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カノン・ローレイン⑧

 民間人は避難を始めていたとはいえ、被害はゼロではない。逃げ遅れた人間はドラゴンの攻撃で破壊された家屋の下敷きになったりと、基地の方では折角運び込んだミサイル設備やそれを納めていた格納庫、それに破壊されたベクターや基地設備など、それらの救助、被害状況確認をベリーニュ基地部隊と日本部隊が行っていた。


 その一方でロランドはフェニックスの方から歩いてきた九条を見て頭を抱えるのだった。


「随分やられましたな」と、九条は言いながらロランドの隣に立つ。こちらに向かう途中で確認した四足、サントールの機影の事を九条は話してはいなかった。何もないと踏んでいたのだが、こうなっては申し訳なくあるが、それを今言ってどうこうなるものではない。


「そちらが連れて来たわけじゃないんですが……はぁ、一応は基地からそちらへ応援を頼んだ事にしてあります。それでそちらの機械魔導天使が暴れた事もどうにかなるかと」

「使うな、と言われていたんで助かります。おかげでフランス政府から文句言われる事も無さそうです」

「それはいいんですが……説明、していただけるんでしょうな」


 九条の隣のロランドは煙草を咥え、目を向ける。「助けてもらったとはいえこちらの領土で戦ったのですから」


「それは勿論……と言いたいところですが、こちらも知らない事が多いんです。ただ機械魔導天使が二機、それに量産タイプ、狙いはこの町に眠っていた機械魔導天使との事です」

「しかし今の今までその機械魔導天使を狙って敵なんて来ませんでしたよ」

「色々と気になるところが多いんですよ。四足の敵とドラゴンは少し前に我が部隊の者が中東で交戦しています。そちらの看護軍曹も。その際敵はベクター兵器を無効化する魔法を使っているんです」

「それを我が基地襲撃の際に使用しなかった……その敵魔術師が戦いたくて使わなかったとか?」


 さぁ、と九条はライターを取り出しロランドの煙草に火をつける。


「その辺りは敵に聞かねばわかりません。……機械魔導天使に関してですが、知っていたのなら政府は何か対処を行わなかったのですか?」

「発見してからは一応調査の為に魔術師を派遣してきましたよ」

「フランスの?」

「いいえ、アメリカからの者です」

「フランスは発見した機械魔導天使を戦力に組み込もうとは思わなかったんですか?」

「魔女裁判や色々ありましたから……それに政府は対ロシアに力を注いでいますからね」


 魔術は必要がないわけだ。いいや、入る余地が無いというべきか。それに頷いた九条は「さて、懸念は兄と義妹かな」と、ロランドは「は?」とわからず首をかしげるのだった。






 シートを被せられ姿を隠されたアルぺリスの足元の朝倉準一に近づいたフランセットは、姿を隠された天使を見上げた。


「作業は?」


 聞かれたフランセットは「交代してきたんだ」と。


「それより、助かった。ありがとう、大尉」


 ああ、と頷いた準一だったがフランセットの言葉が心からの謝罪でない事はわかる。それよりも、早く何かを聞きたそうにしている。


「俺に何か言いたいんじゃないのか、カノンの事とか」

「答えてくれるのなら聞かせてもらう。……大尉、姉さんの記憶の事だ。戻る事はあるのか?」

「君の姉さんが実験に使われたのは聞いたか?」

「ああ、そちらの代理から一通り」


 そうか、準一は続ける。「実験の過程で君の姉さんは記憶を消されている。家族との記憶があった個所に実験での記憶が入り、全て入れ替わった状態なんだ」


「つまり、戻らないと」

「そうだ」


 無言でフランセットは自分の袖をギュッと握る。


「だが断片的には残っているかもしれない。名前は憶えていたわけだしな」

「そうか……」


 少しの間をおいて、フランセットは口を開く。


「あの化け物との戦闘、姉さんは椿姫で参戦した。正直、基地の誰よりも強かったし物怖じもしていなかった……姉さんは戦場に立っていたのか」

「君の姉さんはベクターでのIMFとの適応値が高かった。それに単純な運動能力なども戦いに十分だった。だから国の命令で俺が彼女にベクターでの戦闘を教えた」

「淡々と話すのだな……」

「隠す事じゃないからな」


 そう言った準一に目を向けたフランセット。「しかし納得したよ。あなたに戦いを教わっていたのなら強いはずだ」言ったフランセットは「作業に戻る」そう言って、戻って行った。





 各作業が進められる中、休憩に入った綾乃は機体を降り、マリアから受け取った紅茶パックを飲み干すとベンチで休憩していたカノンに気づき隣に腰を下ろした。


「休憩中?」

「綾乃……うん」


 そっか、と綾乃は準一との会話を終え作業に戻って行くフランセットとカノンを交互に見る。「ねぇ、あの人とカノンがそっくりなのってさ、カノンがフランスに居た事と何か関係があったりする?」


「うん……私、あの人のお姉さんみたいなの」

「え? ほんとに?」


 頷いてカノンは背もたれにもたれかかる。


「その姉妹だったって、いつ分かったの?」

「つい最近。それで休みをもらってこっちに来て、選べって言われてたの。日本か、フランスか」

「カノンは結構裏事情知ってるから、上は絶対に手放さないって思ったんだけどね」


 私もそう思った、とカノンは綾乃に笑う。


「で、カノンはどうする気だったの? 日本とフランス」

「日本だよ。……ただ、急に本当の家族だって言われて混乱してたし、それに本当の家族がどんな人たちか気にはなったの」

「会ってみてもフランスってならなかったの?」

「確かに揺らぎそうにはなったけど……結局、魔術師なんかとは関係の無いところでも関わっちゃう事になったから、普通は無理なんだなって」


 綾乃は黙ってカノンの言葉を聞く。


「それに、兄さんのパートナーは私じゃなきゃ務まらないから」

「はぁー流石筋金入りのお兄ちゃん子」


 呆れ笑いの綾乃に笑顔を返したカノンは「さて」と立ち上がる。「それじゃ兄さんにラブコールしてくるね」そう言って準一の元へと走るのだった。






 アルぺリスの召喚を解いた準一がフェニックスから出した椿姫で作業に向かおうとしていたところにカノンが来、「作業に行くんですか?」と声をかける。


「ああ。それにしてもこんなところで戦闘に巻き込まれるなんてな」

「兄さんの巻き込まれ体質が移ったんですよ」

「そうか……フランス、どんな感じだ?」

「とても優しくていい人たちです」


 答えたカノンは準一に一歩詰め寄る。「でも、今の私は兄さん一筋ですから」ニコッと言うカノンだが、準一はあきれ気味に苦笑いだ。


「ここでフランスを選んでおけば、普通の家族の時間を取り戻せるかもしれないんだぞ」

「前に言ったじゃないですか、私の人生は兄さんに捧げたって。私がフランスに来たのは気になったからです。本当の家族がどんな人かって、まぁ確かに揺らぎはしましたけど」

「俺が残れって言ったら?」

「何を言われようと、私は地獄の底まであなたに着いて行きます」


 カノンがたまに見せる人の話を聞かない顔、その顔を知っている準一は残れ、と言うのを諦め「それじゃ」と腕に抱き着いてきた彼女に言うのだった。


「バカ」


 と。


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