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カノン・ローレイン⑥

 対策? と聞き返したのはミゼルに乗るマリア、オンになった火器管制を示すサブモニターを一瞥した後、少し離れたとこに立つ悪鬼にメインカメラを向けると、サブモニターに綾乃の顔が映る。「対策って何の対策なの?」


 それは、と綾乃は操縦桿から手を離しシートにもたれかかり、サブモニターのマリアに目を向ける。「ユニオン構想、それへの対策だよ」


「ユニオン……確かロシアや中国による構想だったかしら」

「そうそう、それ。……EU圏はユニオン構想に対抗するための処置を考えてはいるみたいだけど、EUの中にも中露に賛同する人も多いみたいでね」

「成程、日本はそれの手助けをするわけね」

「と言っても、アメリカの防衛用のミサイル装備を日本が運んだ形なんだけどね」


 ふーん、と言ったマリアはシートの下ボックスを開け、パック紅茶を取り出しストローを刺す。「でもそんな邪魔な物を運ぶのに、よく中国はフェニックスを通したわよね。自分たちの空を」


「中国からすれば反日軍っていう別戦力がある以上、表立って日本の行動に反発しないよ。って、あーいいな……紅茶飲んでる」

「持ち込めばよかったじゃない」

「忘れてたのー」

「まったく」


 あきれ気味の息を吐いたマリアは、機体を悪鬼の前に移動させハッチを開けると未開封のパック紅茶を手に、身を乗り出す。「ちょっと、ハッチを開けなさい」それに答えた綾乃は悪鬼のハッチを開け、身を乗り出すとマリアから投げられたパックを受け取る。


「ありがと! ごめんねわざわざ」

「いいわよ」


 二人はシートに戻りハッチを閉鎖、ミゼルは元の位置へ。そこに通信、フェニックスから。『三機のベクターがこちらに接近してきている。警戒を』

 紅茶を飲む暇がないか、と呟いた綾乃はライフルを背中のラックから外し手に。マリアもミゼルにアサルトライフルを。


「敵じゃないとは思うけど」

「フランスの部隊かしら」


 直後、ロックオン警報。二人はすぐに飛行ユニットを全開にさせ上昇、左右に分かれる。『対空戦闘用意!』前島の声、フェニックスの武装が対空戦闘状態へ。


「どうするの? 落とすの?」

「まだ撃ってきてない。意図を確かめないと」

「悠長ね」


 マリア、綾乃の機体は接近中の機体を確認。ラファエル。アサルトライフルにシールド。おそらく腕部にはモーターブレードも内蔵されている。肩部には対艦用ミサイルを一基づつ。それに頭部は偵察装備のカメラが外部接続されている。他にも背面にはサブのアックス。飛行ユニットにしても性能のいい新型を装備している。


「あれ、特務機……ラファエルの特務仕様」

「簡単に特務が出て来るわけない、日本からの私たちは狙われてたわけね」


 そうだろうね、胸中で綾乃は呟く。悪鬼、ミゼルはラファエル二機の後ろにつく。しかし動きが変だ。ロックオンから自分たちが後ろに付くまで何もなし。攻撃アプローチに入ってミサイルを放って急接近して、アサルトライフルの炸裂弾をフェニックスのエンジンに叩き込むなりすれば即行動不能だ。


『こちら……特務偵察機隊。攻撃アプローチ終了……基地司令からの、言葉を確認した。敵対の、意思は、無い』


 ラファエルからの声、敵対の意思は無いとの事。伝えるだけ伝えて基地の方へゆっくりと降りたラファエルは、格納庫近くに降り立つと武器を背中に。


「確認が出来て帰らないという事は念のための警戒かしらね」

「おそらく。はぁ、心臓に悪いよ」

「確かにそうね」





 ロランドと九条は搬入作業の様子を見ていたのだが、ラファエル二機の接近でフェニックス格納庫から外に飛び出していた。


「先に言っておきますが、我々はここでフェニックスと大和を潰してしまおうなんて考えちゃいませんよ」

「別に疑ってませんよ。それより、何で特務機が?」


 九条が聞くとロランドは首を振る。


「さっぱり見当がつかない。少なくとも連絡は一切来ていない……何とも、和食の調理なんかを教わりたかったのですが、嫌な予感がする。九条艦長、作業が終了次第すぐに発進した方がいい。こちらから護衛の戦闘機を付けます」

「それはありがたい」

「後数十分もせずに作業は終了する。今の内から機関を始動させていても問題無い。お急ぎを」


 


 きな臭くなったのは誰の目にも明らかだった。作業のスピードを上げ、搬入を終了させる。フェニックスはエンジン始動、駐機用の機首アンカーを巻き取り作業用のベクターが離れたのを確認すると、ミゼル、悪鬼が先行して飛翔し、その後にフェニックス。そしてベリーニュ基地からの護衛戦闘機二機が舞い上がる。

 それらから遅れて準一の椿姫がフェニックスに追いつく。


「搬入作業お疲れ」

「おう」


 悪鬼に椿姫が並ぶ。「ってか、俺フランス側と作業の事しかしゃべってなかったからほぼ何も知らないんだけど」


「ちょっときな臭くなったのよ。さっさと消えろと言わんばかりにね」


 答えたのはマリア、後ろから付いてくる戦闘機を見る。


「護衛に来てくれた戦闘機に敵対の意思は無いと思うよ?」と綾乃。

「いえ、そうじゃなくて。あの基地で何か戦闘が起こったとして、私たちはどう立ち回ればいいの?」

「救援要請が来たのなら戦闘参加だよ」


 綾乃の説明に納得したマリアは、「なるほど」と小さくつぶやいた。





 ベリーニュ基地からほど近いカフェで適当に軽食をとったシミオンは、飛び去って行くフェニックスをはるか遠くに見、困ったように息を吐く。


「日本のフェニックスに戦艦大和、だとすれば彼女の兄がいる部隊か……彼がいなきゃ、お終いだろうね」


 そう言うと、基地ハンガーの爆発、炎上を確認し「まいったね」と、呟いた。







 静かな田舎町だからこそ、基地からの爆発音は誰の耳にも届いた。「随分と音の大きな訓練ね」お昼休憩としてカノンと一緒にパン、コーヒーをとっていたキャサリンだったが、カノンは彼女と意見が違った。

 見てはいないが訓練による爆発音ではない、いつもと状況が違うからこそ肌がピリピリする、嫌な感じだ。


「キャサリン! カノン!」


 そう声を荒げて店に飛び込んできたのは配達を終えて戻ってきたジョゼフ。「基地が攻撃されたらしい! それで格納庫が吹き飛んだって、フランセットは基地の方に! 早く、離れないと危険だ!」

 やっぱり、とカノンはキャサリンを立たせる。


「そんな……こんな田舎町で……フランセットは大丈夫かしら」

「大丈夫さ。あの子は看護だ。前に出て戦うわけじゃない」

「そうよね……カノン、早く離れましょう」


 はい、とカノンは尻ポケットのハンドガンを手で確かめ、二人のあとに続いて外に出たところで空を裂くように駆け抜けるドラゴンを見つけ、足を止めた。フランス内部での反政府勢力やテロならば自分が関わる事はないだろう。

 だが魔法関連は違う。

 報告書で読んだドラゴン関連の情報は、ケンタウロス型の機械魔導天使が随伴、そしてあのドラゴンは召喚獣。ベクター殺しの空間魔法を仕掛けてくる。


「カノン!」


 キャサリンの手を引いていたジョゼフがカノンの手を握る。「早く! あんな化け物が出てきたんだ!」ジョゼフは声を荒げる。再びの爆発音、ゆっくりだった人も、空軍機の爆音を聞き、ただならぬ雰囲気を感じ取り足を速める。


「あ、あの……!」カノンはジョゼフの手を離し、笑みを浮かべる。「昨晩にお話ししましたよね……私はベクターに乗って実戦経験があるんです。ですから」


 ジョゼフが、キャサリンがダメだ、行ってはいけない、と叫ぶがカノンは「ごめんなさい」と基地の方へ駆け出し、二人はそれを追おうとしたのだが、低空飛行するドラゴンに背筋を凍らせ、カノンを爆炎の彼方に見失うのだった。





 フランセットは看護軍曹なのだが、砂漠でドラゴンと交戦経験があることからラファエルに乗り込み、重装備仕様向けに作られたガトリングガンを両手に滑走路で同じ基地のベクターと応戦していた。

 ラファエルが狙うのは特務機、そしてドラゴン。特務仕様の機体はその速度の速さで基地防衛部隊を翻弄し、そこへドラゴンがブレスを叩き込む。だが防衛部隊は棒立ちなわけではない、ブレスを避けドラゴンへミサイルや砲弾を放つ。


「看護軍曹! あのドラゴンの倒した方は!?」


 一人が叫ぶ。


「ベクターでは無理だ! とにかく私たちが警戒するべきなのは四足歩行の機動兵器だ!」

「そんなもの確認できないぞ!」

「あのドラゴンがいるのなら出て来る筈だ!」


 とにかく、守りに徹する以外にない。皆が敵を睨んだ。





 カノンは基地ゲートの守衛に止められ、基地に入れずにいた。それもそうだろう、基地では戦闘が起こっているのだから。


「とにかく、ここは危険です! 早く離れてください! もうすぐ基地から護衛部隊が派遣されますから!」


 守衛はカノンの肩を掴んで言う。


「私は日本のベクターパイロットです! お願いします! 通してください!」

「そういうわけに―――――あなたは」


 守衛はカノンの肩から手を離し、視線を後ろへ。それにカノンも振り返ると、シミオンが立っていた。


「シミオンさん……どうしてここに」

「君の手伝いをしようとね。彼女は僕の助手です。一緒でも構いませんか?」

「い、いえ戦闘中ですから危険です」

「危険を承知と同意書にサインしましたから。さ、カノン、行こうか」


 頷いたカノンは「ありがとうございます」と守衛に一礼。シミオンは守衛が移動用に使うバイクをすぐそこに見つけ、倒れていたそれを立たせ跨るとエンジンをかける。


「さぁベクターは格納庫だ。乗って」

「はい」


 後ろに乗ったカノンはシミオンに掴まる、すぐにバイクは吹き飛ばされていない格納庫へ。向こうの滑走路に爆発が広がる。防衛側のベクターがやられたんだ。


「基地戦力対特務機二機とドラゴンになっているみたいだね」

「特務機かどうかは知りませんけど、本当に何者なんですかシミオンさんは」

「それは今重要じゃないよ。というより、近々知れると思うよ」


 それに疑問なカノンだったが、格納庫へバイクが到着、整備班が搬入された椿姫にシートをかけている途中だった。


「何だあんあたら!」整備班の一人が声を荒げる。それをそこにいた基地司令、ロランドが「待て」と制止すると、カノンに目を向け申し訳なさそうに口を開く。


「実証機ではあるが椿姫……君の国の機体だ」


 はい、カノンは頷くとケージの椿姫を見上げる。頭部、胸部が実戦配備機と違うが椿姫、機甲艦隊の訓練でこの機体は使い慣れている。ラファエルに乗せられるよりは戦えるはずだ。


「僕が出来るのはここまでだ。カノン、どうする?」


 決まっている、カノンは着けたままだったエプロンを外し「通信用のヘッドセットとベストを貸していただけますか」と。


「聞こえたな! さっさと用意しろ! 機体にはライフル! 刀! それにサブマシンガンを持たせろ! それに頭部バルカンのマガジンをセットしろ!」

「仕方ない!」


 ロランドの言葉に整備班が動く。椿姫に被せられようとしていたシートを剥ぎ、頭部バルカンのマガジンを頭部にセット。武器を背中のラックや腰にマウントさせ、右腕に実弾ライフル。胸部ハッチが開き、昇降用ワイヤーに掴まったカノンはすでにベストを着、ヘッドセットも調整し終わっている。


「正しい判断だと思いますよ」


 シミオンはロランドに言う。


『それでは機体をお借りします!』


 カノンの声の後、椿姫は飛行ユニットを燃焼させ格納庫から飛び出す。


「あの椿姫は戦術データリンクこそ外れているものの、日本部隊とは独自回線で交信可能ですから。彼女の兄が来てくれればいいんですけどね」

「兄?」


 朝倉準一、とシミオンは呟いた。





 急降下し防衛側重装甲ラファエルの眼前に現れたドラゴンは、重装甲機の腕に喰らいつく。その腕は一嚙みで噛み砕かれ、「くそっ」パイロットは腕部をパージ。胸部マルチランチャーを叩き込み、ドラゴンは空へ。


「重装甲が一瞬で噛み砕かれた!」


 その声に皆が「嘘だろ」と舞い上がったドラゴンを睨みつける。各機、警告音。左右から特務機。


「看護軍曹!」


 特務機がライフルで狙っているのは前に出ていたフランセットのラファエル、それはフランセットも気づくがここではどうやっても当てられる。他の仲間がそれを防ごうと特務機を狙おうとするが、ドラゴンからのブレスでそれを防がれ、次の瞬間、特務機二機は地面に叩き付けられる。


「何が……!」


 突然の事にフランセットは叩き付けられた機体を見る。特務機は二機とも腹部の各種伝達系を破壊されたようだ。動く事は出来ないだろう。そして仰向けの一機の胸部ハッチが開き、パイロットを確かめる。


「こいつ!」


 砂漠で見た、操られている兵士だ。


「フランセットさん!」


 その声と共に、フランセットのラファエルの隣にライフルを装備した椿姫。「援護します」


「姉さん!」


 驚くフランセットだったが、上空から迫ってきた四足歩行の機動兵器に気づき、「話はあとだ!」と機体を動かす。ガトリングガンを上空から迫っていたケンタウロス型に、しかし簡単に避けられ、ケンタウロス型は距離をとる。


「あいつが!」


 その存在を知っていたカノンも射撃、ライフルで攻撃する。銃弾はケンタウロス型に命中するがダメージはない。やはり機械魔導天使、装甲は厚い。『ふふ』ケンタウロス型の中で操縦者が笑い、右手に持っていたランスを防衛側の一機に向け、光を放つ。すると防衛側の一機はバラバラに破壊されてしまう。

 そしてケンタウロス型は一瞬の内に椿姫に距離を詰める。


『フランス機の中に日本の機体が混じっているから朝倉準一かと思ったんですけど、違うみたいですね』


 兄の名前、次の瞬間にハッとしたカノンだったが遅くランスで左に弾き飛ばされる。


『ここで展開する全機へ。大人しく……いや、大人しくこの土地を明け渡すようであればそれはもはや軍人ではありませんね。どうぞ』操縦者は各機を見渡し、笑う。『死に物狂いで抗ってください。こちらも全てを壊してでもこの土地を貰います』


 同時、ケンタウロス型の上空に魔法陣。『コルテージュ全機を召喚』操縦者が言って上空のあちこちに魔法陣が出現、そしてそこから現れた灰色の巨人は腕が鋭利な刃物で、顔には何もない簡素な量産機のようだ。


『私はルミア! そしてこの機械魔導天使はサントール! よく覚えておいてください!』


 ルミアの言う召喚された機体、コルテージュの空を覆うほどの数で、百は軽く超えている。


『私の趣味は人狩りなんです』


 言葉の後、ドラゴンがブレスを町に向け、町からは巨大な火柱がいくつも上がる事になった。

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