決闘
「どうやら分からないようだな」
リフトで上がった機動兵器、スティラ。そのコクピットで本郷義明が言う。その声は拡声器、外部スピーカーで外に響く。
言った本郷は何も始まっていないにも関わらず、勝利の笑みを浮かべている。
「何がだ」
準一が本当に嫌そうな顔をしながら聞き返す。(戦闘なんか望んで無かった故)
「さっき言った通りだ。貴様が彼女の『兄』であっても貴様は彼女の側に居るべきではない」
「自分が相応しいってか?」
「そうだ。貴様の様な凡人より選ばれた家柄、才能の俺こそ彼女に相応しい」
そこまで言葉を交わした直ぐ後『両機共射撃武装ロック。近接格闘武器ワイヤーブレード、2式モーターブレード解除』とアナウンスが入る。
そして赤のランプが光り、開始音が響く。瞬間、観客全員が大きな歓声を上げる。
『模擬戦闘開始!』
アナウンスがそう告げ、2式モーターブレードを構えた2機のロボットが戦闘を開始した。
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その時、地下来客席にはお忍びの軍関係要人達、そして本郷晴之が居た。校長代理は本郷に近寄り「此度の決闘、どういう結果をお望みで?」と悪戯な表情を作り聞く。
「・・・バカ息子が現実を知ればそれでいいですよ」
「そうですか」校長代理は言うとアリーナを映す巨大スクリーンを見ると「ではこうしませんか」と聞く。
何だと聞く前に「息子さんにはハンデをあげましょう」と校長代理。成程、本郷は理解する。
機体性能の差。更に別のハンデがある状況で準一が勝てば義明は完璧な敗北を体験する。本郷的には、息子がそうなる事に多少の抵抗はあったが、将来は社を担う存在があの調子では困るのだ。
「わかりました。・・これであのバカは大人しくなるでしょう」
言うと本郷は校長代理に向く。
「ですが両者が怪我をしないようには配慮いただきたい」
「ええ。当然です」代理は本郷に向く。
その顔は幼い容姿の彼女からは想像できない妖艶な笑みだった。何か悪い事を考えている。本郷は理解するも追及する勇気は無かった。
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右手に2式モーターブレードを構えたスティラは隙を与えぬ攻撃を椿姫に行う。対する椿姫は後ろに下がりながら回避を行う。
その椿姫の動きは観客席の生徒(シャーリー、生徒会メンバーを除く)、本郷義明から見てあり得ない機動力だった。
何故適性ランク圏外の人間がAクラスの機動が出来る? 本郷、他生徒の疑問はそこに集中する。
その時、スティラは動きを止める。椿姫も動きを止める。
『朝倉準一、1つ確認したい』
外部スピーカーを起動させた状態で本郷が聞く。
『貴様はイメージフィートバックシステムを使用できない筈だ。なのに何故、ベクターでそれ程の機動力を出せる』
その問いはアリーナに響く。生徒は顔を椿姫に向ける。
「・・・お前の言う通り、俺はイメージフィートバックシステムを使用できない。だったら残る操作方法は一つだろ」
準一の声もスピーカーで響く。そして生徒がざわめく。
全員がまさか、と思う。
『マニュアル操縦だとでも?』
本郷は言う。内心驚いている。事情を知らない生徒も同様だ。
ベクター兵器をマニュアルで操縦するには、高いプログラミング能力が必要。汎用兵器として開発されたベクター兵器は、あらゆる場面での活動を求められる。
砂漠、雪上、空中、平地、密林等、その場にあったオペレーティングシステムを構築しなければならない。イメージフィートバックシステムを使用さえできれば中枢コンピュータであるAIが勝手にやってくれる。(適性は必要不可欠)
しかし、マニュアル操縦となると適性者と違いAIは働かない。故に外部からの手助け演算が求められたが、椿姫クラスの高性能機になると、中枢コンピュータは搭乗者のアクセスしか受け付けない仕様になっている。
椿姫はイメージフィートバックシステム使用を前提とした機体である為、マニュアルには向かないのである。ちなみに椿姫をマニュアル操縦で起動させるには、中身を作り替えなければならない。
それを理解している碧武生は驚愕する。
準一は、操作系統こそ通っていたがイメージフィートバックシステム前提の椿姫のシステムの中身を、丸ごと自分専用に作り替えた事になるのだ。
「あれがコネで入った生徒か?」
皆がそう思い、噂の信ぴょう性を疑う。
本郷は動きを止めていたスティラを後方へ跳躍させ、ブレードを構え直す。
『悪かったな朝倉準一、なめて掛ってたよ』
本郷が言うと、先ほどまで攻撃を躱す事しか行わなかった準一が椿姫を構えさせる。
「いい、再開しよう」準一が言うと本郷は『ああ』と一言言うとスティラを前方の椿姫へ跳躍させる。
準一は操縦桿のトリガーを押し、モータブレードのモーターを起動させる。起動したモーターは刀身の刃をチェーンソーの様に回す。
本郷は準一がやるきになったのを見て顔に笑みを作り、接近する椿姫に右手に持ったブレードを振る。椿姫は左手に持ったブレードを横に振るい、スティラのブレードを弾く。ブレードのぶつかる音が響き、火花が散る。本郷は弾かれると思わず目を大きく開き驚く。
椿姫は弾いた衝撃で体勢を崩したスティラ腹部にすかさず右足での蹴りを入れる。衝撃でスティラは後方へ飛び、コクピット内が激しく揺れ本郷は上下に揺られる。スティラはそのまま尻餅をつく。
その光景を見て結衣は「うそ」と一言。他の人間も同じような表情だ。生徒会メンバーも経歴を知っていたとはいえ驚いている。
何の冗談だ。この俺のザマは。本郷は雑魚と思っていた準一に一撃も加えられず、尚且つ一撃決められ尻餅をつかせられた。
スティラを見下ろす椿姫を見る。まるで嘲笑するように感じられ、本郷はキッと椿姫を睨みサイドアーマーの飛行ユニット、脚部スラスターから青の火を噴かせる。
スティラはそのまま空中へ飛翔し、距離を取る。準一は追撃しようとサイドアーマー飛行ユニットを使用しようとするが、出力を上げた瞬間ユニットが爆発する。
何が? その疑問は準一の頭を巡り、パネルを操作し異常を確認する。爆発したのはユニットの推力偏向ノズル。その内部。出力を上げると同時に爆発する仕掛け。
「ちっ、あの整備員」
準一はそう悪態を吐き、怪しい行動をしていた整備員を思い出し、自分のチェックの甘さを心中で叱責する。
空中のやつ相手にユニット無しでは厳しい。脚部スラスターで跳躍しても更に上昇されては手も足も出ない。
「兄貴の椿姫! ユニットが!」
黒煙を出す椿姫を見て結衣が言う。
「さて、どうするかな」
と揖宿。
「このままじゃ空中のスティラと戦うのは不利だ」
子野日が言う。
何故、椿姫のユニットがと本郷が考えていると通信が入る。
『聞こえる? 本郷君』
校長代理だ。地下の要人たちが居る席からインカムで呼びかけている。
『・・・あなたですか、椿姫のユニットを爆破したのは』
本郷が聞くと『まぁね』と悪気のない返事を返される。
『無粋な真似は止めて下さい』本郷が言う。代理はその言葉に『無粋?』と聞き返す。
『ねぇ、本郷君。君さあのまま朝倉君と戦って勝てた?』
校長代理のそれに顔を顰める。
『素直になりなよ』
代理は、声の向こうで妖艶な笑みを浮かべる。
『言っとくけど、あそこまで言って負けたら良い笑い者だよ。それに、このハンデ君のお父さんも了解済みだから』聞いた本郷は『父さんが!』更に顔を顰める。
バカにしてるのか。本郷は下の椿姫を睨み腰のワイヤーガンを起動させる。
『分かりました』
本郷は言うとユニットの出力を上げ椿姫へ急降下を始める。
来たか、準一は椿姫を構えさせる。(斬撃か)準一はブレードを構えさせ、ユニットをパージする。
本郷は椿姫上空数十メートルで機体を止め、両腰からワイヤーガンを飛ばす。椿姫は左手からブレードを捨て飛んできたワイヤーガン、先端部を両手で掴む。
『何!』
本郷が驚いていると椿姫は全力でワイヤーを引っ張りスティラを引き寄せる。スティラはグンと引っ張られ地表近くまで降ろされるも脚部スラスターで再び浮き上がろうとする。
その瞬間、椿姫は脚部スラスターでスティラに向かい加速跳躍。避ける間もなくスティラは椿姫に接近され、頭部にフックを喰らう。地面に堕ち、体勢を崩し倒れたスティラのサイドアーマー、飛行ユニットに向かって椿姫はワイヤーガンを撃ち込み左右共に破壊する。
そしてスティラ胸部に右腕のワイヤーガンを向ける。
「俺の勝ちだ」
そう準一は宣告する。
だが、本郷は『ふざけるな』と返す。
まずい、準一は思うがすでに遅く、本郷義明はFCSをオンにした後だった。倒れたスティラは頭だけを起こし、向けられていた椿姫右腕部を頭部30mmバルカンで撃ち破壊する。
準一は椿姫を後方へ跳躍させる。
『管制室、客席の隔壁を全部降ろして』
射撃を見て校長代理は指示する。すぐに隔壁は降りる。
『さ、面白くなってきた』
校長代理が言うと要人たちも楽しみにしていたようで拍手をする。地下で、本郷晴之だけは不快な顔をし代理を睨む。
「やっぱり・・・FCSをオンに」閉鎖された隔壁内で、モニターを見ながら結衣が言うと「今日の決闘って、近接格闘戦じゃなかったの」とアンナ。
「まずいんじゃない。訓練用にされた椿姫の装甲じゃ」
菜月。
結衣、アンナ、菜月の3人は心配するも、生徒会6人とシャーリーは準一の勝利を確信しているのでここからどう切り返すかを楽しみにしている。
本郷義明は眼前の椿姫をロックすると、機体を起き上がらせ両腕を椿姫に向ける。腕部から衝撃砲発射口が顔をだし、次の瞬間には蜃気楼の弾が発射される。
準一はスラスターを使用してジグザクに機動を取り後方に退がる。。外れた弾は地面に命中し10m程の砂埃を立てる。
『悪いが負けられないんでな』本郷の声が聞こえ準一は「頼んどいてよかった」とアリーナの武器垂直射出機にアクセスする。
射出機は正常に作動し、準一機の後方100mの地面からコンバットシールドが飛びあがる。
本郷はスティラの腕をコンバットシールドに向けるも、椿姫が腰からワイヤーガンを発射し向けた腕をずらされ、発射した衝撃砲はシールドに命中しなかった。
準一は確認すると椿姫をジャンプさせ、残った左手にシールドを装備させる。
本郷は舌打ち、スティラショルダーアーマー内に内蔵された2門の100mmオートカノンで椿姫を撃つ。椿姫は弾丸をシールドで防ぎ、スティラに接近する為スラスターを使用する。
スティラは後ろへ下がりながら100mmを撃ち続けるが、シールで防いだままの椿姫の接近を許してしまう。本郷は咄嗟にスティラの両腕を椿姫に向ける。だが、衝撃砲が発射される前にシールドで両腕を上に弾かれ、ショルダーアーマーの100mmを椿姫に発射する。
直後、誰の目にもとまる事無く、スティラの上半身、下半身が離れ戦闘不能に追い込まれていた。
その出来事に全員が目を丸くしていた。だが、次の瞬間には隔壁が開き、決闘終了の合図であるサイレンが鳴る。
『しょ、勝者、朝倉準一』
アナウンスが告げると歓声が上がる。
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決闘終了後、2機は格納庫へ降ろされる。スティラは大破、椿姫は中破といった所である。そして観客席からは見えなかったがスティラが最後に発射した100mmは、椿姫胸部コクピットブロックに届いており、準一は2cmほど右肩を抉られている。
本郷義明は無傷で機体から降り椿姫に近寄る。
準一は出血する右肩を押さえながら機体から降りる。
そんな準一に「俺の完敗だ」と本郷は負けを認める。
「そうだな」
準一はフォローなんかしなかった。本郷的には逆にその方が良かった。変にフォローされては何も言えないからだ。
「情けないな。大口叩いてこのザマなんて」
本郷はそう言うと拳に力を込める。そこで準一は気付いたが本郷は少し目に涙を溜めている。
案外メンタル弱いのか。と準一はため息を吐き「泣くなよ」と一言。本郷は自分の目に涙が溜まっていた事に気づき学生服の袖でゴシゴシと拭く。
「泣いてねえよ!」
本郷は顔を真っ赤にして言うが、目は充血していて説得力が無い。
「いや泣いてたろ」
準一は少し笑みを浮かべ言う。
準一は、本郷義明をただ権力に頼るバカとしか思ってなかったが、素直に負けを認め、悔しくて泣くのを見て普通の奴と認識する。
「それより本郷、悪かったな・・お前のスティラここまで大破させて」準一が謝ると「いや・・これに関しては俺が悪い」と非を認める。
「・・・朝倉、聞いておきたいことがある」
本郷はズズッと鼻を啜り真剣な顔で聞く。
「何だ」
「本郷重工が、お前に手を出せないって、そう言ったな。どういう事なんだ」
やっぱりそれか、と準一は「多分この後お前、本郷さんに叱られるだろ。そん時に聞いてくれ」
「分かった」
本郷は了解する。準一は流石に痛いので医務室へ向かおうとする。
「待て! 最後に一つ頼みがある」
本郷に呼び止められる。
頼み? こいつ何を頼む気だ? と準一は顔を険しくする。
「言ってみろ」準一が言うと本郷は右手で自分の胸をドンと叩き「俺を舎弟にしてくれ!」と一歩前に出て言う。
準一は険しかった顔を困惑の表情に変え「・・・お前・・打ち所でも悪かった?」と聞く。
「ちげえよ! ・・俺は絶対に勝てる条件があったにも関わらずお前に完敗した・・」
そういう本郷を見て(まずい、何か語り始めた)と準一は逃げようとするがズイと近寄った本郷に腰を掴まれる。
「お前の強さは本物だ。俺は・・俺はお前の強さに惚れた!」
何だって? こいつ本物の馬鹿だ。準一は後ろに退き「・・・本郷。その話はまた明日。俺はそろそろ肩が痛い」と言い医務室へ向かう。
その直ぐ後、準一が大けが(校長代理のウソ)をしたと聞いて結衣が失神したらしい。
準一は、戦闘後医務室で応急措置だけされるとショッピングエリアの中央病院へ運ばれた。
病室は5階。一人部屋で窓は大きくエリアが一望できる。
その病室に準一と結衣は居た。ベットに寝て上半身だけ起こした準一に結衣は抱き着いていた。(生徒会メンバーは結衣より先に来ており、ケーキを残して学校に戻っている)
「結衣・・いい加減泣き止めって」
抱き着く結衣の頭を利き手の左手で準一は撫で続ける。
「だ、だって・・兄貴が怪我って・・・大けがって・・ぐしゅッ」
結衣は準一の胸に顔を埋め泣きじゃくっている。
「別に肩抉られただけだし・・代理の嘘なんだからな」
準一が微笑みながら言うと結衣は顔を上げる。目には涙が溜まっておりガチ泣きだ。
こんな顔の結衣は久しぶりに見た。まさか俺の事でここまで泣くとは、と準一は思い「心配かけたな」と謝る。
すると結衣は「ごめんなさぁぁぁぁい!」と更に泣き出す。
「ったく」
と準一は再び胸に顔を埋めた結衣の背中を左手で抱く。
そんな準一がふと入口の扉に目を向けると3人の顔がこちらを覗いてた。菜月、アンナ、シャーリーだ。
「どうやらあたしたちはお邪魔なようだね」
と菜月が言うが、その言葉と合わず扉をスライドさせ開く。
「そうだね。邪魔だね」
とアンナ、菜月に続き入室する。
「でも邪魔しよう」
シャーリーは言うと見舞いの品らしきアルバムを取り出す。
するんかい。準一は「あはは」とあきれる。
「はい」
シャーリーはアルバムを準一に渡す。
「ぐしゅッ、なあにそれ」
結衣は泣き顔のままシャーリーに聞く。
「むふふ~見てのお楽しみ」
シャーリーが言うので準一はペラと捲る。そして「なッ」と驚く。
結衣も中を覗く。結衣は一瞬で顔を真っ赤にさせる。
アルバムの中身は3人が隠し撮りした結衣の水着写真だった。
結衣はアルバムを奪い取り「見た?」と泣き顔で聞く。準一は「・・・うん」と一言。結衣は「バカぁぁぁ!」と言いながら病室を飛び出す。
「準一、妹の成長ぶりは如何?」菜月が聞くと「いや・・成長したなと」準一は真顔で答える。
「あの子案外胸でかいからね」
アンナは言いながら本当の見舞いの品であるコーヒーのボトルが数本入った中元の箱を渡す。
お中元? 準一は思いながら箱を受け取り「あ、ありがとう」と一言苦笑いで言う。
「あたしからはこれ」
菜月はカバンから1世代前の日本製ベクター兵器、雷の100分の1プラモデルを取り出す。
「さぁ」
菜月はズイと準一に押し付ける。
「あ、ありがとう」準一が言うと「ニッパーとやすりもプレゼント」菜月は2つをプレゼントする。
「ど、どうも」
その後、3人は準一と談笑した後「あばよ」と口を揃えると病室を去る。
静かになった。準一はそう思い一息つこうとするが扉が勢いよく開く。
まったく誰だ?
「待たせたな」
そう言ったのは本郷義明。
「来ると思った」
準一が言うと、本郷はベットの前に椅子を持ってきて座る。
「父さんに怒られてきた。んで聞いた」
「何をだ?」
「お前、魔術師なんだってな」
やっぱり話したか。準一は「これでも舎弟になりたいか?」と聞く。ちなみに準一は本郷晴之とはすでに挨拶を済ませている。
本郷は真剣な眼差しで「ああ」と言う。
「俺は、魔術師だろうがなんだろうがお前に惚れたんだ・・・頼む、本気だ」
「なぁ本郷・・お前、どんだけやばい事言ってるか分かるか? 惚れてるって確実に誤解を招くぞ」
「誤解?」
「はぁ・・・男が好きなのかって事」準一が言うと「その事か」と本郷。
「俺は誰になんと言われようとお前に惚れてるぞ」
準一は口を開けたまま硬直する。
「勿論、likeじゃないloveだ」
そこまで聞いてない。準一は左手で顔を覆い参ってしまう。だが、何もいう事が思いつかなくなり「・・はぁ。負けたよ好きにしろ」と一言。
本郷はパアッと笑みを浮かべ「ああ、宜しくな!」と嬉しそうに声を張り上げる。
ここは病院だ。準一が注意すると「す、すまん」本郷はシュンとする。
その後、本郷は魔術師の舎弟になるにも関わらず、魔術の知識が乏しい事に気づき、準一に喋れる範囲での説明を求める。
準一は「教えられる範囲でな」と了解する。
一般的に公開されている魔術、魔術師の情報の基礎中の基礎。魔術は現代科学を揺さぶる危険を孕んだ存在である為、迫害すべき存在である。が民衆には定着している。
そして準一はその魔術師の中でも異例の存在であることを教える。(生徒会の事は話さない)
魔術師には2種類居る。機械魔導天使を使用できる人間と魔導書を使用して使い魔を召喚出来る人間。そして、機械魔導天使に乗る人間の中には、稀に機械魔導天使を個人所有する人間が居る。
準一はその内の1人で、準一の所有する機械魔導天使、アルぺリスはゼルフレスト教団、各国政府の認知しえないイレギュラー天使であり、準一もまた魔術師になる筈のなかったイレギュラーである。
とここまで話す。準一が言い終えると「決闘の最後、スティラの身体が上半身、下半身に分かれただろ。あれ・・魔術か?」本郷は聞く。
準一的それは、会って最初位に来る質問と思っていた。
「ああ、魔術だ」準一が言うと「そっか」本郷は納得する。本郷のその顔は魔術の詳細が気になる顔だった。
「俺が決闘で使用した魔法は加速、硬化この2つだ」
「加速? 硬化?」
本郷は困惑する。説明が必要だ。
「スティラの上半身と下半身を離したのは椿姫の左脚部での蹴りなんだ。それも思いっきりのな」
「蹴り?」
「普通に思いっきり蹴ったんじゃ、お前のスティラは体勢を崩し腹部を損傷、そして椿姫は脚部装甲が薄いから内部フレームが折れる。かもしれん」
準一は一呼吸置く。
「んな馬鹿な事になったんじゃ話にならない。だから、脚部を硬化させた」
「つまり・・椿姫のフレームの薄さを補ったって事か」
本郷が聞くと準一は頷く。
「だが、椿姫の脚部を硬化させた状態で蹴りを入れれば、かすり傷の一つも付かないだろ。一応、魔術を使用した瞬間を生徒の目に入れるわけにはいかないんだ」
「その為の加速か」
「そうだ。悪かったな。魔法使って」
「いや構わない。反則したのは俺だからな」本郷はそう言うと「そろそろ学校に行くよ」一言残し病室を去る。
手を振りベットから本郷を見送った準一は、隣の小箪笥から書類の入った封筒を取り出す。生徒会から届けられたものだった。
差出人は九条功。生徒会メンバーは誰か知らない。一応は本人、準一以外開封するなと書いてあったので誰も開封していない。
準一は封筒を開封し、書類を取り出す。
書類は数枚が束ねられクリップで留めてあるものだ。
日本海での米国海軍・自衛隊艦隊の反日軍との小規模武力衝突に関するもの、近いうちに始動する大規模作戦の概要だった。
準一は、大和を旗艦とした主力艦隊へ参加。機械魔導天使を空母赤城へ艦載し作戦へ参加。
大規模作戦? 準一は思い書類を膝元に置き頭をかく。
ま、詳細はまた来るだろう。準一はベットに横になる。
準一の負った怪我は医者によれば自然に治るらしい。自然治癒出来るのであれば、加速魔法を使用すれば3分と経たず治る。
早めに直そうと準一は魔法を使用する。
3分後、準一は傷を治し翌日には退院した。
医者は驚いていたが校長代理が誤魔化したので大事にはならなかった。