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魔術師顔合せ

 パーティーは深夜前、長いスピーチの後終了した。一度は用意された部屋に戻った準一だったが、深夜2時半。招集がかかり、再びパーティー会場へ。

 先ほどと同じく、明るい会場内。

 テーブルなどは無く、制服姿の碧武生が十数名以上。

 その中には九州校生徒会メンバー、会合会メンバーの姿。

 揖宿が「よ」と準一に手を挙げ、準一は近寄る。


「お疲れ様です」と先輩方にまずは挨拶。すると志摩甲斐が嬉しそうに「ふふー」と笑みを浮かべる。


「朝倉君。メイド服じゃないの?」

「こんな場所に着て来れませんよ」


 苦笑いで答え、他のメンバーを見る。

 エディは退屈そうに欠伸、子野日、四ノ宮、雪野小路は眠そうに目を擦っている。

 

 見慣れない男子生徒が来るのを見つける。

 その男子は会場に入ると真っ先に準一を見つけ、ゆっくりと近寄る。


「初めまして」男子生徒は右手を準一に差し出す。「近畿校の神代廉也。3年だ」


 何となく、準一は男子生徒を見る。

 悪くない顔立ち、身長もまぁまぁ。

 だが、目は自分に対して何か嫌なモノを孕んでいる。

 そう感じ、握手はしない。


「まぁいい」神代は手を戻し、続ける。「貴様の事は聞いている。新参者でありながら、揖宿でさえ立場を譲ったそうだな」


 選抜戦の事だ。


「貴様は2年だ。しかも、途中転校して来た。実質1年だ。いいか、立場を弁えろ」

 

 心のどこかで予想していた。

 確実に絡んで来るなと。

 

「話を聞けば、貴様は調子に乗っている。魔術師としての血筋が無い、どこの馬の骨とも知れない貴様が、この会合会メンバーに入っている事が異常だ」

 

 と神代が言うと、エディが目を細め、神代にあざ笑うかのような視線を向ける。


「神代と言ったか。貴様はてっきり、朝倉に忠告しに来たかと思ったんだが、どうやら違うようだ」


 何だと? と神代は身体をエディに向け、睨み付け、神代の仲間が集結する。


「新参者の朝倉準一に嫉妬しているんだろう? 目立っているから。だから、劣等感を感じ、その様な低俗な絡みをした。違うか?」


 完全に神代を馬鹿にした言い方。準一は無表情で神代を見る。

 一方神代の仲間たちは拳を握る。


「ここで評価されるのは、振る舞いや血筋じゃない。結果だ。貴様こそ弁えたらどうだ。神代廉也」とエディ。


 神代はエディに詰め寄る。「言葉に気を付けろ。ここは日本だ。調子に乗るなよアメリカ人」


「言葉じゃ分かんないならどうする?」


 あからさまな挑発。


「受けて立とう」と神代。


 ここで受けてしまうから馬鹿だ。受けなければエディが一方的に悪いのだから。

 そして、神代の仲間がエディを押さえ、神代が拳を振り上げ、エディの頬目がけて振るう。

 神代の腕は、朝倉準一に掴まれ、動かない。


「邪魔をするな」神代。

「やるのであればフェアに行きましょう。先輩」と準一。腕を離すと、神代は腕を抑える。


「下級生が、出過ぎた真似を!」と準一は神代の仲間に胸ぐらを掴まれる。


 少し息を吐き、準一は胸ぐらの腕を無理やり離し、そのまま肩を掴み、背中を向かせ、掴んだ腕を背中に押し付ける。

 無理やりなそれに、掴んだ相手は痛みにより声を上げ、膝を付く。


「おっと、失礼。つい」とわざとらしい言い方で、準一は腕を離す。


 準一がそう笑顔で言うと、会場の照明が消え、壇上の照明が点き、赤羽岬が出て来る。


「その元気は選抜戦か、魔術師対抗戦まで残しておいたらどうじゃ」と伸びた武将髭を杖を突いていない左手で撫でる。


 そして神代達は離れ、壇上に向き、一度準一達を一瞥する。


「それでよい」赤羽岬は満足そうに目を閉じ、続ける。「よいか、魔術師対抗戦はこの碧武に於いて初めての行事じゃ。その為、何を行うかは秘密にしておく」


 知っているのは運営側、赤羽岬達だけ。

 練習も何も出来ない。


「魔術師対抗戦は、選抜戦と違い夜間に行う。そして、一般生徒の目に入らない様に空間魔法を使用する」


 それと、と意味ありげな笑みを浮かべ、赤羽岬は武将髭から手を離す。「今日は余興を用意しておる」 

 あんまりいいモノではない気がした準一は訝しげな表情を浮かべた。




 防弾性の高いスーツを着て、ヘルメットを付け、ゴーグルを降ろした集団。

 それの乗る小型揚陸艇が会場のあるそこへ乗り上げ、集団がサブマシンガンを構え降り、会場へ走る。

 しかし、これは港の大和は確認済みだった。

 まだ沖合の時点で、後部主砲、魚雷、ミサイル、CIWSで迎撃すべきだった。

 だが、それを行わなかったのは、余興である為。赤羽岬からの命令だからだ。

 乗り込んだ集団は大和を確認していない。

 それは、運営側の政府認定魔術師が大和の姿を消し、見えない様にしているからだ。


「撃ちたかったなぁ」

 

 呟いた弩級戦艦大和艦長、九条功。艦橋で他の船員がため息を吐く。




 会場のある建物の入り口にグレネードランチャーが撃ち込まれ、扉が引き飛び、集団が流れ込む。

 一般生徒は別の棟に居る。時間は深夜、大概は寝ている。

 その棟は大和と同じく、視認できない様になっている。

 生徒は何が起こっているかなんて知らない。

 だが、それにカノンが気付かないわけが無い。


 何か不穏な気配を感じ、ベットから飛び降り、横でスヤスヤと寝ている結衣の頭を撫でると、持って来ていた大型バックから分解された銃を取り出す。

 それを組み立てる。対人用の狙撃銃。装弾数20発。連射可能。スコープ倍率変更可能。サプレッサー付き。

 腰にはホルスターを巻き、ハンドガンを手に、部屋を飛び出し、屋上へ向かう。

 パーティー会場は屋上からほぼ向かいにある。



 パーティー会場では準一達会合会メンバーに銃口が向けられ、赤羽岬も同様だ。

 押し入った集団にされるがままだ。

 何か武器を持っていないか、と確認された赤羽岬は何もないと分かると、準一の前に突き飛ばされる。


「大丈夫ですか?」と準一。赤羽岬に手を差し出す。

「おお。すまんのう。年寄りに冷たい奴らじゃ」赤羽岬は差し出された手を握り起き上がる。


 同時、準一が右耳に仕込んでいた小型無線機が鳴る。相手は分かっている。

 この無線機の相手は、義妹であるカノンだけだ。


『兄さん。今向かいの棟の屋上です。押し入っている大概の頭を撃ち抜けます』


 流石、と小さく呟き赤羽岬に顔を近づける。「義妹が向かいのビルから狙撃可能な体勢に入ってます」


「何、大丈夫じゃ。ここに居るのは化け物みたいな強さの魔術師じゃろ? だから余興なんじゃよ」

「では、彼らは貴方が入りやすいように?」

「警備を緩くしたんじゃ」


 このジジイ。と準一は苦笑い。

 すると、1人が準一にハンドガンを向け、発砲一回。

 見せしめの為1人殺そうとしたのだが、準一は弾丸を握っており、それを地面に落とす。

 集団と生徒数名は驚き、準一を見る。


「じゃあ、皆の衆」と赤羽岬が手を合わせる。「武装した彼らだけを倒すんじゃ。味方の生徒に被害が出ないようにな」




 屋上からスコープを覗いていたカノンはため息を吐く。

 会場では、何か炎だったり電撃だったり他多数諸々が飛び交っている。

 無駄足だった。とライフルを下ろす。

 するとガチャ、と屋上の扉が開き、1人の女子生徒が出て来る。


「……あなたの事はしっています。朝倉カノン」


 いきなり声を掛けられたが、別に驚きはしない。 

 握っていたハンドガンをそのままに「あなたは?」と聞き返す。


「曽屋千秋です。あなたの1つ下。1年生です」

「そう。ここへは何しに?」

「嫌な気配がしたので、多分、あなたと同じです」 


 息を吐き、カノンはハンドガンをホルスターに仕舞う。

 魔術師の事を知っているのだと、本能的に悟り、警戒を解く。


「曽屋千秋、確かあなた。私の兄さんを睨んでいましたよね?」


 曽屋千秋が睨んでいたのは気付いていたカノン。

 名前がはっきりしたので聞いておくことにした。


「ええ」


 千秋は否定せず、肯定しカノンに近づく。「私は朝倉準一が嫌いです」


 別にそれに腹が立ったりしない。今まで何人が兄の事を嫌い、と言ったか数えていない。

 だが、不愉快であるのは確かだった。


「あの男は、私のお姉さまを腑抜けにした」風が鳴り、千秋は横髪を耳に掛ける。「私のお姉さま。五傳木千尋。ご存知ですよね?」


 知っている。腑抜けになった、とそう言わせるような理由もだ。

 過去、まだ碧武に来る前、準一はカノンを連れ、任務に参加しており、その帰り。

 準一と同じく、機械魔導天使を所有する日本人の少女が危険。と知らせが入り、救出に向かった。

 場所は案外近い場所。

 着いてみると、敵機械魔導天使が、五傳木千尋の乗る機械魔導天使、エリオットを一方的に攻撃していた。


 準一は迷わずアルぺリスで参戦、敵を直上から突き刺し、大破させ千尋機を救出。

 この時、まだ五傳木千尋はあまり人に頼るタイプではなかった。

 だが、準一に助けられたことにより、気が緩んでしまった。

 

「お姉さまの参加していた作戦、それに茶々を入れた。……納得できません。どうして、あなたの様な出来た人や、揖宿さん達は朝倉準一を慕ってるんですか?」

「教える必要があるかしら?」


 千秋は目を細め、右手を差し出す。「あなたや、結衣さん。妹だからとあんな男の側に居るべきではありません。一緒にこちらに来ませんか?」


 はぁ、と大きなため息を吐き、ライフルを背中に背負う。「この学校に来て思うのだけれど、この碧武には偉そうな人間が多いわ」


「あなたもそう。もっと視野を広くした方が良いわ」とカノンは笑みを向ける。「つまらない人間にならないようにね」

  

 そう言い、屋上から去る。残った千秋は会場を睨み付ける。


「必ず、殺してやる。朝倉準一」


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