事情聴取
「本日付けを以って、朝倉準一。君は日本国の政府管轄下魔術師だ」
禿げた頭のスーツの老人は、そう言って朝倉準一に紙切れを渡した。
紙切れは、彼が日本国政府の道具となる証明証の様なモノだ。
それを受け取り、迷わずサインをする。
すると、場面が切り替わる。
支援を受け、超上空から砂漠のオアシスと呼ばれる中規模都市を見下ろしている。
夕方なので、砂漠の都市は茜色に照らされている。
その街に降りると、街を囲うように砲撃が始まり、爆発が上がる。
その爆発が、作戦開始の合図だった。
降り立った、朝倉準一の駆るアルぺリスは民間人、軍人問わず虐殺を開始し、場面はどんどん切り替わる。
足元のロケット砲を構えた兵士を潰し
建物の中で震える親子を撃ち
泣き叫ぶ子供も構わず踏み潰し
悲鳴も断末魔も爆発音で聞こえないのが幸いだっただろう
魔術師としての感情制御の名目の、機械魔導天使の性能テスト
日差しが顔に当たり、朝倉準一は目を覚ました。
時間を見ると午前6時。
かなり早いな、と思いながらも起き上がりベットから降りるとスーツに着替え、窓を開ける。
―――懐かしい夢を見たな
窓の外から来る風を浴び、準一は心中で呟くと一階に降り、同居の4人と朝食の準備を開始した。
今日は学校は休みだが、用事は入っている。
昼前には、朝倉準一はヘリに乗り込み機甲艦隊、九州方面隊の高官と会う約束があった。
向かった場所は、幾つものドックがある佐世保基地。
ヘリから降りると隊員に案内され、高官、佐世保基地司令の待つ部屋へ案内される。
「入れ」と司令の声が聞こえると準一は扉を開き一礼。司令の席の前に立つ。
佐世保基地司令は、年齢にして50代前半。名は天田。
彼の座る後ろの壁には、日章旗と機甲艦隊のマークである大和に旗。
「朝倉準一。何故ここに召喚されたか分かるな」
「ええ。承知しています。しかし、思ったよりも召喚は遅かったですね」
言った準一を見る天田は息を吐き、資料を手に取る。
準一は手を後ろにやり、スーツの襟を伸ばすと、手を後ろにやる。
「こちらも色々あってな」と天田は資料を準一に渡す。「君は当事者だ」
聞き、資料に目をやる。
消息不明となったアルシエルに関して。
「あの空中の城もそうだ。部隊撤収後に蜃気楼の様に消えた」
「捜索隊を?」
「ああ」
天田は立ち上がり、コーヒーメーカー隣の紙コップ2つを取る。「ミルクと砂糖は?」
「いえ」と準一。天田はコーヒーが自動で汲まれたコップ2つを持ち、1つを準一に渡す。「どうも」
準一が一口飲むと、天田は来客用の長椅子に掛けてくれ、と指示。
従い座ると、天田も向かいに腰掛け、テーブル端にあった角砂糖の入ったカップを手元に寄せる。
そのままの手で、ミルクの入ったポットも取り、角砂糖とミルクをドボドボと入れる。
「ブラックで胃を壊してね」
言った天田に準一は無言で頷いた。「ブラウンシュガーが良いらしいですよ」
「記憶しておく」角砂糖、ミルクのたっぷりはいったドロリとしたコーヒーを一口啜ると、天田は続けた。「聞きたい事は幾つかある。まずは、サウジアラビアでの件だ」
やはりそれか、と準一は紙コップを置いた。
「大和、フェニックスの部隊への攻撃。意図は理解している。説明を受けたからな。だが、何故攻撃前に真実を話さなかった?」
「自分がその時知っていたのはサウジアラビア、日本からの参加部隊が護衛していた基地の司令は、アルシエルの操縦者と繋がっていた、という事だけ」
準一は一呼吸置き、足をずらす。「確定情報がありませんでした」
カップを置き、天田は息を吐くと、髪を左手で掻いた。「しかし、堕天使絡みであるとは知っていた」
「ええ。だからこそ、大和の出撃は避けるべきだと」
「何故、大和が出撃すると決めつけた?」
「九条艦長の性格を考えれば」
成程、と天田はコーヒーを飲み干す。「しかし、君の行き過ぎた行動はまだある。八王子工場での勝手な武器調達。種子島での移動手段の為のロケット使用。米軍との協力」
「まずかったですか?」
「ああ、まずい。かなりな」天田は紙コップを置くと準一に目を合わせ、前のめりになり、膝上で手を合わせる。「いきなりの消失に加え、先の3つ。そして、接触してはいけない人間との接触」
接触してはいけない人間に心当たりがなかった。
が、なぜか思い当たる人物はいた。
「まさか、御舩義影ですか?」
「そうだ」
当然、準一は何故かを聞いた。
「御舩義影は既に死んだとされている人物だからだ。御舩家現当主の意向によってな」
「それは聞きましたが、接触までダメとは?」
「あの御舩義影は、腹の内の読めない男だ。何を隠し持っているか分からないからだ」
天田は困った様な息を吐いた。「君は、ただでさえ危険視される存在だ」
理解している事だった。
「近しい人間には、御舩家の娘。五傳木千尋や他多数。そこに手の内の読めない御舩義影が加われば」
「また危険レベルが上がってしまうと?」
「ああ、日本国管轄、高位魔術師朝倉準一は、脅威としては申し分ないレベルなんだ」
接触してはいけない、というよりも、接触して欲しくなかったが正しいだろう。
準一は考え、紙コップを取り、一気に煽った。
「天田司令。アルシエルは見つからなかった。でいいんですか?」
話題が切り替わったが「ああ」と天田は背もたれに背を当てる。「何故だ?」
「いえ、直に戦闘したので。消息は気になりまして」
「そうか。まぁ、何かあれば君に知らせよう」
「助かります」
言うと、準一は立ち上がる。「すいません。これで」
ああ、と天田は思い出した。
「今日は、ヘルブレイカーの模擬戦闘だったな」
「ええ。横須賀で」
準一は一礼し、部屋を出た。