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碧の恐怖

結衣を攫った男は、高速水上艇に乗り込み沖合に停めてあるタンカーへ向かっていた。


水上艇の後方からは、海保の巡視艇が接近している。



海保の巡視艇は高速艇を目視で捉える。だが、次の瞬間には高速艇の姿は消えていた。


魔法を使用し、姿を消したのだ。


巡視艇が高速艇を探していると、巡視艇が爆発する。その巡視艇の下の海中から水中用ベクター、マリンが姿を現す。


巡視艇が爆発したのは、マリンの爆雷攻撃によるものである。


マリンは、高速艇を回収するとすぐにタンカーに向かう。




<><><><><><><><><><><><>




走り出した準一は、学校エリアにある要人来客時に使用する滑走路へ向かった。


着いて準一はすぐに機械魔導天使を召喚するための術式を頭で組む。すぐに紋章が展開し、アルぺリスが姿を現す。



アルぺリスから差し出された左手に乗り、コクピットに納まる。アルぺリスを起動させFCSをオンにし、サイドアーマーに取り付けられた105mmガトリングガンを起動させる。


今の準一の目に容赦の言葉は無い。


許可は貰っている。


準一は決め、アルぺリスの翼を羽ばたかせ飛翔させる。アルぺリスは最高速度で高速艇が消えた海域へ向かう。




<><><><><><><><><><><><>




タンカー甲板に結衣は運び込まれ、椅子に縛り付けられる。眠っている結衣に複数の男が寄り、1人がバケツに貯めた水を結衣に掛ける。


結衣はめを覚まし、数回咳き込む。そして辺りを見る。


夜空、波の音、船の上。そして自身の周りの複数の男たち。


どう考えても善人ではない。結衣は身を震わせる。


「お目覚めの所申し訳ないが、これからお前は我々反日軍の交渉材料として使用させてもらう。拒否した場合、分かっているな」

1人の男一方的な要求。


結衣はただ震えていた。


「まだ混乱している。向こうに着いてからにしよう。使い物にならない」

もう1人が、要求を言った男に言う。


「まあ良い」

男は踵を返しタンカー内に戻る。


残った結衣は椅子に縛られたまま。そして周りには複数人の男たち。

1人が結衣に触れようとする。

それを1人が防ぐ。


「止せ、まだボスも手を付けちゃいないんだ。唾をつけてボスに渡す気か」

その言葉に男たちは不純な性的欲求を抑制させる。




<><><><><><><><><><><><>





タンカー内には、結衣に一方的な要求を押し付けた男の姿があった。男は、モニターに話しかけている。


「ボス。任務は達成できました」

男は言うと誘拐実行犯であるスーツの男をモニターの前に引きずり出す。


「こ、これで・・これでいいだろ! わたしを解放しろ!」

スーツの男は、モニターと男を交互に見ながら言う。


怯えきった表情のスーツの男を見て、モニターに映るボスと呼ばれた老人は薄く笑う。


『誘拐した少女・・碧武生の学生証を見せろ』

老人が指示すると男は結衣の学生証を出す。


老人は顔写真を見る。

『ほぉ・・相当な上玉だな』

とまで笑顔で言うが、名前を見て驚愕する。


『あ、朝倉? ま、まさか・・この娘、兄は居るか?』

老人は震えながら聞く。


「ああ。朝倉準一っていう双子の兄がな」

スーツの男は立ち上がりモニターに向く。


老人は絶望の表情を作る。


「ぼ、ボス。どうされましたか」

男が聞くと老人は頭を両手で抱え震える。


『お終いだ。ワシも、貴様らもだ・・・なんという事をしてくれたんだ。あいつに――』


『―――化け物に喧嘩を売るなど』



老人の言葉にモニターの前の2人は身震いする。このようになった老人を見るのは初めてだからだ。





<><><><><><><><><><><><>





老人が化け物と呼称したアルぺリスは、飛翔後代理から送られた高速艇の最終目撃海域を飛び去り、撃沈された巡視艇を下に見る。


そしてそのかなり先にマリンを発見する。


アルぺリスのレーダーに映るマリンを準一は確認し、ロックオンされているのに気付く。


海面に顔を出したマリンは、アルぺリスに右腕を向ける。右腕からは地対空ミサイル2発が舞い上がる。


準一はミサイルを迎撃する為、サイドアーマーの105mmガトリングガンをミサイルに発射。ミサイルは弾丸の直撃を受け爆発。


マリンは、迎撃された事に気付くと海中に潜ろうとする。準一はそれを逃すまいと、両サイドアーマーの魔導砲を同時発射する。


魔導砲から発射された光線は、マリンの居た海上に命中し、50m以上の水柱が立つ。マリンは水柱と共に巻き上げられ、水中用のマリンは動きを封じられる。


準一はアルぺリスを加速させ、舞い上がったマリンに接近し右腕を伸ばし、マリンの右腕を掴む。マリンは左腕での抵抗を試みるが、アルぺリスはマリンの左腕を引きちぎる。


そのまま、左手の指を手刀の様に構えさせ胴体に突き刺し、コクピットブロックを握り潰しマリンを海に投げ捨てる。



「まず一機」

準一は呟くと、先のタンカーに向け飛ぶ。


先のタンカーは確認済みだった。航行管制に問い合わせたが、あのタンカーは航行許可は取っていない。




間違いなく、あそこに結衣が居る。準一は確信すると、展開していたタンカー護衛のマリン5機をガトリングガンと魔導砲を使用し薙ぎ払いタンカーに接近する。




<><><><><><><><><><><><>




『あの娘は甲板に置いたままにしろ。奴が乗り込んで来たらおとなしく引き渡し見逃してもらえ。いいな!』

老人の指示を聞き、男は歯ぎしりをする。


「何故です! 奴はたった一機! マリンは6機も居るんですよ!」


『やつに逆らうな! 勝てるわけが無い!』


その引き下がる気のない態度を見た老人は叫ぶ。


「わ、悪いがわたしも降伏には賛成だ」


スーツの男も意見は老人と同じだった。


「チッ」


男は舌打ちをすると、甲板に出て結衣の元に向かおうとする。


だが、彼が甲板に出た瞬間、突風が甲板を駆け巡る。アルぺリスが直上から強制着艦を行い甲板に降りたのだ。


バカな。思い男は手近な仲間にマリンの事を聞く。


「ま、マリン6機は・・・全て撃破されました」


聞いて耳を疑う前に、アルぺリスが動く。アルぺリスは、密集していた船員に右腕を向ける。


船員全員ははアルペリスに畏怖し、動きを止める。


「全員船内に戻れ!」

男が指示するが遅く、アルぺリスは腕部の対人用40mmガトリングガンを密集した船員に発射する。


船員たちは悲鳴を上げる間もなく弾丸に引き裂かれ、肉塊へと姿を変貌させる。男は銃弾を回避しなんとか船内に逃げ込む。



船首甲板の方に居た結衣は、突然降下してきた機械魔導天使に怯えていた。けたたましく響く銃声を聞き、人が殺されているのは分かっていた。


だが、発射時の煙が立ち込めているので殺されている様は見えない。


響いていた銃声は、暫くすると止み、煙の中からアルぺリスがゆっくりと歩いて来ていた。


結衣は、初めて機械魔導天使を生で見た。ベクター兵器とは決定的に違う威圧感。結衣がアルぺリスに震えていると、アルぺリスは膝を付きしゃがむ。


そして、胸部ハッチが開き、中から結衣の良く知った人間が姿を現す。


「あ、兄貴」

結衣は一言。


準一は降りて結衣に近づくと、縛っていた縄を切る。


「あ、ありがと」

目に少し涙を溜めた結衣は、椅子から立ち上がり一言礼を言う。


そんな結衣は、震えていた。


兄が魔術師とは知っていた。だが、機械魔導天使の操縦者とは知らなかった。


安心と信頼と恐怖がねり混ざっている。


「結衣」

ふいに準一が名前を呼び、結衣はビクッと身震いする。


「安心しろ。もう大丈夫だ」

そう言った準一の目は、濁った黒で、結衣の恐怖は更に煽られた。


準一は結衣に機械魔導天使のコクピットに居ろと指示する。結衣はおとなしく従い、準一の助けを借りてコクピットに納まる。


モニターは起動したままで、外の様子は良く見えた。


結衣が真下にいる準一を見ると、どこから出したか分からない剣を両手に持っていた。


刀身が碧に輝くそれを持った準一は、闇夜に輝く月の光に照らされ幻想的で、結衣は目を奪われた。


同時、準一は剣を構え煙の向こうに走って行った。


目的は、船内に残る人間の制圧。そして、ゼルフレストの末端と判明したこの組織の壊滅だ。





<><><><><><><><><><><><>





アルぺリスが来たと同時、船内の電子機器は全て使い物にならなくなっていた。モニターも死に、残った船員は鈍器、銃火器で武装していた。


使えなくなった理由は、アルぺリスに装備された強力な磁気装置の干渉だ。これは、準一が敵の通信を防ぐために用意したモノだ。



甲板を歩く準一は、肉塊と化した死体を気にせず踏みつけ、船内に通じる鉄の扉を剣で切り裂く。


入って目の前の通路は無人。だが気配を感じていた。通路の角に2人。近接武器で武装している。


準一は、わざと足音を響かせ、角の2人に気付かせる。案の定、角の2人は飛び出し鈍器を振りかざす。


その瞬間、準一が振った剣、その碧の刀身は2人を真っ二つにする。


準一は死体を蹴り、通路を進み、目に入った人間は全て殺していき、程なくモニターのある船室の前に着き、扉を切り裂き突入する。





<><><><><><><><><><><><>





同時刻の碧武では、事情を聞いた魔術師会合会参加メンバーが校長室へ移動し代理と共に朗報を待っていた。


その中で、揖宿は何か気に食わないといった顔をして、代理を見ていた。


「揖宿君、どうかした?」

視線に気づいた代理は揖宿に聞く。


「いえ・・誘拐と仰いましたよね。この碧武校は、宙、海の監視が行き届いているはずです」

揖宿の言葉に会合会メンバーは代理に向き、回答を求める。


「そうね。言う通りだわ。普通の人間ならこの碧武校へ近づいた時点で、海保、警察に捕まえられるわ」


「では、普通の人間ではない、と?」

真尋・リーベンスが聞く。


「ええ、でも魔術師ではない・・そして彼は政府から今日だけ送られてきた視察官。どうやって魔術を」

代理はここまで言うと舌打ちをする。


「どうも、ゼルフレストに弱みを握られてたらしいの」

代理の言い方、らしいの部分で会合会メンバーは把握してなかったのかと呆れる。


「言い訳になっちゃうけど、彼の弱みの部分は政府の口裏合わせでここまで入ってこなかったの。でも、その為に警備が緩くなっていたのは否めないわ」

代理は言うと、付近に大規模作戦の関係で展開していた艦隊司令、九条に連絡を入れる。


「もしもし、九条。事情は説明するから、今すぐ支援にヘリを回してくれない? 座標は送るわ」

代理は大和艦長に親しげに話す。


『ああ、それだが準一君本人から要望があってな。生身での戦闘の邪魔になるので何もいりません。だとさ』

九条も同じように親しく言う。


九条の言葉を聞いた代理は「ふう」と息を吐く。


「大丈夫よね」


『敵にも、味方にも良くも悪くも名前は知れてる。準一君は強い、それは確かだ。安心しろ、マナ』

九条は校長代理の名前を呼び、安心させる。


「ま、大丈夫よね。経歴は凄いし・・混乱してた」


『お前も混乱なんかするんだな』

九条がからかうと代理は苦笑いする。


「ほんと、艦隊司令官とは思えないくらい能天気ね」


『はは。じゃまたな。すぐに準一君は戻ってくるだろうな』


「じゃあね」

代理は電話を切る。




「代理、今の電話、相手は?」

子野日が聞く。


「大和の艦長」

代理が言うとアホみたいな声を子野日は上げる。


「知らない? 弩級戦艦大和」


「知ってます」

子野日はこの楽しい事しか考えていなさそうなゴスロリツインテール少女の交友関係に驚いている。


それは他のメンバーも同様だった。



「ま、今は待ってようよ。すぐに戻って来るらしいし」

代理は言うと引き出しから茶菓子の入った皿を取り出す。


「ま、たべんね」

言われ、メンバーは「い、いただきます」と口を揃えた。





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扉を切り裂き中に突入すると、ノイズがうるさいモニターを背に男が拳銃を構えていた。


準一は、脇にへたり込んでいるスーツの男、視察官を一瞥すると、自身に向けられた拳銃を見る。


「攫った娘の兄・・だったな。若いはずだ、幾つだ」


「16だ」


拳銃を向けられたままの問いに顔色一つ変えず答える。


「16・・か」

男は表情を変えない準一に驚きながら、照準を合わせる。


だが次の瞬間、男の腹部には剣が突き刺さっていた。




男は何故、ボスが恐怖していたのか、機械魔導天使を使用していた状態でなら分かった。確かに強い。


男は直に会って確信した。こうして銃を向けられていても表情を変えない。ここまで来るのに何人の人間を殺したかはわからない。


普通の日本の学生なら気が変になる筈、だがこの少年は人殺しを何とも思っていない。慣れている。


学生の目ではない。殺しになれた兵士の目をしている。



自分の腹部に突き刺さった剣と、準一の位置を見比べる。


離れている。どうやって? いや、機械魔導天使を使える。これは魔術だ。


男は準一を睨み、引き金を引く。発砲音が室内に響くと同時、銃弾が弾かれる音も響いた。


「な、・・なんだそれは」

腹部の痛みを忘れる衝撃だった。


準一の目の前には、碧色の紋章が出現し、盾となっていた。


男は、もう3発撃ちこむがただ弾かれるだけだった。


「ふ、ふざけるなよ・・!」

そう声を上げた直後、男は首を刎ねられていた。


首の根元から血が噴き出し、準一と脇でちじこまっていた視察官にかかる。


準一は残った視察官に目を向けるとゆっくりと近づく。


「ひ、ひぃッ」

視察官は情けない悲鳴を上げる。


「この末端組織のボスはどこだ」

準一はそんな視察官に剣を向け聞く。


「こ、このタンカーのどこかだ!」


「そうか」

答えを聞くと準一は剣を振り上げる。


「ま、待て! わ、私は政府高官だ! 貴様は日本人だろう! 私を討てば逆賊として扱われるぞ! 祖国に刃向う気か!」

この言葉を聞いた準一は悪い笑みを浮かべる。


「そうですか」


「わ、わかれば――」


「あなたはテロリストに殺された」

準一の言葉を聞き、視察官は震えあがる。


「自分が助けに来た時、すでに遅く、あなたはテロリストに処刑されていた。筋書きはこんなモノでしょう」


「ま、待て――」


「申し訳ありませんが、目撃者は全て殺します」

準一は言うと剣を振り下ろす。


「待ってくれ―――」

何かを言う前に振り下ろされた剣は、視察官を真っ二つに斬っていた。


準一は、踵を返し先に殺した男に刺さったままだった剣を抜くと船室を飛び出し、甲板へ急ぐ。





<><><><><><><><><><><><>





船内から出てきた準一を見て、結衣は少し安堵する。


準一はアルぺリスに乗り込み、結衣は邪魔にならない様にコクピットの脇に移動する。


「あ、あにき・・大丈夫なの?」

返り血を浴びて制服が真っ赤になった準一に聞く。


「ああ。問題ない」

準一は言うとアルぺリスを飛翔させ、魔導砲をタンカーに向ける。


「し、沈めるの?」


「ああ、また出てこられては厄介だ」

答えた後、魔導砲が撃たれタンカーに命中。タンカーは爆発し、炎上。浸水が始まりあっという間に沈む。


確認した準一は「帰ろう」と結衣に言うとアルぺリスを碧武へと飛ばす。










「あ、兄貴・・」

碧武に向かう途中、結衣が声を掛ける。


「どうした」


「ご、ごめんなさい。また兄貴に迷惑かけた」

聞いた準一はため息を吐く。


「いいよ。別に」

そう言って準一は結衣に向く。そして初めて気づいた。


結衣が自分に怯えている。小さく震え、目が合った瞬間一瞬身体を震わせた。


怯えて当然だ。と思いながら前を向く。


目の前で魔術を使用され、あれだけの人間を殺し、血まみれで帰って来た。


怯える理由は揃っている。






「・・兄貴さ・・・機械魔導天使、持ってたんだね」

暫くの沈黙に耐えかねた結衣が聞く。


「まあな・・怖いか」


「う、うん」

結衣は正直に答える。


「そっか」


「で、でも・・カッコよかった」


「は?」

準一は何を言っているんだと驚いている。


「だ、だって・・・ピンチの時に颯爽と来てくれて、カッコよかった! 怖かったけど」


「あ、ああそう」

準一は呆れた。



そんなに怖いのか俺? 準一は思った。



「なあ・・そんなに怖かったか? 俺」

気になったので聞いた。


「うん・・なんか、いつもの兄貴じゃなかった。前にも同じような目だったけど、今日のは特別目が真っ黒で、それに返り血浴びて来ても、何にも感じてなかったみたいだった」


準一の目が黒くなる時、感覚が人殺しの状態になっているからで、返り血を浴びて何も感じないのは慣れてしまっているからだ。


「・・・なあ結衣。お前、これで分かっただろ。さっきみたいな事を平気でやるのが俺なんだ」


「で、でも」


「俺はさっき殺した人間の何十倍以上の人間を殺してる」

結衣は前に聞いた事件を思い出す。


「お前の兄貴はただの殺人鬼だ。分かったら、もう俺とは関わるな。これ以上関わらなきゃ今日みたいな事は無くなる」

準一が言い終えると、結衣は身を乗り出し準一に顔を近づける。


「やだ」


「・・は?」


「やだって言ってんの! 兄貴と関わらないなんて絶対やだから!」


「あ、あのなぁ・・・今日みたいな事起こったらどうするんだ」


「助けてもらう!」


「だれに?」


「兄貴に!」



準一は手で顔を覆った。



「・・お前さっき俺の事怖いって言ってなかった?」


「言った! 兄貴怖かった! でも今の兄貴は普通の兄貴だもん!」


言われて準一は素の状態に戻っているのに気付いた。


「そっか・・今は普通か」


準一は呟く。


結衣はそれに「うん」と頷く。


静かになった結衣に目を向けると、結衣も準一を見ていたので目が合った。


結衣は頬を赤く染め下を向く。準一はそんな結衣をとても可愛く思い微笑む。



準一は、結衣と口を利きたくない、等と思っていた割に、すぐに結衣に流されている。


流されまいと刃向っても、結局結衣には甘くなってしまう。


参った。準一は思った。



「兄貴」


「どうした」

声を掛けられ準一は我に返る。


「今変な顔してたよ」


「え?」


「なんか顔が緩んでた。何考えてたの?」


結衣に聞かれ返事をどうするか迷ったが、からかう為にこう言った。



「彼女の事」


すると結衣はふくれっ面でこう言った。


「兄貴のバカ」











碧武に戻った2人には、救護班が向かい、検査を受けたが何もなくすぐに帰される。


会合会メンバーは2人が検査を受ける際に返され、代理も検査終了と同時に『眠い』と欠伸をしながら帰っていた。


(ちなみに姿を消す魔術のことは、代理から聞いて『簡易魔術回路を使用した一度きりのもの』と聞いていた)


現在は、結衣と準一の2人で臨時運行した汽車の中に居た。



客車の窓からは、明かりの灯った学生寮エリアが見えている。


準一はそれを見ながら困っていた。


自身の右腕に結衣が抱き着いているからだ。



何故だ。準一は思った。とりあえず距離は置こうとした、割と冷たく当たった。距離は開いた筈。


準一が思っていても現実はそうはいかない。結衣のブラコンは準一の想像を凌駕していた。一日、冷たく当たられて冷めるどころか更に熱くなっている。


満面の笑みで「えへへー」と準一に抱き着く結衣に「離せバカ」等と言えるわけもなく、結局準一は結衣に流されっぱなしだった。



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