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選抜戦前顔合せ

 大和の航海は順調だ。久々にフェニックス無しの海上航行は、船員にとって結構嬉しいものだ。

 その所為か砲雷長は砲塔をグルグル回して遊んでいる。


「はは。まさかパーティー会場まで大和を使うなんてね」


 と後部甲板で釣竿を垂らし、タバコを咥えた九条が言うと、隣の準一は引いていた竿を上げる。

 アジが釣れた。


「俺も驚きです。すいません」

「いいさ。それよか……」


 九条は隣の準一を横目で見ると困った顔をする。「何でゴスロリ?」


 準一はメイクされた顔を顰める。「だ、代理の……方針です」


「まぁ、似合ってるか似合って無いかで言えば似合ってるからね」


 言われるが、全く嬉しくない。

 

 超結婚宣言。の宣言の直後だ。準一は突然現れた志摩甲斐悠里に攫われ、突然出現したメイク室でメイクされ、着替えさせられた。

 黒の口紅。謎のファンデーション。マスカラ。カツラ。その他諸々。

 

「兄さん。そのスカートの中はどうなってるんですか?」


 偶々出くわした義妹からのこの一言。

 準一は項垂れるしかなかった。

 そしてその後、まだ時刻は3時となっていない中、突然選抜戦参加メンバーはヘリに乗せられ大和へ。

 代理曰く『選抜戦前の顔合わせを兼ねたパーティーだから。粗相のないように』

 どうやら、超結婚宣言は延長らしい。

 選抜戦? 待って。それって千尋とかも居るはず。と準一はせめて恰好は変えようと思ったのだが、却下。

 そして、今に至る。


「あのさ。あまりに不憫だからスーツ用意しようか?」


 見かねた九条からの提案。

 まさに救済案。準一は「いいんですか?」と飛びつく。


「いいよ。あんまりに……本当にその恰好で行くとねぇ。女装好きの変態と勘違いされちゃうからね。さて、じゃあ釣りは終いだ。着替えようか」

「はい」

 

 準一は九条に続き艦内に入る。




「最初聞いた時は驚いたな」とカノンは前甲板の主砲下、手すりによりかかるロンに近づく。2人とも制服だ。


「何が?」

「決まってるでしょ。あなたがネバダのテストパイロット部隊だなんて」


 学校では常に女の事しか考えていないようなこの男。

 

「まぁ誰にも言ってなかったしな。最初から知ってたのは代理位だ。朝倉準一は後からだな。それよりデートしない?」

「引き千切ろうか?」


 ニッコリ笑顔のカノン。ロンは内股になり股間を抑える。「いえ、結構です」


「分かったならいいや」




「いいか結衣。こうだ。猫撫で声でご主人様。ただ今からこのオムライスにおまじないをかけますね?」


 メイド服のテトラは用意された部屋。テーブル前で恥ずかしがる結衣に言う。


「さぁ! やれ!」

「ご、ごごごっごご主人さま……言えるかー!」

「てめぇ! メイドの心はサービス精神! さぁ、兄に甘えるだけじゃない、気の利く妹への第一歩だ!」

「やってられるかー! ってか、なんであたしこんな事やってんのよ!」


 そんな結衣の叫びに構わず、テトラは先ほどのソレを強要する。




 パーティー会場は陸地だ。新潟にほど近い山間から海にかけての大規模なモノ。

 見渡せばすぐに分かる。

 ここが選抜戦の会場なのだと。


 会場に着いた時、辺りは既に暗く、大和は用意された港へ停泊。碇を降ろし、準一達は降りる。


 準一達は適当に談笑しながら控室へ。

 パーティー用に用意された衣装へ着替える。

 女子組はそれなりのドレス。

 まぁ、肩が出てたりとか。

 男子組はパーティーっぽい服。

 ちなみに準一は黒いスーツ。


 案内役に控室からパーティー会場に案内される。

 白い丸テーブルが幾つも並び、明るい照明に照らされた会場内。

 普通の学校の体育館の数倍以上の会場内に、財界有権力者、大企業社長。陸海空自衛隊高官。陸戦隊、飛行化戦隊、機甲艦隊高官。

 そして、各碧武校からの代表者。


「あ! 準一―!」


 と会場に入って直ぐの準一に声が掛り、向くと赤いドレスの五傳木千尋が居た。


「よお。よく気づいたな」

「へへー。あたいは案外周りを見てるからな―」


 はいはい。と準一が言うと結衣、カノンに両腕を拘束される。


「兄さん。また千尋さんですか。仲が良いですねー」

「兄貴、何であの関東校エースと仲が良いの?」


 直後、準一の前に育ちの良さそうな男子生徒が立つ。

 茶髪ロン毛。目は細いがカッコいいの部類だ。


「初めまして。朝倉準一」

「初めまして、閃光の伯爵さん」


 閃光の伯爵と呼ばれた男は「ほぉ」と準一の顔を覗き込む。「俺の事を知ってるのか?」


「ええ。先輩は、東北北海合併校のエース、須崎大悟ですから」

「そう言うお前は九州校で化け物みたいな強さを誇っているらしいな」


 間違った情報です。と準一はカノン、結衣に離れるように言う。


「だが、揖宿が手を引いたんだ。それだけの強さなのだろう。楽しみだ」

「先輩。使用機体は?」


 須崎は背を向ける。「トールギスだ」

 あー。あの人Wウィング見てるんだな。と準一は少し好感度が上がる。

  

「千尋、あの須崎先輩の機体って分かるか?」

「うん。今年は白のシエルの筈」


 シエルか。と準一は考える。

 シエルはイギリス製のベクター。中距離戦に於いては専用装備、右腕に固定装備する180mm砲を使用する。

 AIは新型で高性能。目標自動照準ターゲットオートロック機能は固定物へ特化したモノだが、パイロットの須崎は強い。

 

「厄介だな」

「うん。去年はあたい苦戦を強いられたからね」

「お前が?」

「まぁね。弾幕が違うからさ。ほら、あたいは近接戦闘専門だから」


 千尋はニカと笑う。

 そう、五傳木千尋は準一と違う。近接戦に於いては準一と五分だが、射撃戦は得意ではない。


「で、あんたの妹。どっちが近接戦強いの?」

「ほれ。あの膨れっ面でお前を睨んでるボブヘアの」

「ウソ! マジ!? カノンちゃんに負け劣らずの可愛さ!」


 千尋は結衣に飛びつき、頬をすりすりする。「うはははー! 柔らけー!」

 結衣は否定の言葉を出せず、されるがまま。

 見かね、カノンが千尋を引っぺがしに入る。


 それを本郷、綾乃、テトラ、ロンは呆れ顔で見る。

 だが、準一はそれに目を向けず、自分を睨んでいる人間へ目を向ける。


 3つほどテーブルを挟んだ向こう。ショートヘアの女子。

 黒のドレス。

 準一の知っている相手だ。


「曽屋千秋か」と疲れた顔で、ため息を吐く。


 このパーティー会場は千尋や、須崎の様にフレンドリーな人間だけではない。

 曽屋千秋の様に、準一に怒りを孕んだ視線を向ける人間だっている。

 それには理由がある。

 コネ疑惑をまだ信じている。

 妹を含める女子関係での嫉妬。

 力の嫉妬。


 疲れるなぁ。と準一は曽屋千秋に背を向けた。

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