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束の間の休日②

あっという間に休日。退屈な座学に溢れた授業を乗り越え、準一は学生寮エリアの駅に居た。恰好は何時ぞやのサングラスにスーツ。ポケットから携帯を取り出し時間を見る。


「お待たせ」


少し駆けながら準一の目の前に来たのは、女装メイクを完璧にした本郷義明。今日は女の子らしいメガネを掛け、女の子らしい服装で、清楚さが出ている。上目遣いで言われ準一は不覚にも可愛いと思ってしまう。


「いや、いい。取り敢えず学校外へ出よう。話はそれからだ」

「ああ・・・その」

「ん?」

「い、いや・・・代理からの指令で・・・その、手を」


モジモジしながらの本郷のそれに「分かった」とだけ言うと準一は隣の義明の手を取る。すると本郷は頬を赤らめ下を向く。





草むらの陰に、2人を見る影があった。真尋、綾乃、結衣、カノンの4人に保護者の代理だ。


何故、この様な行為に及んでいるかと言うと、それは今朝に遡る。




「兄さんに!」

「兄貴に!」

「朝倉に!」

「準一に!」


『彼女ー!?』


休みの日でありながら、校長室へ招集された4人は代理に言われ、同時に叫んだ。ちなみに、彼女達(代理以外)は本郷義明女装メイク作戦を知らない。


「そうよ。これをご覧」


集めた女子生徒をただ煽る為だけに、代理は投影ディスプレイを見せる。ディスプレイには本郷義明、女装バージョン。


「可愛いでしょ? 可愛いよね? そう可愛いのよ。いい? 2人はこれからデートよ・・・どうする?」


どうする? の聞き方はただ煽るような口調で、準一に好意を持っている女子達が引っかからないわけが無い。4人はデート尾行を決定。今に至る。



「あ・・・手繋いだ」


ヤンデレ状態になったカノンが小さく言う。他3人は視線を2人から離さず不機嫌そうにしている。



「4人か」と準一がぽつりと言い、本郷はそれを何の事か聞くが「何でもない」と準一に返され言及を止める。


言わなくともいいだろうが、すでに準一は隠れている4人に気付いており、裏では校長代理が手を引いている事も知っている。


また面倒臭いな。と思いながら準一は本郷の手を引き駅に入る。





現在、陸上自衛隊、航空自衛隊が特例合同演習を富士総合火力演習場で行っている。観覧する一般客はいない。一般人の入場が許可されていないからだ。なので、現在観覧席には自衛隊内、機甲艦隊などの多組織の高官が多数参席している。


『第3戦車隊、前進しながら砲撃』

『タロン1、了解』


観客席前のテントから1人の隊員がインカムで指示を出すと、07式戦車6両が前進しながら縦に並び、砲塔を回転させ右に向け、1.2km離れた的に向け一斉に砲撃。確認の為、戦車に乗車していない隊員が双眼鏡で的を見る。


『全車全弾命中を確認!』


隊員の声を聴き『続いてフライトタイプのターゲットドローンを出す。ランチャーを使用し全機破壊しろ』と次の指示を出す。すると、的の前の地面のVLSに似た射出機が開き、小型ジェットエンジンを積んだターゲットドローンが飛び出し、後退しながら高度を上げる。


『タロン1より各車、目標はターゲットドローン、ランチャーを使用、攻撃は各々のタイミングで行え』


了解。の後、07式戦車砲身に付けられたランチャーの蓋が小爆発で吹き飛ぶと、小型の無誘導ロケット弾がターゲットドローンに向かい、数発目かで命中。爆発。


「ふむ・・・歩兵に自動車、装甲車や軽戦車くらいならランチャーは使えるな」


観客席に座る弩級戦艦大和艦長、九条は顎に手を当て戦車を見る。


「ウチの部隊には使えないな。飛行部隊だから。・・・なぁ、九条、お前こういうイベントはさ、いつも準一君捕まえてなかったか?」


左隣に座るフェニックス機長、前島は九条に聞く。


「ああ、いやね誘おうとしたんだけどさ、マナから言われてさ」

「言われたって何を?」

「彼氏とデートだってさ」


言いながら九条は本郷女装後の画像を携帯で見せる。恥ずかしそうに微笑んでいる画像だ。


「いや、男じゃねえだろ?」

「いや男だって。ほら、本郷重工の息子さん」


聞いて前島は苦笑いを浮かべる。


「察してよ」

「ああ。悪かった」


2人が再び戦車隊の居た場所を見るが、すでに戦車は別の場所、地面の上昇エレベーターハッチが開き、ベクター数機が地上に姿を現す。


雷5機に見た事の無い機体。四角くゴツゴツした雷とは違い、見た事のない機体のフォルムは椿姫の様な細い線だ。


『では、今より新型ベクター悪鬼の試験射撃を開始する』


テントからのアナウンスは、出てきた見た事のないベクターを悪鬼と呼び、前島、九条を含む観客席組は「ああ、新型ベクターか」納得する。悪鬼、確かに名前の通りその名が相応しい。二本の角に刺々しい頭部。真っ黒な装甲。そして後頭部からは髪の毛の様な線が幾つも伸びている。


「鬼だな」

「悪鬼って言葉がピッタリだな」


2人が言うと、悪鬼は腰から刃が2つ付いた刀を抜く。2つの刃の間には発射口。差し詰め、ガンブレードと言った所だ。それを確認すると先頭の雷一機が重そうに巨大なガトリング砲を抱え、悪鬼がそれに手を差し出し、そこに雷がガトリング砲を着ける。


程なく雷は並び、ガトリング砲弾倉から伸びる通常弾より大きい弾丸を抱える。直後、モーター音が鳴り弾丸が弾倉に入って行く。程なく、弾丸が完全に補充され『では、ダミーを放出する。悪鬼、全機落とせ』とアナウンスが入る。


悪鬼は一度頷くとガンブレードをダミーが放出されるポイントへ向ける。それを合図にダミーが幾つか飛び出す。だが、悪鬼は一向に攻撃を開始しない。


『どうした? 機体の不具合か?』


聞かれ、悪鬼は手近な雷に向く。その瞬間、悪鬼の目が赤に光り、直後、雷はガンブレードに両断される。


随分激しい演出だな。と高官達は口にするが、九条、前島には分かっている。これは演出じゃない。


『どういうつもりだ。この様な』


その声を遮るように悪鬼は次々と雷を破壊。残る一機になった雷は、腰から2式ブレードを抜きサイドアーマーのユニットを噴射させ悪鬼に突撃。だが、悪鬼はそれを右足で雷の胸部を真下から蹴りあげる。そのまま体勢を崩した雷の背中にガンブレードを突き刺し、ブレードの柄の部分のトリガーを引き、発射口より粒子弾を発射。雷は戦闘不能になり倒れ込む。


悪鬼はそこからガンブレードを抜き、顔を観客席に向けると同時、悪鬼の右にミサイル、銃弾が命中。悪鬼は一歩後ろに下がると右を見る。悪鬼を攻撃したのは航空自衛隊所有のAH-64、アパッチだ。


アパッチの3連式の20mmガトリングガンが再び悪鬼に向くが、それより早く悪鬼は頭部バルカンを発射し、弾丸はアパッチコクピットのパイロット2人に命中し、ヘリは右回りに螺旋降下し地面に激突。激突して尚、回転するローターは全部折れ、破片は回転しながら観客席に飛び込む。


それに目もくれず、悪鬼は背中に背負った飛行ユニットを起動させ地を蹴り急上昇、そのまま空の彼方に消える。





偽装デート中の準一、本郷の2人は学校から出ると、県内の駅で降り、そこで代理が用意した車に乗り込む。


「なぁ、タバコ吸っていいか?」

「俺は別に」

「お前吸うか?」

「いや、吸わない」


そうか。と準一は言うとポケットからタバコを取り出し一本咥え火を点ける。


「義明、目的地は?」

「んっと・・・まずはスペースワールド駅」

「了解」


降りたのは黒崎駅、そんなに時間が掛らずスペースワールド駅には着く。


「そういや最近ドンキ行ってないな」


ふと本郷が言うと「帰り寄ろうか?」と準一は聞く。準一も最近あの辺りには出掛けていないので久しぶりに行きたいのだ。


「そうだな・・・寄る元気が残ってたらな」

「分かった・・・にしても、義明さ結構このあたり詳しいのか?」

「まぁ、爺ちゃんとか婆ちゃんとかが熊西に住んでるし」

「熊西か。あの辺りは電車や自転車で通過する事はあっても寄る事は無かったな」

「特に何もないしな」


言いながら本郷は準一に微笑みかける。準一もそれに小さく笑みで返す。


「お前実家は?」


本郷重工の本社は東京。何故福岡に居るのか気になり準一は聞く。


「ああ、実家は直方なんだ。元々、福岡での小企業が発展して関東に本社を構えたんだ」

「へぇ・・・知らなかったな。何か、会社がデカいから東京の人かと思ってた」

「色んな人から言われる」

「にしても、お前とこんな普通な会話したのって初めてだよな」

「はは」


困った様な笑みを浮かべながら本郷が言うと、スペースワールドが視界に入る。


「駅に居るのか?」

「ああ。俺の婚約者、厳島響が――」




2人の車の後ろに、ピッタリとワゴン車が着いて行っている。乗っているのは尾行組4人とドライバーの代理。4人は気になっていた。このツインテールは免許を持っているのだろうか、と。


「代理、免許持ってるんですか?」


綾乃が聞くと、代理は笑顔で言った。


「無いよ。無免許」


堂々と犯罪行為を宣言する代理に呆れながら4人は苦笑い。


「そういや駅で新たなメンバーを拾うから」


メンバー? 4人は口を揃える。


「そう。元イギリスの皇女、レイラ・ヴィクトリア嬢を。敵じゃないよ? 君たちと同じ目的の仲間だからね。喧嘩は無しだかんね」

「分かりました」


さっきと同じように4人は口を揃える。すると真尋がカバンからスティック菓子を取り出し皆に配る。


「いやぁ、気分は遠足だね」


うひゃひゃと下品に笑う代理だが、準一はずっと考えていた。どこで振り切ろうかと。しかし、そんな事情は他所に代理に電話が来る。九条からだ。


『マナ。大丈夫か?』

「後ろに生徒が居るよ」

『なら、聞くだけで良い。ついさっきの事だ、富士の総合火力演習場での陸上、航空自衛隊の演習中だ。新型ベクターがお披露目の最中陸自の雷5機を破壊。その後、空自のアパッチを撃墜し姿を眩ませた』


何故、九条はこんな事を自分に伝えるのだろうか。


「気を付けろと?」

『そうだ。関係者に聞いたが、その新型機さ正規のパイロットが搭乗していた訳じゃないらしい』

「誰なの? 乗ってたのって」

『場内のカメラには、秦李醜シンリシュウが写っていた』


秦・李醜、ある程度の事情を知っていれば聞いた事のある名前だ。反日軍でベクターでの戦闘を主にした人間。元中華圏防衛軍陸戦部隊大尉。大尉に見合った戦闘能力を誇る。


「自衛隊の警備ってそんなに緩いの?」

『極秘が仇になったんだ。警備の人数が少なすぎた』


警備が少ないなら、もっと別のデモンストレーションがあっただろうに。


「ねぇ、もうさ奪われたって考えていいんだよね?」

『ああ。ほぼ間違いない。新型機の名は悪鬼。今日のデモンストレーション段階で実戦を想定した装備。活動時間、噴射剤共に3日は戦えるそうだ』

「彼がそれを持ち帰る可能性は?」


一応は日本の新型機。持ち帰れば性能差は出るが、廉価版でもなんでも量産機は造れる。


『無い・・・と思う』

「そう思うのは彼の人間性から?」

『組織に献身的な人間じゃない。あくまで己の欲求を満たすのが奴だ。好戦的だしな』

「ふーん・・・じゃあ、そっちはそっちで気を付けて」

『ああ。お前もな、準一君には話しておいてくれ。碧武が狙いとすれば、要素が揃った九州校だ。彼の戦闘能力は悪鬼に対抗できるだろう』


と言うと九条は通話を終了させる。


「代理・・・どちらから?」


良からぬ気配を感じ、カノンは聞く。


「ん? ああ、山岳地行軍の話」


悪鬼の事を話すのは憚られ、代理は嘘を言う。真尋、綾乃、結衣は「なーんだ」と口を揃えるが、カノンだけは険しい表情を崩さない。


「カノンちゃん。詮索は無用だよ」

「みたいですね」


察したカノンはあきらめの表情を浮かべ、ため息を吐く。





スペースワールド駅の前に車を停め、準一、本郷は降り切符販売機へ向かう。別に電車に乗るわけでは無い、ただ待ち合わせだ。スペースワールド駅の上には列車の線路が通っており、販売機は橋の下にある。


「もう着く頃な筈」


時計に目をやりながら本郷が言うと、2人の真上を電車が通過する音が聞こえ、同時、駅からとびっきり可愛い見覚えのある顔が目に入る。


「あれが・・・厳島響」


ふと準一は言うとその顔を見る。写真で見るより数段以上可愛い。男と言われなければ女としか思えない。


「久しぶり。義明」

「ほんと久しぶり・・・・響」


一言挨拶すると、厳島響は準一の前に立つ。


「初めまして、僕は厳島響。彼、本郷義明とは将来を誓い合った仲です」

「こちらこそ初めまして、俺は朝倉準一」


準一は響に対し「日本じゃ同性での結婚は出来ないよ?」とは言わなかった。


「あなたの事は聞いています。僕の義明が喧嘩を吹っ掛けて見事返り討ちにし、惚れさせたとか?」

「俺もあなたの事は調べさせてもらいました。まさか、厳島電装技研の御曹司とは思いませんでしたよ」


本郷家とは昔からの繋がりの厳島家。ベクターを含め、多数の電子機器を造る会社。日本での電装系企業ではトップの厳島電装技研、と準一は察しがついていたが、まさか本当に、と調べ上げた時点で結構驚いていた。


「僕の事情を知っているなら彼からは手を引いていただけますか?」


ニコッと微笑む響に言われ、準一は苦笑いするがすぐに真顔になる。


「申し訳ないがこちらも譲れない。君こそ、義明からは手を引いてくれないか?」


準一の言葉に義明は頬を赤らめそっぽを向く。あいつ、演技って事分かってんだよな。反応を見て準一は思った。


「・・・譲れない、ですか。では、あなたは彼と釣り合う為に女装が出来ると?」


想定外の返しに準一は怯む。


「どうです? あなたにはそれだけの甲斐性があると?」


畳み掛ける様に言われ、準一は言ってしまった。


「勿論。出来るさ」


それを柱の陰に隠れていたレイラは聞いてしまう。レイラは「じゅ、準一の女装?」と頭で考えていると、向こうに停まったワゴンから結衣に呼ばれワゴン車に乗り込む。


「何か兄貴達盛り上がってるけど、何て言ってた?」


ワクワクしながらの結衣に聞かれ、レイラは他4人を見渡す。4人も反応は同じ、ワクワクしている。


「じゅ、準一が・・・準一が! 女装をすると仰いましたわ!」


何だって! と一斉に他5人は大声を上げ、代理はすぐに手配を開始。


「もしもし悠里ちゃん! 大変よ甲一種クラスの大変さよ! 準一君が女装だって!」


電話の向こうで志摩甲斐は『お任せを。すぐに手配します』と笑みを浮かべ、協力員と共に準一用女装道具の準備を始める。





響を回収した準一一行は、車に乗り込み、発進する。程なく響は準一にカバンから出したネコ耳カチューシャを渡す。


「これは?」

「着けていただけますか?」


否定は出来ない。彼の言う女装の第一歩だろう。行ってしまった手前だ。


「喜んで」


準一はサングラスを掛けると、カチューシャを着ける。こうして、女装男子2人、スーツサングラスネコ耳カチューシャの男とのシュール過ぎる偽装デートが開始された。




富士火力演習場では、自衛隊が主体となり悪鬼の対策本部を設立。九条は残ったが、前島は会議で先に帰った。


「君は?」


自衛隊の高官に聞かれ、九条は会釈程度に敬礼し、答える。


「機甲艦隊、弩級戦艦大和艦長九条です」

「君が」


高官は興味あり気に言い、何か聞こうとするがそれより先にテントから出てきた隊員が説明を開始する。


「飛び去った悪鬼ですが。装備しているのはガンブレード、ガトリング砲。そして十分な量の噴射剤と活動時間を持っています」

「本当に装備はその2つか?」


テント前に集合している人間たちの中から聞こえた声に隊員はため息を吐く。


「現在、悪鬼は幾つかの追加アーマーを装着しています。その中には数十発以上の多目的ミサイル。そして、サイドアーマー内には40mmバルカン。同じくサイドアーマー内には電磁弾を発射するレールガンがあります」


諦めたように隊員が言うと、他の人間たちはざわめく。想定外の装備の多さに驚いているのだ。


「だが、ただのデモンストレーションに何故それだけの過剰装備を?」

「実戦でどれだけ使えるかの試験を兼ねていたんです。だから、実戦用に装備を」


先に言えよ。と何人かは思った。九条もそう思いながら隊員に聞く。


「悪鬼は補足出来ているのか?」

「・・・いえ、悪鬼の装甲はレーダーに捕捉されない様にステルスフレームとなっています」


状況は悪化した。目視は出来てもレーダーには映らない。装備は充実していて操縦者も強い。機体性能も高い、と考えていいだろう。そうなれば厄介だ。碧武を狙わないとしても、確実に別の個所が狙われる。


「なので、現在は衛星による目視を行っています。が、関東圏に入ったのを最後に見失いました」

「見失った? 何故?」

「分かりません。一瞬カメラにノイズが入り、恐らくは山岳地に入ったかと」


にしても、悪鬼は足が速い様だ。時間はそんなに経っていないのにもう関東圏。あの背中に背負った飛行ユニットは新型か。それも、従来のベクターのユニットとは段違いの性能。なれば、機動力も高い筈。


「再度捜索をかいします。分かり次第状況をお伝えしますので、皆様どうか内密に」


頭を下げた隊員は、この事は秘密に、と言いたいのだろう。察した皆は頷く。公になれば、日本の問題ではなくなる。悪鬼はいうなれば、3日の間であればあらゆる箇所を攻撃可能だ。それはつまり、外国が駐留している在日基地も攻撃可能という事。外国の在日軍がそれに気づけば、無理な捜索に始まり、下手をすれば日本国内で内戦状態が誕生する事になる。


責任が自衛隊にある以上、それは日本政府的にも喜ばしくない。


「もしかしたら・・・また準一君に迷惑かけるかもなぁ」


九条はため息を吐きながら観客席に戻りタバコを吸い始める。






「今日のデートだが、君を回収してからどうするかを聞いていないんだが」


何故か助手席に座っている厳島響に聞く。しかし、響は瞼を閉じたまま口を開かない。


「・・・義明。何か聞いてるか?」


答えない、と判断したので準一は後ろの本郷に聞く。


「俺も特には、悪いな朝倉」


申し訳なさそうな表情の本郷に謝られ「いや、ありがとな」と準一は言うと、左手を響の額に伸ばしデコピンをする。


「よ、夜這いか!」


ハッと目を覚ますと響は辺りを見渡す。そんな事を警戒しているのか。それとも、経験した事があるのか。


「こんな昼間にすらなっていない時間に夜這いは適応されないぞ」

「だったら強姦罪か婦女暴行罪か」

「男に婦女暴行罪は無いだろう?」

「でも、仮に僕が自分の肩の部分を破いて警察に駆け込めば、悪人になるのはあんただろ?」


笑みを浮かべる響に準一は苦笑いを浮かべる。


「そんなの御免だな。だが、君はそんなにデコピンが嫌なのか?」

「そういう訳じゃ無い。色々あるんだよ・・・色々ね」


最後の色々、と言った響の横顔は、何かあった事を察させる表情で、準一はミラーで後ろの本郷を見ると同じ顔をしていた。


「ここで他人なのは俺だけか」と準一は思いながらため息を吐き、再び目的地を聞く。


「海に行きたい」


答えた響は洞海湾を見ながら言った。まだ泳ぐには早い時期だが、まぁ仕方ない。と準一はどこの海へ行こうかと考える。


「2人とも、関門海峡を通るのと、海底トンネル。どっちが良い?」


目的地を決めた準一は2人に聞く。2人はあまり迷わず関門海峡。と口を揃え、準一はそこを目指す。


「朝倉、どこの海に行くんだ?」


目的地が分からない本郷が聞くと「安岡海水浴場」と準一は答える。だが、2人ともそこがどこかは知らない。


「下関の先だ」と準一は答えると、車を手近なコンビニの駐車場に停める。


「2人とも、ドライブは結構長いから。昼食に飲み物。アイスでもお菓子でも買った方がいいぞ」

「外食しないの?」


別にコンビニ弁当が嫌な訳じゃなかったが響は聞く。


「あの辺りは飲食店があまり無かったと思う」


思い出しながらの準一それを聞き、響はそそくさとコンビニへと入る。


「いこ?」と本郷に言われ準一もコンビニへ入った。



「いらっしゃいませー」


店に入った瞬間。準一は店員の顔を見て絶句した。本郷もだ。


理由は、レジ担当の店員2人がエディ、揖宿の2人で、店内を清掃するのはロンに子野日。ここは学校外、若松の若戸大橋の近く。結構離れている。


「僕はね。君を信じていたんだ」


不意に声を掛けられ、準一は後ろを向くと涙目のロンが居た。彼の涙を溜めた目には準一の背中に隠れる本郷。分かっている、会いたかったんだよな。


「その可愛い子と付き合ってるんだろ!」


大声を上げ、ロンが言うと本郷は頬を染め、それを隠すように両手をあてる。


「そ、そんな・・・突き合ってるとか・・・朝倉と」


違う。何が違うかって響きが違う。日本語って難しいよね。


「あ、朝倉・・・お前、そんな、そんな清楚で純粋そうで、無垢な瞳の少女を突いたのか?」


絶望の表情を浮かべたロンは膝を落とす。


「そんな事無いんだけど」と準一が言うと、ロンは口元を抑える。


「って事はもっと激しいプレイを強要した挙句! 今日はこんな公衆の面前たるコンビニで!?」


絶望の表情を浮かべていたロンは驚愕の表情へと変え、立ち上がり準一の肩を掴みガクガクと揺さぶる。


「落ち着いて。お願い落ち着いて」と準一は苦笑いでロンに言うが、聞く耳持たないロンは「うおぉぉぉ!」と嘆き始めるので、子野日がロンを羽交い絞めにする。


「ところで朝倉君。何を買うんだい?」

「ああ、昼飯と飲み物、それにお菓子にタバコ」


子野日に聞かれ、準一が答えると揖宿は笑顔を浮かべる。


「タバコ却下」

「そ、そんな・・・・殺生な」


揖宿に言われ、準一が言うがエディは準一が好んでいる銘柄の煙草を取り出す。


「朝倉、これで良いか?」


微笑みながらのエディに準一は手を合わせお礼を言う。


「ちょ、先輩。朝倉君は未成年ですよ。止めて下さい」

「とは言ってもな副会長」


とやり取りの間、準一は煙草を受け取り金を置くと本郷と共に弁当を選ぶ。


「そういえば準一君。これからどこへ行くんだ?」


揖宿に聞かれ準一は「安岡海水浴場」答える。すると知っている揖宿は「結構遠くまで行くね」と苦笑いする。


「先輩たちは電車でここまで来たんですか?」


移動手段が気になり準一が言うとエディが答える。


「装甲車だ」

「は?」


準一はそれだけしか言えなかった。


「でもなぁ、乗ってきたは良いんだが高速で止められてなぁ。仕方なく普通に道路通って来たんだ」

「どこに止めたんですか?」


少なくとも、この辺りでは見なかった。


「ああ、戸畑駅の方に」


結構遠くだな。


「じゃ、買い物も終わりだな。楽しい海水浴を」


買い物を終えた3人に4人は手を振り見送る。のだが、すぐに4人はコンビニの制服を脱ぎ去り子野日は無線機を取り出す。


「代理、目的地が分かりました。安岡海水浴場です」






準一達3人は車に乗り込むと同じ席に座る。


「2人とも、こっから後ろを振り切る。シートベルトは締めとけ」


振り切る? 何を? 2人が聞くと準一はため息を吐く。


「悪乗りしたお馬鹿さん達をだ」


事情を知らない響は首を傾げるが、本郷だけは察し「代理達?」と聞くと準一は呆れ気味に「ああ」と答えるとアクセルを踏みつけ左手でシフトレバーを動かす。


すると車は後部タイヤを回転させ、半円を描き発進。


それを見た揖宿は「しまった! 振り切る気だ!」と叫ぶと装甲車のある駅まで走る。





「皆! 掴まって! こっから飛ばすよ!」


状況を聞いた代理は車を飛ばす。合わせて結衣達はシートに押し付けられる。そんな中、カノンだけは冷や汗を掻いていた。理由は簡単。準一が振り切るつもり、という事が道路交通法を無視したドリフトなんかを使う筈。


恐らく、代理も同じことをする気だ。考えたカノンは苦笑いを浮かべた。




「朝倉。代理達の車って?」


後部シートからの本郷に聞かれ、準一は「あの着いて来てるワゴン車だ」と答え、ミラーで確認。シフトレバーを操作し、速度を上げ、適当な曲り道をドリフトで曲がる。


「ちょ! 運転激しくない!?」


助手席の響に言われ、準一は「舌噛むぞ」と一言言うと車を細道に入れ、飛ばす。車は細道を抜け、左に回るが、後ろに代理達のワゴン車を見つける。


回り込まれた。と準一は舌打ちするとブレーキを踏み、ハンドルを回し反転させ、代理達のワゴン車目がけて急発進させ右側を一気に抜ける。


「抜けた!」


見た真尋が声を上げると「やるな! 準一君!」と代理はワゴン車を反転させ、追撃を開始するが、準一の車は右のカーブに入り、別の下り坂になった細道に入る。ワゴン車は先回りしようとするも、ガードレールに阻まれ不可能になる。


「しまった! 揖宿君! お願い!」と代理が指示を出すが、揖宿達は警察に止められていた。


何てこったい。と代理がクラクションを鳴らすも準一達はどんどん離れて行っている。


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