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束の間の休日①

「なぁなぁ知ってるか? いいや知ってるよな男だもんな知ってるよな」


朝になり、学校へ着き、教室へ入るなり準一に詰め寄り主語を抜いた喋りをする人間はロン・キャベル。準一の机に両手を付き、上半身を前に乗り出す。


「何の話ですか?」

「何の話って、決まってるじゃないか。しかたない、僕が直々に教えてやるよ。最近学生寮エリアに出没している美少女さ」


聞いて、知らないよそんな話と準一は心中で呟く。と同時、早朝にも拘わらず準一に言い寄っていた本郷義明がビクッと反応する。


準一は気付いたが何も言わない。


「なぁ、準一君。探そうよ。僕気になってるんだよ美少女が」

「俺は気になりませんが」

「君はそれでも男かい?」


判断基準が極端なロンに呆れていると、教室にテトラが入り準一にズカズカと近寄る。


「よう朝倉。今日はデートだな」


そうテトラが笑顔を向けた瞬間、会話をしていた妹2人は手に持ったペンを親指で折り、真尋、綾乃は激しく動揺している。


「そうだね。今日だね」

「何で嫌そうな顔してんだよ」

「してねぇよ」


そうだろうよ。とテトラが言おうとすると「ちょっとお待ちになって」と声が掛る。お嬢様口調。レイラだ。


「テトラさん。と仰いましたね。私の『夫』に何か?」


更に綾乃、真尋は動揺。妹達はニコニコしながら拳を握りしめている。


「はっ! 夫?」

「なっ!?」

「言っておくが、あたしと朝倉の関係は『愛人』だ。大人の響き。このアダルトさの前に『夫』なんぞ笑止!」


嘘をぶっこいているテトラに、チョップかデコピンを決めてやろうかと思ったが、無駄かな。と思い止めた。


直後、チャイムが響き、全校放送が始まる。


『全校生徒は体育館へ集合』





だだっ広い体育館へ全校生徒が入り、席に座ったと同時、校長代理が壇上に上がり両手を広げる。すると館内が真っ暗になり、代理にスポットライトが当たる。


『全校生徒へ。本日より我が九州校へ新たな保険医が加わります。喜べ! 美人だぞ!』


言った代理は右手を壇上右端に向ける。すると、赤い着物の女性が壇上に上がる。準一は呆れ顔になる。見覚えがあったからだ。


『紹介します。新保険医、朝倉舞華先生です』


笑顔の代理が説明すると、朝倉舞華は席に準一を見つけ笑顔で小さく手を振る。何故あんたが朝倉を名乗っている。ちなみに舞華は学校に行く直前。予定が出来たから。と言い、妹達に見られない様にどこかへ消えた。


「なぁ、朝倉知り合いか?」


気になった本郷に聞かれ、準一は小さく頷いた。


『えー、朝倉先生は我らが朝倉準一の姉です』


あのツインテール。ふざけた事を。何て嘘を吐きやがる。と苦笑いを壇上に向け、背中に向けられる視線に背筋が震えるのを感じ、身体を縮める。


その後、ふざけた説明が続き、3時間目前に生徒は教室に戻り、通常授業に戻った。








授業内容は通常の授業。準一の大嫌いな理数系科目の数学。訳の分からない計算式を言わされ頭はパンク寸前だ。


それを見たカノンは授業終了後「どうして兄さんはベクターの演算、システムの作り替えとかは出来るのに単純な数学科目の計算はできないんですか?」と呆れ気味に聞く。


それに準一は突っ伏したまま「勉強っていうのが嫌い」と答え、聞いていた人間は呆れた。


しかし、そんなことはお構いなしに、準一には気になっている事があった。堕天使奪還戦時におかしくなった結衣と、こないだ何故かツンツンしていたカノンの事は既に聞いていた。


結衣に関しては、初の実戦での恐怖から、無意識に準一を求めていた事が原因。カノンに関しては代理と一緒に考案したメロメロ作戦。


気になっているのは、この2つではない。


エルシュタ、堕天使の事。


使用できるのは7月7日。


「七夕か」


顔を上げ、ふと小さく言った準一のそれに、事情を知った人間は気付かれない様に反応した。





校長室に代理と本郷義明はいた。2人は向かい合う形で席に着き、代理は写真の添付された資料に目を通している。


「本郷君。あたしね、今まで結構色々あったよ。まだ10代前半だけど。でもさ・・・その」


言い難そうに顔を覆った代理は資料を置く。それに本郷は申し訳なさそうに背を丸める。


「言いたい事は分かっています。ですが・・・あなたしか頼れないんです」

「いや、ほら。これってデリケートな話でしょ?」

「ですが、俺には心に決めた相手が居るんです!」


声を荒げると、本郷は立ち上がる。それに代理は「落ち着いて」と促す様な仕草をする。


「申し訳ありません。ですが、お願いします――――」



「―――俺の女装を完璧なモノにして下さい!」


この同時刻、何か得体の知れないくしゃみと寒気が準一を襲った。





昼休みになるなり、準一は弁当も持たずに教室から出ると、真っ先に保健室に向かった。



「成程、お昼よりも私との密会を優先した。そういう事だな朝倉準一」


入室早々偉そうに椅子をクルリと回し机に資料を置き、立ち上がり白衣を翻し、肩にかかった髪を右手で後ろにやる。


「冗談は後だ。あんた、どういうつもりだ。朝消えたと思ったら碧武の保険医とは」

「良いじゃないか、美人の保険教師だぞ?」


確かに、美人だ。美人の保険医か。確かに素晴らしい。と考えるがすぐに自我を取り戻す。


「いや、確かにそうだが。どうやってこの学校の保険医になった? 魔法か?」

「残念だが、私は教員免許と医師免許を持っている」


言うと、舞華は白衣のポケットから免許を取り出し、笑みを浮かべる。


「・・・あのさ、誰があんたを採用したの?」

「え? んふふ、誰だと思う?」

「もしかして・・・ゴスロリの方ですか?」

「正解。あとツンテールでバカそうな娘ってのが足りないかな」


心のどこかでは分かっていた。だが、実際に言われると何故か握り拳を作りたくなり、準一は左手を抑えた。


「さて、私の採用の話は置いといて。はれて私はお前の姉になったわけだ」

「は?」

「覚えて無いのか? あのオペラかミュージカルの始まりそうな体育館で言っただろう? 今の私は牧柴舞華ではない、朝倉舞華だ」

「いや、俺には妹しかいないんだけど」

「私という大人な色気を持つ姉に成りうる女性を否定するのか。お前はそれでも男か? 男なら受け入れてみせろ」

「お前、色々言ってるけど家には住ませんぞ」


直後、準一の足元にスライディング土下座した舞華は「そこをなんとか!」と大声を出す。


「何をそんなに家に住みたがってるんだ」

「1人はやなの!」


言いながら腹部に抱き着いた舞華に「分かった」と準一は答える。


「え?」

「妹達に聞いてみるから。それまで待っててくれるか?」


ため息交じりに準一が案を提案。舞華は顔を笑顔にし「ありがとう!」と抱き着く力を強める。


「・・・あの離して?」

「もうちょっと」


参ったな。と準一は息を吐く。


「そういや、何て呼べばいいんだ?」

「ん・・・舞華で良い」


心地良さそうに目を細める舞華が答えると同時『2年3組朝倉準一君。君の彼氏が緊急事態だ。至急地下格納庫へ集合せよ!』と四之宮の声が全校に流れ、どこからともなく怒りに任せ、準一の名前を叫ぶマッスル同好会首領、遠藤渉の声が聞こえ、準一は再度「離して」と舞華に願い離してもらうと格納庫へ向かう。






格納庫へ通じる降下エレベーターから降りると、通路の先の巨大な扉が自動で開き、ケージに納まったベクターが目に入る。


「お、来たか」


城島は入った準一に近寄り、肩をポンと叩く。何か意味があるのだろうか。


「朝倉君。こっちこっち」


呼んだ四之宮の後ろには、膝を着いた椿姫3番機。ショルダーアーマーには可愛いねこのデカール。そして左胸部に追加されたデカール。『妹LOVE』右胸部には『代理LOVE』。


「そういえば」


気付けば、雪野小路が居ない。常に四之宮と一緒と思っていたが。


「四之宮さん。今日は雪野小路さんとは一緒じゃないんですね」

「ちょっとこの件で志摩甲斐先輩を呼びに」


そういや要件は何だろう。と思っていると椿姫の脚部裏に隠れる様にしているジャージの女の子を発見する。見た事ない子だ。可愛い。それも正直準一のタイプだ。彼女は何か準一に照れているのか目を合わせない。


俺は彼女に何かをしたのか。と準一が悩んでいると「出てきたらどうだ。本郷」と出てきた子野日が女の子に声を掛ける。


義明は姉か妹が居るのかな? 子野日が本郷と言ったのでそう考えたのだが


「ほら、早く義明君」


と言う四之宮のおかげで準一は「ん?」と声を出すくらいに驚いてしまう。


陰から出てきた本郷義明と呼ばれた女の子は準一の前まで行くと、頭にてをやりカツラを取る。カツラを取ってしまえば見覚えのある顔。本郷義明だ。


「よ、義明? これは」

「朝倉。これが! 女装が俺の趣味なんだ!」


準一は別に引いているわけじゃない。可愛かったし別に構わない。と思っているが本郷義明の女装が思いのほかタイプストライクど真ん中だった事がショックなのだ。


すると、扉が開き道具が入っているであろう荷車を引く雪野小路と志摩甲斐が格納庫に入る。


「さ、本郷君。メイクしましょう」


荷車からメイク道具を取り出し、満面の笑みの志摩甲斐に詰め寄られ本郷義明は「うん」と頷くしかなかった。





準一達が改変魔術に困っている時、本郷重工本社、本郷重工代表取締役、本郷晴之に一通の手紙が届いた。


それは、本郷晴之が眉間にしわを寄せる内容で、その手紙は本郷義明に向けられたものだ。すぐに碧武校の本郷義明の元の届けられるが、彼に至っては絶望する内容だった。


簡単に言えばお見合いだ。別にそれはいいのだが、問題は相手だ。



本郷重工とは別に、本郷家とは昔からの付き合いである厳島家の長男。


厳島響。



「・・・これが長男?」


雪野小路から渡された写真と手紙を見ながら準一は声を漏らす。準一の周りには整備員や関係者が手紙と写真を覗き込んでいる。


長男である厳島響。長男なのにどうしてか女にしか見えない。それもとびっきり可愛い。金髪のポニーテールに着物姿だ。


「写真間違ってないのか? 明らかに女だぞ」


覗き込んでいた城島が志摩甲斐にメイクされている本郷に聞く。


「いえ、間違っていません。その厳島響は紛れもなく男です」


志摩甲斐、本郷以外の人間が驚いた。


「で、そのお見合いに備えてお前は女装を完璧にするわけか」

「ああ」


冷や汗の準一の問いに、本郷は頷く。それに準一は視線を写真に向ける。



この本郷の女装メイク。それは、校長室で彼が代理に頼み、代理が根回しした物だ。


そして、何故彼がこのお見合いに女装メイクを頼んだのか、その理由は『自分に女装癖があれば彼は引くだろう』との事だ。



「女装で引くったって、厳島君の方も負け劣らずだが、本郷君、どうするつもりだ?」


事情を聞いた子野日が言う。


「それは・・・俺に彼氏が居るとなれば諦めるかと」

「ああー」


と声を出し、格納庫内で話を聞いていた全員が準一を見る。


凄く不本意。と準一がため息を吐くと同時、格納庫の扉が開きニヤニヤしながら舞華が入ってくる。


「弟よ、お前やっぱり彼氏が居たんだな」


白衣のポケットに手を突っ込み笑顔を崩さない。


「やっぱりって何だよ」

「前に聞いた時、彼氏を否定する時間が空いただろ? 怪しいとは思っていたがいやはや・・・」


苦笑いを浮かべる準一に、舞華はご満悦と言いたげな顔を向ける。


「さぁ、終わったわよ」


志摩甲斐の声がメイク終了を告げると同時、全員が義明を見て息を呑む。


「み、認めたくないが」

「いや認めざるを得ないだろう」


子野日の後城島が目を点にし、次に準一の言った言葉で格納庫内が静かになる。


「可愛い」


静かになった格納庫で全員が一斉に準一を見て、準一は「しまった」と両手で顔を覆う。


「おや?」

「あら?」

「あらら?」


舞華、四ノ宮、志摩甲斐は順でニヤニヤし準一に近寄る。一方本郷義明は、座らされたまま真っ赤になった顔を俯かせ、身体を縮こまらせている。それに整備員男性陣、城島、子野日はときめいてしまう。


今の本郷義明は信じられない位可愛いので仕方ないのだが、女性陣すらあまりの可愛さに驚いている。


すると、程なく格納庫に代理が到着。右手に持ったメガホンで格納庫内の全員に頼みごとをする。


『今、格納庫内で起こった事は全て極秘事項よ。準一君が可愛いって行った事は特にね』


その頼みの真意は分かっている。戦争を回避するためだ。この事が、準一に好意を寄せる女子の耳に入れば、妹達を筆頭に戦争が始まるのは確実。


『ここに居る全員へ達する。これより、オペレーション・カモフラージュデートの開始を宣言するわ』


日本語訳にすると作戦名、偽装デート。間違いない、俺に来る。準一は扉に目をやり逃げようとするが、扉を叩く音とマッスル同好会首領、遠藤渉の怒声、嗚咽が聞こえ出られない。


『そういう訳だから。次の休み。学校外へ出てデートをしてもらうわ。準一君、彼氏役お願いね』


どうせ否定しても駄目なのだろう。準一が諦めの表情を浮かべると、手を握られた。見ると女装した本郷義明だ。


「お・・・お願い」


小さく短く言われ、不覚にも準一はドキッとしてしまう。


「案外お似合いかもな」


言った舞華に続くように他全員が頷いた。




放課後、終礼後の掃除が終わり、準一が席に戻るとロンが駆け寄り「今から行こうじゃないか」と準一に言う。


何の事か分かっている。例の謎の美少女の事だろう。だが準一に賛成は出来ない。美少女の正体を知っているからだ。


「俺は止めとくよ」

「どうしてだ? 折角だし行こうよ」

「いや、つか止めといたら? その女の子だって見世物にされるのは好ましくないだろうし」


ロンが好奇心に掻き立てられるのは分かるが、止めなければならない。


「でも美少女だよ? 気にならないかい?」

「まぁ、ならないわけじゃないけど・・・その子の迷惑になったら駄目だし、止めといたら?」


準一がそう言うと「準一ってさ・・・そのこの事知ってるの?」と綾乃に聞かれ向く。


久しぶりに声を掛けられたような感じに、準一は答えるまで少し間が開いた。


「いや・・・そういうわけじゃ」

「へぇ」

「本当にしらないのかなぁ」


答えた準一に、結衣、カノンが近づく。ちなみに、結衣にはエリーナがくっ付いている。


「兄貴今日は昼にはどっかに消えるし」

「全然喋ってませんし」


昼の出来事をいう訳にはいかない。準一が格納庫での出来事を思い出していると舞華が教室の扉を開ける。


「おい準一、姉が迎えに来たぞ。買い物して帰ろう」

「いや、今日は先約があるんだが」


今日はテトラとのデートもとい買い物だ。


「そのテトラって娘な、例の作戦での衣装を手に入れる為にゴスロリツインテール娘に連れて行かれたぞ」


かわいそうに、と準一が言おうとすると準一に近寄ったエルシュタが「夜中寝てた人だよね?」と小声で聞く。準一はそれに小さく肯定。


「あれ? ・・・結衣お姉さん居たの?」

「ううん・・・兄貴しかいないと思うけど」


突然の舞華の出現に、妹2人は戸惑う。


「何を言っているんだ。昔、私は準一と約束したんだ。結婚するとな」

「何言ってんの! 兄貴と結婚するのはあたしだし!」

「兄さんと結婚するのは私です!」


やだな。凄く面倒臭いよ。準一は困り果ててため息を吐くと、言い合いをする舞華、妹2人。それにくっ付くエルシュタ、エリーナを置いてロンと一緒に教室を出る。





教室を出てから帰り道、ロンにひたすら女子生徒について熱く語られ疲弊した準一は生徒の流れから外れ、脇道のベンチに腰かけた。


また何かイベントが始まるのだろうが、それよりも七夕の事が気になっていた。


実は今日、碧武ではおなじみの通学用機関車が走る線路を、見慣れない巨大な装甲列車と列車砲数十両が走っていた。その後ろには、長射程を誇るベクター用兵装。300mmショルダーツインキャノンを運ぶ貨物列車。手配したのは代理だろう、これだけの大掛かりな装備。


代理は考えている。七夕、碧武九州校は戦場になる。


だが、教団では無い。教団は負けが続いている。これから暫くは戦力の編成中だろう。


恐らく、攻めてくるのは反日軍だろう。列車砲にショルダーキャノン。これは現用兵器の艦艇や、固定された兵器、要害拠点に対しての武装だ。その点からも、反日軍と想定できる。


戦闘に突入すれば、ある程度の実力を持つ生徒はベクターで戦う事になる。準一も然りだ、だが準一は自分に機械魔導天使の使用許可が下りない事は分かっていた。機械魔導天使を所有している事を生徒に知られるわけにはいかない。は建前。


実際は碧武統括理事会により、碧武に対して侵攻する敵がある場合、準一や千尋の様な稀なケースの魔術師は機械魔導天使を所有する者は、それを使用せず、ベクター兵器に搭乗し誰よりも前で戦えと決定されている。


無茶で無謀な命令だ。と準一はベンチから立ち上がり、駅のホームに入る。すると、ベンチに座る真尋と目が合い、途端に真尋は頬を染め俯く。


別に何か特別な事があったわけではないが気まずい。何故、そういう反応をするんだ。大して関わっていないだろう。準一は心中で言う。実際、真尋・リーベンスは用人救出事件の際、準一を知り、そこから気になっている。結衣には興味、などと言っていたが好意だ。しかし、準一がそれを知る由もない。


まぁ、別に喋る事も無いし。黙っていればいいか。準一は真尋から離れたポスターの前に立つ。


「・・・1人なんだね」


黙っていようと思った矢先、真尋に声を掛けられ準一は目だけ向ける。


「まぁな」

「いつも妹達と一緒じゃない?」

「そうでもないさ」


そう質問に対し、淡泊に答える準一に真尋は顔を上げる。


「何でそんなに冷めてるの?」

「冷めてないよ」

「やっぱり女の子を誑かして回ってるから?」

「何の話だ一体」

「いや、この間校長代理が」


分かってはいたが、またアイツか。と顔を覆ってしまいたくなる。


「朝倉さ結構人気なんだよ」

「は?」


何の話だ。人気? 全く身に覚えが無いんだが。


「ほら、コネ疑惑も払拭してさ、妹とかあのちっこい事かの面倒見も良いし。結構女の子の中では人気だし、それに男子の中では朝倉を神格化させてる人間も居るよ」

「そんな情報一切入って来ないんだけど」

「ああ、女子の方の情報は妹達が、男子の方の情報は本郷が隠蔽してるから」


理解でき、準一は納得した。どうやら妹や本郷たちは働き者な様だ。


「この間も、あんたの実妹の方『朝倉さんのお兄さんって彼女居るの』って聞かれてたよ」

「結衣は何て答えたんだ?」

「『何言ってるの? 兄貴はあたしと結婚するってもう決まってるんだよ』って笑顔で答えてた」

「頭痛くなりそう」


だろうね。と真尋は同情するように乾いた笑いを浮かべると、駅に入って来た汽車の客車に生徒が乗り込む。準一と真尋も客車に乗り込み、空いていた席に座る。向かい合う形になり、再び真尋は俯く。


その真尋の頬はほのかに朱に染まっており、準一は窓の外を見ながら困った顔をすると「あ」と知った声がすぐ側から聞こえ、そこを向く。準一の座っている側の通路に綾乃が居た。


準一が何か言おうとすると、綾乃は顔を俯け真尋の隣に座る。今まで綾乃とは普通に会話していたので、この対応は正直辛い。


「綾乃は今日生徒会に呼ばれてたのか?」

「う、うん」


ああ。と答え、準一は次の言葉に困る。綾乃は今までになく反応が可愛らしく、膝上で手をモジモジさせている。何故こうも可愛らしい反応をするんだ。


「あの・・・じゅ、準一はさ、その真尋とデートなの?」


綾乃の問いに真尋は大きく動揺。準一は驚き目を向ける。


「な、ななな何言ってるの! デートとか全然そんなのじゃないって! 私と朝倉がそんな関係になるわけないでしょ!」


まぁ確かに真尋の様な綺麗な子とでは釣り合わない。それは綾乃だってそうだ。と準一は2人を見て思う。


「そ、そっか・・・よかった」


準一の耳には確かに聞こえた。デートを否定して綾乃は安堵の息を吐き、真尋は悲しいようなさびしい様な複雑な表情を浮かべている。別に自意識過剰からこんな事を考えているわけではない。目の前の真尋、綾乃の2人は恐らく自分に少なからずの好意を持っている。


「あの・・・私気になってるんだけど、西紀と朝倉って付き合ってるの?」

「何を思ってそう言う疑問に辿りついたんだ」

「いや・・・2人って何だかんだで仲良いみたいだし」


「そ、そんな」と頬を染め綾乃は照れているが、準一はそれに気づかないフリをする。


「付き合ってないよ」

「そっか・・・よかった」


綾乃と似た反応をした真尋から目を離し、窓の外へ目をやり、やりづらいなぁ。と心中で呟きながらため息を吐いた。





準一が帰宅し玄関に入ると、刺す様な臭さを鼻に感じ、準一は鼻をつまみ靴を脱ぎ捨て腰から拳銃を抜き、臭いの先、台所へ向かい絶句した。


「あ、お帰り」


台所からの悪臭の原因は舞華で、彼女は鍋で魔界飯を作っていた。来る前に結衣達に話しておくつもりだったのだが。


「うん・・・ただいま。何してんの?」

「何だ。お前は料理って文化を知らないほど遅れているのか?」

「それは料理か? 科学実験とかその類じゃないのか?」

「失礼な。これは料理だ。れっきとしたな」


言う舞華だが、テレビの中でしか見た事ない位鍋は紫色でグツグツいっている。


「そういや妹達はどこに?」


準一が聞くと舞華はリビングを指さし、リビングに顔を覗かせてみると臭いでやられたであろうカノン、結衣、エルシュタ、エリーナが横たわっている。


「・・・あのさ、料理作り直していい?」

「何でだ? 折角ここまで作ったのに」

「そう思うなら一口食べてみろ」


「むう」と唸りながらも舞華は鍋から一口食べ白目をむき倒れ込む。


やっぱりか。呆れた準一は鍋を消毒処理し、すぐに家中を消臭、料理を開始した。







「知らなかった。私の作る料理が魔界の料理、魔界飯だったとは」


準一の作った夕食、半熟オムライスを食べながら舞華はため息を吐く。自分で食べてみて気を失ってしまったので結構ショックな様だ。


「まぁ、料理はしていれば上達するから、これから練習していけばいいさ」

「じゃあ教えて」


フォローを入れると舞華は目を輝かせる。


「いいよ」

「やった」


2人はここまで進めるが、外野の結衣、カノン、エルシュタ、エリーナは不機嫌そうに2人を見る。


「あの・・・そろそろ説明してほしい」


エルシュタに隠れるエリーナが小さな声で言うと他3人も「うんうん」と頷く。エリーナの言う説明とは舞華の事だ。


「何か、あたし達が帰ってきたら魔界飯を製造してたし」

「確か、保険医でしたよね? 朝倉って、兄さんの姉って」

「あたし姉って知らないんだけど」


エルシュタ、カノン、結衣が順に言うと舞華は3人の顔を順に見渡し「ふふん」と笑みを浮かべる。


「何の笑みだよ」

「いや、本妻の余裕さ」


聞いた準一に舞華は笑顔を崩さず答えると「本妻!?」と妹2人が声を張り上げテーブルを叩き立ち上がる。


「残念だな。確か・・・栗色の髪が実妹で、ブロンドが義妹だったな。いいか妹達よ。このお前たちの兄、準一の様なスケベな年頃の男子は所詮は獣だ。私の様な包容力溢れるアダルトな女が好きなんだよ」


と勝ち誇ったように舞華が言うが「おい。口の周りケチャップ」と準一は向かいの舞華の口の周りを拭いてあげる。


「あ、すまん」


舞華は大人しく拭いてもらうが、他4人は思った。


包容力なんて無いじゃん。と。





「えっと・・・つまり姉、もとい舞華さんは、兄貴が代理達と巻き込まれた改変魔術の世界で会ってここに居ると」


夕食後、聞いた説明を纏め、結衣はため息を吐く。


「全く・・・寝ている間でも兄さんは女性に対して節操が無いですね」


カノンは呆れたように言うが、準一からすれば濡れ衣だ。


「仕方ないよ。男だし」


半ば諦めた口調のエルシュタに諭され2人はため息。準一は苦笑いを浮かべたまま食器を片づけ、エリーナはそれを手伝っている。


「そのちっこい娘の言う通りだ。所詮、男なんて獣なんだよ」と舞華が言った直後「うわぁ」と妹2人は引き気味の顔を準一に向ける。


「あのな、そろそろ殴るぞ」


苦笑いのエプロン姿の準一は手を拭きながら台所から出て来る。


「そ、そんな激しいプレイを?」

「に、兄さんは結構なサディストみたいですね」

「私はSMでも構わんぞ」


妹2人、舞華に言われ準一は台所に戻り、食後のデザートを準備する。特製プリンにホイップクリームとフルーツを添えた物。エルシュタ、エリーナに先に渡し、その後3人に特製中の特製プリンを渡す。


3人は疑いもせずそれを食べ、その辛さに悶えた。


「準一。何入れたの?」

「唐辛子に一味、ハバネロを混ぜ合わせた物」


エルシュタの問いに答えた準一は凄く笑顔で、エルシュタはクスと笑う。


「辛そう」


エリーナは小さく言うとプリンを一口食べ「美味しい」と目を輝かせた。





デザートを食べ終え準一がエリーナ、エルシュタと洗い物をしているとポケットの携帯が鳴り、準一は出てみる。


「もしもし?」

『あ、朝倉』準一は聞いてみる。


相手は本郷だ。要件は何だろう。


『いや、もう決定していて今更って感じなんだが・・・すまない、俺の事に付き合せる事になって』

「何だ。いいさ別に。困った事なんだろ? 謝ることは無い、友達なんだしな」


そう言われ、電話の向こうで本郷は安心したような笑みを浮かべる。


『ありがとう朝倉・・・本当に』

「だから良いって。気にすんな。・・・デートは次の休みだったな、代理に言って車を回してもらうから」

『分かった。ところで今日はゴタゴタしてたけど聞いてるか?』

「何をだ?」

『確か、学校行事、山岳地サバイバル行軍訓練』


名前が物騒すぎる。


「俺は参加しないぞ」

『いや、朝倉は参加しなくていいみたいだ。強すぎるから運営に回ってくれと』


ならいいや。準一は安堵し皿洗いを終え、エプロンを外す。


『悪い、要件はこんだけ。デートの事、本当にありがとうな』

「ああ」


言うと、準一は通話を終了させると横から「準一さ、デートするんだ」と若干寂しそうな表情を浮かべたエルシュタに聞かれる。


「男とな」

「・・・ゲイ?」

「込み入った事情があるんだよ」


準一に顔を向け「ふーん」と疑う様に言う。





さて、朝倉家では就寝前の時間が来た。妹2人、エルシュタ、カノンは自室にただ舞華だけは準一のベットに潜り込んでいる。


「出てけ」


ただ舞華にそれだけ伝えると、準一は部屋の扉を開け廊下を指さす。


「何て冷たい弟だこと」

「馬鹿言ってないでさっさと出ろ。お前が居たんじゃ寝れないんだよ」

「否定の理由が説得力に欠ける。却下」

「何でお前が主導権握ってんだよ」


準一は握り拳を作り、口元をぴくぴくさせながら苦笑いを浮かべる。


「だが、実際問題私には部屋が無い」

「そうなら結衣とかカノンとか女の子の部屋に行けばいいだろう」

「ああ、誘われたぞ。一緒に寝ないかって。素晴らしく人間の出来た女の子たちだ」

「じゃあ行けばいいだろ」


「私はお前とが良い」と舞華が言った直後部屋に妹2人、カノン、結衣が乱入。


「ずるい兄貴!」

「そうです! 舞華さんとだけ寝ていいだなんて!」

「6人で寝るんだー!」

「だー」


結局、6人で同じベット。あまりの狭さに変にデリケートな準一は眠れず、そのまま一夜を過ごした。


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