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世界改変魔術②

翌日の早朝。言った通り舞華は姿をくらました。千尋と代理は準一の隣の部屋で寝ている。


まだ日が昇る前に目を覚ました準一は、ホテルから出てすぐ目の前の大通りのベンチに腰掛けタバコに火を点ける。大通りでありながら人通りは無い。車も通っていない。ゴーストタウンと称しても問題ない位だ。


辺りは暗く、街灯が道路や歩道を照らしている。


虚しい、と思いながら準一は日が昇るであろう山の方に目をやる。するとガチャガチャとロボットの足音の様な音が、準一の見ている反対の方向から聞こえ、立ち上がり目をやる。


音は次第に近づき、姿が目に入る。2m無い位のアーマーを纏った人間だ。顔は隠れている。ごつい体つき。見た事ない装備だ。


「この様な早朝からこのような事をするのは忍びないが、国に仕える身」


アーマーから男の声が聞こえると、準一に右腕が向けられ、紋章が浮かび


「最優先排除目標は貴様だ」


と言う言葉のあと紋章が一瞬輝き、消える。準一はその紋章に覚えがあった。


「貴様の魔法は舞華から聞いている。機械魔導天使に装備されている近接武器で攻撃するらしいな。だから、貴様の機械魔導天使を封じさせてもらった」


だが、アルぺリスとブレードを封じられただけで、加速魔法、硬化魔法は使用できる。戦う分には支障は無い。


「さて、遅くなったが私の自己紹介といこうか朝倉準一。私の名前はジェイバック。このフレンウォールに仕えるものだ・・・さ、いきなりだが始めさせてもらうぞ」


言った直後、準一に向いていたジェイバックの右腕が開き、小さな鉄の球体が幾つも飛び出し、それを右手で準一に弾く。準一は、咄嗟に後方へ跳躍した。直後、球体は爆発し、地面のレンガが捲れあがり、街灯が倒れる。


硬化魔法を使用し、煙の向こうに居るであろうジェイバックに向けて跳躍、左の回転に任せ、右足を振るう。ただのアーマーかパワードスーツなら蹴りを喰らった時点で分解か蹴り飛ばさる筈。だったのだが、ジェイバックは左腕で蹴りを受け止めると、右腕の肘のバーニアを起動させ勢い任せに準一を殴る。


殴られた準一は100m程飛び、地面を転がるがすぐに起き上がる。


蹴りを受け止めた。ただのアーマーでは無い。それは確かだ。そして、ジェイバックは魔術を使用する組織の人間、と考え付くが魔術を使用した時の紋章は現れていない。


「不思議だろう。何故、このアーマー紋章が出ないと思う?」


問いに、準一はただジェイバックを睨む。


「このアーマー、高濃度に圧縮された魔力を帯びているんだ」


言うとジェイバックは左腕を空へ向ける。すると掌に紫色のビームに似た鞭の様に、蛇の様にフニャフニャした長刀が収まる。


準一にはすぐ分かった。あれは、魔力そのものを武器に固定させたモノ。


「高濃度に圧縮された魔力はこうやって使う事も出来る」


ジェイバックは左腕を大きく振るう。長い刀は地面を抉り、抉られた地面が爆発。攻撃能力が高い。だが反面、魔力を攻撃に集中させた分防御が薄くなっている筈。準一が考えを纏めると同時、ジェイバックは脚部のスラスターを全開にし跳躍し左腕を左右に大きく振るう。


刀を避けた準一は手近な建物の屋上へ飛び、腰からハンドガンを抜き着地したジェイバックに発砲する。


だが、アーマーの分厚さの前では発砲は気休めにもならない。弾丸は簡単に弾かれ、ジェイバックは屋上の準一に向け刀を振るう。それと同時、準一は加速魔法を発動させジェイバックの後ろを取り、硬化魔法を使用。そのまま回し蹴りを横腹に決める。


効いた筈だ。と準一は思ったが意に反してジェイバックは微動だにしない。


「悪いが、貴様の考えは外れだ。私は攻撃も防御も魔力をケチってはいない」


恐らく、アーマーの下で笑みを浮かべたであろうジェイバックに危機感を感じ、カランカランと金属が地面に落ちる音が聞こえ、準一は後方へ飛ぶが少し遅く爆発の衝撃波を喰らい、破片が腹部に刺さる。


今度は転がらず、地面に脚を着け、腹部の痛みに堪える。


攻守共に魔力が完璧。倒すための策は無いわけでは無いが、考えた1つは今の白兵の状態でしか使えない魔術。白兵戦に特化したジェイバック相手になら使える。


術式を準一が頭で組み始めると同時、ジェイバックの後頭部に数発の弾丸が当たり、直後どこからか飛び出した千尋の左足回し蹴りがジェイバック側頭部に命中。怯まないジェイバックに千尋は驚き、動きが止まる。


やばい、と思った準一は術式を解き、加速魔法を発動し跳躍。動きの止まった千尋をお姫様抱っこで抱え、手近な建物の壁を蹴り、別の建物の屋上に上がる。


「あ、ありがと準一」


申し訳なさそうに千尋が謝ると準一は下に降ろす。


「いや、来てくれて俺も嬉しかったよ。だが、奴は強い。機械魔導天使の武器を封じられ、その上、加速魔法、硬化魔法の同時使用での攻撃でもビクともしない」

「うん。あたいもびっくりした。・・・でもどうしよう」

「一応、対抗策はある・・・あら?」


対抗策がある、と言い準一がジェイバックに目をやると同じようなアーマーを纏った人間が6人ほど増えていた。何か話している。


正直、マズイ状況だ。準一の使用する魔術は複数向け魔法では無い。次の策は、と準一は千尋を横目にホテルの代理の事を考える。回収して逃げるのが得策か。


と思った矢先ジェイバックは魔力の刀を消す。そして全員とどこかへ消える。


「じゅ、準一帰っちゃったよ」

「ドラマの予約忘れてたんじゃない?」


ため息と共に冗談を言うと、千尋を抱きかかえ下に降りる。辺りを見ると酷い有様だ。爆発や斬撃で地面は抉れ、街灯も幾つか倒れ建物の被害も小さくは無い。


「まぁ、黙ってればばれないか」


はは、と苦笑いし千尋を見ると口元を手で押さえ、顔が青ざめている。まさか・・・。


「ゲロッていい?」

「弱すぎだろお前! 俺は乗り物じゃないよ! 待て! すぐホテルに!」

「うぼぇッ」


千尋のリバースをもろに受けた準一は風呂に入り、服を洗濯。1時間程で洗濯ものは乾き、準一は再びそれを着る。


「うー・・・準一、あたいワザとじゃないんだよ」

「謝らなくて良いって。怒ってないんだから」


隣で謝る千尋の頭を「よーしよーし」と準一は撫でてやる。反応は実に結衣に似ている。猫の様に目を細め、気持ちよさそうにしている。


そう言えば、改変されて結衣やカノンに会っていない。普段、馬鹿騒ぎがあった所為か。


ああ、分かった。


準一は理解した。どうやら妹達に会えなくて寂しいらしい。





「敵さんも本格的に動き出したし、こっちも本格的に元凶を探さないとね」


朝ご飯の洋食、そのオムレツを貪りながら代理が言う。口の周りにソースが付いているので準一はハンカチで拭いてあげる。


「女の子なんですからちゃんと綺麗になさい」

「うんお兄ちゃん」


いつの間に準一が代理のお兄ちゃんになったんだろう。と思いながら千尋はパスタに粉チーズをふりかける。


「でも、探すって言ったって誰かなんて分かりませんし・・・」


目的は漠然としている。元凶となる夢を見ている人間が全く分からないのだ。


「取りあえず、今日も探索してみようよ。まぁ、敵の襲撃もあるかもしれないけど」

「それに関してですが。代理は千尋と一緒に居て下さい」

「え? 準一は? 1人で居るよりか複数の方が安全と思うよ?」

「逆だよ。纏めてやられたんじゃどうしようも無いだろ? それに、今朝の敵は最優先排除目標は俺だと言ってたし」


言うと代理と千尋は手を止めた。


「あの舞華って女は多分敵じゃない。今の脅威はあのパワードスーツ集団だ。爆発系武器に魔力の刀に防御。はっきり言って、機械魔導天使かベクターでもない限り勝てない。千尋じゃ絶対に勝てない」

「う・・」


千尋は顔を伏せる。図星だ。


「ですが、俺には一応対抗策があります。今日、そっちは探索に専念。敵は俺が一手に引き受けます」


妥当な方針。代理は頷くとコップのオレンジジュースを飲む。


「いいな。千尋?」

「分かった・・・確かにあたしじゃあの集団には勝てないだろうし」


納得した千尋はコーヒーに砂糖を入れようとするが、どういう訳か間違って塩を大量に入れてしまい、それに気付かず飲んでしまう。


「しょっぺ!」

「千尋ちゃん。これ」


しょっぱさに悶える千尋に代理はコーヒーを渡し、千尋はそれを飲む。さて、何を仕込んだ事やら。


「辛ッ! 辛い! 代理! 何入れたんですか!!」

「タバスコ」


とびっきりの笑顔で答える代理の口に千尋は無理やりコーヒーを飲ませる。案の定、代理も辛さに悶え苦しみ千尋と冷水の奪い合いを始め、準一はそれに目もくれずクラブサンドをムシャムシャと食べていた。


そんな時、準一は揖宿に電話しようとする、今どういう状況か確認する為だ。だが、アドレス帳を開くが揖宿洋介の欄が消えている。消した覚えはないし、ロックもしていた。舞華や千尋、代理が何かしたとは思えない。


だが、番号は覚えていたので直接番号を打ち込み通話しようとするが、1コールの後勝手に通話が終了。初めてのそれに準一は焦った。


取り敢えず、通話のそれを代理と千尋に言うと千尋はふとこう言った。


「まさかと思うけど、消えたんじゃ? 皆みたいに」


可能性が無いわけでは無い。寧ろあり得る。


「だとしたら時間が無いみたいだね。もしかしたらあたし達も消えるかもしれないし」


真剣な顔で代理は言うが、唇が真っ赤になっておりどうにも緊迫感に欠けるも、3人は朝食を済ませ探索を開始した。




首都を出て、交通機関を使い適当にブラブラしていると準一は細道の先に知った顔を見つけた。赤毛の女の子、氷月千早。


恰好自体は変わっていたが、すぐに分かった。そして千早も気づき「あ、準一」と駆け寄る。


「まさか、会うとは思わなかったよ」

「うん。私も。何してるの?」


何してるの? の問いに改変の元凶を見つけてるんだー。などと言う訳にはいかないので普通に観光と答える。


「観光なら、取りあえず一緒に行動しない?」

「え・・・今日はむりだ」

「拒否権無しで」



一緒に行動する準一、千早の2人は市街地を出て割と整備された川沿いの道を歩いていた。


「ねぇ、準一。このフレンウォールってどう思う?」

「どう思うとは?」

「うーん・・・この国の感想?」


そうだな。と考える。気味の悪い人間が多数存在し、家が無い。そして、街も景色もめちゃくちゃ。


「あまり好きになれないかな」


言うと千早は「へぇ」と意味ありげに声を出す。


「私は好きだけどな・・・この国もこの世界も」

「世界?」

「うん。前の世界と違ってこの世界」


「―――戦争が無いんだ」


準一は、千早の言った前の世界、戦争が無いに息を呑み、心臓の鼓動が早くなったのを感じた。


「独立戦争も革命も、世界大戦も紛争も宗教戦争も無い。ねぇ、戦争って体験した事ある?」

「いや、知らない」


この世界の歴史には戦争は無い。一応、改変前を記憶していると勘ぐられたくは無かった。


「私はあるよ・・・何か、準一ってさこの世界の人間じゃないみたい」

「俺はさっきから千早が何言ってるか分かんないんだが」


鋭い。と準一は思いながら嘘を吐く。


「何かね。違う・・・準一からは血と硝煙の臭いがする」


準一は千早を疑った。こいつも組織の魔術師か。


「なんて・・・んなわけないか」


一変して微笑むと千早は鼻歌を歌いながら歩き出す。違うのか、と準一は安心すると一つ心配事を考える。断りきれなかった自分が悪いが、敵が来たとして千早をどうするかだ。自分からとっととどっかへ行ってしまえば良いのだろうが、気になる言葉をいくつも残した千早から離れる訳にはいかない。


千尋に来てもらおうと思ったが、アドレスから五傳木千尋が消えている。


動揺し、すぐに代理のアドレスを確認する。代理の欄は残っている。準一は安心し、代理と合流しようと考え千早も連れて行こうと考えた。


「千早。ちょっと来て―――ッ!」


要件を言う前に準一は気配を感じ加速魔法を発動。千早を小脇に抱えジャンプする。直後、下が爆発、煙の中にジェイバックが姿を現す。


「案外着くのが早かったな。だが、彼女を渡す訳にはいかない」


言うと、ジェイバックは腕のグレネード弾を準一に向け発射する。準一は盾を出現させ、爆風を利用し後方へ飛び、着地と同時に加速魔法で逃げに転じる。


それを見たジェイバックはマスクの下で笑みを浮かべ、右手を降ろし左手を準一の方向に向けると、紋章が浮かび魔力の刀に似た棒状の物が幾つも飛び出し、クルクルと回転しながら準一達に向かう。


気付いた準一は加速魔法を使用し、市街地を避け、人の少ない街道へ入ると、準一の左右にあったガス灯が弾かれ、金属音を立て宙を舞う。


加速魔法を使用しているのにジェイバックの放った棒はそれを越える速度。準一は硬化魔法を発動させる。


「ジェイバック・・・やっぱり来たんだ」


落ち着いた口調で千早が言うのを聞いて準一は驚いた。


「準一、逃げるなら今がチャンスだよ」

「お断りだな。逃げるは選択肢ガイだ」


と答えた瞬間、準一の腹部の中心に魔力の棒が勢いよく刺さる。痛みを感じる間もなく、準一は体勢を崩し勢いの付いたまま倒れ込み、千早は地面を転がる。


準一は起き上がろうとするがそれより先に、ジェイバックが千早を連れ去る。ここに来て痛みを感じ始めた準一は唸りながら上半身を起こし、腹に刺さった棒を見る。棒はすぐに消え、開いた穴から血が噴き出す。


準一は加速魔法を発動させ、自然治癒できる部分だけは治すが、途中で意識を失う。






目を覚ました代理に、燕尾服の若い男性が声を掛ける。


「お目覚めかな?」


その言葉に代理は目を細め、起き上がり周りを見る。柱が並ぶ洞窟の様な場所。洞窟内はライトか何かで照らされており、薄青白い。


「ねぇ、あなた達って何なの?」

「目覚めてすぐにも関わらず、随分意識がはっきりしているようだな・・・我々はこの国に仕える者だ。それ以上でもそれ以下でもない」

「目的は? ウチの仲間の3人をどこへやったのかしら?」


仲間3人とはエディ、揖宿、千尋だ。千尋も探索中に消え、そこで代理は意識を失った。


「心外だな。我々仕える者はお前の仲間には手を出してはいない。お前の仲間はこの夢から弾かれたんだよ」

「弾かれた?」

「必要ない、と判断されたんだ。だが、お前ともう1人、化け物みたいに強い奴はそれが通用しないみたいだ」


準一君の事だ。代理は準一が居る事に安心する。


「とはいっても、俺の仲間が攻撃に当たった為、今は虫の息らしいがな」


正直、代理には準一が虫の息という事が信じられなかった。


「さ、残る貴様にはここでおとなしくしていてもらう」


何か出来る訳でもないので代理はおとなしく従った。



千早がジェイバックに攫われて数時間、準一は目を覚ました。腹部には小さい傷があり、出血は続いていた。痛みはあり、起き上がった準一は腹部を右手で押さえた。


携帯で時間を見ると、数時間経っていた。その為か、辺りは夕暮れ。自分にとどめが刺されていない辺り、敵は自分が死んだと判断したのだろう。と空を見ながら携帯をポケットに直そうとするとメールが届いた事を知らせる着信が鳴る。


画面を見るが知らないアドレス。誰だ? 思いながらメールを開くと画像が添付されていた。


それを見て準一は目の色を変えた。


画像は、洞窟で代理が意識を失っている画像。文は無い。画像には代理だけ、千尋は? 最悪の結末を考えた。千尋は強い、だが、まさか。死んだ。


準一は無言で携帯を強く握りしめる。






準一にメールを送った燕尾服の男は、体操座りの代理を横目に笑みを浮かべ携帯を閉じる。


「何をしたの?」


明らかに悪い事をした顔の男に代理は聞く。


「ジェイバックが仕留め損ねた彼に戦闘意欲を煽るメールを送ったんだ。貴様が気絶している時の画像を添付してな」


瞼を閉じる燕尾服の男に代理は呆れた。そんな事をしても、準一は何も思わないと思っているからだ。相手が結衣やカノン、その他友人なら兎も角、自分は準一に対し相当な事をしている。と理解しているからだ。


「さて、では彼が動き出すと仮定して、此方も準備をしないとな」


準備? 代理は聞き返す。


「化け物が化け物に乗って来るんだ。此方も化け物を用意している。中東で見ただろう? サジタリウスを」


その名を聞いて代理は目を細めた。


「あなたの話を聞いて今確信したわ。この大規模魔術。あなた発動させた側の人間ね?」


考えていた事を言った代理だったが、意に反して男は嘲笑するような表情を浮かべた。


「言っておくが、これは大規模魔術なんかじゃないんだ」


予想外の言葉に代理は驚き目を大きく開く。


「これは複数の魔術を同時に使用して起こった事象なんだよ。夢を見る魔法は合っている。そしてランダムで死者を復活させる魔術だ」

「ちょっと待って? じゃあ改変の効いていない人間は? どういう事なの?」

「夢に取り込む魔法が意に反して暴発してな、取り込むはずのない人間も取り込んでしまったんだ」

「・・・はなっから取り込む人間は決まっていたわけ?」


表情を険しくした代理に聞かれ、男は頷いた。


「朝倉準一ただ1人だ」


それにため息を吐くと立ち上がる。


「ねぇ、あなた達ってさ教団の人間なの?」

「いや、私は興味本位で行っているだけ。ジェイバックと複数名は私が雇った」

「あの着物のお姉さんは?」


「ああ、あいつか」


男は代理に背を向ける。


「あいつは死者だ。死者を復活させる魔術で生き返った」


そう。と代理は言うと男に名前を聞いた。


「アイルマン。それが名前だ」


それだけ言うとアイルマンは洞窟から去る。それを見ながら代理は考えた。今からどうしようかな。と。





場所は移動せず、準一は頭で術式を組む。アルぺリス召喚の術式だ。準一の前の地面に紋章が浮かび、その中から片膝を着いたアルぺリスが姿を現す。


出現したアルぺリスは準一に向いている。アルぺリスは右手を準一に差し出し、準一はその掌に乗る。すると胸部のコクピットハッチが開き、近づいた準一はコクピットに入り、シートに座り操縦桿を握る。すると、正面のメインモニターが起動。景色が映り、アルぺリスのデュアルアイが碧に光り首が上に向く。


それに合わせたかの様に、空に幾つも紋章が光る。準一はこれを経験している。中東での堕天使奪還戦時に戦った巨大兵器。サジタリウスの攻撃に酷似している。準一は、起動した翼を羽ばたかせ後方に跳び、紋章から降り注ぐ光の矢を回避する。


攻撃を目の当たりに、準一は確信した。間違いない、あの兵器だ。


だが『神殺し』がある以上。敵ではない。しかし、今回準一には問題があった。加速魔法、硬化魔法が使用できないのだ。ジェイバックの高濃度魔力圧縮攻撃を喰らった準一は、一時的であっても、腹部貫通によりそれを体内に入れてしまった。それにより、魔術使用の基本である体内魔力の流れがおかしくなっているのだ。


しかし、アルぺリスが召喚できたのは、それが魔力とは関係ないからだ。


神殺し、それがあれば敵ではない。だが、それは有効範囲内に接近した場合の話だ。接近するには加速魔法を使えればいいのだが、そうはいかない。


「面倒臭い」


準一は呟くとレーダーを見る。正面の山の向こうにサジタリウスの反応。アルぺリスの高度を上げ、視認。サジタリウスは高い建物の無い街中で紋章を展開させている。その足元は、這い上がった様な跡があり、幾つか穴が開いている。


代理の画像は洞窟の様な場所。潜るならサジタリウスの下からしかない。他に見当たらないからだ。アルぺリスを街中に入れ、準一は神殺しを発動させ、腰から剣を抜き左手に握らせ、神殺しによる黒の瘴気を剣に纏わせ、それをサジタリウスに投げる。


これで。準一は勝利を確信した。


だが、投げられた剣はサジタリウスの装甲に弾かれ、地面に突き刺さる。


何故。考える準一の一瞬の動揺を突いたかのようにサジタリウスは攻撃を開始。羽ばたく間もなく真横の建物に命中した至近弾の爆風に押され、アルぺリスは左に転がるが、すぐに起き上がり眼前の瓦礫を右手で払い、上昇させ両腰の魔導砲をサジタリウスに撃つ。


サジタリウスは魔導砲からの光線が接近すると、眼前に盾を出現させ防御。すぐに発射管を開き、中東で使用しなかった兵装、対ベクター用の高機動多目的ミサイル数十発を発射。アルぺリスは降下し、街中を飛び回る。ミサイルはアルぺリスを追うが、建物や地面に命中し、殆どが落とされる。


サジタリウスは、再び姿を現したアルぺリスに向け迎撃射撃用の180mmガトリング砲の一斉斉射を開始。舌打ちし、準一はアルぺリスを高い建物の後ろに隠すが、180mmの炸裂弾は、アルぺリスの隠れる建物を数秒と経たずに瓦礫と化させ、アルぺリスはそこから飛び出す。サジタリウスはそれを見透かした様に矢を降らせ、アルぺリスは爆炎に巻かれる。





代理達の居る地下洞窟は爆発の振動で、割と強く地震並みに揺れていた。その揺れに小さな身体を左右に揺られ、代理は「おっとっと」と声を出し、戻って来たアイルマンが「手を貸そうか?」と言うが代理はそれを断る。


「これだけ揺れが激しいとは、アルぺリスはどうなっていることやら」


揺れが弱まり、アイルマンがぽつりと言う。


「中東での戦闘を知っているなら『神殺し』も知っているんじゃないの?」

「当然知っている」

「だったら勝敗は見えているんじゃない?」


神殺しの力であれば、神の位にあるサジタリウスは簡単に破壊できる。見たのならそれは分かっている筈なのだが、アイルマンは余裕の表情を崩さない。


「死者を蘇らせる魔術、と言っただろう?」


「・・・まさか」代理は声を出し、考えた。中東でサジタリウスはコクピット以外を破壊された。言えば、死んだわけだ。そして、死者を蘇らせる魔術。サジタリウスはそれで復活。つまり。


「気付いたか、幾ら神の位の兵器と言えど、死んで蘇ったって事になれば、一度は死者の位に堕ちたわけだ。つまり、それはもう神の位じゃないわけだ。人の位に立てないアンデットと同じさ」

「だから・・・アルぺリスの神殺しは効かないってワケ?」

「ああ。そして、アルぺリス操縦者の魔術師の体内には、ジェイバックの高濃度魔力が入り込んで魔法は使えない」


不利すぎる。幾ら準一の操縦技術と性能があったとして、サジタリウスとの武装の数が違う。防御だって薄くはない。そうは思ってもどうにも出来ない。準一自身に頑張ってもらうしかない。


目を細め、不機嫌そうな代理の表情にアイルマンは悪い笑みを浮かべた。






爆炎に巻かれたアルぺリスは上昇する。煙が装甲に纏わり付くが、一度左にクルリと回り振り払うとサイドアーマー内の魔導砲を構えさせ、両門同時発射。光線はサジタリウスの張った盾に命中し、オレンジの爆発が辺りに広がる。それを払う様にサジタリウスは巨大な身体を後ろに下がらせ、神の矢を上空に発射しアルぺリスに向け降らす。


神殺しが使えない以上、準一は矢を回避する他無い為、アルぺリスは街中を飛び回り矢を回避しながら魔導砲を撃ち続けるが効果は無い。矢の攻撃が収まり、アルぺリスは手近な建物を蹴りサジタリウスへの接近を試みると同時、サジタリウスは180mm砲の一斉砲撃を開始。再びの炸裂弾の接近に、アルぺリスは前面と上面に盾を形成させたまま、街中の大通りに滑るように着地し攻撃を防ごうとするが、サジタリウスの巨大な腕部が炸裂弾と同時に命中。アルぺリスは腕部に上から押し潰される形になり、その衝撃に押され脚部関節にが嫌な音を出し、脚部は地面にめり込む。


硬化魔法が使えないため、盾を張ったとして、その押された衝撃は全てアルぺリスに負荷として圧し掛かる。そして、巨大な腕部による衝撃は、コクピット内の準一にとっても堪ったモノではない。


身体をシートに押さえつけられ、上下左右に揺られ腹部の傷が痛み、準一は歯を食いしばる。


まだ。チャンスはまだだ。痛みに耐えながら準一は心で呟く。


そしてすぐ、押さえつけられる力が弱まり、腕部がアルぺリスの盾から離れる。その瞬間、準一はアルぺリスを跳躍力最大で腕部にしがみ付き、持った剣を腕部に突き刺す。


捕まえた。と言わんばかりに準一は笑みを浮かべる。剣を突き刺し、へばり付いたアルぺリスを振り払おうと、サジタリウス腕部が上に向いたと同時、アルぺリスは剣を抜き、腕部を駆け、胸部に近づき右手の剣での横一閃を決め、魔導砲数発を叩き込むが、同じタイミングで胸部180mm砲の砲撃が開始され、アルぺリスは右腕、左サイドアーマー、右脚部を千切られ、爆発の衝撃で街中に放り出され、瓦礫に埋もれる。


だが、サジタリウスは力が抜けたように沈黙した。動きが止まった。確認すると準一は傷だらけのアルぺリス上半身を起き上がらせ、残った左腕で瓦礫を退かす。そして立ち上がろうとして初めて右脚部が千切られた事に気づき、驚いた。


アルぺリスがここまでダメージを負ったのは初、ではないが久しぶりで、機械魔導天使なだけに耐久力は高い筈なのだが。と感心しつつも、サジタリウスの強さに驚く。


「仕方ない」


言うと準一はアルぺリスを羽ばたかせ、高度を上げサジタリウスが這い上がって来たであろう穴に向かう。






「サジタリウスが破壊されたか・・・流石と言うべきかな」


アイルマンは参った。と言いたげに瞼を閉じ息を吐くと懐からハンドガンを取り出し、9m程離れた校長代理に向ける。


「何のつもり?」

「いや、仮にここでお前に向け発砲した場合、朝倉準一はどういう反応を見せるかなと」

「期待している反応は無いんじゃない?」


仮に自分に発砲されたとして、朝倉準一は顔色一つ変えないだろう。と考える代理は呆れた様な笑みを浮かべる。


「そうか・・・だったらいいか」


アイルマンはハンドガンを下げ、踵を返す。同時、代理のすぐ後ろの天井が音を立てて抜け、小さな岩が崩れ落ち、その中からアルぺリスが降り立ち、代理の直上に腕部をかざし岩からガードする。


「び、びっくりした」


しゃがみ込み両手を頭の上に乗せ、代理は安堵の息を吐く。


「随分と無茶をする」


アイルマンが言うと、アルぺリスは片脚が無い状態でしゃがむ。そして、胸部コクピットハッチが開き、腹部を押さえたままの準一が下に降りる。


「あ・・・準一君結構、怪我凄いね」


腹部の怪我を見た代理は準一に寄り、怪我している部分に手をかざす。


何を? と思う前にかざした代理の手に青の紋章が浮かび、みるみる傷が塞がってゆく。


「代理・・・治癒魔法ですか?」

「うん。まぁね」


笑みを浮かべた代理が答えた直後、紋章は消え代理は手を離す。


「これで体内の魔力の流れが大丈夫になった筈だよ」


言って代理が微笑むとアイルマンは2人に向き「驚いた」と声を出す。


「ジェイバックの高濃度魔力を浄化するほどの治癒魔法・・・支援魔法では高位クラスか」


笑みを浮かべると、アイルマンはハンドガンを代理に向け発砲。気付いた準一は硬化魔法を発動させ代理の前に立ち、銃弾を弾く。


「いい反応だ」


称賛の言葉の後、アイルマンは悪い笑みを浮かべ拳銃から弾倉を落とし、新しい弾倉と入れ替える。


「あんたは?」


準一は、再び拳銃を構えたアイルマンに聞く。


「アイルマン・・アイルマン・キースだ。会えて光栄だよ、朝倉準一」

「俺の事、知ってるんだな?」

「それはもう・・・お前は有名人だしな」


瞼を閉じ、アイルマンは拳銃を下ろすと続ける。


「日露戦争後ロシア軍離反残党軍の掃討・・・朝倉準一。これを実行したのはお前なんだろ?」


これは、確かに準一が行った。準一は頷き、後ろを見る。案の定、代理は驚いた表情を浮かべている。この事は日本国内で知る者は少ない極秘作戦で、代理は知らないからだ。


「準一君。あたし知らないよ?」

「教える必要が無いですし、口封じもされていたんで」


やはり話していない事はあったみたいだ。と代理はため息を吐く。


「ロシア離反残党軍に対し、個人が判別できない様に全員を殺せ、が命令だったな」

「あんた・・・改変を起こした側の人間か」

「ご名答。ま、詳しくは説明できないが・・・」


アイルマンの語ったロシア残党狩りは、改変以前の出来事。気づいた準一の問いに答えたアイルマンは拳銃を懐に仕舞う。すると、アイルマンの後ろにパワードスーツの集団が出現する。


「安心しろ。もうここらが限界だ」


諦めたような笑みを浮かべると、アイルマンとパワードスーツの集団は踵を返す。止める必要は無い。居なくなるならそれに越したことは無い。と言いたい所だったが、止める理由はあった。


「待て、氷月千早と牧柴舞華は?」

「ああ、氷月千早は此方が所有している・・・が、牧柴舞華はこの洞窟内のどこかで気を失っている筈だ。探すなら早くした方が良いぞ。夢を見ている張本人、氷月千早がこの世界で眠りについた。間もなく崩壊が始まる」


聞いて準一は代理を小脇に抱え、アルぺリスの掌に飛び乗り開いたコクピットに座り代理を膝に乗せる。すぐにアルぺリスを起動させ、脚部が片方使えない為宙に浮かせる。


「準一君、どうするの?」

「取りあえず、牧柴舞華を助けます」


言った準一に代理はため息を吐く。


「いいの? 敵だよ?」

「いえ、彼女は敵じゃないですよ」

「根拠は?」

「勘です」


やっぱり。と代理は呆れる。


「代理。取り敢えず、戻ったら、あなたは俺に聞きたいことがあるでしょうが、俺も聞きたいことがあります」


準一が何を聞くか予想できた代理は無言で頷く。






洞窟内を飛び回り数分で倒れた牧柴舞華を発見し、アルぺリスは左手で舞華を拾い上げると、洞窟の天井に空いた穴から外へ出る。






「ん・・・」


準一は目を覚ました。どうやら碧武の自宅らしい。左右にはエルシュタにエリーナ。戻って来たか、と安心し、顔を胸元に向けるとスヤスヤと眠る牧柴舞華が居た。


さて、どうしよう。と準一が困惑し嫌な汗をかいているとエルシュタとエリーナが上半身を起こし目をこする。


「あ、帰って来た」

「ん・・・3時間位いなかったよ」


エルシュタ、エリーナは順に気になる言葉を残す。


「帰って来た?」


準一は聞いた。2人が何の事を言っているか気になったからだ。


「うん。準一さ寝息立てて30分くらいからパッて消えたんだよ」


エルシュタが言うとエリーナはうんうん。と頷く。


つまり、改変の起こった世界での数日間は、この3時間の出来事という事。流石、夢と言った所だ。と準一が頭を抱えていると携帯が鳴る。メールで差出人は代理。短く学生寮エリアの東広場に来て。とだけ。


行って来る。とエルシュタ、エリーナに言うと舞華を置いて広場に向かう。





「あ、来た来た」


深夜、街灯に照らされるベンチに腰かけた代理は足をパタパタさせ笑顔を向ける。何でそんなに元気なんだよ、と準一は思いながら「どうも」と言い代理の隣に座る。


「さて、準一君。あたしに何が聞きたい?」


先に質問させてくれるのか。準一は迷わずこれを聞く。


「何故、あなたは夢から弾かれなかったんですか?」

「やっぱりか」


代理からすれば想定内の質問だった。


「あの魔法はさ、大規模魔術じゃないの。夢を見る魔法、死者を蘇らせる魔法を掛け合わせた魔法なの」


成程。その2つで大規模魔術を演出したわけか。


「そして、その世界に取り込むターゲットはただ1人」

「俺ですね」

「うん。でも発動時、暴発。ターゲット以外の人間も取り込まれちゃったわけ。だから」

「ちょっと待って下さい。あの牧柴舞華は俺の事をイレギュラーだと言ってましたよ」

「それは多分彼女は蚊帳の外だったのよ。真相は黒幕のアイルマン・キースしか知らないんじゃないかな。多分、雇った人間、パワードスーツ集団とかには適当言ったんじゃないかな」


成程ね。と準一は納得しながら顎に手を置く。


「で、あなたが弾かれなかった理由は?」

「彼らの魔力じゃ魔力の高いあたしは手に負えなかったの」

「えっと・・つまり、代理の魔力が高すぎて夢から弾けなかったというわけですか?」

「そそ」


この女。とんでもないな。準一は苦笑いを浮かべる。


「さて、第二次日露戦争後の残党狩り。説明してもらおうか?」

「一応喋んなって言われてるんですよ?」

「あらー? あたしは喋ったのになー」


とは言っても、大体はアイルマン・キースが喋ってしまっている。


「ま、あの男の話した通りですよ。命令は個人が判別できない様に殺せで、俺はタンカーに潜伏する彼らに対し、生身で戦闘を挑みました。ま、後は1人1人時間を掛けてひき肉みたいにしただけですよ。ま、それが俺の初陣ですしね」


初陣でエグイ事するな。と思いながら代理は苦笑いするとベンチから立ち上がる。


「ま、話せることは話したし。取り敢えず今日は帰ろう」


「はい」と準一が返事をすると2人は帰宅。






「兄貴!」

「兄さん!」


準一の部屋から飛び出した妹2人は大声を上げながら一階に降り、台所で朝ご飯を作っている準一に抱き着く。火を使ってるから危ないんだけど。と準一が言おうとすると2人は痛いくらいに力を込める。


何を? 殺す気か? 思いながら目をやると2人は怒気を含んだ声をこう言った。


「今日はテトラ・レイグレーと」

「デートなんですよね」


デート? 記憶を掘り返す。夢だったとして、数日経っている。さて、寝る前だ。


「あ」


確か、一方的な電話が電話が来ていた。そして、2人に攻めたてられたな。と思い出し苦笑いしてしまう。


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