急襲姉妹
部隊任務の一環で、日本国を経由し中東に流れたベクターを探していたエディ・マーキスは、そのベクター輸送を担っていた運送警備会社を訪問していた。
その社は大阪にほど近い場所にあり、建物は割と大きいビルだ。その屋上、見渡せるくらいの窓が広がる部屋にエディは居た。
「本当にミゼルが」
自分の立つ向こう。偉そうに座る男に聞き返した。
「そうだ。此方の任されていたブツだ」
男の言い方には含みがあった。
「あんた、まだ若いがどこの人間だ?」
聞かれ、エディは目を合わせた。「碧武九州校です」
社を出たエディは大きな息を吐き、上司に連絡を取った。ミゼルに関する事だ。
新型機、ミゼルはテンペストに与えられるはずだった、プロトⅡの発展機。折り紙つきの性能に、魔術にある程度の体勢のある関節駆動系。
魔術部隊としては欲しかった代物なのだが。
上司との連絡後、エディは近くのベンチに座り携帯をポケットに入れた。
ミゼルは、どうも正規の手段で入手したモノではないらしい。その為、密輸を目論んでいたようだが奪われた。
2人の姉妹、ヴァルキューレ・シスターズ。
いや、ミレイズ姉妹。
たった2人の少女に、輸送していたタンカーは物の見事に制圧された。運送警備請負会社が聞いてあきれる、と思いつつ準一を思い出す。
「またあいつに迷惑かけるな」
そう呟いたエディの頬に冷たい缶が当てられ、ゆっくりと見る。
エディの隣には制服姿の揖宿洋介。
「お疲れ」
「すまない」
揖宿からの緑茶の缶を受け取り、エディは礼を言う。そのまま缶を開け、一気に煽り大きくため息を吐いた。
「ねぇ。どうやって朝倉準一に仕掛けるの?」
聞いたジェシカはコンテナの上でマップ端末を見るマリアを見上げた。
「これを見て」
マリアの指示に従い、上に登り抱き着くように横から覗き込む。
碧武九州校の全体図だ。船舶停泊地は空だが、移動橋の線路上に列車砲。多目的ミサイル発射機。
「列車砲って古典的だね」
「でも、小型の炸裂弾なら十分船舶にも航空機にも使用できるわよ」
もちろん、ベクターには回避されるだろうが。
「問題は多目的ミサイル発射機ね」
「でも、入っちゃえば? ほら、街だし。日本だし。人質交渉とか」
ジェシカが言うと、マリアは端末データを朝倉準一について調べた資料を見せた。
覗き込むと、準一のそうそうたる経歴が記されており、ジェシカは息を吐いた。
「人質交渉なんて、バカげた話でしょ?」
うん、とジェシカは頷いた。「じゃあ、学校の敷地に入った時点でこっちの負け?」
「でも、誘い出すなんて出来ないでしょうから」
「じゃあ、私とお姉ちゃんの腕の見せ所?」
そうね。のマリアの後、ミゼルは起動する。周辺に何かしらの反応を捉えたのだ。
「早速ね。ジェシカ、終わらせてそのまま彼に会いに行きましょう」
「うん!」
2人はミゼルに乗り込み、空へ飛ぶ。
山間で、ミゼルの存在が確認された事は代理の耳に入った。
丁度、代理の居た校長室には結衣が居た。朝倉準一に関して幾つか、過激な内容の作戦を教えておこうとしたから、代理に呼ばれた。
「何か電話ですか?」
「うん。ごめんね結衣ちゃん。ちょっと用事が後回しになっちゃった」
はぁ、と結衣は代理を見る。「じゃあ、失礼した方が?」
「うん、ごめんね」
「いえ」
結衣が部屋を出ると、代理は内線を格納庫へ繋げた。
既に椿姫は発進可能状態にあった。各種武装に加え、腰には隠し玉を入れた鞘。近接武装が入っている。
コクピット内で準一は装甲、武装の同調を終わらせ、端末にデータを素早く写し足元の隙間に入れると、自分の足をフットペダルに、手を操縦桿に。
「重くないか?」
聞こえた城島の声、準一は椿姫左腕を見る。威力は高くないが、偶の速度が早い砲。右手には2連レール砲。
「重いですね。すごく」
「だが敵は来てるからな。これも」
「分かってます。一応はデータ収集も兼ねてるんですよね?」
「そういう事だ。死んでもらっては困るぞ」
了解、と準一は椿姫の足をエレベーターに乗せ、ボタンを押す。
エレベーターのチューブが外れ、上に登り階層隔壁が開き、外に出ると新型ユニットの放熱フィンが羽のように開く。