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京都②

 何が影響しているか。何が何に影響しているか。簡単に言えば京都に咲き乱れる桜の事だ。


 過去の大戦と言っても第二次世界大戦ではない。大日本帝国樹立後間も無く、日本二大召喚魔術の中心部。京都。日本で起こった魔術大戦の中でもトップ2のそれは『京都事変』と呼ばれた。


 敵は教団の魔術師大隊。日本海から来たそれに、大日本帝国は領海防衛海軍艦隊を差し向けるも、既に幾つかの回路は実用化されており、魔導船の前に艦隊は呆気なく撃沈され、海岸線への上陸を許した。政府は直ぐに陸軍を差し向けた。しかし、魔術の前に戦果はあまり芳しくなく、これ以上は兵の浪費。と考えた政府は京都に依頼を出した。


 攻め入る賊を倒せ。


 この時、御舩家南雲家は互いに協力した。高位の式神を行使し教団を迎え撃つ。しかし教団はあらゆる召喚獣でそれに対抗。防衛線は京都まで下がった。


 その際、両家は互いに一つの召喚術式を編み出した。それこそ、町中に咲き乱れていた桜を利用した術式。桜は古来より魔力的な力を秘めた木で、町中のそれを利用した式神召喚はこれまでのモノよりも強力なモノになった。


 それを使用し、両家は教団を撃退。大日本帝国を救った影の英雄として名前が知られた。


 京都の桜はそれの名残、というよりは召喚の際の魔力が込められて枯れない桜、となっている。



 

 その時、京都の街中には咲き乱れる桜を眺めながら歩く男が居た。白人ではない。東洋人だ。彼はヨアヒム。反日軍に所属する魔術師だ。空間魔法により魔術師の位置は全て把握していた。


「全く。これだけ暑いというのに桜が咲いているとは。違和感しかない」


 そう呟く彼は、前から歩いてくる赤い着物の女性を見つける。


「あれは……死者か」ヨアヒムはその着物の女性が横を過ぎると後姿を見つめる。「しかしどういうわけだ。俺の魔術師設定空間拘束用空間魔法には引っかからなかったぞ」



 そんな呟きを知らず、着物の女性。朝倉舞華は携帯を握り不機嫌だった。なぜか、それは弟である朝倉準一が電話に出ないからだ。


 彼女が京都に居る理由は、碧武近畿校へ夏季教育研修に参加していたからだ。

 

「全く」と舞華は背負った長い筒を一度下ろすと大きくため息を吐いた。「折角一緒の場所に居るんだから相手してくれても良いだろう」


 すると舞華の携帯が鳴った。相手は準一から。舞華はワンコール以内に通話ボタンを押す。「もしもし?」


「悪い、できれば来てほしい場所がある」


 その通話後、舞華は向かった。御舩家へ。 




 ヨアヒムの空間魔法は以前準一が受けた機械魔導天使を拘束するそれと同じ効果もあった。故に、御舩家、南雲家は今の段階で召喚していない式神は使用できない。


 機械魔導天使と式神、そして召喚獣は一緒くたに扱われる。何れも召喚し使用するモノだからだ。


 しかし、準一の機械魔導天使の力は封じられなかった。


 その理由はシスターライラから貰っていた護符があるからだ。その護符はシスターライラが聖なる加護を付加したモノで、空間魔法の効果を受けなかった。


 どうやらこうなる事を予想していたらしいシスターライラに呆れながらも、準一は感謝した。そして、御舩家当主御舩京華が自分を頼った理由が分かった。


 空間魔法により使用できる式神は、今の段階で召喚している式神だけ。戦力は限られている。 



「取りあえず、使える式神数体を偵察に出したわ」と京華。さっきと同じ部屋。準一は頷く。「出来れば一般人は退けておいてください。邪魔になります」


「分かっているわ。協力してもらう以上、貴方に都合の悪い事にはしないわ。今日の夕刻より街の桜の魔力を使用して人払いの魔法を使うわ」

「助かります」


 と準一が言うと、御舩家に仕える男が入室。「京華様。お客様です」


 舞華が来たか。と思い準一達は門へ向かい絶句した。門の前には野球用バットを入れる筒に近いそれを背負った着ぐるみがいた。犬の着ぐるみ。息が荒い。


「朝倉準一。随分とファンシーな知り合いが居るみたいですね。夢の国の関係者ですか?」


 冷たい茉那の視線。準一自身こんな知り合いは知らない。と言おうとすると着ぐるみは頭を取る。


「ふう。暑かった」


 舞華だ。彼女は何かやりきったぜ、みたいな顔で着ぐるみを脱ぎ、赤い着物を見せる。


「お前着物の上にソレ着てたのか?」

「そうだ。中々暑いぞ。着るか?」


 着ねえよ。と準一は後ろの京華に向く。「俺の姉です」


「あ、どうも。朝倉準一の姉。朝倉舞華です」


 これはこれは。と京華も頭を下げ、茉耶も続く。代理は居心地が悪そうに準一の袖を握りしめている。


「朝倉準一。貴方の姉はどれ程戦えるのかしら?」京華の問いに「そうですね」と準一は一度舞華を見て視線を京華に戻す。


「簡単に言えばすごく戦力になりますよ」


 舞華の魔法。刀の切っ先の向く箇所を任意に起爆できる。任意箇所起爆魔法。それに加速魔法。戦力になるのは間違いない。


 準一からの称賛、舞華は「いぇーい」と京華にピースを向けた。




 夕刻。御舩家の剣術稽古場に準一達は居た。準一は渡された木刀を左手に持ち、眼前の対戦相手を見る。式神、鬼童丸。高位の式神で、体術に優れている。


 ちなみに稽古場、それを見物する他の人間は正座している。


「両者、遠慮はいらない。しかし節度を保った戦闘を行え」


 京華のその言葉の意味は、暴れても構わないが壊したりするなよ。だろう。


「遠慮は要りませんよ? あなたの本気で私に向かって来てください」


 鬼童丸の何か挑発するかのような言い方。しかし準一は顔色を変えない。ただ面倒臭い。と言いたげに無表情。息を吐く。


「では、両者構え」と京華の声に2人は互いを見る。「始め」



 ――――瞬間。鬼童丸は膝を付き、木刀を落とし、うなじに突き付けられた木刀の切っ先の感触に驚く。



「勝負あり」


 言ったのは京華ではない、準一だ。


「加速魔法ですか?」と鬼童丸が聞くと準一は「ああ」とうなじから木刀を下ろす。


「しかし」鬼童丸は立ち上がり、後ろの準一に向く。「発動術式はいつの間に? ほぼ開始と同時でしたよ?」


 発動の速さ。発動術式を組むのは最低でも数秒は掛る筈。一応原則としてこういった決闘に近い戦いでは開始、の声の後に組む。


「開始の後に組んだんだ」と準一は言うと京華に向く。「当主、もう良いでしょう? これ以上は面倒臭いんですが」


「本当はもっと戦いが見たかったのだけれど。鬼童丸は御舩家最強の式神よ?」


 それが開始とほぼ同時に瞬殺。納得いかない。


「京華様。申し訳ありません」鬼童丸が謝ると「はぁ」と京華はため息を吐く。「良いわ。門の前で警戒をお願い」


 短い返事をすると鬼童丸は稽古場を後にする。


「凄いですね。あの鬼童丸を一撃」


 茉耶が感嘆の声を漏らすと京華はクス、と笑い準一を見る。「一撃、ではないわ。開始直後の魔法発動後、後ろに回って鬼童丸の膝を蹴り、体勢を崩した瞬間に木刀を向けた」


「あの一瞬で? まさか、見えませんでした」


 驚きの声を出した茉耶は一度母親を見て、視線を準一に戻す。「あれが、特級少尉朝倉準一」


「でもまだ本気は出していないな」ふと舞華が声を出すと「余計な事言うなよ」と言わんばかりの準一からの視線。舞華は「おっと」と口を閉じる。


「茉那。とんでもない魔術師を腹の内に抱えたモノね」京華は言うと瞼を閉じ、笑みを浮かべる。「朝倉準一はこちらに渡しなさい。貴女には荷が重すぎる存在よ」


 一瞬、代理は震える。「い、いやです」


 明確な拒否の言葉、京華は「そう」と準一を見る。「直に夕食になるわ。広間に行きましょうか」と立ち上がる。準一は木刀を隅の箱に収め、皆に続く。



 夜になり、街中の桜の花びらがほんのりと薄い輝きを浮かべ、ヨアヒムはそれを見て笑みを浮かべる。あたりには誰も居ない。彼の目の前には大量のお札。全て式神を構成するお札だ。


 その札は夜風に吹かれ宙を舞い、桜の花びらに混じる。


「この式神は桜を使用するモノ……これは御舩、南雲、どちらの差し金か」


 ヨアヒムは残ったお札を拾い、2枚に束ね右手で握り潰す。「召喚術式を任意変更。我に従え、従者共」


 その言葉は魔法の発動呪文に似たモノ。


 ヨアヒムの足元に魔法陣。彼の手からは白の光、それが細かに散りゆくと風が鳴り陣が消える。次の瞬間には彼の周りには2人の男。南雲の式神、鷹。御舩の式神、鷲だ。


 何れもヨアヒムの召喚術式任意変更魔法により本来の家に仕える事を忘れている。


「貴様らは其々の家を攻めろ」ヨアヒムの指示に式神達は頷く。「では、俺も本気を出すか」


 そう言うとヨアヒムは自身に魔法を使用する。防御系、硬化魔法に近い。


 術式形成、魔法―――発動


 その発動と同時、ヨアヒムの全身に紫の魔力が纏わり付き、形を作っていく。形成される形は甲冑。形成完了。


「さて、雑魚の始末だ。朝倉準一、貴様はその後だ」の後、式神は目的地へ向かう。それを見るヨアヒムは笑みを浮かべる。「この俺の魔法装甲、貴様に抜けるか」





「いやぁ。申し訳ないな朝倉準一。御舩の客人である貴様を我が南雲家に呼んでしまった事、謝罪したい」


 夜風に舞う桜の花びらが良く見える。南雲家の屋敷庭園。


 そう言った南雲伊佐六に準一は顔を向ける。「別に謝罪などと。自分はどちらにも付きません。南雲さん。本題に入りましょう」


 準一は一度息を吐き、伊佐六に身体を向ける。「御舩家への協力要請。俺を通して出すつもりだったんですよね」


「そうだ」伊佐六は伸びる武将髭を右手で撫で、庭園の庭に腰掛け、空の花びらを見る。「ヨアヒムと言う男。……相当な男だ。魔法による白兵戦に於いては教団も手を焼いているらしい」


「では、御舩に協力を仰ぎ、叩こうと?」

「そうだ」


 それを聞き、準一は落ち着いた息を吐く。「協力的な言葉に安心しました。これは御舩家現当主、京華さんからの伝言です。敵の強さと、協力者の有無が確認できない為、そちらの手を借りたい……だそうです。南雲さん。返事は承諾、でよろしいですか?」


 ああ。の伊佐六の声の後、南雲家の門の方から発砲音が響く。


「何が!」伊佐六が立ち上がり、準一が剣を抜く。「南雲さん。後ろへ」


 伊佐六が従い、下がると、門の方。屋敷の屋根。南雲家の式神。鷹。鷹は半月を背に準一達を見下ろす。


 鷹は刀を構えている。


「何故鷹が!」伊佐六が言うと使用人が庭の伊佐六に近づく。「当主! お逃げください!」 


「止さんか! 客人の前ぞ!」


 自分に逃げろと言う使用人を一喝。伊佐六は準一の背中を見る。「朝倉準一。やれるか?」


「やれるかやれないかではありません。ヨアヒムの魔法を解除しない限り帰宅できないので」


 本当は日帰りだった京都旅行。今頃は碧武の家に戻っていた筈。


「南雲さん。あの式神はそちらのですか?」

「ああ」

「では、あの式神は俺を狙っています。倒さなければいけません」


 一応は南雲の式神。目の前で倒す事になるかもしれないのだ、許可は取っておこう。準一は後ろの南雲に目をやった。


「構わん」


「どうも」準一の声が聞こえると同時、音もなく準一は消え、屋根の上の鷹は刀身が碧に光るブレードに貫かれていた。鷹の胸部に突き立てられたブレードを持つ準一は無表情にブレードを抜く。


 月を横に据えた準一を囲む様に桜が舞い、式神、鷹は一枚の札となり散る。


「何と……幻想的な」


 伊佐六の声。準一は顔を向ける。「では、協力者の捜索は頼みます」


「俺はヨアヒムに接触します」


 分かった。と伊佐六が言う前に準一は屋根を蹴り、桜の花びらの舞う京都の町へ飛び降りた。





「まさかウチの鷲、が乗っ取られるなんてね」


 御舩家門前。そう言った京華は階段下の吹き飛んだ地面を見る。そこには舞華が太刀を構え息を吐いている。彼女の手にはお札。式神のモノだ。


「ねぇ、茉耶。このヨアヒムの件は予知夢で見えなかったの?」


 ふと代理が聞くと茉那は目を向ける。「朝倉準一と一騎打ちする所だけは見えました。でも」


「そこから先が見えない?」

「はい」


 すると階段の上がりながらの舞華が「おーい、準一は?」と上の3人に聞く。


「恐らくヨアヒムに接触しているのではないかしら」


 京華の言葉に舞華は援護に行こうとする。


「舞華、と言ったかしら。貴女にはここに居てもらうわ。これ以上敵が来ないとは言い難いでしょ」


 実は舞華は大規模魔術以降、準一に仕えている。そんな準一は南雲家に出向く前、舞華に頼みごとをした。


 戦えない代理を護ってくれ。一応お前のクライアントだぞ。


「分かった」と舞華は息を吐く。


 仕えるべき準一の命令は絶対。舞華は下に見える京都の街を見て願う。


「気を付けてくれよ」


 万一に準一が負ける事はあり得ない。とは踏んでいる。しかし心配なのに変わりなく、舞華は太刀を下ろす。




 京都駅から少し離れた新幹線の線路上にヨアヒムは居た。紫の魔法装甲の輝きは夜に映え、舞う桜の花びら、倒した式神の札は彼を幻想的に演出する。


「来たか」ヨアヒムはそこを向く。自分より先の線路。そこに刀身が碧に輝く剣を持った男。朝倉準一が居る。


「待ちかねたぞ! 朝倉準一!」


 ヨアヒムは力強く右足を踏み出す。強風が鳴る。 


「俺は待っていなかったよ。全く、日帰り旅行を一泊にしやがって」面倒臭そうに準一は息を吐く。「ヨアヒム、と言ったか。取り敢えず初めまして」


「ああ。初めまして。しかし律儀だな。何故機械魔導天使を使わんのだ。俺に合わせてフェアにしているつもりか?」

「随分と自分に甘いな。フェアになんかしているつもりはない。機械魔導天使を使用していいなら使用してすぐに殺しているさ。だが、使用しない

「何故だ?」


 準一は少し笑みを浮かべる。「初めて戦うんだ。白兵戦が専門なんだろう? 戦闘に於ける情報収集だ」


「そうか! いい度胸だ!」


 ヨアヒムは魔力による装甲に覆われた右腕を後ろにやり、左足で跳躍。


 まずい。と感じた準一は紋章盾を前に展開。ヨアヒムは盾に右拳を叩きつける。一秒と経たず、盾は貫通。ヨアヒムの拳はガードする準一の腕に当たり、準一は吹き飛ばされる。


「流石に堅いッ!」ヨアヒムは右拳を見て、吹き飛ばした準一を見る。居ない。


 瞬間、ヨアヒムは衝撃に押され転がるも起き上がる。


「加速魔法でここまで戻って来たか」


 自分の居た場所に佇む準一に目を向ける。


「驚いたよ。あんたがそこまで力持ちとは……その甲冑も相当堅い」


「驚いたのはこちらだ」ヨアヒムは口から出た血液を手の甲で拭う。「俺のブレイクグローブは核シェルターを吹き飛ばす。それを受けて無傷とは」


 準一は硬化魔法を発動させていた。その為、ヨアヒムの全力拳。強力なパンチ力を付加させるブレイクグローブを受けても無傷だった。


「今まで抜けなかった物は無いんだがな」


 ヨアヒムは準一を見て笑みを浮かべる。硬化魔法。使用者により強度は違う。ブレイクグローブで抜けないかった。つまり、それだけ奴は強い。


「もう一度だ」


 と力を付加した拳、ブレイクグローブを準一に振るうも、拳は宙を切る。次も来る。加速魔法を予想したヨアヒムは笑みを浮かべる。彼は目の端に準一の影を見つける。


 準一は貰った。と確信した。だが次の瞬間にはヨアヒムの姿は無い。振るった剣は虚しく宙を切り、準一は驚くと近づく気迫に気づき、硬化魔法を発動。それは正解で、準一は強烈な力に再び吹き飛ばされた。


「これは想定外だったようだな」ヨアヒムの声が聞こえ、準一は体勢を立て直し、考える。奴は居なくなり、俺は吹き飛ばされた。


 思い出せば似た経験はあった。敵で同じタイプが居た。攻撃に特化し、それを損なう事のない防御力。パワードスーツ。ジェイバック。


「迂闊だったよ。あんたそんな事が出来るんだな」準一は剣を構える。「魔法を攻撃防御に使用した上で加速魔法か」


 そうだ。と声が聞こえるとヨアヒムは消え、準一の背後に出現し、拳を振るう。準一はそれを回避し、剣を右に振るう。ヨアヒムはそれを腕で受け止め、刀身を掴む。準一はそんなヨアヒムに加速魔法の蹴りを叩き込み吹き飛ばす。


 隙を突かせない。間隙を与えないように準一は加速魔法で接近すると硬化魔法を発動させ、力任せに剣を振り下ろす。ヨアヒムは体勢を立て直すも間に合わず直撃を受ける。


 爆発に似た砂埃が立ち。準一は一度息を吐く。すると煙の中からヨアヒムが出て来る。


「まさかここまでとは」のヨアヒム。甲冑の右肩部がボロと崩れ落ちる。「俺の魔法装甲が抜かれるとは……想定外だった」


 崩れ落ちた装甲は小さな塵になり、夜に消える。


「まだ戦うか?」


 準一は聞く。ヨアヒムは「いいや」と首を振る。


「今日は止めておこう。もう無理だ。魔法装甲が無い以上、俺はお前と互角に戦えない」


 その通りだ。ヨアヒムは魔力装甲があって初めて準一に対抗できたが、それが無ければ攻撃が命中した時点で死ぬだろう。


「俺を拘束するか朝倉準一?」

「いいや。あの装甲はあんたの魔力と連動している。直に回復するだろう。俺ももうあんたと張り合えるだけの魔力は無い」


 何? とヨアヒムは聞き返すが準一は答えない。「まぁ良い」とヨアヒムは嘲笑すると「また次の機会に」と歩き去る。


 それを確認し、準一は肩で息をする。加速魔法硬化魔法の同時使用ではない。シスターライラのくれた護符が原因だ。護符は制限された召喚系の力を解放できる。だが、それには一部体力を持って行かれる。


 準一は剣を使用し続けた。つまり、持っている間体力を奪われていった。


「はぁ……疲れた」準一は言うと剣を直し、線路から下に飛び降りると御舩家へ向かった。




 式神たちは協力者を発見できなかった。居るかどうかさえ分からないのだが。そして、舞華たちの所へ敵は出現しなかった。


 戻った準一は取り敢えず報告をした。「ヨアヒムに逃げられた」と。それに京華は「そう」と小さく言い他は黙っていた。


 そして翌朝。準一達は御舩家を後にし、碧武へ向かう為新幹線に乗った。




「お母様。朝倉準一を奪うつもりじゃなかったんですか?」


 茉耶が聞くと京華は呆れた、と言いたげな顔を浮かべる。「残念だけど、茉那はつまらくなったわ。あの男を奪った所で反応は見えてしまう……本当につまらない」


 それに茉那はざまあ見ろ。と言わんばかりの小さな笑みを向け、部屋を後にする。




「え? 選抜戦ってベクターだけじゃないんですか?」


 新幹線内席。準一は向かいの代理に顔を向ける。


「そうだ。選抜戦時、各校会合会に所属している魔術師は夜間に内密に行われる魔術対抗戦に参加するんだ……知らないのか?」


 言った舞華に準一は首を振る。「知らないって。なにソレ」


「結局さ、今年は特になんだけど。会合会って魔術での評価が目的なわけよね。でもさ、昨今はそういった事がしやすい戦闘はほぼ起きないの」


 確かにそうだ。会合会が参加できそうな任務はほぼ無かった。


「だから、今年は特になんだよね。君とか千尋ちゃんとかが頑張っちゃうからねぇ」

「まぁそういう事だ。戦闘に参加できない以上、そういった場を設けるしかない。それに至ったわけだ」


 マジかよ。と準一は息を吐く。「全員が参加……ですか?」


「そうだね」

「会合会の魔術師なら全員強制参加だ。まぁ、魔法の種類にもよるがな」


 と舞華は言うと「頑張れよ」と準一の肩を叩き、準一は更に疲れたような表情を浮かべる。

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