初夏に出会った厄介事
ALの事件より早1週間。準一は黒妖聖教会、シスターライラの居る九州支部。北九州空港跡地に来た。
そこには巨大な教会があり、そこに準一は入る。恰好はスーツだったが、上着を脱ぎ、腕にかけている。
「あら、案外早く着きましたね」
教会に入ると同時、二階から降りてくるシスターライラに言われ「偶々近くに居ましたので」と準一は答える。
「そう……今日あなたをここまで呼びつけたのは理由があるからでしてよ」
理由? と準一は聞く。
「反日軍とゼルフレスト教団との武力衝突時、どちらにも所属しない部隊が出現しまして」
「どんな部隊です?」
「パワードスーツの部隊です。高濃度の魔力を攻撃に転嫁し、両部隊を攻撃してましたの。知りません? いえ、知ってますわよね」
準一はシスターライラを見る。金髪で修道服。白人だ。
「白々しい、あなたも居たでしょう? あのフレン・ウォールに」
「ふふ。学生のクセに情報が早い事……ええ、確かに居ましたよ。ですが、詳しく知る前に弾かれましたの。あのパワードスーツ。あなた戦ったりしませんでした?」
「戦いましたよ」
言うと準一は思いだす。パワードスーツ、ジェイバック。
「それに、男と一緒に不思議な日本人女性も確認されてますわ」
アイルマン・キース。そして、氷月千早だろう。
「……心当たりがあるようですわね。確認出来ました。ごめんなさい、呼びつけたのはこの確認がしたかっただけなんです」
そうですか。と準一は言うとため息を吐き、教会を出る。
碧武校は夏服への移行を済ませ、男子はその辺の学校の制服に近いが、女子は軽くコスプレで通りそうだ。
そんな暑くなった六月下旬。朝倉準一は生徒会活動をしていた。
九州校生徒会長、揖宿洋介の命令で買い出しに来ていた。本当は別の事を頼まれる予定だったが、四之宮加奈子、雪野小路楓がショッピングエリアでの買い物をミスしてその尻拭いだ。
ちなみに現在放課後。1人だ。カノンは志摩甲斐悠里の餌食に、結衣は弓道に勤しんでいる。(実は結衣は弓道部に所属している)
エルシュタ、エリーナは代理と格闘ゲームの対戦。綾乃等の同学年メンバーはプライベートにスイーツを食べに行っている。
珍しく1人になった準一はショッピングエリア南街の大通り、指定された店は路地裏の工具店だ。
準一はその店のある路地裏に入り、店を見つける。別に錆びれているわけでは無いが、何か古めかしい店。手早く買い物を済ませ、準一は店を出る。
すると路地裏の角の辺りで男子生徒が尻餅をつく。
それを準一は目の隅で捉え、顔を向け、取りあえず近寄ろうとすると、その男子生徒は別の男子生徒に腹部を蹴られ、その場に倒れ込む。
そんな光景を見せられて、生徒会である以上無視するわけにはいかない。
「ちょっと」
準一は倒れた男子生徒に駆け寄り声を掛ける。倒れた男子は腹部を痛そうに押さえ、カッターを見ると蹴られた後が見てとれる。準一は彼を抱きかかえ、その前に立つ男子生徒に目を向ける。
「何をしてたんですか?」
その蹴りを入れていたであろう男子生徒が、上級生か同級生か下級生か分からない為敬語で聞く。。
「……貴様、2年3組の朝倉準一」
準一に気付いたであろう男子生徒は一歩後ろへ下がる。変な方向性に目立ってしまったのが原因だろう。
「……成程、お前確か1年2組だったよな?」
言われ、見覚えのある顔に準一が言うと男は舌打ちする。
「どういう経緯でこうなったか聞きたい。事情が分からないと何も言えないからな」
「別に貴様が知る事ではないだろう?」
そう返され、準一は一度息を吐く。
「俺は生徒会だ。こんな光景を見せられて見過ごせると思うか?」
「チッ……おい三木原、今日はこれまでにしてやる」
と言い残すと男子生徒は踵を返す。それから目を離し、準一は抱えた男子生徒を見る。
制服は男子だが、身体は華奢。顔立ちは中性的に近いだろうが、どちらかと言えば女性的な顔に近い。髪は長め。頑張ればポニーテールが出来そうだ。
「大丈夫か?」
準一が聞くと、男子生徒は目を開け「いたっ」と言い腹部を押さえる。
確か、三木原、とさっきの奴は言っていたな。と思い「お前、三木原で良いのか?」と聞く。
コクリ、と三木原が頷くと、準一は買い物袋を腕にかけ、三木原をお姫様すると近くの病院へ運ぶ。
病院へ運ぶと、取りあえず三木原は病室で寝かされた。取り敢えず、準一は三木原の所有物。学生証を見る。1年2組の人間だ。それを確認すると2組の担任に連絡をし、一度学校へ戻り、揖宿へ買い物袋を渡すと再び病院、三木原の病室へ向かった。
それと同じタイミングで1年2組担任が病室へ入る。
「あぁ、そういえば君だったね。すまない、ウチのクラスの生徒を」
入るなり、2組担任の渕上は頭を下げる。
「あ、いえ。気になさらず」
準一も同じように頭を下げる。目だけは渕上に向ける。随分と腰の低い先生だ。と準一は思った。悪い意味ではない。
「コレ、三木原君へのお見舞いなんだ」
言いながら渕上は果物盛り合わせの入ったバスケットを取り出す。
「あ、置いときますね」
「助かるよ。……それとすまない。朝倉君、今日は三木原君へ付いてやってくれないか?」
別に構わなかったので頷く。来て早々に渕上がこう言ったのは、現在教師陣は選抜戦関連で忙しいからだ。それを準一は理解している。
「それじゃ。ありがとう」
最後に一礼し、渕上は病室を去る。それを準一は見送ると病室へ戻り、三木原の寝ているベットの隣にパイプ椅子を立て、座る。
三木原が目を覚ましたのは、7時過ぎだった。三木原は辺りを見渡し、準一を見つけると跳ね起きる。
「だ、誰!?」
「2年3組の朝倉準一だ。お前の事は知ってる」
言うと準一は三木原の学生証を右手でヒラヒラさせ「三木原凛」と言う。それに三木原は頷き、ため息を吐く。
「で、路地裏の件だが。少し見ていた」
それにも頷く。
「教えてくれ。あの生徒と何を揉めているんだ?」
準一は優しく聞くが、三木原はどうにも言い難そうだ。
「喋るまで帰れないから」
それを言われ、三木原は大きくため息を吐くと、口を開く。
「この間。入学時の筆記試験の結果を教員から教えてもらう機会があったんです」
それだけで、何となく、準一は察しが付いた。
「僕を蹴っていたのは、同じクラスの榊原竜二郎。榊原インダストリー、知ってますよね?」
「ああ」
「その榊原ですが、学年トップ以外取った事が無かったらしいんです。ですが、入学時の筆記試験で僕が一位を取ってしまって」
「それで恨まれて……あんな感じに?」
三木原は頷く。
「その、クラスの皆からの目も冷たくて」
皆が榊原に味方しているわけか。と準一は理解する。そこで準一は渕上からの見舞いのフルーツを渡す。
「これは、誰からです?」
「お前の担任教師だ」
そう告げると、三木原は肩を震わせる。準一はそれに気づき、訝しげな表情を向ける。すると、三木原は果物を漁り、その中から一枚の手紙を取り出す。
そしてそれを開き、中を見て、手紙を落とす。それを準一は拾い上げる。
『1週間後の模擬戦。そこでお前には死んでもらう』
手紙にはそう短く書いてあり、準一は少し驚いた。
「渕上教諭も関わってるのか?」
「はい……渕上先生が主導してます」
準一は呆れた。まったく、あの腰の低さに騙された。
「それで、模擬戦はベクターので良いとして。死んでもらう……手段は?」
「僕の搭乗機、雷6番機の胸部装甲だけを薄くして、実戦用の長刀で」
責任者は城島さんだ。そんな事出来ないだろう。準一の場合のユニット爆破は幾つか算段があった。だが、この場合は違う。代理が関わっているわけでもない。
多分、整備班に渕上の息のかかった人間が居るのだろう。
「お前、受けるのか?」
「はい。受けないと、榊原が家族に危害を加えるって」
そうか、と準一は言うと立ち上がり、病室を後にする。
此処まで聞いてきたので、手を貸してくれるのでは、と思った三木原は準一の背中を見て少し肩を落とした。