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堕天使奪還戦Ⅱ ②

「あたい参上」


 アメリカ軍の所有する空母。ワスプの飛行甲板に着艦したエリオット。そのコクピットから降り五傳木千尋は言った。

 向かいの準一は「ああ、そう」と苦笑い。


 現在、準一は米国軍テンペストと合流した。協力的な関係になっているが、これは米軍から持ちかけたモノだ。

 米軍の腹の内は分かっている。

 事が上手く進めば、堕天使、よければアルシエルも掠め取る気なのだろう。


「合流したようだな」と出て来たのはテンペスト部隊長エディ・マーキス。「代理も一緒ですか」

 言うと、エディは千尋の後ろの代理を見る。


「ええ、ウチの生徒が関わってる事だから」


 代理は準一を見る。「あたし、怒ったりとかはしてないからね。もう終わった事だし」

 準一は代理に目をやり何とも言えない息を吐く。「そう言っていただけると助かります」


「さて、すぐにブリーフィングルームに来てくれ。氷月千早の居場所が分かった」


 そう言ったエディは踵を返す。それに3人は続くと艦内のブリーフィングルームに入る。


 全員が揃うと室内の照明が消え、投影ディスプレイが映し出され、皆は向く。


「まず、これを」中年の男性が説明を始めると、一枚の画像が映される。「敵の一派が居る場所だ」


 画像のソレは、城に近いものだった。幾つかの画像が切り替わる。全体図やら何やら。


「待ってくれ。これは」若い米軍兵が聞く。他の人間も同じだろう。

 切り替わった画像では、この城は空にある。

 切り取った様な島に城が立ち、島の下には城壁の様なモノが見え隠れしている。


「天空の城ってわけか?」

「そうなる。バカげた話だが、敵は堕天使を所有し、過去に大規模魔法で国を造っている」


 中年男性は続ける。「直径約15km。高さは4km。半端なくデカい。我々は、ここに攻め入る」


「幾ら何でもデカすぎる。流石に防衛の為の装備があるだろう」別の男。

「いや、偵察機を飛ばしたがギリギリまで近づけても迎撃される事は無かった」


 まるで口を開けて待っている様だな。と返す。


「確かに、だが、攻め入らなければならない。堕天使は向こうにあるのだからな」


 この作戦に参加する人間は、堕天使の有用性を知っている。


「作戦開始は今夜中だ。2時間後、この空母より全機で発進。対地援護にはガンシップ。対空援護には戦闘機群だ」


 いきなりだな。と若い1人が言うと部屋の照明が点く。「では、作戦概要は以上。各自解散」



 準一、千尋、代理は飛行甲板に出る。既に夜。辺りは暗く、潮風は冷たい。


「千尋。お前が来たって事は何か進展が?」

「うん。あったよ。作戦概要は既に伝えたから、時間を合わせてフェニックス、大和がこっちに便乗する筈」


 そうか、と準一は息を吐く。「しかし向こうの戦力が分からない」


「千早はサウジアラビアの軍事基地を取り込んだ。既に幾つかの基地を取り込んでいる、と思ったが」

「早すぎる?」


 代理が聞き返すと「ええ」と準一。


「あいつがこんなに早く動き、あんなモノを登場させた」

「必要が無くなったって事?」と千尋。

「でもさ、さっきのブリーフィング。彼女が居る。って言っただけで確かな証拠はなくない?」


 代理が言う。


「確かに言ってないけどさ、別に隠す事でもないよね。あたしら騙してもメリットないだろうし」

「いや、あいつは居るよ。確実に」

「根拠は?」

「あんなバカみたいなもの、あいつの魔法じゃなきゃ造り出せない」

「でも、前は国だったよね」

「あれが限界なんでしょう。堕天使の力を使っても」


 前は国を造り、世界の歴史そのものを変えた。

 それは、彼女の夢だったからこそ出来た。しかし、今回は違う。

 現実の世界に登場させる。だからこそ、堕天使の力がいった。

 

「堕天使の力を使っても、あのスケールが限界、って事?」と代理が聞くと準一は頷く。「千尋」


 呼ばれ、千尋は顔を向ける。「代理を頼む」

「え? 別に良いけどさ。準一はどうすんの?」


 決まってる。と準一は千尋を見る。「千早と決着をつける」

 


 規定時刻になると、ワスプは慌ただしくなった。飛行甲板からは数機のベクターが発進し、その上空を戦闘機群が飛び去る。

 その中に混じると、機械魔導天使、アルぺリス、エリオットが後ろに付く。

 向かうは千早が居るであろう、空の城。





「あーあ、大所帯で来ちゃって。無粋」

 

 城の中心のドーム状の場所で千早は言うと空を見る。ドーム状のそれは天井が開いており、城が見える。


「でもいいや。あたしの相手は準一だし」と千早が言うと、アイルマンが姿を現す。その後ろで、15m級の無人ロボットが数機目を光らせる。

「すぐに来る筈だ。こいつらだが、飛ばしておくか?」

「うん。数減らしといて」


 分かった。とアイルマンが答えると、ロボットは一斉に飛び、向かって来る部隊へ向かう。




 合流したフェニックスの主翼に着艦したエリオットから代理を下ろすと、千尋はアルぺリスと並ぶ様にエリオットを飛ばせる。

 合流した事で、結構な大所帯になったが、数は多くは無い。

 

 レーダー上、進行ルートに機影を確認し、戦闘機群は先行する。

 全機が戦闘用意をすると、大和、フェニックスから援護のミサイルが飛び、大和は主砲塔を回転させ、砲身を戦闘機群の方に向ける。

 ミサイル着弾より先に、戦闘機群の幾つかが爆発。


「ガンシップ後ろに」


 エディが言うと、テンペストのベクターは爆発の中へ向かい、援護のミサイルがそれを追い抜き、爆発。

 爆発の中から姿を現したのは、無機質な顔をしたロボット。コクピットブロックが丸々無い。

 無人機だ。と確認した時、ロボット群は大和主砲射程内に入る。


 テンペスト隊は、大和の艦砲射撃に備え、距離を取り魔法で攻撃。

 

「主砲! 撃ち方始め!」


 CICで九条が言うと、主砲からビームが飛び、ロボット数機を貫く。

 すぐに準一、千尋も援護に入り、戦闘が開始されると別の機影が高速で近づくのを感じ、準一はそれを見る。


「千早……!」


 漆黒の機体はアルぺリスに真っ直ぐ突っ込むと、避ける間も与えず掴むと、加速し上昇。

 大和が狙おうとするが、アルぺリスがいる為援護できず、準一のアルぺリスは雲の上まで攫われる。

 

「準一!」


 千尋は援護に回ろうとするが、ロボットの攻撃に阻まれ動けない。

 残された機は突破の為に戦闘を継続する。 




 向き合う形になったアルぺリス、アルシエルはサイドアーマーの魔導砲で撃ち合いをし、射撃武装の多いアルぺリスはビーム砲、ミサイルを撃つ。

 アルシエルはそれを加速魔法で避けると、近接武器を抜く。

 

「堕天使って凄いよね。この機体と相性がいいみたいなの。だから」


 アルシエルが右手に構えた武器は、刀身の間がオレンジに光る大剣。

 見た事の無い武装だ。


「こんな武器もあるのよね」


 言葉が聞こえると、アルシエルの姿が消える。

 加速魔法と分かり切っていたので左へ飛ぶのだが、アルシエルはそれに回り込み、大剣を振るう。

 アルぺリスは左のブレードでそれを受けると、アルシエルへ加速。

 だが、アルシエルはいない。

 来る。と思った直後、アルぺリスは弾き飛ばされる。


「戦闘状況に入った時点で私の勝ちは確定なの」聞こえる千早の声には、焦りも緊張も無い。ただ、余裕が滲み出ている。

 出現したアルシエルは、目の前のアルぺリスを蹴り、肩の武装を剥ぎ取り投げ捨てる。


「アルぺリスには、堕天使が使用できないんでしょう」


 振るわれたアルシエルの大剣を右のブレードで受ける。

 二機は向き合い、鍔迫り合い。


「どうやってそれを知った」

「あくまで予想よ。堕天使を使わないのには理由があるんじゃないかって、ね!」

 

 アルシエルは力を強め、アルぺリスを弾き飛ばす。

 アルぺリスは態勢立て直し、アルシエルを見る。


「その機体……天使なんてよく言ったモノね」アルシエルコクピット内で千早は笑みを浮かべる。「その機体って、天使の位に居る悪魔でしょ?」

「その為の神殺し。神を殺そうと目論む悪魔の力」


 堕天使が使えない訳ね。と千早。アルシエルは再び加速魔法で消えると、アルぺリスの後ろに出現し、もう片方のビーム砲を剥ぎ取ろうとするが、回避され、腹部に蹴りを喰らわされる。

 弾かれるようにアルシエルは飛ぶが、すぐに態勢を立て直す。


「あなたが使わないんじゃなくて。使えないんでしょう。堕天使は悪魔を拒むのだから」 

「使えたとしても使わねえよ」

「どうして? 堕天使はその為のモノよ。知っているでしょう? 堕天使はコアにならなければ、延命措置が出来ないのだから」


 分かっている事だが、使えたとしても使える気にはなれなかった。

 道具として使うには、あの少女は不憫すぎる。

 理由はもう1つあった。

 魔法だが機械だ。それに、人の形をしたソレを中核に使う。

 とても気味が悪かった。


「分かってるさ。……エルシュタはどこだ?」

「あの城に」


 言うと、アルシエルの大剣の切っ先が向く。「謂わば、私は城を護るドラゴンよ。お城の姫を救いだしたければ殺して行かなきゃ」 

 そうか、と答えると準一はアルシエルを見る。


 ここで1つハッキリしていた。自分では彼女には勝てない。と。

 だが、手はあった。魔法を使わせなければいいのだ。

 準一には1つ勝算があった。

 術式構築に時間が掛る『魔力崩壊魔法』

 

 防御ではなく、対象の魔法自体を破壊するモノだ。

 無論、構築時間が掛るので戦闘中には向かないモノだが、勝つにはこれしかない。


「こりゃあ、差し違えるかもな」


 呟くと、準一は頭の中で術式の構築を始める。


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