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決闘の約束

結衣は一階の大浴場に居た。多数の女子生徒が入浴している。


「はぁー」

と大きくため息を吐きながら結衣は湯船に浸かる。



ため息の理由は簡単、先の準一からカミングアウトされた、自分の兄が魔術師だという事。



現在に至って各国共に、魔術師に対しての風当たりの厳しさは半端ではない。

魔術と分かっただけで迫害、差別の対象になる。一応の人権はあっても無いのと同じである。

それは年齢性別は関係なかった。家柄等によっては隠蔽もある。



しかし、準一は自分と同じ一般家庭の子供。どうやって碧武に入ったのだろう。と疑問を浮かべる。

そして、恐らく校長代理は把握しているだろうな。と結衣は思う。

では、母親は? 父親は? 考え始めるとキリが無い。



ふと結衣に自分が人間を殺した、と告げた時の準一の顔が浮かぶ。

何かに憑かれた様な顔。深く濁った黒。


4年前までの明るかった兄の顔とは全く違い、身震いする。

何が準一を豹変させたのか、結衣が悩んでいると「隣、良い?」と声が掛る。

大きな浴場なので隣も何もないのだが「良いですよ」と結衣は言うと右隣の声の主を見る。


チャプと音を立て浸かって来たその人物は碧武九州校現在2年、生徒会会計、志摩甲斐 悠里。



彼女は江戸より続く由緒正しき名家のお嬢様。志摩甲斐家は現在日本でトップの航空機メーカーである。

「朝倉さん。なんだか思い悩んでるみたいね」

志摩甲斐悠里のその発言に結衣はギョッとする。


「志摩甲斐先輩、相変わらず鋭いですね」

「いえ、明日は始業式、2年生になるのよね」

「はい」

「そんな悩んだ顔で進級するのって良くないわよ」

お湯を腕になするようにしながら悠里は言う。


「分かってます」

結衣は言うがまだ準一の事が上手く整理できていない。


「部屋のお兄さんの事で悩んでる?」


結衣は悠里も知っているのかと思うと「すいません。先に上がります」と言い脱衣所に入る。




<><><><><><><><><><><><>




脱衣所から一階廊下に出ると目の前にはコーヒー牛乳、牛乳、フルーツ牛乳が売っている自販機がある。

結衣はジャージのポケットから100円を取り出し、自販機に入れコーヒー牛乳を購入し、先にある食堂前の長椅子に座り蓋を開け一口飲む。

結衣がコーヒー牛乳の味を堪能していると視界の隅、正確には長椅子の左側にある軽食自販機の陰から三人が顔を覗かせていた。



羽田菜月、シャーリー・アーペント、アンナ・マーディフの三人だ。

三人は結衣と目が合うと「ふふふ」と不敵な笑いを浮かべのそりのそりと結衣に接近する。

「な、何よ」結衣が椅子から立ち上がり言うとアンナが「お兄ちゃんとはどうなったのかな?」と聞く。



俺は魔術師だ

リフレインした言葉。

「・・・別に」

結衣はバツが悪そうに言う。


「ほう」

とシャーリーが言う。多分、兄が魔術師だという事を聞いたな。と考える。


「ねぇ結衣。いまする話じゃないかも知れないけど・・・お兄さんに相談してみたら?」菜月のその言葉に何の事? と結衣は少し考える。


「ほら、結衣にしつこく言い寄ってた彼」

菜月の言葉に結衣は、高校1年になった辺りから1年下の中等部3年男子、本郷義明が言い寄って来ていた事を思い出す。


「迷惑してたでしょ?」と言うシャーリーに「うん」と頷く。


だが、準一に相談するのは憚られた。自分に対する反応の嫌悪が本物であるからだ。

結衣が見てわかる位落ち込んでいるのを見て「ちょっと・・あたし用事思い出した」とシャーリーは3人を置いてその場を去る。


3人はシャーリーの行動に首を傾げる。






<><><><><><><><><><><><>






結衣の部屋で準一はシャワーを浴び終えジャージに着替えていた。

アニメ雑誌を部屋の隅で広げているとドンドンとドアをノックする音が聞こえ「はい」と言うとドアに向かう。

開けるとシャーリーが「よっ」と言う。

「どうかした?」準一が聞くと「お邪魔します」とシャーリーはズカズカと部屋に入る。


何だ? と準一は思いながら無言でドアを閉める。


「あの・・要件は?」

準一のその問いにシャーリーは「お願いがあって」と準一に向き言う。


「お願い?」

此奴、俺に何させる気だ? 準一は警戒する。


「そう・・お願い。結衣の事なんだけど」


シャーリーはそう言うと本郷義明の事を説明する。

「へぇ・・・あの本郷重工の御曹司ね」

素性を聞いて準一は言う。


「そ。その彼が結衣にしつこく言い寄ってて・・・結衣強く拒否できないから余計」シャーリーがここまで言うと「つまり、俺に結衣が迷惑してるからしつこくするな。って言って欲しいんだろ?」準一が確認する。



それにシャーリーは頷く。


すると準一は「悪いが断る」と拒否する。シャーリーは信じられないといった顔をして「何で!?」と聞く。

「俺はあいつの兄だ。けどな、アイツの事情なんか知ったこっちゃない。それに、その本郷義明は結衣に対して本気なんだろ?」準一が次を続ける前に「でも! 本気だからって、結衣は迷惑してるんだよ? 兄として妹の助けになるべきでしょ?」と反論する。


だが準一は顔色一つ変えず「これは結衣と本郷義明の問題だろ? 結衣が嫌だってんなら自分で言うべきだ。それに、他人の恋を邪魔するような事、俺は御免だ」と言う。

「明日・・多分教室に本郷が来ると思う。それを見たら嫌でも結衣の味方したくなるよ。本当に酷いから」懇願するようなシャーリーの態度と言葉に、頭をボリボリ掻きながら「分かった」と準一は返す。


「え?」

「明日、その本郷が結衣に言い寄ってるのを見てそれが本当に酷かったら俺がそいつに言う。これで良いか?」

「あ、うん」

正直、準一は断固として断ると思っていたので呆気にとられた。


「・・この事、結衣には言うなよ」準一のそれに少し迷って「分かった」とシャーリーは返事をするとそそくさと部屋を去る。


その後、結衣が戻ってきて何事も無く朝を迎える。



<><><><><><><><><><><><>



4月6日。準一から言えば入学式同然の転入式当日。その朝、準一が部屋の隅で目を覚ます。


窓のカーテンからは朝日が差し込んで部屋を明るくしている。

就寝の際、準一は毛布が無かったので学生服を代わりにしていた。まだ完全には起きていなかったが、起き上がろうと少し動く。


「ん・・何だ?」準一は胸のあたりに温もりを感じ学生服を捲る。するとそこには結衣が居た。


準一は絶句し、完全に目を覚ます。

結衣は心地良さそうに眠っている。整った顔は、涎を垂らし表情は緩みきっている。

準一は起こさない様に布団から出ようとする。それを阻む様に結衣は「や~」と唸りながら準一を引き寄せる。


「参った」準一は半ば諦める。そんな時「う・・ん・・・兄貴だい・・好き」と結衣が寝言を漏らす。



そんな結衣を見て準一は昔を思い出す。

まだ仲良しだった頃、こういった事は当たり前で結衣は超が付くブラコンで「お兄ちゃんのお嫁さんになる」と毎日の様に言っていた。

しかし現在、準一にとって結衣は嫌悪を煽る存在である。故に到着日はかなり冷たくあたった。

だが、結衣は隠してはいた様だが、見てわかるように準一に会えた事を喜んでいた。自分のあの対応の後にこういう事をされ、準一は少し微笑む。


左手で結衣の額を撫で、目にかかった前髪を指先でずらす。


「・・こいつ中身は昔のまんまか」

準一は、結衣からブラコンが抜けていない事に気付く。

そして寝ぼけて自分の所まで入り込んできた結衣に驚く。

「よく来たもんだ」


部屋の隅、テーブルを挟んでいるので微妙な距離だ。


準一は考えを止め、結衣の貸してくれた枕の横に置いておいた携帯を開き時間を見る。


8:00


「うおッ!!」

時間を見て準一は叫んだ。学校に遅刻しないためには30分には着いていなければならない。そして学校に行く為には駅から機関車に乗る以外ない。


汽車に乗って学校までは10分。

「ぅ・・ぅ~・・・なにぃ?」

準一の叫びに目を覚ました結衣はまだ寝ぼけている。


「お、おい結衣! 学校遅刻するぞ!」

「ふぇ・・? あれぇ何で兄貴が隣に居んの?」

まだ寝ぼけてんのか。準一は思うとデコピンをする。


すると結衣は完全に目を覚ます。


「・・・ち、遅刻!」


ようやく気づいたか。準一は起き上がり「すぐ着替えて行くぞ」と結衣に言う。

結衣は「う、うん」と頷くと制服を持ってシャワー室に駆け込む。もう髪型を気にする時間は無いので結衣は手早く着替える。

準一も学ランに着替えると、昨晩から準備していたカバンを拾い上げる。そして着替えてシャワー室から飛び出した結衣に彼女のカバンを渡す。




<><><><><><><><><><><><>




学校に続く坂道の下でゼェゼェ唸りながら準一と結衣は居た。

坂を上りきるまでに5分は掛らない。現在時刻は8:15分。何とか間に合った事に2人は安堵する。

そして準一と結衣は互いの顔を見る。目が合い結衣は顔を赤らめ俯く。久しぶりに兄と登校できて結衣はかなり喜んでいた。


それに気づき、準一は「行こう」と一言言うと歩き出す。結衣も後に続く。



9時から始業式が始まり、準一もそれに混じっていた。注目の視線にさらされうんざりする準一は、早く終われと願っていたが、校長代理が身に纏っているゴスロリを長々と語るので終わったのは11時だった。


うんざりげっそりし、始業式終了後、準一は2年3組の教室に案内され担任、大庭啓二に「じゃあ自己紹介して」と言われ少し間を開け「朝倉準一です。宜しくお願いします」と紹介する。


見知った4人、結衣、シャーリー、アンナ、菜月は親しげな視線を送っていた。しかし、他の生徒はあまり歓迎的ではない視線を送っていた。


その視線の理由は、噂になっていた準一のコネ疑惑である。視線に晒され準一は居心地が悪かった。準一は虚しいのか悲しいのか分からない顔をして少し落ち込む。それに気づいた結衣は、申し訳なさで顔を俯かせる。





「じゃ、済んだなら席に座ってね」

大庭の声に準一は無言で席に着く。席の場所は一番後ろの黒板から見て右端。

まず始まったのは先生の長話。それが終わるとすぐに放課後。担任は職員室へ行く。

そこまでの間、クラスの人間が何人も準一をジロジロと見ていた。


ここでも比べられるか。


準一がクラスの人間に呆れていると一旦職員室に行っていた大庭啓二が入ってきた。


HRか、と準一は帰りの準備をする。


HRはそれらしい事は全くせず挨拶だけで終わった。そして放課後になって直ぐ、教室に顔の整った黒髪の男子生徒が入ってきた。準一はその男子生徒に視線を向ける。男子生徒は入るなり結衣の元へ一直線に向かう。


「朝倉さん。決心は出来ましたか?」

男子生徒はいきなりそんな事を聞く。


シャーリーが静かに準一に近寄り「あいつが本郷義明だよ」と耳打ちする。

準一は「あいつが」と初めて見た様な対応をする。しかし、準一は前に本郷義明を見た事がある。まさか、本郷さんの息子があんなのとは。準一は呆れる。


「あ、あの・・その事ですけど」

そう結衣が声を出す。恐らく断ろうとしているのだろう。準一は嫌がっているのを確認する。

動いた方がいいのか? と考えていると、クラスメイトの女子3人が結衣の席の前に立つ本郷に近寄る。


「あの、朝倉さん困ってるじゃない」

先陣切って3人の内の1人が声を掛ける。


「だ、大丈夫だから」結衣が言う。しかし「大丈夫」と女子が言い黙る。


他の2人も何か言おうとするが「ねぇ。君たち、誰に文句付けてるか分かってる?」と本郷義明が3人に向き言う。

「誰って・・君しかいないじゃない」女子の1人が少し怯みながら言う。

「そ、この本郷義明。ねぇ? 権力に真っ向から喧嘩売ってどうするの? 一応、ウチはさかなり権力持ってるんだよ」怯んだ女子に畳み掛ける様に言葉を浴びせる。


見ている準一は苦笑いしている。それに気づいたシャーリーは「何、その微妙な顔」と聞く。するとアンナ、菜月が静かに準一に寄る。


「別に・・それよかお前ら結衣の友達なら止めに入れよ」苦笑いのまま準一が聞くと「もう何度も止めに入って、その度結衣から気にしないでって言われてる」とアンナが答える。

「ま、今日は結衣の大好きなお兄ちゃんがどうにかしてくれるみたいだし」

と菜月。その菜月の言葉に準一はシャーリー・アーペント、ばらしたなと思いながら、本郷達に向く。


すると話が進んだらしく女子の1人が「ふ、ふざけないで!」と叫ぶ。

「ふざけてないさ。僕の邪魔をするなら、君たちじゃなくて君等の家族が危ないって言ってるんだよ」嘲笑し、本郷が言葉を発する。


お家の権力で脅してるのか。準一は思いまともに取り合おうとしている女子3人に同情する。


「朝倉さん? どう? 朝倉さんが僕の女になってくれるなら誰にも危害は加えないよ」

本郷は満面の笑みで結衣に言う。


結衣は俯く。助けに来た女子達は本郷の要求を有利にしただけだった。女子達はそれに気づくと結衣に「ご、ごめなさい」と謝り俯く。

結衣は顔を上げ、女子を見て微笑み「気にしないで」と言うと意を決し承諾の返事をしようとする。

本郷は「堕ちた」と内心高笑いし、満面の笑顔を崩さない。


結衣は席を立ち「あの、返事ですけど・・・受け―――」とまで言うが言葉は、椅子が乱暴に地面とこすれる音でかき消される。全員が音のする方を見る。そこには椅子から立ち上がった準一が居た。準一は無言で本郷に近寄る。女子3人は近づく準一に後ずさりする。


本郷は近づく準一に向くと「誰?」と汚物を見るような目で言う。「結衣の兄だ」準一のその言葉に結衣は目を開き、安堵する。


「ああ、貴様が」

本郷は嘲笑する。


「俺の事知ってんの?」準一が聞くと「ああ」と本郷が答える。

「朝倉準一、貴様、妹のコネで入学したクズだってな」言われ準一は「結衣のコネ?」と聞く。

「とぼけるなよ。コネで入ったってなると、貴様は碧武始まって以来のクズだ。なぁ、僕が朝倉さんに言い寄ってるのを止めに来たんだろ?」 

「だったら?」

「邪魔をするな。貴様と俺の差は決定的だ。凡人の貴様と才能、家柄、容姿が完璧な僕。普通に考えて、朝倉さんは僕のモノになった方が幸せだろう?」


準一に詰め寄り本郷は言う。

準一は喋る隙がない事にため息を吐き結衣を見る。結衣は心配そうに、両手の平を胸の前で合わせて見ている。


「結衣、お前、幸せか?」準一は唐突に聞く。結衣は「な、何が?」と聞き返す。

「だから、この本郷君のモノになったらお前、幸せか?」


結衣は迷わず首を横に振り拒否する。準一は微笑むと本郷に向き「だってさ」と言う。

本郷は舌打ちする。


「朝倉さん、僕のモノにならないなら君の兄さん、危ないかもよ」

本郷が結衣に微笑みかける。


準一が危ない、結衣はその一言で顔面を蒼白させる。


「あ、本郷君。君の家? 本郷重工って国内でもの凄く権力が強いんだよね」

準一は確認する。


「まぁな。俺に盾ついたの今更怖気づいたか?」

「いんや・・・先に忠告してやる。お前の家がどれだけ権力を持っていようと『俺』に危害は加えられない」


聞いた全員が何を言っている? と言った顔をする。


「ああ、どうやら本当にクズらしいな。え? 本郷重工の権力が貴様1人を潰せないと?」

「そう言ってるんだよ。それと、お前は俺に盾つくの止めた方がいいぜ」

「・・・貴様、あまり調子に乗るなよ」

「そりゃこっちの台詞だ。お坊ちゃま」準一の馬鹿にした言い方に「いいだろう。どうやら本気で俺に喧嘩を売っているらしいな」とキレる。


自分の一人称が変わってるよ。と準一は心の中でツッコむ。


「朝倉準一、俺は貴様にベクター兵器を使用しての決闘を申し込む」キッパリと言い放った本郷に「いいぜ。受けて立つ」と準一は返事する。

「では、決闘は明日。ま、土下座でもすりゃ許してやらん事も無いぞ?」

「分かった。明日だな」

準一が最後を無視し、言う。クラスの数人がクスクスと笑う。本郷は恥をかく。



本郷は、恥から顔を赤にし教室から出る。




<><><><><><><><><><><><>




「おい! お前、何考えてるんだ?」

本郷が居なくなるなりクラスの男子が近寄り準一に声を掛ける。


「何が?」

「何がじゃねぇだろ! 馬鹿かお前! 本郷重工に真っ向から喧嘩吹っ掛けて、その上1年生最強とベクターで決闘だなんて。無茶にも程がある」


そこからクラスがざわめきだし、結衣も「あ、兄貴・・ごめんなさい」と準一に謝る。

準一は、手を結衣の頭にポンと置き3回撫で「大丈夫。勝算がなきゃ喧嘩なんて吹っ掛けないさ」と今にも泣きだしそうな結衣を宥める。


「しょ、勝算?」

男子生徒が聞き返す。


「ああ」言うと準一は「シャーリー、ちょっと良いか?」と2人での会話を希望する。


シャーリーは頷き2人は教室から出る。









「ねぇ、教室じゃ出来ない話?」

「まぁな。どうしよう。困った事になったぞ」

「・・・え?」シャーリーは驚く。

「いやだって、まさか決闘まで行くとは」

「い、いや君、普通に受けてたじゃん」

「だ、だってよ、受けるしかない空気だったじゃんか」

準一は唸る。


「・・・はぁ。ねぇ、あの本郷重工が君に手を出せないってどういう事?」

シャーリーが一番の疑問を聞く。


「あ、ああ。その事・・まぁ話すと長いから短く。ある件で俺は自衛隊と協力し、テロリストに拉致された本郷重工社長、本郷晴之を救出。ま、本郷重工的には俺は命の恩人、って事」シャーリーは聞き「へぇー」とだけ言うが内心驚いていた。



自衛隊との協力など、機械魔導天使が使えても一般市民。彼の人間関係がどこまでいっているのか、シャーリーの考えが止まらなくなった時「あ、準一~」と声が掛る。

声を掛けたのは西紀綾乃。「お、綾乃。お前HR参加しないでどこ居たんだよ」準一は綾乃が同じクラスであるのにいなかった事を聞く。


「ああ、生徒会に呼ばれててね。今会長から準一呼んで来いって言われて」

「え? 俺を?」

「そ、準一を」


わけがわからない。準一は思いながら生徒会室へ連行される。準一は「それじゃ」とシャーリーに言う。シャーリーは「さっそくだね」と言いクラスに戻る。


準一、綾乃は2年棟から長い渡り廊下を渡り、階段を上り5階の生徒会室に着く。綾乃が扉をノックする。「いいですよ」と女性の声が来る。


「失礼します」

綾乃は言い扉を開ける。準一も続き入室。同時、天井の照明がパッと点灯する。



5人の生徒が横に並び立っている。左から3年生徒会長、揖宿洋介。2年副会長、四之宮加奈子。2年会計、雪野小路楓。同会計3年、志摩甲斐悠里。3年書記、子野日雄吾。一応、全員ではない。


準一は見渡して生徒会の顔を確認する。「我が生徒会へようこそ、朝倉準一君。歓迎するよ」揖宿が一歩踏み出し言う。


準一は「どうも」と一度会釈をする。その仕草、態度に「ああ、やっぱりまだ緊張してるわよね」と志摩甲斐が頬を人差し指で撫でながら言う。


「じゃあ、まず君の緊張を解く事から始めようか」子野日が揖宿に発言の許可を求める視線を送る。揖宿は「許可する」と一言言うと自分の席に座る。


他4人も自分の席に着く。


「2人とも、手前の席に座って」

雪野小路は席から言う。


席は大きな四角テーブルに7つ。生徒会室扉側。扉から見て左に準一、右に綾乃。その右側手前に子野日、隣に四之宮。左側手前に雪野小路、志摩甲斐。準一達から見て向かいに揖宿。


全員が座ったのを確認すると「じゃ、説明しておこうか」と子野日が語り始める。「碧武校の生徒会に入る為の条件は魔術師である事」子野日が言った。準一は「え?」と声を出す。


「つまり、君を含め、ここには魔術師しかいない、って事」

四之宮が戸惑う様相の準一に言う。


聞いた準一はすぐに隣を見る。綾乃は「実はあたしも魔術師」と困ったような表情で言う。聞いて準一は「マジかよ」とため息を吐く。


「どう? 安心した?」四之宮が聞くと「ええ。まぁ」と準一は答える。そのまま準一は「俺をここに呼んだ理由はなんです?」と自分以外の全員に聞く。


その問いに「歓迎会さ」と揖宿が笑みを浮かべ言う。


「・・・歓迎会?」

準一は聞き返す。何の歓迎会か全く想像がつかない。


「そう。歓迎会」子野日が言うと揖宿は椅子から立ち上がり「ようこそ、我が生徒会へ」と両手を広げ言った。


その揖宿を見た準一は「そんな馬鹿な」と呟くだけだった。






<><><><><><><><><><><><>






碧武校、その生徒会は魔術師から成っている。その方針決定は各校校長の意見一致によるものである。本来、魔術師と分かれば経歴を調べ上げられ、不穏な素振りを見せれば拘束が各国の対応である。


しかし、不穏の欠片も見られない人物は、魔術という事を政府より隠され一般社会で生活できる。


魔術師は、各国とも貴重な兵器である。尚、魔術教団、ゼルフレスト教団は魔術回路(正式名称、魔術増幅循環機構回路)を巨大化させた物を所有しているので、魔術を兵器として使用する事には成功している。



碧武に通う魔術師が生徒会に入れられるのは、力量を定める為である。力量の計る方法は、各国政府より任意で受けられる任務に参加する事である。(尚、生徒が介入して対応できる範囲の任務)


主にベクター兵器を使用する。任務の内容はほとんど魔術師との戦いが多い。他には、正規軍の後方より狙撃、砲撃支援。反政府軍の鎮圧作戦。不穏分子掃討作戦等他様々がある。


作戦で結果を残した魔術師は、国連法術部隊に入れられる。






「ってわけ。オッケー?」生徒会室内、ホワイトボード前、投影ディスプレイを使用しての綾乃の長い説明を聞き終え「ああ、良くわかったよ」と準一は答える。


「聞くと朝倉君、君幾つかの任務に参加しているそうだね?」揖宿が聞く。準一は揖宿に向き「ええ、日本国政府からの支援要請を受けることがあったので」と答える。


「へぇ、どこでどんな任務こなしたの?」興味津々の様子で雪野小路が聞く。準一は少し考え「順を追って言います」とまで言うと、他6人は動きを止める。




「まず最初は、日本政府から強制任務参加辞令が下り、陸上自衛隊空挺部隊と共に国内に潜伏する不穏分子の根城になっていた奥多摩、静岡、富士、熊本計4施設の一掃。米国海軍戦隊と共闘してのインド洋海賊の一掃。国連の依頼でアフリカで活動する密猟団の掃討。国内に核を輸送していた反日軍輸送隊の壊滅。旅客機ごと拉致された要人の救出。これが全てです」


準一が言い終えると、揖宿以外の5人が口をあんぐりと開けて驚いていた。


「朝倉君、君のこなした任務、掃討戦なんかポジションは?」揖宿のそれに「全て前衛です。先行するベクター部隊、戦闘機隊と一緒に攻めました」準一は言う。


聞き、揖宿は「凄いな」と感銘する。


「朝倉君、君、機械魔導天使が使えるんだろ?」

子野日が準一に質問する。


「はい」と準一が答えると「魔術は?」と子野日が更に聞く。


「使えます」準一は答える。



ここまで一度も顔の表情を崩していない準一に室内の全員が驚く。


その中「そういや綾乃」と準一が自分から口を開き「お前、俺が魔術師って知ってたのか?」と聞く。


「ううん。生徒会長に呼んで来いって言われるまで知らなかった」綾乃の答えに「そっか」と言う。


「あ、そういえば。朝倉君。君、今かなり面白い事になってるんでしょ」

志摩甲斐が突然準一に聞く。


「面白い事?」

子野日が聞き返す。


「ああ、本郷義明との一騎打ちの話ですか」

準一は理解し聞く。


「それ。転校早々なのに驚きだね」

志摩甲斐は微笑みながら言う。


「確か、妹さんを庇っての事だったね」揖宿のそれに「まぁ」と準一は恥ずかしそうに言う。


「でも、朝倉さん。君の事大好きだから、昨日も浴場で悩んでたよ。君、魔術師って事話したでしょ?」志摩甲斐の言葉に「ええ」と準一は肯定する。


そんなに悩んでたのか。準一は頬を指で撫でる。



「でもさ、ぶっちゃけ大丈夫なの? 本郷君、本気で強いよ」四之宮の言葉に「加奈子ちゃん聞いてたでしょ、朝倉君の経歴」雪野小路が「はぁ」とため息交じりで言う。


「あ、そっか」四之宮の納得後「それに彼には、かなりのパイプがあるらしいね」と揖宿が準一を見る。


準一は目を合わせず「で、要件は済みましたか?」と聞く。


揖宿は「粗方な」と言う。


「そういや会長、歓迎会ですけどそれっぽい事やってないですよね」

と子野日が聞く。


子野日のそれに「・・・そういえばそうだ。朝倉君、歓迎会今からする?」と揖宿が聞く。準一は「結構です」と半笑いで言う。揖宿が「そうか」と返事をした後「朝倉君」と雪野小路が声を掛ける。


準一は返事をし雪野小路を見る。


「私たちは呼びがあれば魔術師だけでの会合会を行うんだけど」

雪野小路の言葉に会合会? と準一は聞き返す。


「ただ魔術師で集まって話し合うだけ。一応、私たち生徒会だから」説明を聞き「成程」と準一は納得する。



「ま、そういう事だ朝倉君。さて、生徒会へ強制入会が決定したわけだが」

揖宿はそこまで言うと準一の役職を考える。そして閃く。


「朝倉君、君の役職は雑務だ」


「ようは『パシリ』ですね」準一は肩を落とし言う。揖宿は「悪く言えばな」と否定はしなかった。







<><><><><><><><><><><><>






都内、本郷重工本社ビル。社長、執務室。



「社長」

秘書の若い女性が書類に目を通す本郷重工社長、本郷晴之に声を掛ける。


「どうした」本郷の言葉に「今、碧武の方から連絡が」と秘書は準一とのやり取りを説明する。



聞いた本郷社長はため息を吐き「バカ息子が」と声を漏らす。


「如何致しますか? 今ならばまだ」と秘書が助言するが「いや良い。これであのバカにも良い薬だろう」と再び書類に目を向ける。

「よろしいのですか?」

「ああ、あのバカは喧嘩を売る相手を間違えた・・・明日だったな」

「ええ」

「明日、朝倉君に挨拶に行くか」

社長は言うと空港に連絡を入れる。


社長のスケジュールに朝倉準一対本郷義明の観戦が入った。





<><><><><><><><><><><><>





役職が決まった後、準一はそそくさと生徒会室から出た。綾乃はどうする? と聞くが早速仕事なので準一は一人である。取りあえずは学校を出ようと歩き出すが如何せん広い。うろ覚えで来た道を戻っていると、角に見知った影を見つける。


準一はその影に近寄り「待ってたのか」と聞く。聞いた相手は結衣。陰に隠れていた、らしい。


「・・うん」小さく言った結衣に「外に行こう。案内してくれ」と準一が言うと「じゃあ来て」と結衣が先を歩き出す。



準一は、広い校内を結衣に連れて行かれるがままに歩き回り、外へ出た。2人とも帰り支度は済ませていたので下校する生徒に混じって歩き出す。

歩き出して校門に差し掛かる頃「兄貴・・ごめん」と結衣が謝る。教室での一悶着の事だろうと準一は察し「別にいいよ」と優しく言う。


「で、でも・・兄貴、来たばっかなのに迷惑かけちゃって」

言う結衣に気が収まらないのだろう、と準一は思う。


「良いって」

と言いながら準一が結衣を見ると、泣きそうな顔になっていた。その結衣の顔、表情には謝罪と不安が混じっているのを発見する。


「結衣、明日の決闘・・心配か?」準一のそれに「うん」と正直に答える。

「負けると思ってる?」

「うん」聞いた準一はま、仕方ないか、とため息を吐く。

「結衣、大丈夫。俺は明日の決闘、絶対に負けないから」


聞いて結衣は涙を拭き「その自信はどっからくるのよ」と少し笑みを浮かべる。


「信じてないな」

「うん」


準一は再びため息を吐く。


「そういや兄貴、勝算って?」

「何だと思う?」少しからかうように聞くと「もしかして」と何かを閃く。

「魔術じゃないよ」

「だ、だよね・・・結局何なの?」


それに準一は「教えない」と結衣より先に歩き出す。





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その日の夕刻。校長室で校長代理が準一、義明の決闘までの経緯を確認していた。資料に目を通し「ねぇ、義明君は自分のがあるだろうから良いけど、準一君はベクター兵器持ってないよ。もしかして、機械魔導天使でも使うのかな」と椅子に座ったまま、机の前に立つ大庭教諭に聞く。


「性質の悪い冗談は止めて下さい。朝倉君ならちゃっかり城島班長に許可取ってますよ」大庭教諭が言うと「へぇ・・明日のルールは?」校長代理が聞く。


「アリーナを使用しての一騎打ち。ワイヤーガン、2式モーターブレードを使用しての近接格闘戦のみ・・・ですな」

「・・・本郷君の機体だけ腕内バルカンに実弾積んで、火器管制システムオンにしとかない?」

「何馬鹿な事言ってんですか」

大庭はため息を吐く。大方、朝倉準一の力が見たいんだろう、と推測する。


「大庭のケチー」といいながらブーブー唸る代理に「代理、明日の決闘の際、余計な事はしないで下さいよ・・・お忍びで要人も来るでしょうし」大庭は言う。


大庭は出口に向くと歩き出す。そしてえらく静かになった校長代理を見ると「むふふ」と何か悪だくみをしている。


「はぁ」とため息を吐くと扉を開け、校長室の外へ出て「先に手を打とう」と格納庫へ向かう。





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ショッピングエリア、西街、芝生公園ベンチ。


そこに準一達は居た。


「予想外だ」

朝倉準一はそう呟くと顔を左手で覆う。右手にはチョコクレープ。


「いやぁ、偶然会えて良かった」


菜月は表情を緩ませクレープを頬張る。

「偶然って怖いね」


とアンナ。口の周りがクリームで凄い事になっている。

「いやぁ、この1個930円の高級屋台クレープを人数分買ってくれるなんて、偶然って怖いなぁ」

とシャーリー。ブルーベリークレープをもっさもっさと食べている。これまた口の周りがクリームで凄い事になっている。


「遠慮のない奴らめ」

向かいのベンチに座る3人を見て準一は肩を落とす。視線を公園の外のクレープ屋台に向け1個930円の価格に、高いと心中で呟く。


「あ、兄貴。幾らか持つよ?」結衣がカスタードクレープを持ち救済の案を出す。しかし、準一的にそんな事させる訳にはいかないので「ここは俺持ちだからな、ありがとう結衣」と結衣の頭を撫でる。


撫でられた結衣は頬を染め、無言。表情が緩み気持ちよさそうに目を細めている。


そんな時、アンナが「ブラコン見たり」と向かいに座る結衣に言う。


結衣は「ち、違うし!」と否定するも全員が知っているので無駄である。結衣は全員が周知しているのを知らない。そんな結衣を見て「そういや、お兄さんの事なんて呼べばいい?」と菜月は思い出した様に準一に聞く。


「好きにして」

準一はチョコクレープを一口食べる。


「じゃあ・・・お兄ちゃん」菜月はこれだ、と言った顔で言う。それに結衣は「だ、駄目!!」と立ち上がり大声で拒否する。


他3人はいきなりの事にポカンとする。


「お、お兄ちゃんとか! 絶対呼んじゃ駄目だから!!」

子供の様に言い張る結衣はとても高校生には見えない。


「お兄様は?」

アンナが結衣に聞く。


「駄目!」

と結衣。さっきと違い目には涙が溜まっている。


「兄さんって呼ぶのも駄目?」

とシャーリー。


「だから! お兄ちゃんとかお兄様とか兄さんとかそうやって呼んでいいのはあたしだけなの!!」

結衣は凄い剣幕で3人に言う。3人は圧倒され「が、ガッテン承知」と返事をする。


返事を聞き結衣はベンチに座り、準一にピタリとくっ付く。無意識で。


アンナ、シャーリー、菜月の3人は、無意識の内にくっ付いた結衣を見て「かわいいなあ」と思い、準一に目を向ける。視線に気づいた準一は「はは」と苦笑い。結衣の行動に戸惑っている。


それを見たアンナが「結衣はやっぱりお兄ちゃんが好きなんだね」と声を掛けると、結衣はピタリとくっ付いた事に気づきパッと離れる。顔を真っ赤に染め上げた結衣は、恥ずかしさにクレープをむしゃむしゃと頬張る。


「取りあえず、お兄さんの事は準一と呼ぼう」

菜月が言うと2人は同意。3人の準一に対する呼称は準一で決定した。


「まぁそれにしても準一もあれだねぇ」


決まった直後、シャーリーがニヤニヤしながら言う。準一は何を言う気だ? と警戒する。


「俺には関係ないなんて言いながらねぇ」

聞いて準一はゴフゴフとむせる。


「あ、兄貴??」

結衣がハンカチを手に慌てる。


「ほう・・何の事だ?」

興味津々に菜月。


「いけない。秘密は共有しよう」

とアンナ。


めんどくせぇ。準一は結衣に手渡されたハンカチを手に思う。






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菜月、アンナ、シャーリーにクレープを奢らされた後、準一は散々いじられていた結衣と共にエリア内の大型スーパーへ向かっていた。


結衣は帰り際、同じようにいじられ不機嫌だ。


道のりの大通り、その歩道を歩いている。車道側を歩く準一、その左側を歩く結衣はムスッとしている。その顔が赤いのを準一は知っている。


「結衣、今日の晩御飯どうする?」取りあえず結衣に聞くと「・・・手伝う」と一言。

「ハンバーグで良いか?」

「うん」

結衣はそう返事をするがまだ不機嫌そうだ。


どうにか機嫌を良くしようと準一は「手でも繋ぐ?」と聞く。


からかっているので無論、冗談である。しかし、結衣は顔を茹でたタコの様に真っ赤にさせ、口をパクパクと動かし対応に困っている。準一が「冗談だよ」と言おうとするが、それよりも早く結衣の右手が準一の左手に差し出される。


どうやら結衣は本気にしたらしい。準一はもう一度冗談だよと言おうとするが、またもや結衣に早く動かれる。


準一の顔を覗き込み「つ、繋がないの・・?」と不安そうな表情で聞く。想定外の反応に「繋ぎたいの?」と結衣に聞く。結衣はそっぽを向き「べ、別に・・・兄貴が聞いたから仕方なく」と言う。その顔はとても残念そうな表情をしている。


しかし、準一は結衣のデンプレなツンデレ返しに少し可愛いと思いながら、左手で結衣の右手を握る。


「ぁ・・」

繋がれた瞬間、結衣は自身の右手を握る準一の左手を見て、顔を緩ませるもそれを悟られるまいと顔を俯ける。


耳まで赤い。と準一は心の中で言うと「じゃ、早くスーパーに行こうか」と結衣に聞く。


「うん」

結衣は繋いだ手に力を入れ強く握る。





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買い物が終了し、結衣、準一の二人は駅から汽車に乗り学生寮エリアに向かっている。客車には同校の生徒が疎らに乗っており、結衣、準一は彼らの注目の的だった。


客席は埋まっており、結衣、準一は出入り口前に立っている。チラチラと来る視線に準一は居心地の悪さを感じため息を吐く。そして結衣を見る。結衣はもう手は繋いではいないが、準一の左腕に抱きついている。


視線はこれが原因である。



学校では有名人の結衣。その結衣は超が付くほどの美少女。街を歩けばスカウト当たり前の容姿。そして高等部最強の肩書を持つ彼女が、鼻歌でも歌いだしそうな笑顔で男の腕に抱き着いている。


見ない訳が無い。


言いだしっぺが自分とはいえ、流石に結衣に離れてもらおうとするも、結衣の顔を見てそんな事は出来ない。準一は諦めの表情を作る。ポケットに手を突っ込む。携帯があるのを思い出す。右手で携帯を開く。


不在着信3件。


誰だ? 準一は履歴を開き名前を見る。3件とも、九条功と記された人物からだった。



九条功は、日本国、海上自衛隊とは別の海上組織、特殊機甲艦隊において、弩級戦艦大和の艦長を務める男である。



(一体何の用だ?)


はっきり言って九条からの電話は反日軍戦での参戦依頼が殆どである。結衣が居る状況で通話は出来ない。よし、メールだ。と準一は九条にメールを打つ。


『反日軍ですか?』


少しの間が開くも数分と経たず返信が来る。


『今待機任務。空母が港に来るまで暇』

と来た返信内容。準一は相変わらずの軍務規定を無視した自由さに呆れながらメールを切る。


「誰とメールしてたの?」

結衣が左手を一層強く抱きしめ聞く。


からかうか、普通に返すか。準一は迷った末「彼女」と一言言う。結衣は一瞬で顔を蒼白させる。ショックを受けているのが見てわかる。


「ウソ」悪戯っぽい顔で準一がネタばらしすると「バカ」とムッとした結衣に一言言われる。



そんなこんなで準一の目に学生寮エリアが映る。


「もう着くな」


準一は言うと右手をポケットに突っ込み定期券を確認する。買い物袋にはひき肉や玉ねぎ等。今夜の献立のハンバーグの材料は揃っている。





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