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ブラコン


「・・・嫌われちゃった?」

結衣が居なくなった後、綾乃が準一に聞く。


「さぁ・・・。それよか早く学校に行こう」

準一は言うとスタスタと歩き出す。


準一たちが居たのは学校エリアの駅。学校は高台にあり巨大なので目立つ。迷う事無く学校に着くと準一は直ぐに校長室に連れて行かれる。綾乃は別に校舎案内を受ける。


校長室は広く、肖像画やルームインテリアの樹木が置いてある。校長は入口より正面の椅子に座っている。


あれが校長?と準一は肖像画と見比べる。肖像画は威厳のある老人だが、居るのはツインテールのゴスロリ衣装の女の子だった。


「来たわね。朝倉君」


準一は無言でいる。


「話は全て聞いてるよ。君は『魔術師』だったよね」


校長のその言葉に、準一は無表情から疑いの表情へ変える。


「この学校の本当の創設目的も知ってるよね?」

「・・・ええ」準一が答えると「そう」と校長は言い席を立ち準一に歩み寄る。

「魔術は人間個人では発動に限界がある。一定の威力の魔術なら発動させれてもそれが限界」校長が言う。


「だから魔術発動用の法具が必要になる。杖や剣、それでも良いが最も魔術発動に効果的なのは魔術回路を積んだ人型兵器、機械魔導天使」

と準一が続ける。


「そして俺はその機械魔導天使を所有している・・・俺が呼ばれたのってスパイ容疑でも掛ってるんですか?」


準一は校長に聞く。

校長は歩みを止め「いいえ。スパイだなんて思ってないわ」と否定する。


「君がこの学校に呼ばれたのはその力を買われての事よ」

「力?」

「君は機械魔導天使を使用できる・・・制限なしでね」校長は不敵な笑みを浮かべ言う。

「一応、この学校は魔術教団とは敵対関係にあるからいつ狙われてもおかしくない。君にはその際無条件で前線に出て戦闘を行ってもらいます。機械魔導天使と魔術を駆使して」


やっぱりか。と準一は思う。どこかでそれを分かっていた。


機械魔導天使と魔法は現在の世界において、軍事的兵器を凌駕する可能性を秘めた力である。魔術側のその力が手に入るとなれば利用されてもおかしくはない。


「あ、それと。この学校君のほかに数人魔術師居るよ」

校長は言う。


「魔術が使える生徒の話だけど、多分すぐにかかわる事になると思うから名前覚えといて。君の妹と仲良しのシャーリー・アーペントっていう子だから」


「シャーリー・・・アーペント・・・」準一が名前を覚えると校長は「覚えておいて。この学校で魔術が使える人間はあなただけじゃない。でも、機械魔導天使を操れるのは君だけ。いい?君だけが特別なの」と念を押すように言う。


「それと、あたしは校長じゃなくて校長代理だから」代理がそういうと「ああ・・・だから」と準一は言う。


子供が校長だなんておかしいと思った。等とは口には出さなかった。





<><><><><><><><><><><><>





女子寮の入り口、そのステンドグラスでの装飾の行き届いた扉を結衣が勢いよく開き、自室に駆け込み、籠ってから1時間が経過していた。


その結衣の自室にはシャーリー、菜月そしてロシアからの留学生女子、アンナ・マーディフが居た。3人とも結衣とは仲良しで、いつも一緒に居る。

衣は部屋のベットの上で体操座りをして顔を伏せ縮こまり、いじけていた。3人とも聞かずとも理由は分かっている。結衣は兄に会えると知って寮からニコニコして出て行った。ニコニコは彼女は無自覚だ。


しかし、そんな彼女がすぐに帰ってきていじけている。


結衣は兄に対しては素直になれないのも3人は知っている。恐らく会って喧嘩でもしたのだろう。3人はそう推測する。


「なにかあったの?」とアンナが蒼い瞳を結衣に向ける。


アンナの後に「喧嘩でもしたんでしょ?」と菜月が言う。


すると結衣が顔を上げ「喧嘩とかしてないし」と鼻水をすすりながら言う。顔を伏せてると思ったら泣いてたのか。と3人は思う。



そんな中「大好きなお兄ちゃんに会えて嬉しかったんじゃないの?」とシャーリーが聞く。結衣は首を横にブンブン振り「あんな奴好きじゃないし!」と大きな声で否定する。


こいつぁまた重症だぁ。とシャーリーは思い「あはは」と苦笑いする。


そして3人はまぁ、明日になれば全部わかるよね。と説得を諦める。






<><><><><><><><><><><><>







「あ、準一」と地下格納庫に向かう通路で綾乃が言う。準一は校長室から出て格納庫に向かう途中綾乃と遭遇した。


「よう」と準一が言うと綾乃は駆け寄り「もう話は終わった?」と聞く。


「まぁ・・ね」歯切れ悪く準一が答えると「ふーん」と綾乃は言及せずに言い「じゃ、はやく行こう」と言う。


本来綾乃には案内役の職員が居たはずだ。準一はそれを綾乃に聞く。


「あー・・案内の人と学校の所で逸れちゃって」


成程。準一は納得し先に見える格納庫への入り口を見る。そして2人は歩き出す。

2人は自動で開いた格納庫の入り口を潜り格納庫内へ入り込む。格納庫は数十機以上のベクター兵器を収容できるほど広い。天井の高さは20m以上。入ると悠然と立ち並ぶ量産型ベクター兵器が目に入る。ベクターの足元に武装各種が置いてある。手前から突撃戦闘用、中距離戦闘用、砲撃戦闘用、狙撃戦闘用とベクターはジャンル分けしてある。


「す、すっごい」と綾乃は驚く。しかし準一は特別反応せず無表情で「すごいな」と淡々と言う。


「驚いてないの?」綾乃が聞くと「いや驚いてるよ」と準一は言う。


「ここにあるベクターは自衛隊でも採用してない純国産の最新鋭ベクター、VCT-15J椿姫」とここまで準一が言うと「詳しいね」と綾乃が言う。

それに「パンフレットに書いてあったろ?」と準一が言う。


「椿姫の武装は腕のワイヤーガン。腕内蔵型40mmバルカン。同じく内蔵型の小型モーターブレード。んで足元の武器。あの刀みたいな奴は長刀、2式モーターブレード」と準一がここまで言うと「中々詳しいな」と声が掛る。

声の方に2人が向くと灰色の作業服を着た巨漢の髭男が近づいて来ていた。


「・・・見ない顔だな?」髭男が聞くと「今日来た転入生です」と綾乃が答える。


「成程な・・2人とも名前聞いて良い?」

威圧感を放つ見た目と違ったソフトな聞き方に、準一はずっこけそうになる。


「2年、西紀綾乃です」と先に綾乃が答える。続き「同じく2年、朝倉準一です」と準一が言うと髭男が「ん?」と声を出す。


やっぱ気付くよな。と準一が思うと案の定「朝倉・・・ってお前この学校に家族っているか?」と聞かれ、それに準一は「ええ・・同じ2年に結衣が」と答える。


準一は「知ってるんですか?」と髭男に聞くと「知ってるも何もベクターを使用した戦闘では高等部最強なんて言われてるんだ。嫌でも覚えるさ」と手に持った資料で顔を仰ぎながら言う。


ですよね。と準一は思い手近なベクターを見る。


「あ、そういやお前ら適性のランクは?」

髭男はハッとし聞く。


「私はB」

先に綾乃が答える。


「俺は・・・適性ランク圏外です」

準一がそう答えると髭男と綾乃が驚く。


髭男は驚きながら「本当に」と呟く。

準一にその呟きはハッキリ聞こえ、この男も俺の事情を知っているなと横目で見る。


「そういえば・・アナタの名前は?」

髭男の名前を聞いてなかったので準一が聞く。


「ああ悪い・・俺は城島隆介。一応、このハンガーを仕切ってる。整備班の班長だ」


班長。と準一は機械魔導天使の事を考える。すると城島が準一の目の前に立ち「今機械魔導天使の事考えたろ?」と小声で耳打ちする。


綾乃は聞こえないので首を傾げる。


「やっぱり知ってるんですね」

準一は小さく言う。


「まぁな・・お前の入学に関しては初の防衛省からの推薦だ。有名人だぜ。関係国政府はお前の動向に注目してる」



マジかよ。準一はゾッとしながら顔を苦笑いさせる。



「後々わかるさ・・・」そういうと城島は「あばよ」と言い去る。


すぐに「何内緒話してたの?」と綾乃が聞くが「聞かない方が良い」と準一は苦笑いを維持したまま答える。



<><><><><><><><><><><><>



学生寮のあるエリアは学校のあるエリアと隣接している。学生寮エリア人工島の総面積はショッピングエリアの3分の1。マンションタイプから一軒家まで様々なタイプの寮がある。



その学生寮エリア移動用駅の前の歩道に綾乃と準一が居た。


格納庫より出て街を探索し終えて時間が経ちもう夕刻。2人、主に準一がゲッソリとしていた。




「何これ?」

目の前のモノを信じられないと言った顔で準一は言う。


「地図じゃない?」

覗き込む綾乃も同じ顔をしていた。


綾乃が地図、と言ったソレは格納庫を出る際、校長代理が手渡しした物だった。


半分に折りたたまれた小さな紙切れ、貰った2人は何だこれ?と思うが「学生寮エリアに着いたら開いてね」と書いてあり、2人はそれに従い駅の目の前で紙を開いた。


紙には『学生寮への案内。部屋の用意が間に合わなかったのでゴメンね(笑)』と油性マジックでデカデカと書いてあった。


その端に小さな地図が載ってあるが、マジックで書かれた字が邪魔でほぼ見えない。


間に合わなかったって何だよ? 準一が思った矢先ヒラリともう1枚の小さな紙が舞い落ちる。綾乃はそれを広い上げ、書いてある内容を読む。


「~ッ!????」

綾乃は顔を真っ赤にさせ声にならない悲鳴を上げる。


準一はどうした?とは聞かず紙を取り上げ文を読む。


『ッてなわけでェ! 2人は同じ部屋で生活よん☆』

規則はどうした 準一は顔を手で覆い呆れ果てる。


碧武校、学生寮規則。原則、男女別部屋。補導時間以降の外出は禁止。危険物持ち込み禁止。その他諸々。


「ま、まさか・・こんなふざけた学校とは」

準一は言いながら携帯のアドレス帳を開き、校長代理と書かれたそれを押し通話を仕掛ける。


3コールで代理は出た。


『はーい! もッしもしィ!』

その代理の声になんつー面倒臭いテンションの高さだ、とさらにあきれ返る。


「あの・・校長代理?お聞きしたいことが」

『良いよ。言わないで!あたしは全て知っている』

何をだ?


『寮の事でしょ?ウふふ・・・もう来るんじゃないかな?』

「何がです?」

『助っ人よ!』


代理は言うと通話を終える。


助っ人って誰?俺の知ってる人?と準一が唸っていると「ねぇ」と声が掛る。



声を聴き準一は顔を顰め声のした方に向く。そこには準一の妹、結衣がさっきと同じ服装で立っていた。事情は校長代理から聞いており、かなり不機嫌な顔をしている。


「マジか」

ため息と共に準一は言う。


すると「最悪なのはアンタでしょ?」と結衣が反論する。

準一は結衣を睨み付け「何が」と静かに言う。


「転入早々自室に女連れ込むって、どういう頭してんの?」

「校長代理に言われてきたんなら、事情くらい知ってんだろ? それ踏まえて今の台詞ならお前こそどういう頭してんだよ? 馬鹿じゃねぇの?」


準一の言葉に結衣は顔を赤く染め上げ「うっさいっての! 偉そうに上から喋んな! 気持ち悪いんだよ!」と叫ぶように言う。


綾乃は結衣の準一に対する気持ちを知っているので苦笑いしている。


どうして準一は結衣に対してあんなにキツイのだろう? 妹があんなに可愛いければ好かれて嬉しいはずなのに?

綾乃が悶々としていると「つか、お前何しに来たんだよ」と準一が静かに言葉を放つ。


「・・・校長代理からアンタをあたしの同室に住まわせろって」

頬を朱に染め言う。


結衣のそれに準一は顔面を蒼白させる。本気で嫌悪の顔を結衣に送る。


「普通に考えて綾乃を俺の代わりに住まわせた方がいいだろ?」

「だ、だから! 校長代理が言ったの! あ、あたしは嫌だけど・・アンタを住まわせろって!」



どうやら引く気は無いようだ。昔からの結衣の頑固さに呆れながら準一は髪をかきあげる。



「俺もお前と一緒なんて嫌だ。絶対にだ」

そう言った準一の目は結衣に対しての侮蔑の感情が籠っている。


その言葉に肩を落とす結衣を見た綾乃が「折角のお誘いなんだし行けばいいのに?」と助け船を出す。

すると準一の携帯が鳴る。準一は通話を開始する。


『お、出た』

校長代理だ。


「俺に何か?」

『いや多分断ったんじゃないかなって』

「・・・断るのはダメなんですか?」

『うん。許可できません。・・・一応言っとく。回りくどいやり方だけど一番自然に君を彼女の元に送れると思ったからやったことだから』


ベクター兵器運用に関しての事だろう。


『一応君は政府、防衛大臣の推薦があったとしても、国内有権力者、対外国も然り、まだ危険な存在と思われてるのが事実。そして君の魔術師としての力を漏らすわけにはいかない』

「それって・・・妹にもやばいんじゃ?」

『大丈夫。結衣ちゃんの口の堅さは保障するわ』

「・・・わかりました」


言うと準一は携帯を閉じる。そして俯いている結衣に「・・悪いやっぱお前の部屋に案内してくれ」と言う。

結衣は嬉しさを堪え踵を返し「付いて来て」と言うと歩き出す。


「じゃ、あたしは書いてある部屋使うね」

綾乃も立ち去る。


準一は「ふー」と息を吐き結衣に続く。














準一は案内された寮の案内を見て愕然とする。


碧武九州校第3『女子寮』



嘘だろ? まさか、女子寮だなんて と心中で呟くももう遅い。結衣はステンドグラスで装飾された入口の扉をガチャと開ける。


準一は意を決し中に入る。


数人の女子生徒が目を丸くし準一を見る。


女子寮だけあって女子は油断している。主に服装面で。準一を見る女子はほぼ下着、肌が露わになり健全な高校生の準一的には動揺した。


そんな時「来て」と結衣が準一の手を引き自室のある4階まで案内する。


階段を上がり4階に上がるとすぐに大広間が目に入る。その前を通り過ぎ一番奥の部屋に入る。その部屋にはシャーリー、菜月、アンナがパジャマで雑談していた。


ま、まさか相部屋? 準一は覚悟する。すると「あれ?」とシャーリーが準一に気付く。


「・・もしかして結衣のお兄さん?」アンナが聞くと「あ、ああ」と準一は答える。


すると3人は立ち上がり順番に自己紹介する。


「あたしは菜月」


「アンナ」


「ジャーリー・アーペント宜しく」とシャーリーが言った後「ああ、君が」と準一は言う。

シャーリーは事情を聞いていたようで「少しお兄さん借りるね」と準一を外に連れ出す。


「校長代理から聞いたよ。君、魔術師なんだろ?」

出るなり準一はシャーリーに聞く。


「うん。あたしも聞いた。稀な機械魔導天使を個人所有した魔術師って」シャーリーは続け「魔術師になった経緯、聞いて良い?」と聞く。


それに「・・・・どうかな・・言う分には支障は無いけど、多分すぐに聞けると思うよ」と準一は返す。


「そっか。ねぇ、結衣には話すの? 魔術師って事」

「まだ決めてない。君は話してるのか? 結衣と仲良しなんだろ?」

「仲良しではあるけど・・・魔術師って事は学校の一部教員と君しか知らないよ」



そっかと準一は言うと「・・君ら結衣とは相部屋?」気になっていた事を聞く。


「違うよ・・・ヤラシイことする気?」

「しねえよ。流石に女の子だらけの中じゃ辛いんでな」


準一がそこまで言うと「何話してんの?」と結衣が静かに声を掛ける。


ああ、怒ってるな。シャーリーは理解し「お嬢様がお怒りだ」と準一に向き言う。

それに「はぁ」と準一はため息を吐き部屋に入る。








<><><><><><><><><><><><>







「歓迎会? 明日ですか?」

1人の生徒会男子生徒、書記がそう言う。相手は生徒会長だ。


「ああ。本当は明後日執り行う筈だったが校長代理が今日やれと言うんだ」

生徒会長、揖宿洋介がやれやれと言った顔で言う。


「まったく・・代理は」

そう男子生徒書記、子野日雄吾も同じ顔で言う。


「でも良かったじゃないですか。明後日だったら皆『一般生徒』に捕まって集まれないし」

そう言ったのは会計、雪野小路楓。生徒会室で繰り広げられる会話の最中、入口の自動ドアが静かな音を立て開く。そして数人の生徒が入室する。


「役者は揃ってきた。では始めよう。魔術師会合会を」

生徒会長、揖宿洋介の言葉で全員がパイプ椅子を広げ座り会議が始まった。








<><><><><><><><><><><><>








菜月、アンナ、シャーリーが部屋から去り結衣と2人きりになった準一はなんとも気まずそうに部屋の隅で固まっている。


  その間、結衣は必死になり話題を探している。準一はカバンに入れておいたアニメ雑誌を広げ読んでいる。そして魔術師である事を言うか言うまいか迷っている。



  そんな時大きな腹の音が部屋に響いた。瞬間、結衣はお腹を押さえ顔を赤に染め上げる。


  準一はそんなにお腹空いてたのか、と察し気が乗らなかったがこう言った。


「お前が良いなら晩御飯作るけど」


  準一の言葉に結衣はハッとし「・・・作って」と小さく言う。


「あいよ」

 と準一は言うとカバンの中からエプロンを取り出し手際よく着け、冷蔵庫を物色。


 この女子寮、食堂はあるが結衣は殆ど自炊で頑張っているため準一は冷蔵庫の中身に困らなかった。


 この材料ならこれか。準一は献立を決め料理を開始する。





 そんな準一を結衣はまじまじと見つめていた。4年ぶりに会う兄(とは言っても生まれた日は一緒で、結衣より6時間先に準一が生まれた)の料理する姿があまりにも意外なのだ。


 4年前まだ家に居た頃、準一は料理など微塵もしなかった。それは結衣も同じ。しかし、結衣が居なくなって1年経つ頃、準一は料理を始め現在は趣味になっている。


 結衣が(何を作っているんだ?) と唸っている間に準一は料理を盛り付け結衣の座っているピンクの円テーブルに運ぶ。


「わぁ」

 運ばれた料理を見て結衣は声を上げた。サバの味噌煮、ひじきの炒め物、豚汁の3品プラスの白米である。


 その渋いチョイスに結衣は顔を緩ませる。そして準一の「いただきます」に合わせ2人は食事を始める。




 食べ始めてすぐ、準一が味を聞く前に「メチャクチャ美味しい」と結衣がサバの味噌煮に対しての感想を零す。安堵の息を吐き準一は炒め物を口に運ぶ。


 そして程なく準一は決心し「結衣」と名前を呼ぶ。ふいに名前を呼ばれ結衣は口の中身を呑みこみ「な、何よ」と狼狽えながら言う。


 準一は一瞬目を瞑り箸を置く。


 その真剣な雰囲気に結衣も手を止める。「お前には話しておこうと思う。一応・・兄妹・・・だしな」兄妹と言うフレーズを嫌そうに準一は言う。結衣はそれに気づき、顔を下に向け、表情を曇らせ耳を傾ける。



「あのな・・俺は魔術師だ」



 準一が言った直後、結衣は顔をバッと上げ目を開く。結衣の目は驚きの目であったが、準一には軽蔑に近い目に見えた。


 その目は仕方のない事だ。と準一は自分に言い聞かせ続ける。


「お前2年前の第二北九州空港事件知ってるよな」


 結衣は無言で頷く。知らないわけが無い、今碧武に居る人間は必ず知っている事件だ。


「その事件の被害、覚えてるか?」

「・・・死者120名。重軽傷者240名」

 結衣が淡々と答えると準一は驚くべき事を口にした。


「その死者120名ってさ俺がいた中学の数十人が入ってるんだ」



 結衣は驚いた。そして準一は続ける。



「でも、やっぱ正確じゃないな。本当の死者は120名プラス60名だ」

 それに結衣は首を傾げる。


「この60名は反国連魔術教団『ゼルフレスト教団』。事件の犯人たちだ」

「そしてこの60人。殺したのは――」


「――――俺なんだ」




 そう告げた準一の目は深く濁った黒だった。その目に視線を合わせられず、結衣は言葉を失った。






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