秋の祭典②
いきなり始まって、いきなり終わりそうですね
すいません
空間魔法の解除と共に、青かった月は元の色に戻り、生徒は魔法の効果が切れた。
その中、朝倉準一は赤羽岬しかいないVIP席に居た。
「全く……末恐ろしい男だ」と赤羽岬。高位魔術師と白兵戦を行い、尚且つ機械魔導天使一機を大破させた朝倉準一は、何事も無かったかのようにタバコを咥えている。
「それは此方の台詞ですよ。なーにが魔術師対抗戦だ」
準一はタバコを手に持つ。「あなた方の余興代わり、なワケですよね?」
赤羽岬は否定せず頷く。「政府高官、各組織の高官。そのVIP達は随分と楽しんでいた。特に、お前の戦いをの」
「赤羽岬さん的には納得していないんでしょう?」
この戦闘は、シナリオ通りに進まなかったからだ。
「当たり前じゃろう。魔法による戦いの流れは、全て貴様のおかげで狂いっぱなしじゃ。生徒の本当の強さも分からずな」
「『魔法崩壊術式』を言っているんでしょうか?」
赤羽岬が頷くのを見ると、準一は「申し訳ない」と一言。
「俺がそれを使ったのはヨアヒムだけです。他は」
「まさか……」
「お察しの通り」
はぁ、と息を吐き「黒妖聖教会、シスターライラ……か?」と赤羽岬。
ええ。そうです。と準一は肯定し、一吸いすると、携帯灰皿にタバコを落とす。
「では、俺はこれで。時刻が来れば選抜戦は正常に行われるのでしょうか?」
「いいや」
案外、つまらんかったのぉ。と髭を撫でる赤羽岬を一瞥し、準一はVIP席を去る。
それと同時、準一の無線機が鳴る。「カノンか? どうした?」
「いえ……」
何やら言い難そうにしているカノンに再度聞くと、カノンは口を開いた。「あの空間魔法下、結衣は動いていました。自分の意志で」
結衣が動いていた? あの空間の中で。
準一も、空間魔法の効果は知っていた。
だからこそ、驚き、再度聞こうとすると肩を叩かれる。
シスターライラだ。
「実妹の方でしょ?」ライラは言うと、護符を取り出す。「渡していたの。これを」
「勝手な事を」と準一。「すまんカノン。結衣には一種の護符を渡していたんだ」
「カノン、結衣はお前の考え通りの脅威じゃない。安心しろ、拘束しているのなら解放しろ」
「わ、分かりました」
すぐに無線のスイッチを切る。恐らく、カノンは結衣に謝りまくっているんだろうな、と準一はライラを見る。
「いつの間に?」
「私と喋っている時、彼女は来たでしょう? その時に」
結衣に忍ばせた訳か。つまり、結衣は護符を持っているなどと知らない訳だ。
「でも、助かったんじゃない? 眠りこけたままだったら、あのアルシエルの操縦者。何かしたかもよ?」
「まぁ、例は言っておく。助かった」
口からはそう言ったが、準一は納得できなかった。
結衣は、魔術側じゃない。
魔法的な道具であっても、手元に持っていてほしくは無い。
「じゃあ、俺はこれで。撤収準備がある」
本年度の選抜戦は異例の途中中止。
理由は簡単だ。
アルぺリス型の一号機、アルシエルが日本政府の手元に渡ったからだ。
もはや、選抜戦など行っている場合ではない、機械魔導天使をどうするか。
それを考えなければならないのだが、結論は出ていた。
そうそう機械魔導天使に乗れる人間は居ない、その人間が現れるまで、アルシエルは政府直属機関が管理する事になった。
アルシエルの保管場所は、富士樹海のミサイルサイロ側。
防衛隊にはかなりの大部隊が派遣されるそうだ。
選抜戦中止の報を聞き、曽屋千秋は自室の壁を肘で殴った。
朝倉準一と戦い、殺すチャンスが消えてしまったからだ。
「くそッ!」と大声で言うと、再度殴りベットにダイブし大きなため息を吐いた。
選抜戦中止には、誰も納得していなかった。消化不良もいいトコだ。
生徒は、朝倉準一対五傳木千尋の戦いを楽しみにしていたのだが、それを見る事無く終わってしまった。
一般の観客も納得できぬまま会場から追い出された。
時雨甲斐雪乃も、納得していない1人だった。好きな人、朝倉準一の戦いを最後まで見て居たかったのに。
心中で呟くと、九州校メンバーと待ち合わせしていた滑走路エリア入り口に着く。
そして強めの風が吹き、流れに乗り後ろを見ると朝倉準一が歩いて来ている。
「あ、おはよう。朝倉君」
「おはよう。随分と早いな。まだ時間はかなりあるが」
目が覚めて。と時雨甲斐は微笑む。「朝倉君。残念だね。最後まで戦えなくて」
準一は取りあえず頷いた。
だが、準一も割と残念だった。
五傳木千尋とはここいらで白黒ハッキリさせたかったからだ。
「でも、朝倉君はやっぱり凄いね。試合、一撃で勝ったんだから」
「見てたのか?」
「うん。皆の戦いも見たかったけど」
俺もだ。と言うと滑走路を見る。フェニックスが大和を載せ終わっている。
「あれ、すごいね。輸送機の上に戦艦が載ってる」
「確かにな」
ここで、代理が出現。ふくれっ面で「むす」としている。
「あの代理。どうしたんですか?」と時雨甲斐。「どうもこうしたも中止だからね。怒ってる」
はは、と苦笑いし、時雨甲斐は準一を見ると同じような顔をしている。
「さぁ! 2人とも輸送機内の部屋の確保だ!」と代理は2人の手を引きフェニックスへ走った。
共闘の約束を果たしたエルディ・ハイネマンは準一に挨拶し終えていたので姿を消した。
アイルマン、千早、ジェイバック3名は行方をくらませた。
これで、選抜戦は終了。
慌ただしいスタートを切った2学期は、まだ始まりでしかない。
だからだろう、何かが起こらない様に朝倉準一は祈った。
イベントはまだいいが、戦いはあんまり来てほしくない。
面倒だからだ。
九州校の面々は、輸送機内の大部屋に集まっていた。
皆の前に立つ代理は右手を上げる。
「皆! 次はお待ちかね! 10月の文化祭!」
あれ? 碧武祭ってやつは? 準一が聞くと揖宿が答える。
「碧武祭は初夏の行事だ。ALの件でうやむやになってな、今年は催されないんだ」
へぇ。と準一は言うと代理の視線に気づく。
「今年は優秀な料理人が居るからね」
逃げればよかった。心底そう思った準一は顔だけを俯けた。