七夕のお祭り②
やっぱり代理と準一のコンビは書いてて楽しいです
ステージイベントはマッスル同好会だけでなく、希望者も行えた。マッスル同好会はサーカス紛いのアクロバット。謎の喜劇。そして希望者はコント等を行った。
場所は体育館。準一は人ごみが苦手なので今回は一番後ろの席に座って、壇上を見ている。イベント時は自由席なのでどこに居ても問題はない。
「あれ? 特級少尉殿は何をふけっているのかな?」ふと声の方を見ると、代理がジュースの入った紙コップを二つ持って笑みを向けている。
「ふけってなんか」と準一は言おうとすると代理は「はい」と紙コップを準一に近づける。「美味しいよコレ」
「ありがとうございます」
準一は受け取り一口。リンゴジュースだ。
「準一君。皆の所に行かなくていいの?」代理が聞くと準一は口からコップを離す。「ええ。俺は人ごみが苦手なので」
「はは。あたしも」と代理は準一に顔を向け、目が合う。「苦手かな。……こうやって準一君と2人で居る時が一番落ち着く」
と代理は準一にピッタリくっ付く。
「代理?」
「良いじゃん。……2人きりの時は素で良いって言ったんだし。校長代理って結構疲れるんだよ?」
「書類整理とか?」
「ううん」代理は頭を準一に預ける。「ウチは問題児が多いから」
「問題児ですか……困りましたね」
「はは。その一番の問題児が君だよ」
どこかそう言われそうな気がしていたので準一は息を吐く。
「それでも……それでも、一番頼りになるから困る」と代理は瞼を閉じる。
こんな所、一般生徒に見られてしまえば俺は血祭に上げられるな。主に代理のファンから。
「良いよね結衣ちゃんとカノンちゃんは……」
「らしくないですよ。本当に」
「でも本心だし。羨ましいよ。準一君って、普段冷めてるけどいざって時には頼りになるし、家庭的だし」
「過大評価し過ぎです」
と準一がため息交じりに言うと代理は頭を上げる。「ねぇ……迷惑だった?」そう言うと準一に顔を向ける。
何か、大切なのと離れさせられたようなその表情。準一は見て再びため息を吐いた。
「迷惑なんかじゃないですよ」
「ホント?」
「ホントです」
「えへへ!」と代理は準一の腕に抱き着く。「ホント……ありがとう準一君」
「いきなりなんですか?」
悪巧みの予兆では? と思った準一が言うと代理は顔を向ける。
「良いじゃん。あたし迷惑かけてるの悪いと思ってるんだよ……皆の前だとこんな事出来ないし。今は2人きりなんだかんね」
「そうですか……まぁ迷惑かけられてるのは事実ですね」
「うぅ」と代理が声を出すと準一は微笑み、壇上を見る。「これも、あなたが企画した事なんでしょう?」
「うん」
「だったら良いじゃないですか。迷惑位。皆楽しんでるんだ。良い方の迷惑です」
と準一の言葉に代理はポカンとした。「準一君ってさ、結構楽しんでる?」
「ええ。前にも言いませんでしたか。今、俺はすごく楽しいんです。皆と馬鹿な事で騒いで……魔術も兵器も関係ない。こんなバカ騒ぎが楽しくて堪らないんです」
「そっか……そうだね」
代理は一層腕を強く抱く。顔を準一の腕に近づける。
「……準一君。京都の件。本当に良いの? 来たら絶対迷惑かけるよ」
「でしょうね」
と準一はジュースを飲み干す。「これは言っておきますが」
「あなたが俺と2人きりで落ち着くように、俺もあなたと2人の時が一番落ち着きます」
「うぅ……何か恥ずかしい」
「はは。すいません。ガラにもない事を言いましたね」
準一はコップを持った手を膝上に置く。「差出がましいでしょうが代理」
「ん?」
「疲れているのなら言ってくれても良いですよ? 手伝えることは手伝える筈です。もっと頼ってくれても良いじゃないですか」
「そりゃ、そうかもしんないけど……準一君って特に疲れるでしょ? 君は人とは違ったモノを持っているんだし」
機械魔導天使の事だ。と理解し代理に向く。
「それに、準一君ってさ。あたしよりも人に頼らない感じでしょ? 常に一人で背負い込んでいるような」
「そんなワケないじゃないですか」
「そうかな」
「そうです」と準一は壇上に目を戻す。
「じゃあ、次からは気を付けるよ」
代理のそれは頼るか頼らないかの事。頷き、準一は黙って鑑賞を始める。
「準一君は、順応し過ぎなんだよ。平和から来たのに魔術にさ」
それに準一は何も答えずただ壇上でのイベントを見つめた。
「むす」
と膨れっ面を浮かべる結衣は、一番後ろの席の準一と代理を見ている。
「結衣?」カノンが聞くと結衣はカノンに向く。「兄貴何か代理と仲良いんだけど」
「あ、ホント……油断できないな」
カノンが言うと隣に座っていたカルメンがカメラを向ける。「シャッターチャンス」
それをカノンは止める。その写真が流出すれば兄が大変になるからだ。
「良い被写体なのに」
「それでも、ね?」
とカノンに宥められカルメンは大人しく座り「結衣がいじけてる! チャンス!」とシャッターを切る。
「やめろー! 撮るなー!」
結衣は抵抗するが次々にシャッターが切られる。
それを見てカノンは苦笑いを浮かべると席を立ち、準一達の元へ向かう。
「あー落ち着く」
準一の腕に抱き着く代理が言うと「オジサンですかあなたは」と準一。
「えー。酷くない」
「酷くないです」
「いいえ! 酷いです!」
この声は。と準一が後ろを振り返ると案の定カノンだった。とーっても不機嫌。
「全く、流石に疲れているだろうから私とカノンは我慢していたのに……なんですかこれは!」
あまりの気迫に追いついて。とは言えず「はい」と準一は頷く。
「うぅー! 兄さん!」
「はい」
「私も抱き着きますから!」
そう来ると思ったよ。と準一が思うとカノンは代理の反対に座り、準一に抱き着く。
「えへへー。久しぶりです」
もう慣れてしまった、と思う自分が怖いよ。と準一は苦笑いし壇上を見る。
今は筋肉の祭典。と呼ばれる謎の喜劇。ああ、疲れるなぁ。
準一は疲れ切った表情で大きく息を吐いた。
ステージイベント終了後、パーティー会場に出向いた生徒たち。時間的には7時前。辺りはオレンジ色に染まっている。
準一はその会場のベンチに座っている。隣には結衣。
「なぁ結衣。くっ付くのは良いんだが……動けない」
「やだ」
「何で?」
と座っている準一が抱き着いている結衣に聞く。「何でじゃない!」
「兄貴最近構ってくれないんだもん! 怪獣騒ぎから帰って来ても忙しくしてたし! それが終わっても準備なんかで居なかったし! んでさっきは代理と仲良くしてたし!」
「そ、そうか?」
「そうだもん!」
結衣は抱き着く力を一層強くする。
「折角……折角また一緒に居られるようになったんだもん。また仲良くなったんだよ。構ってくんなきゃやだよ」
しおらしい結衣に驚きながらも頭を撫でてやる。
「そっか。ごめんな結衣」
「ううん。あたしこそ我儘言ってごめん」
「いいさ。妹の我儘位、聞ける範囲で聞いてやる」
「じゃあ結婚して」
「聞ける範囲でって言葉が届いてないのかな?」
「結婚式は挙げられるんだよ!」
「父さん母さんにぶっ飛ばされるわ」
むぅ。と結衣は再び頬を膨らませる。それはとても可愛らしく準一はまた頭を撫でてやる。
「へへー。兄貴、大好き!」
大好き。の瞬間、結衣はとびっきりの笑顔を向け、不覚にも準一はそれを凄く可愛いと思い、一瞬呆気に取られた。
「ん? 兄貴? 変な顔してるよ?」
「あ、ああ。そっか」
「何考えてたの?」
「彼女の事」
その言葉に結衣が再び膨れっ面になった事は言うまでもない。