宣戦布告と乙女の結束
「いやぁ。参ったなぁ。まさか君が三木原君に関わって来るなんて」
翌日、休み時間。学校の廊下を歩いていた準一に声が掛る。見ると渕上だ。
「ああ。俺の方こそ。その腰の低さに騙されましたよ。それに、其方から会いに来るなんて、手間が省けました」
出来うる限りの笑顔で答えると、渕上は「くす」と笑みを浮かべる。
「渕上先生。榊原インダストリーから随分とお金を頂いたらしいですね? まぁ、考えてわかりますよ。御曹司君をトップに仕立てればガッポガッポ、ですか? でも、イレギュラーが現れた」
とまで準一が言うと渕上は息を吐く。
「本当は私自身心苦しくてね。生徒を丸め込み、三木原君に苛め紛いの事をするなんて」
「だからって殺すはやり過ぎでは?」
「何、事故なら揉み消せるよ」
さも当たり前みたいに答えた渕上。まぁ、この件に代理は関わっていない。関わってくれば準一に着くだろう。それで決着だが、それでは駄目だ。
権力で勝ってしまっても、三木原の境遇はそのまま。勝つなら、己の力で勝たなければ。
「まぁ、俺は三木原凛に着きます。敵同士、ですね」
「残念だよ。……まぁ、そう来ると思ってたけど」
「何、安心してください。代理に泣きつこうなんて考えていません」
「成程。三木原君を君が鍛える訳か?」
「ええ。そうです。では」
そう言い残すと準一は歩き去り、それを不敵な笑みで渕上は見つめた。
三木原は退院してすぐに学校に来て、一日が終わった。憂鬱な学校生活だ。喋る相手なんて居ない。昨日の先輩も他人だ。
そう思い、彼がため息を吐くと、教室の戸が開かれ、上級生が入室する。見ると昨日の先輩。
碧武九州校の有名人、2年3組朝倉準一だ。
「三木原凛は居るか?」
そう彼が言うと、三木原は駆け寄る。
「先輩。どうかしました?」
「ああ、どうかした。宣戦布告はしてきた。安心しろ、俺は味方だ」
味方、という単語に三木原は目を見開く。
「聞こえなかったか? 俺、朝倉準一は三木原凛の味方だ。ベクターでの訓練、俺がお前をコーチする。良ければ返事だ。良いか? ―――――1週間後、勝って度肝を抜いてやれ」
そう言われ、三木原は「はい!」と元気よく頷く。
等と元気よく切り出したのは良かった。しかし、問題はあった。
榊原竜二郎、適性A
三木原凛、適性A
ここまでは良いのだが、榊原は本郷義明に匹敵する強さ。対する三木原は筆記試験こそ完璧だが、ベクターでは普通以下。授業成績でそれは明らかだった。しかし、その状況で勝ってしまえば完璧だ。
言葉の通り度肝を抜ける。
「三木原、今まで搭乗した事ある機体は?」
「雷だけです……」
そうか、と言うと、準一は三木原の手を握り、格納庫へ向かう。アリーナの使用許可は取っている。
2人が格納庫へ着くと、城島が迎える。
「朝倉、言われた通りにしてある。雷とお前の椿姫。出せるぞ」
「ありがとうございます―――三木原、行くぞ」
準一は手を引き、雷の前まで行く。雷は標準的な訓練用装備。訓練用アサルトライフルに訓練用のロッド。
「先輩の椿姫って」
言いながら三木原は振り返る。そこにはケージに納まった椿姫。新型飛行ユニットにアーマー。椿姫なのだろうが、明らかに違う。普通、メインカメラは横に伸びているのだが、準一の椿姫は装甲がカメラに被さりデュアルアイに近い。
「見てくれは椿姫じゃないがれっきとした椿姫だ」
そう準一は言うとインカムを三木原に渡すと手を離す。
「早速だが、システムを立ち上げてくれ。すぐにアリーナに出よう」
それに三木原は頷くと、雷に乗り込む。
準一はあまり感情を出さないイメージが三木原にはあった。だが、考えは変わった。
「良い先輩みたいでよかった」
そう呟くと、コンソールのタッチパネルに手を翳す。
「むす」
そう小さく声を出したのは結衣。と牧柴舞華、現、朝倉舞華だ。場所は保健室。他にはカノンとレイラ、真尋、綾乃が居る。
「何を2人はため息を吐いているのかしら?」
レイラが聞くと舞華は椅子から立ち上がる。
「我が弟がまた別の女にうつつを抜かしている様だ」
「何ですって!」
舞華に喰いかからんとする勢いでレイラは一歩踏み出す。それを見かね、カノンと綾乃はため息を吐く。
「2人とも、準一が今関わってるのは」
「れっきとした男子生徒ですよ」
綾乃、カノンが言うのだが、結衣は不満そうだ。
「結衣?」
舞華が聞く。
「ねぇ、その男子生徒ってどんな人?」
「うーん……女の子みたいな感じだった」
「やっぱり!」
結衣は立ち上がる。
「やっぱり、兄貴は男の娘に萌えるんだよ!」
力強く切り出した結衣。他4人はポカンとしている。
「だって考えて! 本郷義明を!」
その言葉に4人は考える。代理からネタばらしされた女装男子、本郷義明。その女装した姿は信じられない位可憐だった。
「まさか……弟よ」
「兄さん……義妹が最高なんですよ」
「準一……変態だったんだ」
「夫としての自覚に欠けますわ! こうなったら!」
「うん! 兄貴をあたし達に振り向かせよう!」
どうやら乙女の結束が高まったらしい。