォカロルの頭部バルカンが火を吹くがベクターの装甲は伊達ではない。
20mmバルカンでは装甲に傷しかつかない。
傷がつかない、とはいってもうざく思ったジェシカはサーベルをフォカロル頭部に振るい、バルカンの銃口を弾いた。
「さてと。昔話に花を咲かせてもいいんだけど、お姉ちゃんを助けに行かないとだから」ジェシカ機はサーベルを振り上げる。「ごめんね?」
だが、振り下ろす前にジェシカ機は吹き飛ばされ、建物に激突する。
――え?
カノンは後ろを見る。そこには、深紅の巨体があった。
「カノン。大丈夫?」
聞き覚えのある声は、常にエルシュタと一緒に居る、感情の基盤を破壊された少女、エリーナのモノだ。
そして、赤の機体は、ハンニバル戦で薔薇と血を奪われた、機械魔導天使。
ブラッド・ローゼン
「びっくりだな」ミゼルがサーベルを強く握り、立て直しブラッド・ローゼンを見る。「この学校、そんなものまで」
ブラッド・ローゼンの背負ったスラスターウィングが開く。
「魔法が使えないけど頑張ってね。ブラッド・ローゼン」言うと、エリーナはブラッドローゼンに2式モーターブレードを構えさせる。
すると、ミゼルはジャンプし、サーベルを後ろに下げる。突きの体勢だ。
「悪いけど! 死んでよね!」
ジェシカ機がサーベルを突きだすと、ブラッド・ローゼンはしゃがみ、2式ブレードを振り上げる。
2式ブレードは、ミゼルの背部装甲と腰部ユニットを傷つける。
しかし致命傷ではない。
すぐにジェシカ機は次の攻撃に移る。
突き出していたサーベルを後ろに振るい、機体をブラッド・ローゼンと相対させる。
「こっちは近接戦が出来るみたいね」
「甘く見ないで」
エリーナはジェシカ機を睨むと、機体を跳ねさせ2式ブレードを突きだす。ジェシカ機は左にそれ、避けると、サーベルを突きだそうとするが既にブラッド・ローゼンの蹴りが迫っており避ける間もなく一撃を喰らう。
衝撃に揺れ、ジェシカが目を開けるとブラッド・ローゼンは眼前に迫っており、気が付けば機体は両断されていた。
「一応、機械魔導天使なんだから」
エリーナはミゼルの両腕を2式ブレードで弾くとフォカロルに近寄り、抱き起すと「カノン!? 大丈夫?」と聞く。
「う、うん」カノンは言いながら大きく息を吐く。エリーナの強さに、自分の使えなさに驚いた。
「ありがとう。エリーナ」
「ううん。いいよ」
アルぺリスのブレードを使ってからの椿姫の戦闘は一方的だった。ランスで優勢だったミゼルは立場を逆転され、頭部を半分使えなくされ、左腕を切断され、腹部や重要コンピュータに支障をきたしていた。
しかし、椿姫のダメージも大きい。
ミゼルからの攻撃ではない、機械魔導天使、アルぺリスの武装であるブレードは相当な重さで、ベクターの関節機構で支えるには厳しいモノだ。
椿姫カスタムは、かなり強度の高いフレームを使用しているが、ブレードはあまりに重く。椿姫の関節。主に左腕は限界だ。
しかし、椿姫の限界よりも、ミゼルの限界の方が早かった。
いきなりのアラートがマリアの見るメインモニターを覆い、次の瞬間にはブラックアウト。
ミゼルは海に落下し、椿姫に回収された。
戦闘は終了。
ヴァルキューレ・シスターズ、ミレイズ姉妹の敗北となり、その日は落ち着いた。