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堕天使奪還戦③

やっと魔術っぽい魔術が出せた気がします。


難しいけど考えるのは楽しかったです。

翌日の午前、フェニックスは基地から発進した。通過する国の領空は通過可能な許可は取っている。フェニックスは巨体でありながら、速度はかなり早く。あっという間に中国領を通過。そしてアフガニスタンに入る。飛行高度は10000m。


「本当に速いな」


広間でエディは言った。エディの他には準一、揖宿が居る。女子組は機内を逃げ回る代理の始末にあたっている。


「速度は音速旅客機と同等、らしいですからね」


フェニックスには旅客機の音速エンジン数十と、別にラムジェットが積んである。通常の巡航飛行の際は音速ジェット。戦闘時、高速機動が求められる場合にラムジェットを使用する。


「このフェニックス。君は初めてだったな」

「ええ」


揖宿に準一は答えると「そう言えば2人は聞いてますか?」と聞く。

何の事だ。と聞かれた2人が聞き返すと準一は、昨日の大和新装備、エネルギーショックカノンの説明をする。


「な、なんだと・・・ショックカノンだと」


聞いて衝撃を受けたのは揖宿だ。エディもそれなりに驚いている。


「ショックカノンの精密射撃可能射程は?」

「確か、150kmだったかと」


準一は、昨日聞いた後、個別に届いた資料の情報を教える。


「ところで準一君・・・大和の新装備、他には?」

「他には・・・とは?」


身体を乗り出し食いついた揖宿に準一は驚く。


「艦首魚雷発射管とか、煙突ミサイルとか、波動砲とか」

「いえ、残念ながら」


聞いて揖宿が肩を落とすと、エディはため息を吐く。同時、機内がアナウンスが流れる。


『フェニックス、大和はこれよりイスラエル空軍と対空戦闘を開始する。機内の人間は、取りあえず何かに掴まってください。多分揺れます』


結構適当なアナウンスを聞き、揖宿はテレビモニターを点ける。テレビモニターで、外の戦闘状況は確認可能だ。広間の3人は、楽しみにしている。大和がショックカノンを撃つ事を。



「せ、戦闘!?」

廊下で代理を羽交い絞めにした結衣は、驚きの声を上げる。初めて体験する戦闘に少し身震いする。


「じゃ、とりあえず鬼ごっこはまた次の機会にしよう」


羽交い絞めされたままの代理は、真剣な顔で言う。キまらなかった。結衣が代理を下すと綾乃、カノンは代理を2人で小脇に抱え、結衣は代理を拘束する為の布団を抱える。


「総員、退散!」

綾乃の言葉に3人は「おー」と言うと広間に向け走り出す。




フェニックスはその特異な利用を想定し、機内にCICが存在し、そこに機長とCIC要員が居る。


「イスラエルと連絡は?」


索敵状況を映したモニターに目を向けながら前島は聞く。


「連絡は全く着きませんが、先ほどから空軍より同じ内容の文が送られています」

「内容は」

「本空域は、我々の作戦展開空域である。これ以上の侵入を続けるならそちらを目標と設定し、射程に入り次第撃墜する。との事です」


どちらにしろ、この空域は通過しなければならないので、戦闘は避けられないか。と前島は戦闘を行う事を決定すると「敵に伝えろ」と通信士に言う。


「内容は如何様に」

「馬鹿めだ。いいか、馬鹿めだ」


前島のそれに「馬鹿はアンタだよ」と通信士、他要員は思った。この元凶は分かっている。大和艦長の九条が宇宙戦艦のDVDを貸したばかりに、前島は影響されている。だが、馬鹿と思いつつも、通信士は先に居る空軍にしっかりと通達する。


すると、すぐに返信が来る。そちらを撃墜する。と短い一文だったが、フェニックス、大和が対空戦闘を開くには十分だった。


「敵はすぐに仕掛けてくる。近づく前に対空ミサイルで落とせ!」


前島の指示の直後、オンになった火器管制システムは、対空ミサイルを装填した主翼VLS(垂直ミサイル発射管)を解放させ長射程の対空ミサイルを撃ち始める。


飛翔し、戦闘機群に向かったミサイルは半数以上が命中するが、その戦闘機の多さから数はほとんど減っていない。見るからにイスラエル空軍は90%以上の戦闘機を投入しているあたり、米国大統領からのオーダーを受けたのだろうな。


「そういえば」


と声を漏らした前島は大和の状況を確認する。大和は、敵戦闘機群を射程に収めながらもミサイルを一発も撃っていない。


「おい。九条。何故ミサイルを撃たない」

「いや、税金無駄にしたらイカンでしょ?」

「イカンでしょ? じゃねえよ! 納税者だと思って優しくしてりゃ付け上がりやがって!」


今にも銃を持って暴れだしそうな警察官と同じセリフをインカムに吐くと「はぁ」とため息を吐く。


「分かった。今から撃つよ」


大和CICの九条がため息の後に言うと、大和から対空ミサイルが数十発向かう。しかし、大和のミサイルが向かう頃、戦闘機群は回避行動に入る。まだ、フェニックス、大和は戦闘機群の射程には入っていない。だが、投入されている戦闘機は一番古いタイプで試作機、YF-15、試作段階ながら性能の高い戦闘機やYF-22なのでかなり足が速い。


「足は速いようだが、脚の長いミサイルを持っていなくてよかった」


前島が声を漏らす頃、戦闘機群は高度を下げ始める。そして、左寄りな展開を始める。フェニックスの下を取ろうとしているようだ。


「前島、下に回られるとショックカノンが撃てない! 機体の向きを変えてくれ!」


どうやら、ショックカノンを本気で撃ちたいらしい九条は前島に言う。


「分かった。機体を傾ける。機内アナウンスで伝えろ! これよりフェニックスは左に傾く!」

「了解!」と言葉の後、フェニックスは左に傾く。と同時、大和の主砲が左下方戦闘機群に向く。


「主砲! 4式弾からエネルギー弾へ! 回路接続確認! 動作確認! 敵戦闘機群オートロック! 何時でも撃てます!」


大和CIC、砲雷長のショックカノン発射可能の知らせを受け、艦長は顔つきを変え「主砲! 撃ち方始め!」いつになく声を張り上げ、砲雷長は復唱。直後、大和主砲からは艦長にショックカノンと名前を付けられたエネルギー弾が飛ぶ。エネルギー弾と言っても、砲弾のようなものではなくビームに似たもの。


エネルギー弾は、左下方の戦闘機群の数機を切り裂く。合わせて戦闘機群は隊列を乱す。混乱しているのだ。ここに戦艦が居るだけでおかしいのに、主砲からはビームに似た青のエネルギー弾。


それに、戦闘機は撃ち抜かれたのではなく、切り裂かれたに近い。戦闘機のパイロットは、震えあがる。しかし、大和はそんな事をお構いなしに次々と撃墜してゆく。合わせて、フェニックスに装備された全方位射撃可能なレールガンも発射を始め、戦闘機群は壊滅的な被害を被り、あっという間に壊滅。


「どうだ。前島、大和の新装備ショックカノンは」

「凄い、の一言だよ」

最初の戦闘が終了し、フェニックス、大和は対空戦闘を解く。




エルシュタの運ばれた中東支部には、アルプス支部のような薔薇園は無い。なので、エリーナは基本的に自室に籠っている。エルシュタも一緒に居る。エリーナと、エルシュタが紅茶を飲む中、部屋にメガネの中年の男が無断で入る。


「エリーナ。貴様」

「勝手に入らないで」

「勝手なのはどっちだ。貴様、アルぺリス搭乗者の魔術師に会ったな」


エリーナに男が言った。エルシュタは「準一と・・・」と声を漏らす。


「確かに会ったわ」

「貴様、此方の居場所を漏らしたのか」


男は歯ぎしりする。


「最初から分かっていた筈。偵察機でサジタリウスも発見されていた。ここに来るのは時間の問題。だから招いてあげたの」


紅茶を啜りながらエリーナは横目で男を見る。


「貴様、あの魔術師に何を期待している」

「何も」


男の問いに無表情で答えると、男は部屋を後にする。


「ねぇ、サジタリウスって外に置いてある巨大な兵器?」

「そうよ。何故?」

「現用兵器じゃないよね」


エルシュタの確認の問いにエリーナは「ええ」と短く答えると再び紅茶を啜る。


「あれは現用兵器と魔術兵器とを掛け合わせた兵器。名はサジタリウス」


エルシュタは、サジタリウスが国連軍艦隊を壊滅させた事はエリーナ経由で話を聞いていた。


「月の光を使ってるの?」

「そうよ。同じように、太陽光も使用しているわ」


やっぱり。とエルシュタは言うと紅茶のカップを持つ。


「どうしてわかったの?」

「殆ど勘。もしかしたらって思って」


内心鋭いな。と思いながらエリーナはカップを置く。


「夜間は月の光から吸収した魔力は、神の矢、に変換され設定目標に降り注ぐ。同じように、太陽光も矢に変換する事が可能。でも、それだけに射撃距離には制限がある」


制限? とエルシュタが聞く前にエリーナは続ける。


「サジタリウス周辺1000km。あの機体は欠陥品よ。月の光を武器に変える兵器と太陽光を武器に変える兵器を無理やり掛け合わせて、歪な科学技術でくっつけた」


言うとエリーナは「くす」と笑う。


「考えてみれば、機械魔導天使も同じね。異能の力と科学の兵器が合わさった・・・。まさに異能科学って所かしら」


ここでエリーナは一旦喋るのを止め、エルシュタが質問する。


「ねぇ、準一に会ったの」

「ええ。会ったわ。アナタの事を聞かれたわ。怖い顔で無事かって」」


聞いてエルシュタは表情を緩ませる。心配してくれていたようで嬉しかった。


「信頼してるの?」

「それなりにね。まだ関係は浅いけど」


微笑みながらのエルシュタに言われエリーナはため息を吐く。


「でも、彼があなたに信用されてる理由。昨日会って少し分かったわ」


下を向いたエリーナに「へぇ、どうして?」とエルシュタは詰め寄る。


「敵と断定したあらゆる勢力を潰し、皆殺しにする。って聞いてた話とは全然違った。何だか・・・暖かかった」

「暖かかった?」

「そう。お茶淹れてくれたりとか、勝手に物を漁ってたら注意してくれたりとか・・。良い人なんだなってすぐに分かった」


そうエリーナは目を閉じ言う。胸の前で手を合わせ、指を絡ませる様は恋する乙女の様だ。


「だから、私はあなたが羨ましい」


エリーナは目を開け、エルシュタに向き「私は、彼とは別の出会いがよかった」と切なげな、残念そうな表情で言う。


「・・・ねぇ。あなたは何を期待しているの? 準一に」


エルシュタは聞いた。たった昨日一度あっただけ。なのに彼女はこれだけ話している。恐らく、準一が良い人と分かって何か、期待しているのだ。


「・・・まだ言えない」


とだけ言い残すとエリーナは黙り込んだ。



戦闘が終了し、数十分がたった。現在、フェニックス内にて女子組による代理への教育が再開され、揖宿、エディは準一と大和戦闘能力向上について語った後、2人で食堂へ向かった。一方準一は2人から離れ、一人で機内を歩き回っている。その間、ずっと昨晩のエリーナの事とエルシュタの事を考えていた。


エリーナの言葉、エルシュタは無事。は確実だ。そして最後の、中東でも自分とエルシュタが中東に居る事を示唆している。エルシュタの無事に少しの安堵を準一は得る。そして準一は小腹が空いたのでフードサーバーに向かうと、そこには相原一等海士の妹、相原真美がフードサーバー隣の椅子に座って居た。


準一は関わらない様に、フードサーバの前に立ち、たこ焼きを押す。


「あの、兄がどこに居るか知りませんか?」

「え、一等海士ですか」


ふいに真美に声を掛けられ驚くも、妹と混合しない様に階級で呼ぶ。


「いえ、申し訳ございません。一等海士は今の所見ておりません」

「そうですか・・・」


真美はとても残念そうな顔になり俯く。


「機内放送で呼び出しが可能ですが」

「い、いえ・・・無理して乗せてもらっているので」


そう言えば彼女は、どうやって戦闘に向かう機に乗り込んだのだろう。と疑問に思った準一は聞く。


「兄の大きめのバッグに入り込んでました」


荷物チェックの緩さに呆れ、そこまでするかとため息を吐く。と同時、結衣がフードサーバーに来る。


「あ、兄貴!」


相原真美の横に立つ準一を見つけるなり、結衣はズンズンと近寄り「この可愛い人誰!!」と不機嫌な声を出す。


「知り合いの妹だよ」


準一がため息交じりの説明をすると「真美!」と一等海士の声が響く。


彼はダンボール箱を重そうに抱えている。どうやら雑務をこなしているらしい。恐らく、炊飯長にこきつかわれてるな。


「準一! 真美に手を出したな!」


一等海士の涙目の怒声。「出してませんよ」準一は静かに答えながらたこ焼きを一つ食べる。


「お兄ちゃん! 朝倉さんはお兄ちゃんがどこに居るか聞いて答えてくれてたの!」

「信じられるかぁッ! 準一! 手前は黒だ! 真美を嫁にする気だな!」


このシスコンは話を聞いていない。仕方ない。準一は言うと結衣の肩にたこ焼きを持っていない右手を回す。突然の事に結衣は「ふぇッ!?」と驚きの声を漏らしながら頬を赤らめる。


「相原さん。言っておきますが俺の嫁は結衣です」


かなり真顔で準一が言うと、ボンと音が出そうなくらい結衣は顔を真っ赤にさせる。


「わあ」

「なんと」


驚く相原兄妹だが、アンタらも結構凄い事言ってるからな。


「よ、嫁・・お嫁さん。兄貴のお嫁さん」


真っ赤になった両頬を掌で抑えながら、表情を緩ませた顔を左右に振って喜んでいる。それを見て「弁解が大変そうだ」と準一はため息を吐く。


「に、兄さん! 今のはどういう事ですか!」


おっと、まさか、と準一が思った。声の主はカノン。まずい、厄介な事に。義妹の参戦は想定外だった。


「兄さんのお嫁さんは私の筈です!」


左手を胸に当て言うカノン。いつ決まったんだろうな。それ。と準一が思っていると「えへへー」と表情の緩んだ結衣は準一に抱き着く。


「うぅ・・・最近兄さん結衣にばっかり構ってます」


悔しそうな顔のカノンに言われ「そ、そうか?」と準一は聞き返す。


「そうですよ! 私やエルシュタが抱き着いても、やめなさいってすぐに離すのに結衣にはそういう事しないじゃないですか! 兄さん最近、結衣にやたら甘すぎです!」


とうとう涙目になったカノンは、準一にビシッと左の人差し指を指す。


「そうだったのか・・・ごめんなカノン」


ちゃんと3人平等に対応していた、と思っていた準一だったがここまで言われると申し訳なさそうに謝る。


「本当にごめん、と思ってます?」

「思ってる」

「じゃあ」と言うとカノンは準一の正面に勢いよく抱き着き、その衝撃で準一はたこ焼きを落としそうになる。


「準一。悪かった。俺はお前を誤解していた」


一等海士は準一の肩をポンと叩くと「お前、最高だぜ!」と白い歯をキラリと輝かせる。


あんたの所為でこうなったんだ。とりあえず早く退散してくれ。と準一が心の中で思っていると「お兄ちゃん。仕事してたんじゃないの?」と真美に言われ思い出した様に駆けて行く。

真美もそれに着いてゆく。やっと行ったか。と準一は安堵し、妹2人に抱き着かれた現状をどうするか。を考えとりあえず続きは碧武に帰ってから、と言うと2人は納得。どうにか切り抜けた。




数時間経った頃、フェニックスはイランに入った。アフガニスタンではイスラエル空軍の待ち受けがあったが、イランはそんな事は無くすんなり通行できる。


そして、フェニックスにイラン政府から現在のイラクの画像送信と状況報告の知らせが入る。イラク内の反乱軍対空陣地は、結構な数が増えており、イランを越え、イラクの国境を過ぎた直ぐ先にまず1つめがある。配備されているのはペトリオット数基、使用する迎撃用対空ミサイルは高機動、長射程な高性能ミサイル。


そして迎撃用ベクター。


迎撃用ベクターは、ロシア軍が空母に艦載している対空迎撃用の物で最新のひとつ前の機である。ロシアの重工企業ヘルハット社の機で、名はウィルスクワ。装備は、ショルダーアーマー内の対空誘導ミサイル。CIWSを流用した両腕の40mm対空銃。高い迎撃能力を誇るが、あくまで迎撃機というポジションの為飛翔能力は無い。だが、地上でなら高い機動力を誇る。


この対空陣地は、必ず脅威になる為、確実に潰しておかなければならない。本来なら、大和の4式弾を使用しての艦砲射撃、ミサイル攻撃で制圧攻撃を行うべきなのだが、今回効率を無視し、わざわざベクターを使用する理由は、実戦での腕慣らしがメインである。


「では、各員の役割を説明する」


イラク内の説明を終えると、機内に同行した戦術士の人間がブリーフィングルーム内で説明を開始する。ルームには準一、カノン、結衣、揖宿、エディ、綾乃が居る。代理は大和に移動している。


「まず、朝倉準一。君は直接的戦闘には加えない」


戦術士はまず準一に言う。準一は別に疑問には思わなかった。自分は、あくまでこの作戦の要である。対魔術師戦の。


「朝倉準一、朝倉カノン、君等2人はフェニックス主翼にて、狙撃支援」

「了解」


と真顔で準一、カノンは言う。


「揖宿洋介、エディ・マーキス、朝倉結衣、西紀綾乃の4人は先遣ミサイル着弾と同時、降下し奇襲。陣地内の勢力をすべて無力化しろ」


了解、と結衣以外の3人は返事をする。結衣は少し震えている。無理もない、初の実戦だ。隣に座っていた綾乃、カノンが結衣の手を握り落ち着かせる。


「国境を越えた時点で確実にミサイルが飛んでくる。その迎撃を合図にフェニックス下部の発進用カタパルトデッキが開く。その後すぐにフェニックス、大和からミサイルが発射される。発進前、フェニックスの急な角度転換もありえる、備えておけ」


戦術士は「以上」と付け足すとブリーフィングは終了する。あと30分と経たない内に作戦が開始される。全員は急いで格納庫へ向かう。






準一の機械魔導天使、ベクターでの戦闘能力の高さ、それをカノンや大和の数百名は知っている。近接格闘、射撃戦、狙撃戦どれも得意で、何れに於いても戦闘能力の高さを知る者は信頼している。


「兄さんが一緒に狙撃だなんて久しぶりですね」

「失敗したらフォロー宜しくな」

「ふふ。こちらの台詞です。兄さんの腕は信頼していますから、フォローお願いしますね」


微笑みながらのカノンに無言で頷くと、準一はアルぺリスの隣に立てかけてある狙撃銃に目をやる。カノンのフォカロルと同じレーザーライフルである。実戦の為、フル出力である為、射程も威力も上がっている。


準一、カノンは機に乗り込み、4人に先駆け主翼に移動する。アルぺリス、フォカロルの2機は、固定の為のアームに掴まれ、片膝を付き、狙撃体勢に入る。


「やっぱり慣れません。アルぺリスがそんなモノを構えているなんて」


言ったカノンは横目でアルぺリスを見る。左手でトリガーに指を掛け、右手でライフルを支える。純白の翼を背負った天使には似合わない。


「だな、俺もそう思ってる」


と準一が言った直後『談笑はそこまでに。ミサイルが来る』と前島の声が2人のインカムに響く。言った通り、2機のレーダーには足の速いミサイルの機影が数十基映っている。


このミサイルの迎撃は、準一、カノンの役目ではない。すぐにフェニックスから幾つも対空ミサイル、対地攻撃用ミサイルが飛ぶ、まだレールガンの射程外なのでレールガンは撃てない。向かった対空ミサイルは、幾つかを落とすも、残ったミサイルは依然としてフェニックスに向かう。そしてレールガンの射程に入り、黄色の電磁弾が幾つもミサイルに向かうがほとんど命中しない。


想定外にミサイルは高性能で、危険物を認識すると自動回避するシステムが積んであった為、電磁弾を高脅威目標と判断したミサイルは回避機動を取っている。


反乱軍如きがと前島が悪態を吐くと、大和がショックカノンをミサイルに向け連射する。青の光線はミサイルに真っ直ぐ向かい残りのミサイルをすべて落とす。初めてのショックカノンは危険かどうか判断できなかったのか。


ペトリオットに次弾が装填される前に、対空陣地を射程距離内に収め、対地攻撃用ミサイル群が着弾。


「降下部隊! 飛べ!」


指示が通り、下部カタパルトデッキから4機が発進し、地表ギリギリを高速で飛翔する。4機の飛ぶ高度は、長射程対空ミサイルの射角外。だが、ウィルスクワの対空ミサイルは有効で、4機にはすでにミサイルが幾つも向っていた。


「狙撃支援の出番だ。カノン」

「はい」


準一の声にカノンが応答すると同時、アルぺリス、フォカロルはレーザーライフルを発射し、4機に向かうミサイルをすべて落とす。ミサイルが落とされた事に気付いたウィルスクワ数機がすぐに次弾を発射しようとするが、アルぺリスの正確無比な射撃をショルダーアーマーに喰らい倒れ込む。


「流石です」とカノンは称賛しながらも負けじと対空陣地へ狙撃を開始する。ペトリオットが全て撃ち抜かれ、対空陣地は爆発の炎に巻かれるも、まだ敵はかなり残っている。


そしてウィルスクワが空からの狙撃に目を向けた瞬間、先行していた綾乃の搭乗機である椿姫改がロケット砲を構え、残存ベクターに攻撃を開始する。同時、スティラ、篤姫2機がマシンガンとブレードを手に陣地へ突入し、残存機の殲滅に掛り、漏れた機を椿姫改が、隠れて攻撃する機を上空のアルぺリス、フォカロルが攻撃、という事になっており、あっという間に対空陣地は壊滅。


「悪くないな」


壊滅確認後、準一が声を漏らす。


「やっぱり皆強いですね」


カノンも素直に思ったようだ。





「来たわ。アルぺリスに、他にも2人、魔術師が居る」


真っ黒の弓を構えたブラッドローゼンに乗ったエリーナは、真横に佇む巨大魔術兵器サジタリウスに顔を向ける。


「確認した」


サジタリウスに乗るのは、エリーナにちょくちょく関わる中年のメガネの男性、名前は劉、中国人だ。劉は一言言うと術式を組む。降り注ぐ太陽光を神の矢に変換する為の兵器。それを使用する為の術式だ。すぐに術式は組みあがり、サジタリウスの直上に巨大なオレンジの紋章が展開される。これが魔術発動の合図だ。


「すでに射程に収めている」


劉が短く言うと、オレンジの細い光が幾つも上空に上がる。光が矢に変換されフェニックスに向かったのだ。矢は一旦雲の上に上がり、目標上空から一気に降り注ぐ。


「回避機動を取って下さい!」


いち早く気づき、声を荒げる準一。前島は、フェニックスを大きく傾かせ降る矢を回避。。下にはまだ4機が居る。4機にも回避するように伝える。矢に追尾性能は無く矢と矢の間間隔が広いので、避ければそれきりだ。


矢は地表に命中し、爆発。数十メートル煙を巻き上げる。命中率は高くないのか。と準一が思った直後、。レーダーに反応。後方からベクターが地上を移動し、接近している。ユニットは付いていない。あくまで陸戦兵器。ウィルスクワ? と思ったが違う。だが同じロシア製、エルクーラ。椿姫クラスの性能を持つ高性能機。


「どういう事だ。エルクーラが出て来るとは聞いていない」


言いながら準一は、狙撃を開始。接近するエルクーラを次々に撃ち抜く。


「それは此方も想定外だ。恐らく、イランも把握していなかった事実だろう。エルクーラはここまで接近されて初めてレーダーに映った。恐らくレーダーステルスだ」


前島の言葉に「今更」と準一、カノンは思いながら狙撃を続行。下では、4機が多数のエルクーラ相手に戦っている。だが如何せん数が多い。らちがあかない。魔術師の2人は、対空陣地相手の腕慣らし気分で向かっているので、簡易魔術回路を搭載した槍を格納庫へ置いて来ている。


すぐに槍は、主翼、武装垂直射出機に載せられ、2機の元へ飛ばされる。


「カノン、お前はここに留まり狙撃を継続しろ」


準一が指示を出すとカノンは「はい!」と返事。「助かる」言うとアルぺリスは主翼を蹴り、4機の交戦するエルクーラへライフルを構え狙撃しながら降下。同時に、射出された2つの槍に追いつき、2本とも右手で掴む。


「数が多い」


舌打ちと共に声を漏らす準一はレーダーを見る。エルクーラの数はかなり多い。ステルスなので余計に厄介だ。周辺を見渡し、目視で探す。


4機と交戦する後方に、キャノンを肩に装備させたエルクーラを発見する。狙っているのは恐らくフェニックス。準一は、アルぺリスのライフルと魔導砲を後方に向け発射。レーザーと光線にエルクーラは爆発。確認し、すぐに4機の元へ向かおうと、後ろに向いた瞬間、跳躍で高度を上げたエルクーラの腕部内蔵ブレードの横一閃でライフルを切られ、伝達回路が爆発。同時、エルクーラの胸部コクピットブロックがアルぺリスの左手で貫かれる。


エルクーラは力なく落下。アルぺリスはそれを見ながら着地。同時、さっきの様に空にオレンジの光が点々と映る。気付いたフェニックスは機を傾かせ、降り注ぐオレンジの矢を回避しようとするも、後部のブースターノズルに一発喰らってしまう。ノズルが爆発音と共に破片を散らせ、煙を噴き上げる。爆発の衝撃で、機内艦内共に大きく揺れ、主翼のフォカロルも大きく揺られる。


見た準一は舌打ちしながら「先輩方!」とスティラ、篤姫(揖宿機)を呼び、2機が振り向くと同時、槍を両手で2機に向かって投擲。2機は周辺のエルクーラをガトリング、ミサイル、カノン砲で薙ぎ払い槍を受け取る。


「綾乃、結衣。今すぐフェニックスに戻れ」


槍の受け渡し確認後、魔術攻撃による巻き添えを心配した準一が言うと綾乃は「分かった」と言って射撃しながら上昇を開始するが、結衣から応答がない。


機体反応はある。レーダーに映っている。


「兄さん! 結衣の篤姫が!」


焦るカノンの声に準一は、前方に転回するエルクーラに突っ込み、ブレードで次々に切り裂き、取り残しはカノンが撃ち抜く。すぐにエルクーラに抱えられ、今まさに鹵獲されようとしている結衣の篤姫を発見する。篤姫は胸部のフレームが歪んでいる。再度呼びかけるも結衣からの応答は無い。恐らく気絶している。


その光景を確認した準一は、一瞬で目の色を変え周囲に群がる敵を全て切り裂く。そして、篤姫を抱えたエルクーラを掴み、無理やり引き寄せ胸部に腕を押し込み、コクピットを潰す。そしてすぐ、篤姫をお姫様抱っこしフェニックス格納庫内まで運ぶ。


「久しぶりに、思い切り魔術が使える」


味方機がすべて上った時、言ったエディは、エルクーラの射撃を回避しながら術式を組む。重戦術級魔術師と呼ばれるだけの、強力な魔術。術式の組み上がりと同時、スティラが槍を右から左に振るう。するとその軌跡から深紅のの波動にも似た波が、エルクーラ群に向かう。


波はエルクーラ群に突っ込み真っ直ぐ進みながら、進行ルート上の機を次々と切断してゆく。エディが次の攻撃を仕掛けようとすると、エルクーラが真横に肉迫している。だが、エディは想定内の事態に慌てる事無く、肉迫するエルクーラとスティラとの間に、深紅の壁を形成する。


エルクーラはそれに突っ込み自滅。


「腕慣らしはここまでだ」とエディが言うと、スティラの足元に紋章が展開。すぐに周辺の敵機の足元から深紅の柱が上がり、周辺機は柱に貫かれ悪ければパイロット死亡、良くて戦闘不能という状況に陥る。


どれだけ高性能な機でも、地上に居る限り、エディの攻撃魔術は命中する。あくまで地上の目標への攻撃がメイン。だがこの魔術は、本来人間が使うものであって、魔術回路で大きくするモノでは無い上に、威力の高さから、作戦行動中使用制限が掛けられている重戦術魔術だ。その為、エディはわざわざ腕慣らしを行ったのだ。


エディは、他にも残っている敵に目を向ける。それに準一はアルぺリスでの支援を開始しようとした直後、大和右舷の対空砲の並ぶそこを、緋色の閃光が駆け抜ける。


「右舷、対空砲被弾!」


大和CIC内で被害箇所報告が始まると同時、大和の右舷対空砲の幾つかが爆発する。


先ほどの攻撃とは全く違う。と準一が思った直後、2射目が来る。視界に入った2射目は完全にアルぺリスを狙っている。まずい。思った直後、アルぺリスの紋章盾を作るが、ガラスの様に簡単に割られるも、閃光は盾にぶつかった衝撃で上に向いたので直撃は避けられた。


3射目はまずい。確実に命中する。準一は、アルぺリスをフェニックスから飛び立たせ、雲の上まで上がる。すると、さっきの様に緋色の閃光がかすめる。すぐにその場所を離れ、閃光の飛んで来た場所へ向かう。


同じタイミングで揖宿は術式が組み終わった。周辺に群がるエルクーラは、弾を撃ちつくし近接武器に変えている。揖宿は、篤姫にブレードを構えさせ手前の一機に切っ先を向ける。


「潰せ」


揖宿の言葉の後、手前の機に突如として飛来した巨大な柱が命中し、潰れる。腕慣らしはこのようなもので良い。と揖宿は思うと、狙いを周辺の全機に変え、すぐにその全機に数百を越える柱が突き刺さり行動不能になる。


揖宿の魔法は、物体を自在に操る事の出来る魔法に似ているが、独自の魔法だ。操れるものは、この柱だけと決まっている。数にもある程度の制限がある。だが、空母や戦艦の装甲も易々と貫通し、数の範疇なら降り注がせる事が可能な為、かなり強い。これが、この魔術の重戦術級たる所以だ。


墓石の構築者。彼はそう呼ばれている。


すぐに、エディ、揖宿は残存勢力掃討に移る。




その場所へ着いた準一は、奥のサジタリウスとブラッドローゼンと黒い弓に閃光がセットされる瞬間を見た。ブラッドローゼンは、アルペリスに気づくと同時に弓を引き、閃光を発射するも簡単に避けられ、ブラッドローゼンは顔面に回し蹴りを喰らい、弓を落としてしまう。落とした弓をアルぺリスは両手に持ったブレードで切り裂き、使用不能にすると、蹴りの衝撃で体勢を崩したブラッドローゼンに魔導砲を2発撃つ。


ブラッドローゼンは紋章盾を形成し、防ぐが2発目は出力が高く盾を打ち破り肩へ命中し、装甲を剥ぎ取られる。だが、それにはひるまず、すぐに着地、アルぺリスもブラッドローゼンの前に着地。


準一は大体の見当は付いていた。恐らく、あの赤い機体の操縦者はエリーナだ。と。だから、すぐにケリを付けたかった。


『準一』


小さな呼びかけに「エリーナか」と準一は応答。やはり、ここまでされて『敵』という明白な感情は持てなかった。どうしてだ。準一は思った。だが、それはエリーナも同じで敵、という感触が持てず困惑している。


とは言っても、先ほどの魔法弓を使用しての攻撃はちゃんとアルぺリス、準一を殺す為に放ったモノだ。


『サジタリウスはまだアナタを狙わない。目標はあの飛行機と大和』


分かっている。思いながら準一は魔術を発動させる。加速魔術だ。硬化魔術も発動したい所ではあったが、同時使用は身体への負担が大きい。戦場で伸びる訳にはいかないので同時使用は憚られた。


来る。エリーナが思った瞬間、ブラッドローゼンの右腕は切り裂かれ、アルぺリスに真後ろから蹴り飛ばされ、数十メートルを転がった。これが、加速魔術。エリーナは初めてのそれを理解し、対抗する。


ブラッドローゼン、名前に血、と入っている。ブラッドローゼンには特殊能力があり、操縦者が機体に血を与えると加速魔術と同等の速度や諸々が手に入る。すぐにエリーナは実行する。首筋に紋章が小さく浮かび、血を吸われる。その際の激痛で「っ」と声を出すもほんの数秒で終わる。


黄色に光っていたブラッドローゼンの目が、ピンクに輝き始め、起き上がる。準一がその異変に気付き、ブレードを構え、魔導砲を向けると同時、ブラッドローゼンの加速魔術を使用した時と同等の速度で跳躍し、アルぺリスに接近すると同時、後ろ回し蹴りを繰り出す。


アルぺリスは、咄嗟の事だったが右腕でそれを防ぐとすぐに左のブレードを振るう。ブラッドローゼンはアルぺリスに向き、ブレードの刀身を腕で流すと膝蹴りを腹部に叩き込み、そのまま回し蹴りでアルぺリスを殴り飛ばす。


砂漠を転がり、砂埃を立て起き上がりと同時、ブレードを顔の前で交差させ、跳躍で接近しブレードをブラッドローゼン目がけて振るう。ブラッドローゼンは大剣を構え、防ごうとするも、準一が硬化魔術を発動させたため簡単に大検は折られ、次に繰り出された攻撃で頭部を弾かれ、ブラッドローゼンは倒れ込む。


そこにアルぺリスはすかさず魔導砲を撃ち込み、魔術回路を破壊する。


「終わりだ。エリーナ」


ブラッドローゼンのコクピットにブレードの切っ先を向け準一は言った。ただでさえ、負担のかかる加速魔法に硬化魔法の使用で息切れしている。一時は魔術を使用できないな。


だが、エリーナからの返事は来ず、ただ彼女のうめき声の様なモノだけが聞こえている。何がどうなっているのか分からず、準一が奥のサジタリウスを見ると空に何かを撃ちあげた。


さっきの奴か、と準一は思い撃ち上げが終わった時、一緒にエリーナのうめき声も消えまさか。と思いながらブラッドローゼンを抱きかかえ空から降り注ぐ神の矢を回避。そして、かなり距離はあるがサジタリウスを睨みながら1つの可能性を考えた。彼女は、実験成功体では。と。だが、それどころではない、と準一が思うとブラッドローゼンは薔薇の花びらになり消える。


その直後、サジタリウスに巡航ミサイル数十発が命中。大きな爆発の煙にサジタリウスの姿が隠れる。今のミサイル、フェニックス、大和か。と準一が振り返るとフェニックスが近づいて来ていたが次の瞬間には矢を数発喰らい、喰らった箇所が爆発する。


あれ以上は持たない。フェニックスの被弾状況から思った準一は、アルぺリスをサジタリウスに突っ込ませようとするも、降り注ぐ矢に進行を阻害されるので上空へ逃げようとすると、サジタリウスの巨大な腕部が横に振るわれ、殴り飛ばされる。


魔術が使用できないので、加速も硬化も出来ない。衝撃に揺られ準一は歯を食いしばりながら、こけない様に着地する。そして、たった一撃でアルぺリスの胸部に亀裂が入っているのを見つけ、気付く。


ずっと魔術兵器と思っていたあれは、ただの魔術兵器ではない。


「神の武器か」


気付いた準一は顔に笑みを浮かべ、魔術ではない術式を組み上げる。




消えたブラッドローゼンは、基地の最深部睡眠用のカプセルのある区画に居た。コクピットから抜け出したエリーナは力なくその場にへたり込む。そんなエリーナにエルシュタは寄る。


「つらいの?」

「力を吸われているみたい」


エルシュタの問いに答えたエリーナは、死ぬのではないかと思うほど力なく答える。準一の察した通り彼女は、堕天使ではある。神の兵器、それに吸収される魔力は半端ではない。


「ここまでされて、どうして教団に着くの」


理解できない。エルシュタの顔からそんな言葉が滲み出ている。


「私は・・・ッ」


何か言おうとした様だが、エリーナは言葉を紡ぐ前に気を失った。また、力を吸われているのか。




『アルぺリス、例え貴様がどのように強かろうとも、この神の兵器からは逃れられんぞ』


劉の言葉は、聞こえていた。そして神の兵器、と確信し準一は勝利の笑みを浮かべる。アルぺリスの真上には、多数のオレンジの光。見た全員が喰らった、と思った瞬間、アルぺリスの頭上に黒に紫の瘴気を纏った紋章が展開され、オレンジの矢は全てその紋章に呑まれる。


命中を確信していた劉は目を見開き、大きく動揺した。何が起こった? 消えた? いや呑みこまれた。理解がここまで追いついた時、アルぺリスの右手がサジタリウスに向けられる。


何をするきだ。警戒する劉は、別に装備されたガトリング砲を斉射する。周囲の砂が巻き上げられ、アルぺリスの姿が隠れ見えなくなった時、煙の中から蛇の様に細い黒の瘴気が飛び出し、サジタリウスの巨大な腕に巻き付き、切断。そのまま、瘴気は内部の太陽光を神の矢に変える魔術兵器をも破壊。サジタリウスの腹部にあたる部分がオレンジの炎を爆発させる。


今はまだ日が昇っている。これでサジタリウスは日中最大の攻撃方法を失い、劉は恐怖した。神の兵器をいとも簡単に潰したアルぺリスである。


『貴様! 何をした!』


この状況に劉は冷静さを欠いた様な声を出す。アルぺリスの周囲の煙が晴れる。準一はただ笑みを浮かべ、アルぺリスの右手を下す。


「全てを教えるつもりはない。ま、これでアンタ等は勝利する事は敵わなくなった。最大の攻撃法を失ったわけだ。・・・だが、最後に教えてやろう。俺が使ったのは神殺しの力だ」


余裕な準一の声を聴いた劉は『貴様! まさか』とまで言うが、次の瞬間には魔導砲より発射された黒の瘴気にコクピットを撃ち抜かれ、サジタリウス自体が爆発し最後まで言えぬまま、劉は気を失う。


全てを見ていた大和、フェニックス。その大和CICに居て今のいままで黙っていた代理が『準一君。戻ったら休憩無しで艦長室に来て。事情聴取よ』とだけ言うと通信を切る。


準一が、拒否も了承もせぬまま切ったあたり、代理はかなりマジだ。ため息を吐き準一は、発動していた神殺しを解き、本来の目的に戻る。


エルシュタの奪還だ。


そして、ほぼサジタリウスが沈黙すると同時、エディ、揖宿は残存勢力掃討に成功し、対空陣地もすべて潰した。


アルぺリスが基地上空に着くと、フェニックス、大和より発射された対地攻撃用ミサイル数十発が命中。砂漠に基地内部が露呈し、そこに魔導砲を数発撃ちこみ道を作る。エルシュタがどこに居るかは分からいので、アルぺリスを基地に無理やり着陸させ、準一は両手に剣を持ち基地へ降りると、白兵での捜索を開始する。



準一が捜索を開始したころ、フェニックスの医務室に結衣は居た。先の戦闘で頭を強打し、気を失っていた結衣はベッドに寝かされていた。そんな結衣が目を覚ました時、カノン、綾乃がそばに居た。


「結衣! 良かった・・・無事だったのね」

「もう! 心配したんだから」


良かった、と安堵する綾乃。だが対照的にカノンは半泣きだった。兄を巡る恋敵ではあっても、結衣の事が大好きなカノンは、結衣が運ばれた時真っ青になっていた。


「・・・あの」


声を出した結衣は上半身を起こす。何だか寝ぼけているみたいだ。


「お兄ちゃんは?」


どうやら本当に寝ぼけているみたいだ。カノンと綾乃はお互いに向き頬を抓る。


おっと、寝ぼけてないぞ。2人は「ははは、やだなもー」と言いながら結衣に向き「もう一回言って?」と笑顔で聞く。


「あの・・・あたしのお兄ちゃんは?」


再度2人は冷静に結衣の言葉を聞く。何だか幼くなっているように感じ、少し不安になる。まさか、1つの可能性を考える。


「結衣・・・お兄ちゃんって準一の事?」


綾乃の言葉に結衣はコクリと頷く。


「結衣・・・いつも兄貴って呼んでなかった?」


カノンの言葉に「?」と疑問を浮かべ首を傾げ「お兄ちゃんだよ?」と2人に言う。


「ここがどこだか分かる?」


2人は身を乗り出し、結衣に聞く。


「フェニックスの中じゃないの?」


結衣はそれに答えた。どういう事だ。2人の中では記憶喪失的な事になっているのではないか、と思っていた。だがどうやら違うらしい。フェニックスの事は覚えている。


「あ・・・そういえばエルシュタも居ない」


医務室を見渡し結衣は言うと「あ、分かった!」と何かに気付く。


「お兄ちゃん。エルシュタに浮気してるんだ」


言った結衣は頬をプクッと膨らませ、足をパタパタと上下に動かしている。駄々を捏ねているのかすねているのか・・。


「・・・ねぇカノン」

「綾乃、どうしたの?」


静かな声の綾乃にカノンが向く。


「可愛い、って思ったら負けかしら?」


何とも真剣な顔の綾乃は、今にも結衣に抱き着きそうだ。


「綾乃・・私も可愛いって思った」


カノンの言葉に両者は意見一致「結衣ー!」と名前を呼びながら飛び付く。


「ふぇッ!?」


突然の事に結衣は困惑。だが、そんな事お構いなしに2人は結衣にモフモフした。




基地の中を駆け回る準一は、日本海の洋上基地で見たのと同じ部屋を見つける。扉の装飾も一緒、エルシュタを発見したカプセルのある部屋だ。何か、確信に似たそれを感じ、準一は部屋に入った。そこはかなり広い。ブラッドローゼンが力なく倒れ、エルシュタが居た。


「エルシュタ」


準一が名前を呼ぶと「準一!」とエルシュタは笑みを浮かべた。別に抱き着いたりはしていない。ここって怖かったー。とか言いながら抱き着くのがセオリーじゃないですか? 準一は少し馬鹿な事を考えながら、剣を仕舞いエルシュタに歩み寄り、彼女の膝で気を失った少女に気付く。


「エリーナ」


エリーナの前で膝を着く。名前を呼んだ事に意味は無い。ただ、準一は無意識に呼んだだけだ。問題は彼女をどうするかだ。いや、やるべき事は決まっている。準一は懐から拳銃を取り出し、彼女の額に銃口を突き付ける。


「準一!」


エルシュタは止めて。と言いたげな目を準一に向ける。横目でエルシュタを見た準一は「はぁ」とため息を吐くと懐に拳銃を仕舞う。


はなから殺す気は無かったわけでは無かったが、こんな目で見られては準一の人間性が働いてしまう。


「取りあえずフェニックスに連れて行こう。尋問するとか言えば簡単だ」


尋問、と聞こえは悪いが準一はその様な事はしない。


「何かって優しいんだね。準一って」


「んな事ないよ」


少し笑みを作った準一は、エリーナをお姫様抱っこしエルシュタが準一の背中に飛び付く。子泣きジジイか貴様は。準一は思いながら部屋を後にすると同時、ブラッドローゼンは薔薇の花びらになり消える。


急ぎ、準一はアルぺリスに戻り、フェニックスに戻りながらサジタリウスに目を向けると、揖宿、エディがコクピットから劉を引きずり出していた。


幾らか情報は引き出せそうだな。



その後、露呈した基地内部への大和艦砲射撃が開始され、物の数分で周辺の地面が陥没した。これにより、中東支部は無くなった。




フェニックスへ戻った準一を待ち構えていたのは、謎の栄養ドリンクを持った代理だった。すぐに代理に連れられ機長室へ連行される。


「さ、帰って早々で悪いけど・・・疲れてない?」


機長室に入るなり、代理は長椅子に静かに座り栄養素ドリンクを手渡す。(現在、機長室には代理と準一の2人しかいない。部屋の主は戦火報告なんかに追われている)


「どうも」


その怪しい液体に警戒しながらも、準一は受け取ると一気に飲む。


「じゃ、今から言うあたしの質問には絶対に答えてね」と言う代理の口ぶりから、どうやら自白強要剤が入っていたらしい。


「はい・・・と言うと思いましたか?」


一瞬期待した代理に準一は呆れ気味の表情を向ける。


「ねぇ、自白強要剤入ってたんだよ?」


やっぱそうか。変な味がしたもんな。準一は本当に呆れため息を吐く。


「かなり強力な自白剤でしたよね。俺じゃなかったら効果が切れた後半狂乱になりますよ」

「そんなモノを飲んでどうして平然としてるの?」


代理も同じように準一の規格外さに呆れていた。飲んで効果が切れた頃、一般人は半狂乱になり無意識に暴れまわり、その時の記憶を失う。それを飲んで平然としている。


準一に自白剤を飲ませたのは、代理が準一の話す事を完全には信用していないからだ。確実に不必要な部分は濁すか話さない。


「で、俺に聞きたいことがあるのでは?」

「・・・ま、いいか」


準一が聞くと、代理はため息と共に質問する。


「敵の巨大兵器。いや巨大魔術兵器だね。あれの攻撃、フェニックスには効いたわ。なのにアルぺリスは攻撃が命中するどころが、それを呑みこんだ。どういう事か説明、してくれるよね?」

「・・・いいですよ。説明します」


言うと準一は説明を始める。この情報は別に漏らしても構わない。何れバレるのだから。


「あの巨大魔術兵器、エルシュタに聞くとあれは神の兵器で太陽の光、月の光を攻撃性を持つ矢に変換する魔導兵器らしく、俺のアルぺリスに攻撃が通用しなかったのは『神殺し』を発動させたからです」


当然代理は『神殺し』に質問する。


「『神殺し』はあくまで神の名を冠する兵器に有効な・・・そうですね魔術とは違います。呪術の様なモノですかね」


準一自身、その力を理解していない。だから説明は曖昧なモノになってしまっている。実際、この力は呪術なのか魔術なのかもはっきりしていない。ただ、神の名を冠する兵器に有効な手段、というだけである。


「曖昧な説明だね」


代理は納得いかない、と言いたげに「ムスッ」とする。


「・・・あのさ、これも聞いておきたいんだけれど」


言った代理の顔は真剣な顔で、聞かれた準一も真剣な顔になる。恐らく、聞いてくるのはエリーナの事だろう。


「エリーナって子の事なんだけどね」


やっぱりか。


「君はさ、あの子をどうするつもりなの? エルシュタちゃんやカノンちゃんとは違う。あの子は敵よ? 言葉の通り、此方に弓引いた存在よ。どうやって口説いたのかは知らないけど、君のその選択が更に危険を齎すかもしれないのよ? ねぇ、どうして殺さなかったの? 普通のあなただったら確実に殺していた筈なのに」


いつものふざけた調子は微塵もない。ただ、真剣に準一の発する答えを待っている。だが、代理の言う事は本当の事だ。普段の準一なら、敵と断定したら確実に殺していた。


「俺は一応心がある人間ですよ?」

「それは分かってるよ。でもさ、優しすぎるのはどうかと思うよ。優しさっていうのは人間の強さであり弱さ。敵に付け入る事も出来れば、付け入られる事もある」


言うと、代理は目を細める。


「それは理解しています・・・では」準一は言うと長椅子から立ち上がり「一応、エリーナの所に行ってきます」とだけ言うと機長室から静かに出る。


ちなみに代理には「捕虜なら問題無いですよね?」と話を付けた。


するとすぐに機内放送が流れ準一は急ぎ、尋問室に呼ばれる。




同時刻、尋問室ではエリーナは女性尋問官に囲まれる中目を覚ました。尋問官はすぐに尋問を開始しようとするが、エリーナは不安そうな顔で周囲を見渡し始めたため「どうしたの?」と聞いた所。


半狂乱になり準一とエルシュタの名前を叫び始めた。




尋問室に着いた準一は驚愕した。頭を両手で押さえ準一とエルシュタの名前を呼ぶ半狂乱のエリーナの豹変ぶりに驚きながらも入室する。


するとエリーナは安心したように落ち着き、準一の後ろに隠れる。どういう事かは尋問官は分からない。だが、準一は恐らく、での段階ではあったが察しは付いていた。過去にこれに似たモノを見た。


この半狂乱は、感情の基盤にも似たモノが傷ついた場合起こるモノらしい。つまりは、現在エリーナの感情の基盤が傷ついているという事。前も同じように対象となる実験体を連れ帰った時こうなった。原理や理屈は分からない、だが連れ帰る事がトリガーになっているのか。


しかし、極端すぎる。これでは極度な対人恐怖症だ。前も同じだったが。



「エリーナ」


準一が背中のエリーナに目をやり、名前を呼ぶとエリーナは「何?」と準一の顔を見上げる。その表情は何とも不安そうではあったが、さっきよりは安心しきっている。


「大丈夫か?」

「分からない」


準一の問いに、エリーナは俯く。


そりゃ分からないよな。準一は「はぁ」とため息を吐く。それに尋問官は「ウチらどうすりゃいいんだ? え?」と準一に視線を向ける。仕事を奪われ、怒気にも似た視線を送る尋問官の視線に準一は少し畏縮する。


「後は俺が面倒見ます」


準一が言うと、尋問官はその場を去る。入れ違いにエルシュタが入室する。するとエリーナはエルシュタに飛び付き、エルシュタがエリーナの頭を撫でる。エリーナは、準一と近しい年齢で、身長も近いのでエルシュタよりもお姉さんなのだが、抱き着き、頭を撫でられている辺りエルシュタの方が年上に見え、準一は苦笑いする。


そしてすぐに九条に呼ばれ、大和に向かった。新たな任務が言い渡され、豹変した結衣にひっきりなしに抱き着かれ、あらゆる機内、艦内端末に本郷から『ヤンデレ気味になってみました』と電話が入り、準一はゲッソリしたらしい。


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