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ヴァルキューレ・シスターズ

 清城甲斐家、その屋敷の執務室に当主は居た。初老の彼はスーツ姿に黒電話の受話器を握っていた。

 

「そっちは片付いたのだろう。次は日本での仕事だ。覚えているんだろうな」


 少しイラついた口調で言うと、電話の向こうで遠く高笑いが聞こえる。


「ええ。今は移動用の潜水艦よ。武器弾薬調達は済んだし、すぐに日本に着くわ」

「聞くが、朝倉準一を簡単に倒せる、と思っているらしいが、奴は化け物だぞ。2人だけで勝てるのか?」

「あら」


 マリアは鼻で笑う。「普段は1人で任務にあたる私たちが姉妹揃って仕掛けるのよ。勝てるに決まっているでしょう」

 瞼を閉じ、息を吐くと当主は受話器を置き、通話を終了する。

 

 執務室の出入り口となる木製扉に寄りかかり、清城甲斐秀人は会話を聞いていた。


「マジで面倒な事になってんじゃねぇか」


 言うと、長いため息を吐き携帯を取り出す。そして番号を打つ。

 そして通話ボタンを押すと、ワンコール以内に繋がる。


『もしもし。碧武九州校広報課です』




 


 九州校で、高等部の授業がすべて終了した放課後。


 格納庫の椿姫3番機はフル装備状態にする為、各種武装、追加装甲を取り付けていた。城島から魔法使用の為の回路搭載武装を薦められたが、準一はその武装を使わない。

 しかし、近接武器は槍と盾。


「しかしだ朝倉。急にどうした。椿姫をフル装備に、積めるだけ積んでくれだなんて」


 ケージ前、城島が準一に聞く。「敵は?」


「いえ、そこまでは。しかし、使用する魔術武器が強力らしくて」

「そんなに強力であるなら、魔術武器で対抗しなくていいのか?」

「アルぺリスが使用できない以上、椿姫で戦うしかありません。それに、今回は俺一人ですし」


 城島は驚く。「お前1人? 敵の勢力は?」

 

「2人、2機です。聞くと、めちゃ強らしいですけど」

「狙撃の義妹は?」

「俺の判断で、戦力外通告しました」


 成程な。と城島はクレーンを操作する人間にインカムで指示する。


『ショルダーアーマーずらせ。狭いぞ』


 はい。の返事の後、天井につるされた赤いクレーンが動く。 

 それと同時、格納庫内にアナウンス開始のサイレンが鳴る。


『2年3組朝倉準一。外線2番に出て下さい』

 

 外線? 碧武以外の人間なら基本的に代理を通して自分の携帯に来る。

 しかし、誰だ。と思いながら壁の受話器を取り『外 弐』と記されているボタンを押す。


「もしもし?」


 息を吐く音が聞こえ、準一は目を細める。


『俺だ。清城甲斐秀人だ』


 想定外の相手に驚くも続ける。「あんたか。何の用だ?」


『ミレイズ姉妹。と聞けば分かるだろう。横断橋前で待っている。出来れば来てほしい』


 電話で話す内容ではない、という事か。と理解した準一は格納庫を飛び出し外出許可証を書き提出。

 すぐに申請は通り、横断橋外へ走った。





 同時刻。


「これは?」と聞いたのは朝倉カノン。九州校敷地内の停泊地の倉庫前に置かれたコンテナを見て出した言葉だ。


 カノンの隣に来たのは機甲艦隊の制服に身を包んだ九条功。「実用に耐えうる状態になったからね」


「君の兄は魔術師で、任務では対魔術師戦があるだろ? その為だ。魔力で装甲なんか作ってしまえば抜けるのは魔法だけだ」


 まさか、カノンはコンテナを見る。「零式弾と同じ?」


「それの小型版だよ。ベクターの狙撃銃に仕込める」


 つまりは魔力をキャンセルする効果のある貫通弾。魔力を装甲にした兵器が現れた場合、それは有効手段となる。


「一応はカノンちゃんからの直接オーダーだから持ってきたけど、準一君はこの事知ってるの?」


 カノンがオーダーしたのは、対魔術師戦で有効な搭載兵器は無いか。

 

「いえ。私の独断です。出来れば、兄さんには秘密にしてください」


 まぁ、いいけど。と九条は帽子を深く被り大和に登る。カノンは作業員に頼みコンテナを格納庫への搬入エレベーターに入れる。

 

 ―――これで、私は今まで兄さんの役に立てる

 





 制服姿の準一を助手席に乗せ、秀人の運転する車は高速を走っていた。2人ともタバコを吸っている。


「で、そろそろさ、俺を呼んだ理由聞きたいんだけど」


 準一が聞くと秀人は窓を開け、咥えていたタバコを右手に持ち、窓から灰を捨てる。「まず、謝罪しておく」

 謝罪? と準一が聞き返すと秀人はタバコを咥える。


「ミレイズ姉妹の件だが、姉妹を雇い、お前の始末を頼んだのは俺の親父だ」


 CDデッキの下の灰皿を引きだし、準一はタバコを人差し指で叩き、灰を落とすと再び咥える。「そりゃまた」


「理由は聞くか?」

「想像がつく。清城甲斐からすれば俺が邪魔なんだろう? あんたの許嫁があんたとの結婚に乗り気じゃないから」

  

 正解だ。と秀人は大きく息を吐きパーキングに車を停める。


「で、あんたが俺にそれを伝えたのは、許嫁と結婚したくないからか?」

「それも正解だ。何か食うか? 奢ってやる」

「言葉に甘える」


 2人は車から降り、飲食施設に入り食券を買い準一はかつ丼。秀人はカツ定食。

 

「なぁ、あんたベクター乗れる?」ふと準一は秀人に聞いてみる。「いや、動かせるとは思うが。無理だな」


 何だ。と準一が言うと「俺を戦力に数える気か?」と秀人。準一は否定せず頷きお茶を飲む。


「あんたは魔術師だ。ベクターが使えれば一緒に戦ってほしかったが」

「生身じゃないなら無理だ」


 はぁ、と準一は息を吐きカツ丼を食べ始める。


「しかし、親父も思い切ったもんだ。お前を殺せば清城甲斐家は立場的に危うくなるだろうに」


 味噌汁を飲み、秀人が言うと準一は確かに、と思う。

 朝倉準一が機甲艦隊所属で、日本政府管轄内の高位魔術師である以上、殺してしまえばその殺した人間、組織にはそれなりの制裁が下る。

 しかし、そのメリットを知って尚、清城甲斐家当主が朝倉準一殺しを目論んだのは、時雨甲斐家の力欲しさからだ。

 秀人と雪乃が結婚すれば、時雨甲斐家の力が使える。


「なぁ、何で親父はわざわざ海外のベクター専門の殺し屋を選んだんだ? 暗殺位なら白兵でいいだろう?」

「出来ないんだろう」


 準一はおしんこを噛み、ポリポリ音が鳴る。「俺が碧武と言う施設に居る以上、まともな暗殺は出来ない。魔術師を差し向けても、倒す。アルぺリスも同様だ」

 成程な。と秀人はカツを口に含む。


「ベクターなら、ベクターで勝負になる。魔術ナシなら殺し合いで勝機がある。って事か?」

「その通りだ」


 箸を止め、準一は湯のみを持つ。「ベクターで、尚且つ数で攻めれば俺負けるかも」





 清城甲斐家の用意した山間のコンテナ置き場にミゼル2機は着地した。消音で飛行し、レーダーステルスを使っているので戦闘は行えないが、ある程度の隠密行動は出来る。

 その為、ここまでの道則で見つかってはいない。

 コンテナの上に降り、マリアは辺りを見る。

 既に暗い、空は晴れており、星が見えている。


「お姉ちゃーん。お腹空いたよー」


 言いながら降りてきたジェシカを見る。着替え、ジェシカは黒いスカートに白いワイシャツにネクタイ。軽くコスプレだ。

 マリアの恰好は日本のティーンズ向けファッション雑誌からコーディネートした服装。

 

「このあたり何かあったかしら」

「あ、さっき来るときね。少し先にパーキングが見えたよ」


 じゃあそこにしましょう。とマリアが言うとジェシカは「やったー」と叫び跳ね回り、歩き出したマリアに続く。

 ちら、と後ろのジェシカを見てマリアはフワッとした帽子を被った。




 パーキングでの食事終了後、準一を乗せた秀人の車は高速を走ったが、車の調子がおかしくパーキングの階段下に繋がる細道に入り、車は完全に止まった。

 見ると、ボンネットが煙を吹いている。


「ボロ車」


 秀人が言うと準一はタバコに火を点けた。「新車は見た目だけかよ」

 否定できずに秀人はハンドルから手を離し、タバコに火を点けると外に出る。準一も同じように外に出る。


「で、どうする?」

「いや、あんたの車だろ?」準一は煙を吐く。「レッカー呼べよ」

 

 言うと、秀人はポケットから携帯を取り出した。ガラケーで、パカと開くと画面は真っ黒。

 充電切れだ。


「マジか」

「お前のは? 携帯くらいあるだろ?」


 いや、と準一はタバコを口から離し、手に持つ。


「急いでたからな。忘れて来た」


 すると秀人は横の石段に腰を降ろし、タバコをふかした。「こりゃパーキングに戻るしかねえか」


「だな」


 と準一が言った時だった。2人の横を銀髪の女の子2人がすれ違い、準一は何かに気づき振り向く。

 同じタイミングで銀髪、帽子を被ったマリアも振り向く。


「あら? 偶然」


 マリアが言うとジェシカも振り向く。「あ、あー! 高額報酬だ!」

 高額報酬、と聞き秀人は立ち上がり2人を見る。


「随分と可愛い知り合いだな」と秀人。準一は誰か分かりタバコを落とし、ローファーで踏みつける。「ああ、顔合わせは初めてだがな」


 するとマリアは準一の前までゆっくり歩く。「始めまして、朝倉準一」


「初めまして、ミレイズ姉妹」


 準一が言うと「こいつが……?」と秀人は驚きながらも術式を組もうとするが、ジェシカの方が早かった。

 秀人は自分に銃口が向けられているのに気付く。


「お姉ちゃーん。こっちの色男撃っていい?」


 ジェシカの口から出た言葉、さも当たり前に言う声、口調に秀人は背筋を震わせる。「おい、ここは日本だぜ」

 向けられている拳銃を見る。


「消音器くらい付けたらどうだ?」と準一。秀人は「おい」と口に出す。「冗談だ」言うと準一は加速魔法で素早く拳銃を抜き、ジェシカに向ける。

 そのまま準一は腹部に感触を感じ、下を見るとマリアの顔が近づいており、腹部にはナイフの切っ先が触れている。


「流石魔術師」マリアが言うと準一は息を吐く。「刺してみるか?」訊いてみるとマリアは離れ、「ジェシカ。終わりよ」と銃を降ろす様に指示をする。

「えー。もう、つまんなーい」


 だだをこねるジェシカに笑みを向け、マリアは微笑むと顔を準一に向ける。「私たち今から夕食なの。一緒にどう?」

 秀人は銃口が降ろされるのを見て、胸を撫で下ろす。


「ったく、可愛い顔して怖え姉妹だ」


 秀人の言葉を聞きマリアは微笑む。「4人でどう? 楽しいと思うけど」


「その前に、お前たちの持って来たベクターを探し出して壊してきたいんだが」と準一。マリアは「止めておいた方がいいわよ」と一言。

「何故だ?」

「索敵範囲に敵勢力が来れば、周辺の市街地が火の海になるわよ」


 そりゃマズイな。と準一は後頭部を撫でる。「夕食は済んだ後だ、上に上がるなら用事があるから同行するが」


「何だ。残念。まぁ良いわ。行きましょう」 


 準一とマリアが歩き出すと、秀人、ジェシカは続く。

 そして、準一はマリアをチラ見し出掛ける前、シスターライラが教えてくれた事を思い出す。


 ―――ミレイズ姉妹だけど、教団実験の被験者らしくてね。教団で力を振るって、通り名があるの


「確か、教団ではヴァルキューレ姉妹シスターズ、で有名だったんだってな」


 思いだした事を言うとマリアは脚を止める。「よく、調べたわね」


「その情報なら、聞くところによる黒妖聖教会かしら」

「そうだ」


 マリアは振り向き、準一と目が合う。マリアの目は変わらず余裕、準一は息を吐く。「実験の被験者で、教団では名の知れた魔術師。何で教団を抜けたんだ?」


「だって、私たち姉妹はヴァルキューレなんて言われてるけど、魔術師じゃないもの」


 それに驚いたのは秀人だった。「魔術師じゃないなら、何でそんだけの通り名を手に入れたんだ?」


「私たちには特殊な武器があるからね」とジェシカ。後ろからの声に秀人は振り向く。「武器?」


 準一は後ろの秀人に向く。「レーヴァテインのレプリカだ」 

 秀人は聞いて、レーヴァテインが何かを思い出す。

 確か、全てを焼き払う剣だとか。


「レプリカだからってバカにしない方がいいわよ。少なくとも、機械魔導天使の装甲なら溶解させられるわよ」


 レプリカでそのレベルなら、原品はヤバいんだろうな。と準一は考える。神話の武器、と言われている神の兵器に順ずるに値する代物だ。

 現在、原品であるレーヴァテインは美術館にある。

 レーヴァテイン自体を保管するケースは、高位の魔術を貼られている為、その場所から動かす事は出来ない様になっている。

 しかし、レプリカは既に世界中に出回っており、コレクターや魔術の末端が欲しがっている。

 過去に戦ったヨアヒム。彼が持っていたランスは、レーヴァテイン・レプリカの更にレプリカだ。


 ここで疑問が、このレプリカだが何故姉妹の持っているソレはベクターサイズなのだろうか、と秀人は考えた。


「何で、お前たちのそれはベクターサイズなんだ?」

「魔法を科学で繋ぎ合わせたの」


 秀人の問いにマリアは答える。

 サジタリウスと同じ、と気づき準一はもう1つ気付く。

 無理やり繋ぎ合わせた、という事は欠陥品だと。


「ネタばらしはここまでよ。行きましょ、お腹ペコペコなの」


 そうだな。と準一はマリアの横に並び歩き出す。

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