表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/166

秋の祭典①

 午後の試合が行われる中、代理は「九州校は出番なしみたいだから」と通達。

 準一、カノンは試合観戦を続行したが、結衣は眠いらしく部屋に戻った。

 綾乃、テトラ、本郷、ロンは「変わった人を見つけよう」等と馬鹿な事を言いながら、観客席より去る。


 一方、VIP席では、赤羽岬玄武が「今日あたりかのぉ」と髭を撫でながら呟いた。

 予定繰上げ、深夜の魔術師対抗戦と言う名の秋の祭典。それは、本日の深夜に行われるらしい。


 午後の試合終了後、魔術師会合会メンバーに対抗戦の旨が伝えられた。

 だが、魔術師対抗戦とは名ばかりだ。

 本来の目的は、朝倉準一や五傳木千尋等の生徒内、高位魔術師の戦闘能力を見る為だ。

 だからこそ、役者は整っている。

 

 午後9時。政府認定魔術師の暗躍により、会場一帯を空間魔法が覆った。

 その空間魔法は、役者を劇場から逃がさない為のモノだ。

 それは、高位魔術師たちには察知できた。千早一派もだ。


 そして、午前0時。日付が変わったと同時刻。アリーナに生徒は集められた。

 高位魔術師、朝倉準一、五傳木千尋、揖宿洋介、エディ・マーキス、曽屋千秋、神代廉也。

 他には誰も居ない。四国校、東北北海併合校の高位魔術師は、任務で欠席だ。


「さて、全員揃ったの」


 赤羽岬玄武が言うと、VIP席で拍手が起こる。「では、始まりじゃ。魔術師対抗戦」


「ではなく、秋の祭典。まぁ、生き残る事じゃの」


 赤羽岬の声の直後、青の月を背にし、黒い巨人が姿を現す。

 氷月千早のアルシエル。

 そして、アリーナの観客席の一番上の段。

 パワードスーツ集団が膝を付き、構えている。

 次に、アリーナの中央に魔法装甲を纏ったヨアヒムが降り立つ。


 こうもタイミングよく、役者が登場したのには理由がある。

 空間魔法により、逃げられなくなったからだ。

 千早たちは、準一達が一堂に会する瞬間を狙っていた。

 全て、玄武の計算通りだ。

 癪に触った千早だが、もうこうなれば、そんな事を言っている場合ではなかった。


 まず、千尋はエリオットを召喚しようと術式を組むが、出現した魔法陣が空間にキャンセルされる。


「召喚できない」千尋は言うと、玄武達を睨む。

「機械魔導天使など無粋じゃ、生身の白兵で戦ってもらうしかないのぉ」


 クソじじい、と千尋が言うと「悪いな千尋」と準一が一言。

 全員が、準一を見る。


「正直、あんな老害共の掌の上で踊らされるだけなんざ御免だ」と前に出ると、術式を組む。すると、魔法陣が出現。

 キャンセルされない。

 まさか? の直後、アルぺリスが出現。準一に手を差し出し翼を広げる。

 白い羽が、辺りに舞うと、準一は玄武に笑みを向ける。


「貴様が……随分と狂わせてくれたのぉ」と玄武は目を細め、ライラを見る。

「勝負はフェアにやるのが武士道でしょ? 日本はサムライの国、じゃなかったかしら?」


 まぁ、ええわい。と玄武は準一を見る。「しかし、朝倉準一か……此方に刃向わない事を願うばかりじゃ」


「俺がアルシエルの相手をします。すいませんが、あの魔法装甲の男とパワードスーツ集団は頼みます」


 神代は準一に舌打ちする。「どういう事だ。何故、貴様は機械魔導天使を召喚できる?」

 これです。と準一はライラから預かった護符を見せる。

 詠唱時間を長くした、完成体だ。


「黒妖聖教会の……」

 

 呟き、神代は驚く。

 あまり、戦闘に関与せず、支援もせず、助けもしない黒妖聖教会。

 その組織の魔法道具を持っている。

 

「まぁ、そういう事です」と言うと、準一はアルぺリスの掌に乗り、コクピットハッチが開くのを確認し、シートに座り、起動させる。

 デュアルアイセンサーが起動し、碧に光る。

 

 前アルシエルと戦った時、準一はベクターだった。

 だが、今回は違う。

 対等な条件、いや、対等以上だ。

 これで、朝倉準一の勝利は揺るがない。

 だが、簡単に勝つことはしない。

 まず、しなければならないのはアルシエルの戦闘能力の確認だ。

 準一は、アルぺリスの手に、刀身が碧に輝くブレードを持たせる。



 出撃前、千早はアイルマンにこんな事を言った。


「今回、私は準一と対等の条件よ? まぁ、私の勝ちは変わらないけどね」


 だが、アイルマンは分かっている。


「何が対等な条件だ……。化け物に化け物が乗っているんだ」


 観客席に座るアイルマンはタバコを咥える。「自信過剰な娘が矛を取ろうと、喰われるだけだ」


「朝倉準一とアルぺリスは、天使の皮を被った、化け物なんだから」


 言うと、タバコに火を点けた。





 アルぺリスがゆっくりと空に昇る中、残された生徒(千尋以外)は、回路搭載の武器を用意する。

 揖宿、エディ、神代はスタンダートな槍タイプ。

 しかし、千秋だけは違う。

 身の丈以上の黒い大鎌だ。当然、回路搭載の武器だ。

 

 それを見て、パワードスーツ集団は臨戦態勢に入る。

 だが、その集団が動き出す前に、1人が巨大な爆発の火球に呑まれる。


 VIP席の人間も、千尋たちは一斉にそこを見る。

 すると、その爆発の中に炎を纏った虎、ブラウンが姿を現し、咆哮する。


「虎?」と千秋が言うと、その後ろからククリナイフを一本構えたエルディ・ハイネマンが姿を現す。


「赤羽岬さん、あの奇怪なピエロは?」


 1人、頭を丸めた初老の男が聞くと「さぁ」と赤羽岬は目を細める。


「何か紛れていると思ったら」と赤羽岬。ライラは「ふふ」と笑う。


 そして、そのピエロの隣に真っ赤な着物の美しい女性が太刀を構え、姿を現す。

 朝倉舞華だ。


「おい」とヨアヒムはジェイバックを呼ぶ。「どうする? 役者が多すぎるが」


 構わない。とジェイバック。「お前は待っていろ。此方は我々が引き受ける。直に、朝倉準一と氷月千早の戦いは決着が着く」

「それまでの余興だ」


 ジェイバックが言うと、パワードスーツは一斉に魔力ブレードを最大出力にさせ、伸びた刀身を生徒に向かって振るう。

 素早い振り下ろしの一閃。

 アリーナの生徒の居た個所が巨大な爆発の飲まれると、それを払う様に紅蓮の柱が立ち上がる。

 

「テンペストの部隊長として、負けられないな」とエディは槍を構えると、走り、降りたパワードスーツの1人に突っ込む。

 それに続くかの如く、千秋、神代も続くが、揖宿の魔法は近接用ではない。


 墓石の構築者。その通り名は、長方形の柱が相手に刺さり、相手を絶命させ、勝利する事から来ている。

 

「行け」と術式を組み終わった揖宿は、墓石を幾つもパワードスーツに飛ばすが、高濃度魔力のブレードに払われ、1人の接近を許す。

 だが、その1人は揖宿に攻撃を食らわせる前に、腹部を蹴り上げられる。

 蹴り上げたのは、エリオットの武装。長いブレードを構えた千尋だ。


 その隙を逃さぬように、揖宿はその1人に墓石を四方からぶつける。

 すると、呆気なくスーツを貫通し、血が噴き出ると、身体が四散する。


「前と違う」

 

 千尋は、準一から聞いていた報告と違う事に気付く。

 揖宿の墓石は確かに強力だ。

 だが、魔力を防御に回していれば防げるはずだ。

 しかし、そうでは無い。


「成程。あんな攻撃、防御が器用にできるのはアイツだけか」と動かないジェイバックを見ると、千尋はブレードを構える。


 すると、ジェイバックは千尋に気づき、挑発的な手招きをする。

 それに乗らない千尋ではない。

 加速魔法で飛び、後ろに回り込むとブレードを振るう。

 だが、想定通り。

 ダメージが無い。

 くそ、と思った直後、ジェイバックが足を後ろに回し、肘で千尋を殴ると、ブレードを振るう。

 咄嗟にブレードを前に構えるが、ブレードは来ず、バーニアで加速した腕が千尋の腹部に命中。

 だが、硬化魔法を使用していた。しかし、ダメージは大きかった。

 ある程度、硬化魔法の効果がキャンセルされている?


 距離を取らなければ、と思い、加速魔法で下に降りると、ジェイバックは右手を向ける。

 すると、ビームに似た棒状のソレが幾つも出現し、クルクルと回転し始めると千早へ飛ぶ。


 弾いてやる。と思った直後「受けるな!」と舞華。

 千尋はジャンプし、自分の居た場所を見ると爆発。

 すると、眼前にジェイバックが現れ、ブレードを構えている。

 まずい、喰らう。と思った瞬間、ジェイバックの背中が爆発。その隙に回し蹴りを叩き込むと、下に降り、ブレードを構える。

 爆発を起こした人間を見ると、改変魔術時に会った舞華。

 助かった。と思うと同時、息が切れる。 


 正直、準一は大したモノだ。武器が使えない状態で、加速魔法、硬化魔法だけであれだけやったのだ。

 準一が居れば、この戦況は打開できただろう。

 準一には、白兵を行う、ジェイバック、ヨアヒムの様な魔術師に対し有効な魔術を持っている。


『魔法崩壊術式』


 攻撃は崩壊させられないが、防御に回した魔法なら崩せる魔法だが、準一はめったに使わない。

 魔術師との戦闘で、情報収集任務などがあるからだ。


「今から手伝って、って言ってみようかな」と千尋が言うと同時、上空から衝撃波が伝わる。

 見ると、アルシエル、アルぺリスが互いにブレードを交差させ、鍔迫り合いをしている。


「無理か」と、ため息を吐き、ジェイバックに突っ込む。




 神代廉也の使用する魔法は、水系統の魔法だ。

 空気中に漂う水分を集中させ、攻撃する。

 

「魔力が防御に転じないのであれば、勝機はあるな」


 神代は、水分を円形に固めると、高速回転させる。

 

「水は使い方次第だ。全てを呑み込む巨大な波となれば、全てを切り裂く刃物となりえる」


 右手を向かい合ったパワードスーツの1人に向ける。

 すると、円形の水が突撃。防ごうとした1人の腕に命中し、腕が耐え切れず下に下がると、体勢を崩し畳み掛ける為、魔法発動術式を組む。


「足りない、海からだ」と両手を広げると、海からの水が放物線を描き、神代周辺に集まると、2本の巨大な柱になり、尖った先端がパワードスーツの1人の胸に突き刺さると、体内に、その海水が流れ込み、絶命する。


 足元が水浸しになり、靴が濡れた事にため息を吐く。「ノルマ達成、でいいのだろうか?」と辺りを見る。

 既に、エディ、揖宿は相手を倒し、エルディ、舞華は残った敵を掃討している。

 千尋は、隊長らしき相手と近接格闘戦。 

 空では、機械魔導天使二機の戦い。


「後は」


 まだ、戦っている、と思い千秋を見るが、既に倒した後だった。




 曽屋千秋の使用する魔法は、炎や水、といった属性魔法ではなく、揖宿と同じ特異魔法だ。

 重力を操作する、バカげた魔法だ。

 魔法としては最強と言われているが、弱点のある魔法だ。

 足元や、身体に近い箇所で発動された場合、高位魔術師なら発動を察知できるため、回避できる。

 だが、そうでなければ、簡単に殺される。  

 千秋と戦った相手は、身体全体が潰れ、プレスに押されたようになっている。


「何だ……想像以上につまらないわ」


 呆気の無さに千秋は言うと、鎌をジェイバックに向ける。

 千尋の援護をしようとする。

 先ほど戦った相手は、重力操作を回避できなかった。きっと、あれもそうだ。

 と、ジェイバックの腹部を潰そうとした時、ジェイバックからクルクルと回る何かが近づき、一瞬千秋は呆気に取られる。


 同時、千秋の眼前に柱が幾つも出現し、それを弾く。揖宿の魔法だ。


「油断しない方がいい」

「い、いえ。助かりました」


 揖宿に言われ、我に戻り礼を言う。

 どうやら、千尋と戦っている相手は、ただの雑魚ではないらしい。

 高位魔術師。 

 千秋にとっては天敵だ。


 これじゃ、援護できない。とジェイバックを睨むと「援護、と考えているならしない方がいい」と神代に言われる。

「五傳木千尋の力は本物だ。信じてやれ」


 納得したふりをし「はい」と言うと、千尋の背中に目をやる。




 アルシエルの左足がアルぺリスの頭部に命中し、右目のデュアルアイセンサーが割れる。

 すると、千早は笑いアルぺリスを見る。


「あら、アルぺリスに乗ってもこの程度」


 準一は無表情のまま、操縦桿を押し、アルぺリスを突っ込ませ、わざと攻撃を喰らう。

 それを繰り返している為、アルぺリスは装甲に細かな傷が入り、欠けたりしている。

 

 つまらない。

 率直な準一の感想だった。

 千早は、何も加速魔法、硬化魔法しか使わない。いや、使えない。

 他にも何か隠しているのだろうか、と考え、準一は攻勢に出るが、何も来ない。

 精々、硬化魔法での防御。

 加速魔法での回避。

 もう、良いだろう。と、準一は長い息を吐くと、右手に持ったブレードを仕舞い、左手にだけブレードを持たせる。


「悪い千早」


 急に準一からの言葉。千早は動きを止める。


「こっちの仕事は終わった」


 と聞こえ、加速魔法で後ろにさがる。

 だが、それは意味の無い行為だった。

 一瞬の大きな衝撃がコクピット内を襲い、上下に揺られた千早は後ろを見る。

 アルシエルの両腕が残骸を散らし、待っている。


「嘘……!?」


 何が、と思う前に再びの衝撃。メインモニターの景色が上下逆さまになると、目の前をアルシエルの両足が落下する。

 間髪入れず、サイドアーマーが斬られ、回路にブレードが刺さる。

 そして、翼を羽ばたかせ、上下を戻し、後ろを見ると、近い距離に隻眼のアルぺリス。

 アルぺリスの碧眼が一瞬、光ると同時、千早は震え上がる。

 

 今更だ。

 自分はバカだった。


 しかし、それはもう遅い。


 何を調子に乗っていたのだろう? 

 まだ、朝倉準一と会った時の自分の方が、もっと冷静だった。

 だが、トラック泊地での勝利で、何か自信が付いて、この状況が誕生した。


 その時、アルシエルの赤い目が光りを失い、勝手にコクピットハッチが開く。

 驚く千早を、アルシエルはコクピットから追い出す。


 ああ、成程。

 

 千早は落下しながらアルシエルを見る。


「敗者は要らないワケか」


 呟き、目を瞑ると術式を組む。

 指定の1つの箇所だけなら、移動できる。

 何度も使用できないが、術式を組めば一度使用できる。


「場所は……挨拶に行きたいから」


 箇所を決めると、千早は出現した魔法陣の中に消える。


「空間移動魔法……」


 咄嗟に、準一は耳に仕込んだ無線機を起動させ、呼び出す。

 部屋で寝ているであろう、朝倉カノンをだ。





「ふぁい。にいしゃんどうしたんですか?」


 呼び出したカノンは、案の定寝起きだ。 


「カノン。気を付けろ、魔術師がそっちに行った可能性がある」


 カノンは目の色を変え、ハンドガンを握る。「こっちとは?」


「恐らくだが、お前か結衣。俺の妹2人のどちらかに接触して来るはずだ」

「では、結衣の所へ行きます」


 言うとカノンは部屋を飛び出した。



 目が覚めた朝倉結衣は、自室の端に座る少女に目をやる。

 

「あなたは?」


 聞くと、少女、氷月千早は顔を上げる。「どういう事かしらね」


「何故、あなたはこの状況下で動けるのかしら?」


 結衣は、千早が何を言っているか分からなかった。

 千早が言うのは、この空間魔法が発動されている中、何故、魔術師でもない結衣が動けるのかを聞いている。

 この空間魔法は、高位魔術師しか動けない空間だ。

 カノンは、空間魔法に対し、ある程度の耐性を持っている。

 しかし、それがリンフォードの時に動けなかったのは、リンフォードの空間魔法が強力だったからだ。


「あなたって……魔術師?」

「ええ。そうよ」


 肯定した千早を睨み、隣で眠る綾乃を見る。

 動かない。

 

「私はね、さっきあなたのお兄さんと戦ってたの。機械魔導天使でね」


 千早は微笑み、続ける。「完全に私の負け。喧嘩を売る相手を間違えたわ」

 結衣はベットから降りる。


「あたしに何か用があるの?」

「ええ。挨拶にね」


 挨拶? 聞き返す。


「……見た所、あなたは普通の人間ね。準一とは大違い」千早は立ち上がり、魔法陣を下に発動させる。「会えてよかったわ。さようなら、朝倉結衣」


 その言葉の直後、千早は姿を消し、入れ違いにカノンが部屋に入室。「結衣、大丈夫?」


「う、うん」

「誰か来た?」

「うん。兄貴と戦ったっていう魔術師が」


 そう、と言うとカノンは気付き、目を見開くとゆっくりと一歩下がり、ハンドガンを結衣に向ける。


「か、カノン?」


 いきなりの事に驚き、結衣が聞くとカノンは結衣を睨む。「ねぇ、結衣」


「どうして……この状況下で動けるの?」


 カノンの目には、結衣は得体の知れない存在に見え、一瞬の悪寒が襲った。 




 降下したアルぺリスは膝を付き、準一は地面に降り立つ。

 それを見たヨアヒムは笑みを浮かべる。


 すると、ジェイバックがヨアヒムの横に立つ。「情勢は芳しくない。俺達は、奴の術式の中だ」

 奴? と準一を見る。

 ジェイバックのパワードスーツ隊は呆気なく壊滅した。

 全ては、朝倉準一が広域に発動させた『魔術崩壊術式』

 これ以上戦っても、勝機は無い。

 告げるが、ヨアヒムは聞かずランスを構える。


「関係ない。逃げたければ逃げろ。今なら抜け道があるだろう」


 そうか、とジェイバックは撤退。アイルマンも続く。

 誰も、それを追討しない。

 これからの戦いに注目しているからだ。


「さぁ、朝倉準一。京都での一戦以来だが、楽しみにしていた」


 ヨアヒムが言うと、アリーナ内の生徒達は離れ始める。

 危険になると、感じたからだ。


「それがあんたの武器か?」

「ああ、このランスはいいモノだ。全てを貫く」

「すまないな。先に謝っておく」


 何をだ? と目を細め、ヨアヒムは訊く。


「楽しみたいのは山々だが、大部隊が来る可能性があるんでな」


 準一はブレードを抜き、両手に構える。「手早く済ませる」

 

「なめるなぁ!」

 

 叫び、ヨアヒムは準一へ突撃し、ランスを突きだすが、準一はブレードでランスを滑らせ、ヨアヒムを下から蹴る。

 ヨアヒムは激痛が走り、命中した腹部を見る。

 魔法装甲が壊れている。

 前を見ると、朝倉準一は居ない。

 直後、背中からの激痛と共にヨアヒムは地面を転がり、起き上がるとランスを構える。


 見ると、準一がこちらに向く。

 咄嗟に、地面にランスを叩きつける。

 爆発に似た煙と共に地面が捲れ上がり、2人の姿は隠れる。

 ヨアヒムは準一を探す。

 彼は軽く錯乱している。

 準一が京都の時以上に強く、驚愕し、恐怖しているからだ。

 冷静な判断が出来ないからこそ、ランスで煙を巻き上げてしまった。


「くそッ!」とヨアヒムはランスを振るうと煙を切り裂き、視界を開く。

 しかし、準一の姿はどこにもない。

 どこだ、と振り返り、見上げた瞬間、回転を効かせた左ブレードの一撃を見、咄嗟にランスを防御に回すが、意味は無かった。

 

 再びの爆発に似た煙。 

 その中からヨアヒムが飛び出し、地面を転がり、ランスを構えるがひびが入り、折れる。

 ブレイクグローブを発動させ、準一を見る。


「化け物め……!」

 

 ヨアヒムは突撃し、拳を振るうが準一は居ない。

 左に跳ぶと、右を斬撃が掠め、装甲が斬れ、血が出る。

 魔法装甲が意味を成していない? 

 馬鹿な。

 彼の錯乱は加速する。

 恐怖を前に、ヨアヒムは初めて敗北を感じたが、その考えを振り払う。

 そんな事があり得るものか、自分は負けない。

 奥歯をきつく噛んだ瞬間だった。


 ヨアヒムの右腕が一閃に刎ねられた。


 吹き出す血を見て、痛みが追いつき、ヨアヒムは血が噴き出る箇所を抑える。

 恐怖は、完全なモノになった。


 直後、ヨアヒムの左腕も刎ねられ、ヨアヒムは前に倒れる。 

 しかしすぐに後ろを向く。


 月を背に、刀身が碧に輝くブレードを持った、学生服姿の朝倉準一。

 何の感情も、関心も、興味も無い、抑揚の欠片も無い瞳が自分を見下ろしている。


 この男は違う。

 殺しに喜びを感じてはいない。ましてや、罪悪感など以ての外だ。

 この男にとって、殺しとはその程度なのだ。

 慣れ親しんだ。

 当たり前、日常のサイクル。

 

「楽しかったよ」


 準一は、左手のブレードをヨアヒムの首に付ける。


「割と」


 加速魔法で左手のブレードが首を刎ね、血が吹き出し、準一の顔、制服の上の部分が血で染まる。





「艦隊接近。数多数。沖合に展開する護衛艦隊。戦闘開始」

 

 大和CICでオペレーターが言うと、九条は肘置きを撫でる。「大和の任務は護衛艦隊を抜けた敵だ」


「向こうに任せてやれ」と言った直後、高速艇数隻が護衛艦隊を抜ける。


「どうします?」


 ため息を吐き、九条は肘を置く。「魚雷で沈めろ」

 砲雷長が「了解」と言い、大和前甲板魚雷発射管が開き、魚雷が高速艇へ向かう。

 武蔵も同じく、魚雷を発射させ、数秒後には高速艇の群団は水柱に呑まれ、海の藻屑になる。

 すると、護衛艦隊から大和、武蔵へ援護要請。

 受諾し、戦艦二隻はハープーンミサイル、トマホークミサイルを発射し、護衛艦隊を援護。

 

「こりゃすぐに片付くな」と九条。「良かったじゃないですか」前島が言うと九条は顔を顰める。

「久々に海の上で戦えると思ったんだがな」

「沈んでしまっては困るからでしょう? 大和ですし」


 はぁ、とため息を吐くとレーダー上の敵艦艇にミサイルが命中し、ビーコンが消える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ