神の十字架
翌日、金曜日。空は雲に覆われ、日は差していない。しかしそれでも暑いのは確かで、授業中の準一は机に突っ伏していた。授業内容は現代文。凄い人が書いた小説が読まれる中、教師は手前の生徒を当てる。「120p3行目から121pまで」
「はい」生徒は答え立ち上がり、教科書を手に音読を始める。
あー暇だ。と準一が思っていると隣の席の生徒が準一に手紙を渡す。別段ラブレターではない。準一はそれを受け取る。「向こう」と渡した生徒は綾乃を指さす。
ったく、何企んでんだ。と思いながら開くと「七夕企画のお知らせ。生徒会メンバーは今日放課後生徒会室へ集合」と書いてあった。しかし、もう7月はすぐ手前。この土日を終え、月曜日は7月1日だ。
遅くないか? と思うが理由は分かった。この企画は以前から存在していたものではない。恐らく碧武九州校校長代理、ゴスロリバカツインテールの異名を持つ御舩茉那が思いつきで企画したのだろう。
確かに七夕の襲撃は消えた。と考えていいだろう。だが、あまりにも不用心すぎないか? そう思わずにはいられなかったが、一番困っているのは放課後に呼び出された事だ。断るのも悪いだろうが、三木原凛の事を優先したいので生徒会は後回しだ。
そう思いながら教科書のページを開くと同時「朝倉。続き」と言われ立ち上がる。「連立方程式」
「おい、待て。お前何の教科書読んでるんだ?」教員の言葉に準一は教科書を見る。「……数学です」
授業聞いてなかったんだ。と他の生徒は呆れる。あれだけベクター戦では強いのに、座学になるとこの調子。
「お前……此間のテスト何点だったか言えるか?」
「現代文は89点です」
「数学は?」
「……ゼロです」
ちなみに、準一は日本史、現代社会、現代文はまだ大丈夫。なのだが、数学に関してはずば抜けている。ちなみに、準一はゼロで最下位。その上は全て70点以上。
「舞華先生ー」と教員が呼ぶと、教室の戸がバンと音を立てて開かれ、白衣の舞華が鞭で床を叩く。
「弟! 来い! 個人レッスンだ!」
言いながら鞭で床を連打。スパンスパンと音が響き、準一は頭を抱える。そんな準一を見かね、舞華はズカズカと準一に近寄ると腕を引っ張り、そのまま廊下へ連れ去る。
それに続くかのように結衣、カノンが立ち上がり、それを3バカが抑える。
「ちょっと! 最近舞華さんズルいって!」
「そうです! 夜な夜な兄さんの数学手伝ってるくせに!」
それを見て教員はため息を吐いた。ああ、3組って本当に賑やかだな。と。
襟を掴まれズルズルと引っ張られる中、スタスタと歩く舞華に聞く。「お前、呼ばれて間髪入れず入って来たあたりスタンバイしてたな」
「当たり前だ。しかし、勉強は後回しだ」
後回し? 準一が聞き返すと舞華は足を止め「お前に会いたい。という人がいる」手を離し振り向く。「過去にお前が捕まえた人間と聞いている」
「誰だ?」
「沢崎博之」
準一はまた面倒臭い人間を。とため息を吐く。どうやらまた学校を出なければならないらしい。
準一は収容所へ向かった。スパイ、不穏分子が一緒くたにされている中規模な施設だ。ちなみに舞華も付いて来ている。舞華は白衣。準一はスーツだ。移動はティルトローター機。場所は海上の人工島。県にすれば高知。その太平洋側沖合数キロ。四角の真っ白な建物がそれだ。
その建物の屋上にヘリは着陸し、準一達は中へ入った。案内役が先導し、面会室へ案内された。
耐爆ガラスに遮られた向こうのパイプ椅子に男が座っている。アジア人だ。それに向かい合うように準一は座り、舞華は壁にもたれ掛る。
「あんたが俺を呼ぶとは思わなかったよ。沢崎博之」と準一が言うと沢崎博之は目を向ける。「条件を付けたんだ。お前が来るなら話すとな」
よく見ると、沢崎博之はボロボロだ。痣があり、やつれている。尋問、拷問。薬物か。と準一は理解し、目を合わせる。「何を話すと?」
「俺の仲間達だ。まだ日本人に紛れてるよ。次の指示が来るまでな」
そういう沢崎。準一は一度瞼を閉じ息を吐くと目を開ける。
「どういう風の吹き回しだ。沢崎博之……いや」一度止め、口を開く。「ヤン・ヲンファ」
聞き「日本人じゃないのか?」と舞華。準一は無言で頷く。「朝倉準一。そこの女は?」
「貴様には関係ないだろう。さっさと話せ」無表情のまま言われ、ヤンは「まいった」と両手を挙げすぐに降ろす。
「俺の仲間は中華街に潜伏している。恐らく、中国のマフィアが保護している筈だ。手筈通りならだが」
ヤンが言うと、マジックミラーの向こうのスーツの男は端末で連絡を入れる。
「準一、この男はどういう人間だ?」と舞華に聞かれ、準一はヤンに目を向けたまま答える。「このヤン・ヲンファは韓民共和国から送られたスリーパーだ」
「スリーパー?」
「知らないのか?」と準一は一度後ろを向くと舞華は頷く。それを見て顔を戻す。「普段はこの日本社会に紛れ、有事の際には指示が下るんだ」
「成程な。……ヤン・ヲンファと言ったか、何をしたんだ?」目を向け、舞華が聞く。「指示通りに動いただけさ。ロシア軍との武力衝突時、首都圏で混乱を起こした」
どんな? 再び舞華は聞く。
「テロさ。東都タワーで仲間が自爆。そして毒ガステロ、だったんだが、スカイツリーの騒乱で終了した。警察に仲間が捕まってな」
「逃げたのか?」
「ああ。んで、戦争終了後、夜道でコイツに掴まったんだ」とヤンは準一を指さす。
流石弟。と舞華が言うと「はいはい」と準一は答える。「で、ヤン・ヲンファ。何で今になって口を割った。何でおれを呼んだんだ?」
「特に理由は無い。ただ俺達の仕事をやりにくくした人間の顔を拝みたくてな」ヤンはふふ、と笑う。「それに話せば俺は釈放、本国送りだ」
そうか、準一は答えると椅子から立ち上がる。すると数人の男がぞろぞろとヤン側に入室。
「準一、何をするんだ?」
「決まっている。殺すんだ」
淡と準一が告げると、男達の内の一人が足でヤン・ヲンファを蹴り倒す。ヤンは椅子から落ち、上半身を上げる。同時、男達は腰から拳銃を抜き脳天を撃ち抜く。部屋を仕切った耐爆ガラスに赤い血が付着。
「帰ろう。今帰れば午後には間に合う」
舞華は無言で頷く。
帰りのヘリの中、準一はタブレット端末で報告書を見ていた。内容は、横浜中華街麻雀店で韓民国人数人を捕まえたらしい。それを見終え、一度息を吐くと舞華が準一の頬に人差し指を当てる。
「何だよ」
「別に。しかし、お前は私より若いというのに随分とデタラメをやっているみたいだな」
「そうか?」
「そうだろう? あの男は仕事がしにくくなった、と言っていたし、何をしたんだ?」
準一は目線だけを向け「入国審査がかなり厳しくなったんだ」
「へぇ……マジか」
「ああ、マジだ」
それに「そうか」と舞華は言うと人差し指を離し黙った。
「アレか」
海上に浮かぶボートの上で男が準一達の乗るティルトローター機を見つけ、袖から高濃度に圧縮した魔力を刀の形にしたものを取り出す。それをティルトローター機に投擲。
機は両断され、後部の準一、舞華は飛び降りる。操縦者は爆発と炎に巻かれ死亡。準一は舌打ちし、海上にボートと男を見つけ、ボートの周りに赤の紋章が浮かぶのを確認する。
「魔術師か」準一はブレードを取り出し、舞華も太刀を取り出し戦闘態勢に入る。
「さて、刀は使った。だが、武器は大量にある」男は両手を広げる。紋章が水を浮き上がらせる。「水は敵を切り裂く刃となる」
その言葉に合わせ、浮き上がった海水は鋭い刀の様な形態になり、準一達へ飛ぶ。準一はそれを紋章盾で防ぐと、舞華の腕を掴み、足元に紋章を展開。その上に降り立つ。
「んな事できるのか、コレ」
紋章の上で舞華が言う。それに準一は目を向ける。「紋章盾は一応物理的な障壁だ。発動の仕方ではこういう事が出来る」
「すげぇ」と舞華が感心した直後、水の矢数十本が準一達に襲い掛かる。加速魔法を発動させ、足場の紋章を蹴り移動。しかし、このままでは。と準一は思い「舞華!」と呼ぶ。
舞華はそれだけで理解し、頷く。弟はアルぺリスを召喚する気だ。舞華は準一の腕に引き寄せられ、紋章が背後に浮かび、巨大な手が2人を受け止めると純白の翼を背負った機械魔導天使。アルぺリスが姿を現し、そのコクピットに入り、シートに座り、舞華はその隣に立つ。
「思い切ったな」舞華はコクピットを見渡し準一を見る。「まさかアルぺリスを召喚するとは」
「状況が状況だ。生身で落下しながら。しかも下は海だ。俺は飛べない、お前も飛べないし助かっただろ」
「違いない。しかしどうする?」
「どうもこうもさっさと奴を殺して碧武に向かう。嫌な予感がする。……多分、奴は俺達の足止めが目的だ」
まさか、と舞華は言えなかった。自分もその可能性を考えたからだ。それをよそに、準一はアルぺリスサイドアーマーの魔導砲を男に向け発射。しかし、魔導砲から伸びる光線は男の手前で弾かれた。紋章盾。
「奴も機械魔導天使を持っている」その準一の言葉の直後、海中から見覚えのある機体が飛び出す。飛沫の中から伸びた手を足で弾くと上昇。
「あの機体」と準一が声を漏らす。「知っているのか?」と舞華。それに準一は頷く。
日本海侵攻戦。その時、準一と戦った機械魔導天使ブリザード。準一はボートを見る。男は居ない。乗り込んでいる様だ。
「振り切れないか?」
舞華のそれに準一は目を向ける。飛んで加速魔法を使用すれば逃げられない事は無い。だが、片付けた方が早い。準一は加速魔法でブリザードへ飛び、背後を取り、ブレードを振るう。ブリザードはその一撃で頭部を弾かれ、逃げるように太平洋へ飛ぶ。
「……弱ッ!」
あまりの呆気なさに舞華が言った。
「明らかに手を抜いてたよ。前はもっと強かった」準一は言うとアルぺリスを九州へ向ける。「学校へ急ごう。何か起こってからじゃ遅いからな」
そして舞華が頷くと準一はアルぺリスを九州校へ飛ばす。だが魔法は使用しない。魔力消費が起こってはいけないからだ。時間にして20分前後掛る。
同時刻、アリーナの耐核シャッターは全て降りていた。そして普段ベクターが動いている場所には1機の機械魔導天使。真っ黒な機体だ。
そしてその機体の前には代理が立っており、その機械魔導天使を見上げている。生徒はほぼシェルター内におり、情報はシャットアウトされている。
「貴様が誰かはどうでも良い。堕天使と疑似堕天使と出せ」機械魔導天使の操縦者からの要求。代理は息を吐く。「ここには居ないけど」
「だったら連れて来い。私はこんな事で無用に殺しをしたくはない」その言葉の後、機械魔導天使の頭は学校へ向く。すると曇り空から雨が降り始める。
降る雨、曇り空を見上げ「そう」 と言うと代理は顔を下ろす。「整備班長。出られる?」
インカムに話しかけると「ああ」と声が聞こえ、すぐにエレベーターが起動。開閉扉が開き、膝を着いたエディのスティラ。揖宿の篤姫が姿を現す。手には回路を積んだ槍。
「ベクター、天使の紛い物」言いながら機械魔導天使の右手が2機に向く。「ただの機械の鉄屑だ」の言葉の後、2機の腹部に半透明の十字架が出現し動きが封じられる。
2機モニター、コンソール駆動系統は正常。ただ動きを封じられた。
「エディ。動くか?」
「残念。全くだ」
そんな2人はてっきり攻撃が来る。と思っていたのだが、機械魔導天使は腕を下ろす。何故、と思っているとアリーナのそこへ女の子2人が入る。 エリーナ、エルシュタの2人だ。
「代理。入れたんですか?」
エディが聞くと代理は2機に向く。
「2人が戦えなくなった以上。まぁ保険として呼んだんだけど」
みすみす渡すつもりか、と2人が思うとエリーナは代理の横で歩みを止める。
「どうする。素直に行く? それとも抗ってみる?」と代理がエリーナに聞くと、エルシュタが並ぶ。
「今が楽しい。だから抗う」エリーナが言うと代理はエルシュタの手を握り後ろへ下がる。「じゃ、準一君が帰って来るまで存分に暴れて」
その代理の言葉にエリーナは微笑みを向けると機械魔導天使を見て目を閉じ、胸の前で手を合わせ、指を絡ませる。
「ブラッドローゼン」
紋章が出現し、深紅の機体が姿を現す。
「こうなる気がしていたよ。機械魔導天使が来たら出来る限り戦うように言われている」ブラッドローゼンを見て男が言うと、エリーナは機に乗り込む。
「参ったな」ふと揖宿が言った。「何がだ?」エディは返し、ブラッドローゼンとその前の機械魔導天使を見る。
「ハッチが開かない」
「あ、本当」
そして2人は機械魔導天使2機を見て思った。
「巻き込まれたくないなぁ」
「疑似堕天使。貴様と堕天使は無傷で押さえる」あまり手荒な事はしたくなかった。しかし、手荒な事をせずにしたとして、それが長引けば危険が伴う。集結するであろう自衛隊などの組織ではない。
高位魔術師、朝倉準一とアルぺリスだ。
「では」男の声に機械魔導天使が浮かぶ。「行くぞ」
来る。とエリーナが思うと黒い機械魔導天使は十字架のを取り出し、右手で持つ。剣だ。
「我が機械魔導天使ハンニバルは十字架の機体。十字架は象徴であり処刑だ」ハンニバルに乗る男は言うとコクピットで笑みを浮かべる。「まずは処刑用の十字架」
言葉の後、ハンニバルは十字架を空に向ける。すると雲が晴れ、金色の光が指し、巨大な十字架が出現する。
「安心しろ、処刑対象は血と薔薇だ」
「ブラッド・ローゼンの能力と魔法を封じる気?」
そうだ。と男が言うと出現した十字架はハンニバルの後ろの地面に刺さり、金色に輝き、数十の赤の紋章が出現し、十字架を囲む様に回る。
「我が十字架の力は対象を封じる」
それを聞き、代理の隣のエルシュタが声を出す。「神の力」
「あれが?」と代理が聞くとエルシュタは続ける。「十字架は処刑の証し。そして宗教的象徴法具。それも神法具。位的に言えば神のランク」
「だったら、準一君が帰ってきて」
「神殺しを使えば」
全て片付く。と思うのだが、何か引っかかる。準一が居ないとして、帰って来る事は想定している筈。それであって神の力を使う機体が一機。無謀だ。
あのハンニバルはまだ何かを隠している。
「そうだ。私の名を名乗っておこう」男が言うとハンニバルは十字架を下ろす。「ゼルフレスト教団、神聖なる天使隊所属、オリバー・アズエルだ」
「さて、早く済ませよう。十字架での封じ込めは時間が掛る」のオリバーの声の直後、ハンニバルはブラッド・ローゼンの背後に立っていた。「早い!」
エリーナが声を漏らすと、ハンニバルは十字架をブラッド・ローゼンの背中に振り下ろす。そのブラッド・ローゼンを掴み、担ぎ上げると巨大な十字架に押し付ける。
「反撃は無意味だ。終了すればその機体はベクターと変わらない」
エリーナは舌打ちし、操縦桿を動かす。全く動かない。そしてハッチも開かない。回路も起動しない。そして十字架が再び輝き、金色の光が辺りを支配する。
生徒が入っているのはシェルター。それは地下にあり、ほぼ全員が入っている。そこにはカノンや結衣達も居た。事情を知っている者は何が起こっているか察しは付いていた。魔術師と。
理由としては、エディと揖宿だけが招集されたからだ。重戦術級魔術師の2人。結衣やカノン達は呼ばれなかった。朝倉準一の居ない今、重戦術級魔術師の2人でないと対抗できない敵だからだ。
だとしても異常事態だ。学校で魔術を使用するレベル。
もしかすると、堕天使絡みかもしれない。と事情を知る者は思った。
碧武九州校を視認した準一、舞華は驚いた。アリーナに巨大な十字架が立っており、その十字架に両手を広げたブラッド・ローゼン。
「あれは」準一は見覚えがあった。過去に資料で見たモノ。だからそれが神の力と知っていた。神殺しは有効だ。
しかし、と準一は舞華を見る。
「ん? 何だ?」
「いや……すまない舞華。お前には降りてもらわなければならない」
準一が言うと舞華は「何で」と聞く。舞華は神殺しを知っている。
「神殺しを使う際、別の人間がコクピット内に居ると困る。上手く発動できない可能性が出て来るんだ」と準一は言いながらアルぺリスを手近な陸に降ろすとハッチを開ける。
「悪いな、舞華」
「ったく。いいよ」
と舞華は答えるとアルぺリスから飛び降りる。
「舞華。道は?」
「分かる。私が戻る頃には終わらせておいてくれよ」
「了解した」
準一は答え、アルぺリスを上昇させ、神殺しを発動させる。
普段神殺しの瘴気は魔導砲かブレードで使用する。だが今回は違う。
「狙いは一点。あの十字架。精密射撃と同じ」
準一はブレード、魔導砲以外の武装を出現させる。碧色の弓を左手で持ち。ブレードを抜き、弦に当て、右手で引く。
「その碧の一閃は神を殺す」
言葉を言うと、手を離す。すると亜音速に近い速度でブレードは十字架へ飛び、空気を切り裂く爆音が響く。飛翔する碧のブレードは碧の光を航跡雲の様に残す。
ブレードは十字架に命中した。横に切り裂き、魔法陣と十字架はガラスの様に割れ、ブラッド・ローゼンは地面に落ち、揖宿機、エディ機の十字架が消える。
「碧の光軸……神殺しか」
オリバーが言うと飛翔してきたブレードは観客席のシャッターに当たる。それを見てハンニバルの頭部は空を見る。
曇天の雲を背に、純白の翼を背負った機械魔導天使。アルぺリス。
「出来ればぶつかりたくはなかったが――――!」
言い切る前に灼熱を帯びた壁が迫り、ハンニバルはジャンプし下がる。それを追いかけ、揖宿の墓石数十個が迫る。ハンニバルは十字架を接近するそれに翳し防ぐ。
「全く。動き出したか、揖宿家のご子息にアメリカ軍の重戦術級魔術師」
笑みを浮かべながらオリバーは言うと左手を2機に向ける。するとその地面から茨が伸び、2機を拘束する。
「薔薇の力……使えるな」オリバーは笑みはそのままで「今日の収穫はこれだけで良い」
「堕天使の力とその記憶している情報は次の機会にでも神聖なる天使隊で奪取に当たらせてもらう」
そしてハンニバルは薔薇の花びらに隠れ、消える。エリーナの魔法と同じ。
「封じたんじゃないんだ」代理が言うとエルシュタは頷く。「奪われたんだ」
力なく倒れるブラッド・ローゼンは機械魔導天使としての力を失った。魔法が使用できなくなった機械魔導天使はベクターと同じ。
準一は下を見下ろしながら長い息を吐いた。そして再び雨が降り始めた。