レプリカ・レーヴァテイン
「準一君。勝手に動いたね」
放課後の校長室。準一は「いいえ」と首を振った。
「ライラから話しは聞いたよ。ミレイズ姉妹だっけ?」
割と長い息を吐き、準一は口を開く。「俺の持っていた情報では、姉妹でどんな戦場にも介入すると」
代理は机に突っ伏し、息を吐くと顔を上げる。
「で、何で急にその姉妹を調べたの? 可愛いから?」
「違いますよ」
準一は呆れ気味だ。察し、代理は唇を尖らせる。
「中東での作戦、知り合いの部隊がその姉妹に潰されて。その事で」
「知り合いの部隊?」
「ネバーヴィップって、アメリカのPMC。シルバークオーターの精鋭です」
ライラの言っていた部隊か、と代理は少し驚く。「どこで知り合ったの?」
「当然作戦ですよ。で、そのミレイズ姉妹ですが、シスターライラ曰く俺への接触の可能性がある、と」
代理は少し考え込む。「ねぇ、ミレイズ姉妹ってどの程度?」
「さぁ。戦ったことは無いので分かりませんが、大部隊に突っ込み無双をしたと聞きますし、一筋縄じゃいかない。くらいでしょうかね」
参考にならないなー。と代理は椅子ごとクルクルと回り始める。
「ですが、俺が狙いであるなら学校での戦闘はまずいです」
「ああ、残忍とか」代理は回転を止める。「言ってたもんね」
ええ。と準一は続ける。「ですから、ここから移動したくはあるんですが」
「ダメですよね?」準一は代理に聞くと代理は頷く。「今はエディ君も揖宿君も外に出てるから。君しか頼れないの」
参ったな。と準一は後頭部を撫でた。
岩肌に隠れた場所にある豪邸に着地。機体から降りたミレイズ姉妹は、クライアントの前に立った。クライアントは中東の富豪。戦争によって儲かった男なだけに、ミレイズ姉妹を雇った理由は、紛争を長引かせるためだ。
「貴様ら。帰って早々だが、失敗したな」
クライアントのアラブ系老人が言うと、控えていたスーツの男達が拳銃を取り出す。
「失敗?」
ジェシカの姉、マリアが聞く。マリアの後ろにさがったジェシカはワクワクしている。
「そうだ。隠密任務、と聞いた居て筈だが既に正規軍が此方の捜索を開始している。そこでだ」老人が言うとスーツの男達は拳銃を構える。「貴様らを差し出せば丸く解決だ」
ジェシカ、マリアは豪邸屋上。周辺をゆっくりと見る。スナイパーが居る。
しかし、それは何の脅威でもない。ただ心配なのは、これまでここで稼いだ分の金だ。
この男が別の場所へ移したと、考えられないわけでは無いからだ。
「まぁ、ただ殺すのは勿体ないよな。折角の上玉だ」老人の声の後、男達はニヤニヤと笑い始める。視線は、姉妹を舐め回すように、厭らしい目だ。
見ると、スナイパー達は無線を付けており、同じようにニヤニヤし銃を降ろし、油断している。
「抵抗しないなら、楽に殺してやるが。どうする?」老人が聞くとマリアは両手を挙げる。それをジェシカはクスクスと笑いながら見る。「懸命だ」
老人が言うと、マリアはゆっくりと歩き、老人の前に立つ。「いい子だ」
厭らしく微笑み、老人はマリアの胸元に手を掛け、胸元のボタンを開ける。マリアの谷間が目に入ると老人はマリアと目を合わせる。
「ここでいいのか?」
マリアは妖艶に微笑み、艶やかな唇が上を向く。
「いいわ。ここで満足させてくれるなら」
この言葉は、合図の言葉だ。ジェシカは聞こえ、微笑む。
「妹の方は好きにしろ」と老人。男達は銃を降ろす。
待っていた、と言わんばかりにジェシカは腰からナイフを抜く。
マリアは老人を蹴り、倒すと袖口からナイフを抜きスーツの男の脳天に投げつける。
1人、2人。
そして3人目。
「男って単純」
ナイフが3人目の脳天を貫くと同時、マリアが呟く。するとジェシカは高笑いしながらナイフを両手に持ち、男達に斬りかかっている。
見ると、スナイパーが狙撃しようとしているが、問題ない。
「ミゼル」
マリアが呼ぶと、しゃがんでいたベクターが起動し、羽織っていたマント。
フードみたいに被っていた布を外し、頭部が出るとバルカンを発射し、スナイパーを片付ける。
1人の男の銃口がマリアに向く。
気付くが、マリアは回避しない。
次の瞬間には、ジェシカが回りながら男の首筋にナイフを突き刺し、手首を捻り、肉片が飛び、血が噴き出した。
顔に掛った血を撫で、手に付いたそれを見てマリアは顔を顰めた。
「汚い」
するとジェシカがマリアの隣に立つ。どうやら、制圧は終わったらしい。
屋敷内から数人出て来るが、バルカンの餌食になり、屋敷に隠れていた人間も無残に圧殺される。
「お姉ちゃん。満足してなーい」
「この取り分をあげたんだから文句言わないでよ。私だって満足なんかしていないのに」
それより、とマリアは怯える老人を見て、血まみれの男の死体から拳銃を取り上げる。
近づき、老人に拳銃を向け、撃鉄を下げカチと音が鳴る。
「ねぇ。報酬、払ってほしいんだけど」
「ここには――」
無い。と言う前に引き金が引かれ、老人は脚を撃ち抜かれ悲鳴を上げる。
「どこにあるの?」
老人はマリアの目を見る。光が無い、恐ろしい目だ。向こうではその妹が楽しそうに高笑いしている。
こんな奴ら、雇ったのが間違いだった。
「屋敷の中だ」
答えたのだが、老人は髪を鷲掴みにされる。無理やり引き寄せられ、脚が痛む。
「此処から見て、屋敷のどこ?」
「に、二階のここから見て右の一番目」
声を聴き、「ミゼル―。お願い」とジェシカが自身のベクターに指示を出す。ミゼルと呼ばれたベクターは、ジェシカを持ち上げるとそのままその部屋の前まで行くと、バルカンで周辺を払い、壁や障害となるモノを排除する。
ジェシカはコクピットに乗り込み、ミゼルの腕を伸ばし、煙を払い壁を漁る。すると空間に手が入り、確信する。
ここだ。
人差し指と親指で置いてあったそれを掴み上げる。金庫ごと出て来る。
『お姉ちゃん。見つけたよ』
ジェシカが言うと「開けて確かめて」とマリアは指示する。ジェシカは従い、ミゼルの指で金庫の扉を引き抜く。
中を見て見ると、USAドル。
向こうへ逃げる気だったのか、とジェシカは思うと金があったとマリアに報告。
「そう」
小さく言うとマリアは老人の顔を地面に叩きつけ、歩き去ろうとする。
「ま、待て。金は教えた。払った。頼む」縋る様な目で、痛みに堪え、老人はマリアの背中に叫ぶ。「助けてくれ!」
分かった。とマリアが答え、一瞬老人が笑みを浮かべた。しかし、次の瞬間にはマリアの手の拳銃の銃口が向いており、老人は脳天を撃ち抜かれ射殺される。
「一番の治療よ。手っ取り早い。ミゼル」
マリアもミゼルに乗り込むと、マリア機はフードの要領で布を頭部にかぶる。
ジェシカは金をコクピットに入れ、カバンに詰める。
「ねぇ。お姉ちゃん。一旦戻る? 潜水艦が来てるから。乗ろうよ」
そうね。とマリアは言うとミゼルを空へ上げる。ジェシカ機も続くと、2機は100km先の洋上に浮上した潜水艦へ着地し、機体は艦内へ収まり、潜水艦は急速潜航。
姿を眩ませた。
「ベクターに魔術武器?」
自室で準一は携帯の向こうのシスターライラに聞き返した。歩き、ベットに座り肘を膝上に置く。
「ええ。灼熱のランス。まぁレーヴァテインのレプリカよ」
「レーヴァテインは剣だが、レプリカはランスなのか?」
「同じ剣の形にしちゃいけないの。あくまでこのレプリカは衛兵の持つ量産武器だから、剣にしちゃうと同じになるの」
「で、そのレーヴァテインのレプリカはどの程度なんだ?」
準一は目を細める。
「残念だけど、ベクターの近接武器で戦ったとして、勝てる見込みはゼロよ」
まさか。準一は対抗策を考えるが、魔力崩壊魔法は2人いる以上無理。なれば、アルぺリスのブレードを使うしかない。
が、出来る限り使用はしたくない。
「レーヴァテインは全てを焼き払うモノ、とされているけど異説であると聞いた事もあるけど、詳しくは知らないわ」ライラは横に出た金髪を撫でる。「でも、近接だけよ。勝てないのは。射撃や遠距離砲撃ならいけると思うけど」
「だが、ミレイズ姉妹はベクターの操縦に長けてるんだろう。必然的に近接戦に持ち込まれそうな気がするんだがな」
確かにね。とライラの声を聴き準一は訊く。「あんたの欲しがってた魔術法具って何だっけ」
「あら。覚えてたの?」
「何に使う気か気になってな」
「ふふ。私が欲しいのはフランベルジェよ」
聞いて準一は息を吐き後頭部をかく。「ありがとう。情報が増えて助かった」
「いいのよ。あなたは特別」
はいはい、と準一は通話終了ボタンを押す。