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活動開始

 男子弓道部の歴史は壮絶だった。別に何か凄い事などはしていないのだが、馬鹿すぎる。 

 彼らは先代からユニークなエッセンスを受け継ぎ、最初はサッカー弓道。


 サッカー弓道は、サッカーしながら弓を撃つらしいのだが、けが人多発で壊滅。

 次はベースボール弓道。上と同じく、野球中に弓道だが、高い弓がバンバン折れ壊滅。

 そのままビリヤード、バスケ、バレー、水泳と続いて今に至る。

 バスを引きながら弓道。

 お前たちは何かのギネス記録でも目指しているのか? と言いたくなった準一だったが押さえ、まともな弓道を始めた。


 久しぶりに弓道の教本を手に取り、射場に部員を並ばせる。

 

「青崎君、射法八節は?」

「分かります」


 答えると青崎を筆頭に部員達は弓を構える。

 まずは足踏み。肩幅に開き、次に同造り。弓構え、打ち起し。

 ここまでは滞りない。次は五節、引き分け。

 引いた瞬間、弦が弾ける。

 

 ―――ん?


 しかも全員だ。

 見ると袴がパッツパツになっている。

 そんなに筋肉あったの?

 

「……はは、不良品ですね」

「力加減しろよ」

 

 参った。と青崎は息を吐くと新しい弦を取り出し、付け始める。




 青崎が弦を付けている間、結衣は袴に着替え借りた弓と矢を持ち、射場に立っていた。

 随分と様になっている。

 ゆっくりとした動作で打ち起し、引き分け。弦を引く。 

 小さくギリギリと音が鳴り、数秒待ち、弦を引く手を離すと矢は真っ直ぐに的を射る。

 ど真ん中。叩いたような音が響き、結衣は弓をおろし、新しい矢を装填。

 残る矢は三本。


「随分とまぁ」準一は感心する。「うまいもんだ」

 動作の形、その他諸々問題無し。

 素直に上手だ。

 

「流石は、天才な妹か……」


 と口を滑らせそうになるが言葉を呑み込む。

 結衣の前でこれは言ってはいけない。

 彼女は、自分が原因で兄が冷淡な扱いを受けていた事を知らない。


「凄いですね。上手なモノです」と1人の部員。準一はその1人に向く。「だよな。俺も驚きだ」


 そのまま結衣は全ての矢を命中させた。 




 碧武の警備隊は、到着予定の来客の出迎えに当たっていた。来客は、清城甲斐家の人間。到着時刻は午後七時。


「あれか」


 警備隊長が言うと黒光りするクラウンが近づいて来ている。それは警備隊の前で停まり、1人の男が出て来る。20代前半だろう男性は、ファッショナブルにお洒落をしている。

 清城甲斐家お抱えのドラ息子。と称される。清城甲斐秀人。


「なぁ、ここで合ってんだよな?」


 秀人は警備隊長に聞く。「ここは碧武九州校で間違いないかって聞いてんだよ」

 

「ああ、違いない」隊長が言うと秀人は笑みを浮かべる。「ならいい」と車に乗り込み走らせ、学校エリアに向かう。

「面倒だなぁ。挨拶なんざ」


 まずは校長代理への挨拶。それを面倒臭がり、彼はタバコに火を点けた。 




「初めまして清城甲斐秀人。今日の来校目的は雪乃ちゃんでしょ」代理は入って直ぐに椅子にどっかりと掛けた秀人を睨む。「雪乃ちゃんとの関係は?」

「ああ、許嫁」


 可哀想に、と代理は声に出した。


「おいゴスロリ。言葉に気を付けろよ」

「ここがどこか分かってるの? あなたが威張った態度を取れる場所じゃないの」


 は? と秀人は代理を睨む。「どういうわけ?」


「魔術をかじった程度のお坊ちゃまじゃ手に余る、って言ってんの。接触する機会があるかは知らないけど、ウチのエースは刺激しない方がいいよ?」

「エース? ああ」


 秀人はタバコを取り出し火を点ける。「朝倉準一とか言う奴だったか?」


「うん。それと、タバコやめて」


 天井を見て舌打ちすると秀人は窓に寄り、開け、タバコを投げ捨てる。「これでいいか?」


「最低」

「はっ。ああ、そのエースはどこにいるんだ?」

「準一君? どうして?」


 息を吐き秀人はポケットに手を入れる。「個人的な用事でな」


「校舎の周りをうろついてたら会えると思うよ」

「そうか。ならそうするか」


 出入り口の扉を開き「じゃあ、許可は取ったから」と秀人は代理を一瞥し、部屋を出る。


「まーためんどくさそうな奴だな」机に突っ伏し、代理は息を吐いた。「厄介に発展しなきゃいいけど」




 部活終了後、結衣、準一は校舎裏を歩いていた。人気の少ないそこは正門への近道だ。


「兄貴、男子弓道部どう思う?」

「どうもこうもなぁ」


 聞かないで。と言いたげな準一の表情に結衣は苦笑いする。


「勿体ない気がするよね」

「ああ、パワーは十分なんだから、力加減し、狙いさえ付ければ」


 結衣は頷き前を見る。「あれ?」

 準一もあれ?、と言いたくなった。

 バズーカみたいなカメラを背負ったカルメンが走って来ているからだ。


「やぁ、お二人さん」2人の前で停まったカルメンは一言挨拶。

「うん。カルメン何してるの?」

「え? ああ、結衣がメイド服で兄にご奉仕してるって」


 準一は苦笑いし、結衣は真っ赤になる。


「ちょっと! 誰情報!」

「我らが校長だよ」


 カルメンは笑顔でピース。結衣はこぶしを握り、ワナワナと震え「打ち首じゃー!」と叫び、カルメンを引きつれ校舎入口へ走った。


 ―――本当に賑やかだな。

 思いながら、準一は歩き出し、止まり後ろを見る。

 ブロンドの長髪。背丈は準一より数センチ低い。


「カノン」


 準一が名前を呼ぶとカノンは顔を上げる。「兄さん」


「ん?」


 カノンは真剣な顔。準一は少し驚く。何を言い出す事やら。


「結衣に……その、ご、ご奉仕……してもらったんですか?」


 ―――ん?


 言ったカノンは、顔を真っ赤にさせ準一の下半身(主に股間)を見る。

 ヤバい勘違いをしている。

 

「視線上げて」

「そ、その……越えてはいけない一線を、越えてしまったんでしょうか」


 カノンは勘違いをエスカレートさせる。


「で、でも。結衣だけはズルいですから」


 俯き、顔を真っ赤にさせ近づいてくるカノンから後ずさり。準一は苦笑いのまま。


「お。ああ、お前だろ?」


 声が掛ると同時、準一はカノンを抱き寄せ振り向く。

 一瞬感じたのは嫌な感じ。魔術師対峙した時に来るモノと似ている。


「あんたは?」と準一は視線を秀人に向けたまま、すぐに抜刀できる状態で聞く。

「ああ、まだだったな。俺は清城甲斐秀人だ」


 ―――清城甲斐の人間?


「来校目的は?」


 準一はカノンを離す。


「お前と雪乃に用があってな」と答え、秀人はカノンを見て少し笑みを浮かべると、カノンに歩み寄る。

「何でしょう?」


 気持ちの悪いモノを見るかのような冷たい視線のカノン。

 目の前まで迫った秀人は「気に入った」とカノンの肩を抱こうとするが、準一の左手に掴まれ阻止される。


「あぁ?」


 準一の手から顔まで見ると、秀人は不機嫌なヤンキーみたいな態度になる。「何の真似だてめえ」と秀人。


「それは此方の台詞だ。ウチの妹に触ってみろ」手を掴んだ力が強まり、秀人は痛みを覚える。「ただじゃ済ませない」


「上等だてめえ……だが、やりあう気は無い。俺の目的は変更だ」 


 秀人は笑みを向け、準一の手を払う。「お前の妹だが、俺が貰う」


「は?」

「は? じゃねえよ。言えばトレードだ」


 トレード? と準一は聞き返す。


「雪乃は俺の許嫁だが、アイツに縛られるなんて御免だ。それに、雪乃はお前に惚れてるだろ?」

「それが?」

「お前は雪乃を貰って、俺はそのブロンドの妹を貰い受ける」


 本当にドラ息子の様だな。と準一は息を吐く。


「一応言っておくが、その話に乗る気は無いからな」


 準一の返答に秀人は顔を顰める。「何でだ」


「何ででもいいだろう。要件は済んだんだろう」準一はカノンを見る。「行くぞ」

 カノンは兄に駆け寄り、秀人は舌打ちする。

 


 結局、何もせぬまま秀人は碧武を去った。遠くなる校舎を車内から見て、小さく呟く。


「面倒にならなきゃいいが」

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