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兄様の仇

 まず、体験入学生徒への授業として、基礎的なベクターの知識が教えられた。

 碧武で使う、実戦にも使える機体。雷、椿姫。

 適性による各種武装、各種役割分担等。


 その後は、碧武に入るという事かどういう事かを教えられた。


 碧武に入学は、途中転入、退学以外は卒業後各軍的組織に入れられる。謂わば、兵役に近いものを受けさせられるという事だ。

 役にして3年。3年の期日をクリアすれば、各組織からの万全の就職サポートがあり、一般企業へ就職できる。

 一般企業と言っても、給料自体はかなり高く、ボーナスも比較的多い企業だ。



「碧武で使うのは、ベクター。工業、土木で活躍するものもありますが、碧武の機体は兵器です。当校では授業カリキュラムとして、ベクター起動訓練、機動力訓練、射撃訓練、近接格闘訓練が行われ、時として、各組織との連携した小規模演習がある事があります」


 教室で説明するのは、生徒会の人間。麻梨乃の居る教室では、子野日が説明している。

 子野日の説明の中、準一は教室後方にカノンと控えていた。

 その控える準一を睨む視線に嫌なモノを感じ、準一はその視線を辿り、張本人を見た。


 ―――あれ? どこかで見た顔だな


 先ほどもだが、何か違和感だ。見た事のある顔。何だったか、思い出そうとするが途中であきらめ、子野日を見る。

 丁寧に説明し、殆どの生徒は真面目に聞いている。

 説明も割と進んだ頃、雪野小路が入室し、子野日に紙切れを渡す。

 見て子野日は顔を顰め、準一はそれを見る。


「では、今からベクターのシュミレーターのある区画まで移動する。着いて来るように」


  

 

 ぶっちゃけ、準一やカノンからすればシュミレーターってあったんだ。が本音だった。

 シュミレーターがあるなら、学内決闘の時本物のベクターを使う必要は無かったんじゃないか? 

 しかし代理の性格だ。シュミレーターでは物足りないだろうから、本物を使わせたろうな。


 2人がそんな事を考えている間、一行は地下のシュミレーター設置区画へ到着し、子野日が並ばせる。

 

「では、朝倉。お前操縦」

「え?」


 いきなり子野日から言われ、準一は前へ出る。今まで割とルックスの良かった人間が続いていた為、ここで普通な準一の登場に生徒は少し困惑していた。

 今出て来た人って強いんだろうか。と言いたげな目だ。


「安心しろ。今出て来た彼は九州校最強だ」


 すると中学、中等部の生徒達はざわめく。そんな中、1人の女子生徒が前へ出る。「では、私がお相手します」

 

「君は?」と子野日。準一も振り向く。

「本郷玲菜です」


 本郷? と準一は違和感の正体に辿りつく。

 見ると、本郷玲菜は何かしら義明と似ている。

 

「この高等部の1年、本郷義明の妹です」

「成程」


 子野日は似ている事に納得し「しかし、朝倉は強い。挑む理由を聞きたい」

 

「いいでしょう。今年の夏、兄は腑抜けになって帰ってきました。そして、家ではある男子生徒、朝倉準一の話ばかり」


 聞きたくなかった。と準一は顔を覆い、子野日は後ろを向き口元を押さえ、必死に笑いを堪えている。

 

「私は!」玲菜は準一を指さす。「あなたを許さない!」


 そういや、義明って妹。兄妹とかいたんだな。

 準一が思うとカノンが「それいじょうはいけない」と自身の口に人差し指をあてている。




 シュミレーターに入り、システム起動。準一は手早くOSを構築し、端末を繋げる。モニターが起動し、サブモニターが点いては消える。

 正面に、各種戦闘資料である実写映像から作ったCG映像が映し出され、準一は操縦桿を握る。

 椿姫――カスタムされていない――は完全に起動、ケージから出ると、足元の2式モーターブレードを持ち上げ、残弾を確かめる。

 頭部バルカン、腕部ガトリングガン。共に満タン。 

 上昇用のエレベーターに乗り、椿姫はアリーナ、ではなく荒廃した市街地に出る。倒れかけの高層ビル群。

 足元は支柱の壊れた高速道路。

 空は赤く、灰色の煙がどこからでも立ち上っている。


「まるで核戦争の後だな」


 CGと分かっているとはいえ、映像はリアルで準一が声を漏らすとレーダー上。10km先のストリートにベクター反応が出る。

 間違いなく玲菜の機体だ。

 確認する間もなく、サブモニターに戦闘開始。の文字が出、敵機は加速。そのビーコンから小さな矢印が伸びる。

 ミサイル、間違いない。

 頭部バルカンをAAW(Anti-Aircraft-War)オートに設定する。

 考えに間違いは無く、ミサイルは椿姫正面にそびえるビル群をすり抜け接近。

 AAWオート状態の頭部バルカンは、射程内に入ったミサイル、一番近いもの目がけて弾丸を発射する。CIWSと同等の連射性能のバルカンは、瞬く間にミサイルを叩き落とし、胸部装甲の上を薬莢が転がる。


 ミサイルが落とされた事は向こうは気付いている。次の手が来る。準一は腕部ガトリングガンをONにするとブレードを構える。

 すると落下音。空気を裂く音がし、眼前が爆発。

 これが砲撃だと気づき、椿姫はユニットで前へ飛び、ビル群へ隠れる。それに合わせ、敵機も後ろにさがり距離を取っている。

 面倒な。遠距離砲撃用装備か、と準一は近づくしかないと考える。

 

 まぁ、急な接近。相手の武装が何であれ、当たらなければ。準一はフットペダルを踏み込み、ユニットが全開になる。

 椿姫は高度をぐんぐん上げ、下に機体を捉える。

 フォカロル。

 射撃に向いている訳だ。

 すると、SOUNDONLYの文字が出て、音声通信が開く。


『降参してもいいんですよ』

 

 義明の妹、玲菜の声だ。『あなたの装備は確認しています。近接武装だけじゃ、砲戦仕様のフォカロルは抜けませんよ』

 言葉自体にそれは無いが、声には自信が漲っている。

 兄と同じで、自信家らしい。

 準一は息を吐き、ペダルから足を離す。ユニットの火が消え、椿姫は着地する。するとミサイル、砲弾が降り注ぎ、周囲に爆発が広がる。

 

『降参してもいい。と言ったのに。皆の前で負けて』


 フォカロルコクピット内で玲菜は微笑し言う。

 ちなみに、会話はすべて観客である中等部、中学生一向に聞こえている。

 皆は巨大モニター前。戦況がすぐにわかるように、上空からの映像になっている。


「自信に満ちてるね」と綾乃。隣でカノンは頷く。「兄さんは手を抜いてるから」

   

 カノンが言うと「え? 準一先輩って手を抜いてるんですか?」と麻梨乃が驚きながら聞く。


「うん。兄さんは基本的に本気にならないから」


 へぇ。と麻梨乃は言うとモニターを見る。

 モニターでは、椿姫の居た個所から機体が飛び出している。

 

「おぉ」「すげえ」「あの攻撃から?」


 椿姫の飛び出しに、一行は驚く。だが、綾乃やカノン。生徒会の面々は驚かない。

 選抜戦での一撃をみているからこそ、これだけやられても、手を抜いているとしか考えられない。 



『チッ』と舌打ちし、玲菜は砲撃を開始。フォカロル右腕の砲が数発の砲弾を発射し、椿姫は回避の為にジャンプする。

 高度を上げた椿姫に狂いの無い砲口が向き、3発の砲弾が発射され、椿姫はブレードを構える。

 構えたブレードを見て、まさか、と玲菜が思うと、椿姫は迫った砲弾全てをブレードで両断。

 砲弾は椿姫を過ぎて数十mで爆発し、爆風に押された椿姫は呆気に取られているフォカロルに向けブレードを投げる。


『しまっ!』


 気付いた時、フォカロルは投げられたブレードで右腕を斬られ、後ろにさがるが椿姫の発射する腕部ガトリングガンの弾丸に脚部を撃たれ、動きを封じられる。

 フォカロルは躓き、こける。

 玲菜はフォカロルを起き上がらせようとするが、椿姫は眼前に居る。


「俺の勝ちだな」


 準一の声を聴き、玲菜は大きく息を吐き、椿姫を睨んだ。『あなたの所為です』


「何がだ」

『あなたの所為で、兄は腑抜けになった。常に自信にあふれていた兄は、腑抜けになった』

「自信とは?」


 準一が聞くと玲菜は兄の自信に満ちていましたよエピソードを語りだし、偶々出くわした義明はモニター前で顔を真っ赤にし、両手で顔を覆った。

 玲菜の語るそれは中二病に近いモノで、聞いている身であっても耳を塞ぎたくなる程だった。


『これが兄の本当の姿です!』


 多分義明の妹はドヤ顔なんだろうな、と準一は苦笑いを浮かべる。


『なのに兄はあなたに惚れてしまってから腑抜けになって』


 言葉の後、動き出そうとするフォカロルを見て「仕方ない」と息を吐き、端末を繋げる。


 急に声を出した準一に驚く玲菜は、届いた画像ファイルを開く。

 

『こ、これは!』玲菜は驚く。届いた画像は本郷義明女装バージョン。

「この他、幾つか種類がある。大人しく負けるのであれば、提供しよう」


 玲菜の答えは決まっていた。『是非、高画質で』


「保障しよう」




 羞恥のあまりに倒れ込んだ本郷義明は、朝倉舞華により生徒会室へ運ばれた。一方、一行から外れた玲菜は独断行動。

 優等生の鏡であるような彼女のその行為は、同じ中学の人間を驚かせたがそんな事は関係ない。

 欲望の前で人は正直だ。

 彼女が求めるのは兄の女装写真。


「す、凄い! やはり兄様は素質が」


 自分の携帯端末に送られた画像を見て玲菜はうっとりする。「朝倉準一、この事で全てチャラにします。ありがとうございました」


「いや、構わない。それよりそろそろ戻った方がいい」

「ですね。では、戻ります。入学した際、仲良くしてくださいね」


 準一は親指を立て「ああ」と無表情を向ける。

 どうやら2人は通じ合ったらしい。

 本郷義明の女装画像は、準一の持つ端末内のお宝画像フォルダに入っていた。

 それを見て居た玲菜は、準一を自分と同等の変態と思い親近感を得た。


「あいつ変態なんだな」

「あの先輩、変態だった」


 2人は互いが見えなくなると呟いたが、これには蔑みなどの感情は無い。

 ただ互いを尊重するように、認めるかのような言い方だった。




 体験入学の生徒の案内後半には結衣も参加し、カノン、結衣は女子から圧倒的人気を誇り「お姉さま」と呼ばれていた。

 一方男子生徒は準一の戦闘を見て「カッコいい」と感想を漏らし、準一はひそかに人気になった。

  

「やだー! まだお姉ちゃんと準一先輩と離れたくないー!」

「兄様ー!」


 麻梨乃、玲菜は体験入学終了後に叫ぶがそれは叶わず終了する。

 取りあえず、カノンと結衣は体験入学に来た生徒達に文化祭への招待券を渡し、体験入学は終了した。

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