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超結婚宣言! 

「さぁ! 始めるわよ!」と夕刻、碧武ショッピングエリアで叫ぶのは、ナイスガイなウィトレス。店長だ。


 そんな彼はゆっくりと後ろを見て「うふ」と笑みを浮かべる。視線の先には、四之宮、雪野小路に両腕を掴まれ、生気を失った顔をしている、メイクを施された朝倉準一だ。


「元気出して朝倉君」

「あら加奈ちゃん。駄目よ朝倉君はハートが弱いんだから」


 四之宮、雪野小路が言うと、準一はゆっくりと先行し、歩道を歩く店長を見る。

 彼は夕日と重なり、かなり雄々しくなっている。

 ウィトレス姿だが。


 そして、準一は小さな声で呟いた。


「忘れていた。超結婚宣言を」


 現在、パーティーより2日後。多分金曜日。夕方なのだが、まだまだ暑い。




 トラック泊地。ガダルカナル。そこには機甲艦隊の基地があり、数隻以上の艦艇が停泊していた。

 政府にしてみれば、中東などに派遣する部隊基地としている為、結構都合がよかった。

 だが、それを中国政府は良しとしない。

 この基地は、中国側への威圧的な意味を込めている。

 大戦以降の日本の目覚ましい成長、戦果。物量戦を挑んでも、中国側は技術的に負けている。まともな艦隊戦を行っても、中国側は大和に勝てる戦艦は無い。

 その大和は飛行能力を手に入れた。

 ここいらで、何かしら日本に打撃を与えなければ。

 そう考え、反日軍のスポンサーである中国政府は、韓国政府に協力を仰ぎ、トラック泊地強襲を画策。

 そして、実行される。



 準一が超結婚宣言を思い出したと同時刻、泊地に設置してある対空レーダーが数十機以上の輸送機を発見。

 上空を通過するルート。そんな話は聞いていない。

 基地対空ファランクス起動。ペトリオット隊展開完了。

 ペトリオット隊は、迎撃用の対空ミサイルを一斉発射。輸送機数機を撃墜。泊地の格納庫より、ベクター発進。

 雷だ。ユニットは付いていない。陸戦部隊だからだ。

 基本的に、ベクターにはユニットは付かない。ユニットは空中戦で使用するが、かなり高価だ。

 全てのベクターに取り付けられるほど、余裕はない。それはどの国でも同じだ。碧武のベクターには全て付いている。それは、スポンサーである大富豪が金を出しているからだ。


「輸送機、画像確認。反日軍のマーク。西側のエーネット級輸送機のデットコピーです」


 管制室で1人が言うと、基地司令はため息を吐いた。虎の子の中華圏防衛軍じゃなくて良かった。


「雷の装備は?」

「ショルダーキャノン等の砲戦仕様です」

「ベクター、戦車隊は沿岸、山間に展開させろ。輸送機から陸上部隊が降りる筈だ。射程では此方が勝る。抑え込め」

 

 了解。の後、ベクター部隊は戦車隊と共に移動を開始。展開を開始。


「護衛艦出せ。対空戦闘状態を維持、対潜対水雷を厳となせ」の後、艦艇が順に発進。速射砲が水平線に向き、VLSが開き、対空ミサイルが飛翔。

 艦艇の先、反日軍潜水艦を発見。戦闘開始。


 撃墜される前に輸送機からベクターが降下。反日軍側は西側で運用されているベクター、イーターⅡを投入。性能は、雷と同等。

 だが、価格は安価。元となったイーターⅠの廉価量産型であるが故、だが、性能は高く、ゲリラに愛用されている。

 投入されたイーターⅡの装備は、中距離戦を想定した装備。砲戦仕様の雷が展開している今、抜ける事はほぼ不可能だ。

 だが、反日軍的にはそれでよかった。

 直に、反日軍空爆戦闘機部隊が来るからだ。


 しかし、それが来るまではこう着状態が続く。戦場は、静寂に包まれる。

 筈だったのだが、両者がにらみ合いを始めた時、イーターⅡが光線に撃ち抜かれ、爆発。光線は直上。

 全員が空を見る。すると、夕日を背に、漆黒の翼を広げた黒い巨人が降下してきている。

 翼を羽ばたかせるその姿は、天使、とも悪魔ともとれ、ベクターのパイロットは恐怖した。

 ゆっくりと降り立った黒い巨人。機甲艦隊側のベクターパイロットは気付いた。


「あ、アルぺリス?」

 

 黒い巨人は、アルぺリスと瓜二つ。アルぺリス型の機械魔導天使。1号機・アルシエルだ。

 

「どういう事だ。アルぺリス、朝倉準一は碧武の筈」


 碧武からの支援は聞いておらず、尚且つ、アルぺリスが黒化している。

 何が? 

 魔術の一種か?

 その考えに結論が出る前に、アルシエルは翼を畳み、イーターⅡに向くと跳躍。左手の手刀を突きだし、イーターⅡの胸部を貫き、コクピットブロックを引き抜き、倒れたイーターⅡの頭部を踏みつける。

 イーターⅡはアルシエルにライフルを向け、発射。だが、アルシエルは袖口から高濃度魔力のブレードを出現させる。ビームに似たソレを、他のイーターⅡに向け、左に振るうと刀身が伸び、一気に切り裂く。 

 そのまま、残り、後退するイーターⅡを追撃、魔力ブレードで突き刺し、全て破壊。

 

「す、凄い」と雷のパイロットが言うと、アルシエルは振り向き、ゆっくりと雷隊に近づく。

 雷と足元の戦車隊は、何故か身震いした。

 あの黒い機体はイーターⅡを倒した、敵対? いや、あれはアルぺリスだ。味方だ。

 そう思うのだが、震えは止まらない。


 直後、雷、戦車、全機全車の回線が一方的に開き『バイバイ』と声が入り、皆は気付く。

「違う、これはアルぺリス、朝倉準一じゃない」

 その声が基地に届く。既に、雷、戦車隊は壊滅した後だった。




「超結婚宣言!? なーんであたしの知らない所でそんな楽しい事始めたのよ! いいわ! 体育館使ってよし!」が超結婚宣言を話した時の校長代理、御舩茉那の反応だった。

 正直、想定以上にノリノリで準一は「もう楽しむしかないか」とあきらめた。


「よーし! 体育館に急ごうぜ!」と何かが壊れた準一は、雪野小路、四ノ宮の拘束を解き2人と店長に笑顔で言う。


「あら乗って来たじゃないいいわね」と店長。準一に近寄り、腕を引っ張り体育館へ入る。


 体育館の入り口には『第一回・超結婚宣言!! 会場』と書いており、隅には小さく『注意:メインは男子です』

 そして、綾乃の駆る椿姫が上空を飛翔、ビラをばら撒いている。

 ビラの内容は『体育館にて女装イベント開催中。暇だったりしたら来てみれば』


 別に強制ではない。ないのだが――。体育館はほぼ満席。

 準一は項垂れる。そのまま店長に連れられ、一番前の席に。


「貴様は神を信じるか?」


 ふと掛けられた声。準一は右の店長ではなく、左を見ると、店長と似たガタイの男がいた。

 マッスル同好会首領、遠藤渉。


「神を信じるかと聞いている」

「いえ」

「愚かな」と笑みを浮かべた遠藤は「暑いなぁ」と立ち上がるといきなり上着を破り、鍛えられた肉体を披露する。

「これこそ!」と胸筋を動かす。「神だ!」


 家に帰りたいなぁ。と準一が大きなため息を吐くと、体育館内の照明が消え、壇上にスポットライトが照らされ、代理が登場。

 ああ。やっぱりね。と生徒の大半は納得した。

 この人が関わっている事はもはやお決まりだ。


「お前ら! 女装男子は好きか!」と代理が叫ぶと「大好きだ―!」と真ん中の席の一部男子が盛り上がる。


「よし。ならいい。これより、女装した男子が登場し、幾つかの課題をクリアしてもらいます。その際、可愛い。と思った方に投票ください」


 代理は小さな2つのボタンが付いた、単行本程の端末を見せる。「これ押してね」

 生徒は納得の返事。


「おっけー! なら始まりだ! 超結婚宣言! 開始!」


 体育館内で歓喜の叫び声が上がった。

 一部男子から。

 準一は思った。かつて、これ程碧武のイベントで盛り上がった物はあっただろうか。と。

「アルぺリスに黒化現象?」と訝しげな顔の代理は、体育館壇上裏、控室で携帯を握っていた。相手は、機甲艦隊のトラック泊地司令官。


『そうだ。朝倉準一の駆るアルぺリスだが、このトラック泊地に出現した』

「待って。意味が分からないわ。だって、朝倉準一は今体育館イベントに参加してるし、アルぺリスもケージに納まってるわ」


 馬鹿な。と司令官は続ける。『画像データを送る。だが、そうでないとして、アレは一体』


 ふと、代理は思った。朝倉準一はまだ何か隠しているのではないか?

 代理は、準一を信頼はしているが、信用はしていない。彼の齎す情報、幾つかは疑ってかかるようにしている。


「彼に直接聞いてみるわ。ところで、基地への被害は?」

『基地は何も。精々反日軍のミサイルが数発届いた位だ。被害は雷隊だ』


 そう、と代理が言うと『失礼する』と会話が終了。

 代理は館内放送をオンにし「朝倉準一君。至急控室に集合」と声を掛け、席では準一が立ち上がり、そこへ向かった。




「ごめんね。来てもらったのはこれ」と代理は端末の画像を見せる。夕日の中、山間に佇む巨人。アルぺリスと同型機、アルシエル。


 準一は顔色を変えず「これが?」と聞く。

 だが、内心は驚いていた。まさか、赤羽岬の話を聞いてすぐにお目にかかるとは思っていなかったからだ。


「機甲艦隊のトラック泊地を襲撃した反日軍ベクター部隊を壊滅させ、雷隊をも壊滅させた後、この機体は飛び去ったそうよ」


 代理は準一を見る。そして、何か確信する。「ねぇ。知ってるんだよね?」


「いえ。俺にはさっぱり」と準一はしらを切る。すると代理は目を細め「ふーん」と端末を仕舞う。


「教えて欲しいなぁー」と代理。一歩準一に詰め寄る。

「俺は知らないんですが」と準一は含んだ笑みを向け、一歩下がる

「ねぇ。堕天使と関係ある?」

「何の事です?」


 代理は不機嫌そうに顔を顰める。「……確信が無いから言わなかったけど」


「準一君さ、パーティー会場で赤羽岬玄武と何かヒソヒソ話してたよね?」

「聞いていたんですか?」

「何ふざけた事言ってるの?」


 代理は笑みを向け「あたしが隠れてたのは気付いてたでしょ?」と首を傾げる。


「聞こえた単語はマルシフ・ノートだけ。良く知らないけど、ヒソヒソと話すくらい大事な話なんでしょ? なのにあたしを追い払わなかった」


 一歩下がり「ふふん」と笑い「聞かせてくれたんでしょ?」


 あのテラスで、準一は気付いていた。柱の陰に隠れる代理。

 話の内容がさっぱり予想できなかったので、取りあえず聞かせることにしたが、遠かったようだ。


「正直、俺も混乱してるんです」と準一は代理を見る。「あの黒い機体はアルぺリスタイプの機械魔導天使。その1号機。アルぺリスの姉妹機です」


「お姉ちゃんと妹?」

「ええ。……マルシフ・ノートは知ってますよね?」

「うん。日露戦争中のロシアからの要求状的な奴でしょ? 武力放棄的な」

「それは表でのそれです」


 表? と代理は聞き返す。


「本当のマルシフ・ノートはロシアからの賄賂です。その中身が、あの黒い機体。アルシエル。そして、もう1つがエルシュタです」

「マジ?」

「マジです」  


 これ以上の人的、軍的、資源的損失を望まなかったロシアの賄賂。

 結局、届かなかった事により、シベリア平原からの陸戦隊の侵攻を許し、米軍の横槍が入る前にロシアは降伏。


「いいですか? そろそろ準備が終わるので」

「あ、うん。そうだね。戻ろうか」と代理は何故か部屋を飛び出す。


 そして、席に戻るルートにバリケードを構築。「準一君。ステージから戻ってね」

 あのバカ。また面倒な事を。


「仕方ない」と準一はステージに続く通路を進み、扉を開け、舞台袖に出る。


 そしてひょこっと顔を出す。同時、歓声が起こり、中央を見る。

 そこにはメインの2人がスポットライトに照らされていた。


 今風の女の子ってこんな感じの格好だよ。がテーマの本郷義明。

 内気な少女の頑張りお洒落。がテーマの三木原凛。

 義明は慣れたモノで、胸を張り、三木原は恥ずかしさから顔を真っ赤にし、震えている。

 そんな三木原は袖口の準一を見つけ「先輩!」と駆け寄り、背中に飛びつく。そして準一は袖口から飛び出す形になる。


 言わずもがな、観客席では結衣、カノンが笑みを浮かべたまま、憤怒の視線を壇上に送っている。


 そんな視線に気づかぬまま、三木原は抱き着く力を強める。


「おい、凛。ちゃんと立たないと」

「は、恥ずかしいんです!」と三木原は準一を見上げ、目が合う。

 可愛いっす。


 その真っ赤な顔には、涙が溜まる。それは、アップで表示され、審査が始まり「結果出ましたー」と綾乃が壇上に出て来る。

 そして、大画面に表示される。


「勝者! 三木原凛!」


 何故! が本郷の言葉だった。

 すると、準一が本郷に向き、解説を始める。


「義明、お前と凛には決定的な差があった」

「決定的な差?」

「そうだ。お前は、女装に慣れてしまっている。だからこそ、凛の恥じらう姿に負けた」


 そんな、と本郷は項垂れ、観客席の生徒は納得する。だが、全員が思った。

『何でお前も女装をしているんだ?』


 しかし、それに答えが出ることは無い。この女装に意味も理由も思想的イデオロギーも無いのだから。

 一回戦、女装審査終了。二回戦はお料理対決。

 簡易キッチンが運ばれ、幾つもの食材、調味料が運ばれ、審査員が壇上に立つ。

 朝倉舞華、朝倉準一、揖宿洋介、代理の4人。4人は用意されたテーブル前の椅子に座る。


「料理は何でも構いません。ただ美味い物を作れ」が指令。それを綾乃がマイクで伝えると、観客席の方から悲鳴が上がる。


 見ると、最前列の遠藤渉が鼻血を吹き出しながら倒れている。


「担架だ! 担架を持ってこい!」と店長。遠藤は最後に壇上の三木原、本郷を見ると気絶。

 担架で医務室へ運ばれる。


「お前保険医だろ?」と準一は隣の舞華に言う。

「私はお前以外は自分の気に入った人間しか診ない」


 とふんぞり返る。すると、開始の合図。お料理対決が開始された。

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