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カノン・ローレイン④


 フェニックス主翼には悪鬼、それに大和後部甲板には椿姫、飛行ユニットでフェニックスよりも先行するのはミゼル。フェニックスも大和も対空戦闘状態にあり、大和は主砲にエネルギー回路を接続させ、三連主砲塔を動かす。


『反応は!?』


 フェニックスからの機長前島の声、「いえ、何も」と、綾乃の悪鬼が対装甲兵器用狙撃砲を手に頭部を動かす。


「マリア! レーダーに反応は!」


 椿姫からの準一に訊かれるマリアはサブモニターのマップにレーダー反応を重ねた画面を映す。「反応無しよ……さっきまでのが嘘みたい」マリアが答えると、前島はミゼルが捉えた反応、その一部を映したカメラ映像をモニターに映し、頭を抱える。


『朝倉君、これは中東で君が見たやつだろ?』

「ええ」


 準一は肯定し、サブモニターのミゼルからの画像を睨む。映るのは雲の中に四足のシルエット。十中八九、ケンタウロス型だろう。


『参ったな……ベクターのメインカメラで捉えられる範囲に奴が来た。知らずに来た、と言うわけではないだろう』と、前島。

「でしょうね。……フェニックスクラスの大型輸送機は数が限られています。そんな大型機が大陸を縦断してるんですから、恐らく落としに来たんでしょうが」

「大和が居たから?」


 準一の後に綾乃が訊く。「大和がいるって事は、その部隊に組み込まれている朝倉準一がいるって事。手出ししたら機械魔導天使が出てくるかもだから手を出さなかったんでしょ?」


『だとして、問題はあんな奴が大陸の空を行き来してる事だ』

「とにかくこのまま進みましょう。奴が来ようと、その為に俺達が同行しているんですから」


 そう言った準一だが一番の懸念は中東で自身が体験したベクター殺しの魔法。それにケンタウロス型と共に召喚獣としてのドラゴンがいる可能性がある。これらが揃ってしまえば、今ある戦力は無いに等しくなる。


「面倒くさいな」


 小さく、準一は呟いた。






 ベリーニュを一望できる廃城、名前は不明らしいその廃城は現在倒壊の危険があり、本当であれば壊してしまう筈だったのだが、メルヘンチックな街からの廃城はそれなりに人気があり保存するという事で現在は補強作業が進んでいる。その為、城の周りには業者の車両、夜間作業用の照明などが置かれている。

 

「町からは小さく見えたけど」夕刻、城の前に辿り着いたカノンは城を見上げる。「結構大きい」


「あれ、お嬢ちゃん。珍しいな、観光かい?」と、夜間作業準備の工事作業員の中年男性に声を掛けられ、頷く。「そうか、でも悪いな。昼間ならちょっと見学するくらい良かったんだが、夜だと流石に足場が悪いからな」


 そうですか、とカノンがその場から去ろうとすると「監督さん」と、茶髪の若い白人男性がカノンの肩を叩いて、中年男性に頭を下げる。「あれ、学者さんじゃないか。ああ、夜間にも調べ物がしたいって言ってたな」


 ええ、と若い男は返事。「今ここに居る彼女は僕の助手なんです。ですので一緒でも構いませんか?」


「は?」

「おお、いいぜ。ちょっとうるさいかもしれないが、まぁ我慢してくれよ」


 それに笑顔で答えた男性は「あ、あの!」と、何か言いたそうなカノンを引っ張って城の中に入って行き、開いていた重い木の扉を抜けたところでカノンは男の手を離し「ちょっと待ってください!」と、ジーンズの尻ポケットに入れている拳銃に手を伸ばす。


「綺麗な顔して恐ろしい子だ」と、男はバッグを置き、両手を上げる。「僕はシミオン、色々と調べ物をしている。君が必要だと思うのならバッグを調べてもらって構わない」

「そこまではしませんけど……」


 カノンは銃から手を離すと、パーカーの裾を伸ばしグリップを隠すと手を降ろしてバッグを拾い上げた男性を見る。男性の格好はその辺で買ったようなジーンズ、それに生地厚めのシャツにブルーのジャケット。


「調べ物って、学者か何かやられているんですか?」

「そう言っても問題は無いかな。それより、これから調べものなんだ。手伝ってくれないかな」


 まぁ、やる事も無いのでカノンは頷いてシミオンの後に続いて、小さめの扉の先の部屋に入る。「ここは?」一体何の目的で作られた部屋なのか、それをカノンが訊くと男は床に敷かれたブルーシートを剥いで、その下のレンガの一つを蹴ると、その一つが落ち、風が床から噴き上がる。


「元は宝物庫だったみたいなんだけど、見てのとおり隠し空間が下にあるのさ」

「ってか、いいんですか? 勝手に床に穴開けちゃって」

「調べると言って来ているんだから問題ないよ。さ、離れて」


 左手でカノンを後ろに下がらせたシミオンは他のレンガを蹴り、それらを下に落とすと暗闇に続く階段が姿を現す。「さ」と、シミオンはバッグからライトを取り出すと、スイッチを入れて階段を下り始める。「下ってみようか」


「下ってみようかって」とカノンも後に続き「下りた事無かったんですか?」

「そりゃ、床を壊したのは今日が初めてだからね」


 階段を下りて暫くすると、螺旋階段に変わる。


「名乗りたくないなら名乗らなくてもいいけど、一応君の名前を訊こうかな」

「カノンです。カノン……ローレインです」


 朝倉とローレイン、どちらを名乗るべきか思考を逡巡させたカノンだったが今はフランスに居るのでローレインを名乗る事にする。「ローレイン? ああ、ベリーニュのベーカリーの娘さん?」


「ええ、そうですけど、ベーカリーの方に?」

「こっちに来るならローレインベーカリーがオススメって聞いたんだ。それにしても驚いたよ。パン屋の娘がポケットに拳銃を忍ばせているなんて」

「あれがはったりとは思わなかったんですか?」

「目を見ればわかる」


 二人は階段を下りきり巨大な地下洞窟に出、シミオンが当たりをライトで探る。「銃に手を当てていた君は、何かあれば躊躇いなく僕を撃つ眼をしていた」


「そうやって人を判断できるあなたはただの学者なんかじゃなさそうですね」

「まぁね。にしても、僕が君に対しての事を言ってしまえば銃を突きつけられるかと思っていたが、いいのかい? 武器を向けなくても」

「向けなきゃならない相手ならとっくに向けてます」


 そうか、とシミオンはタブレットで地形を確認し、左へ進む。


「気になっていたんだけど、カノン、君が今着ている服、日本ブランドが多いみたいだね」


 そう言えば、とカノンはジーンズ、シャツ、パーカーに触れて見て思う。やっぱりおかしかったのだろうか。


「いや、おかしいなんて事は無いよ。よく似合っている。ただ気になってね、土産? それともネットで注文でも?」

「ってか、あんまり観察しないでください」

「はは、ごめんごめん」


 特に悪びれた様子の無いシミオン、カノンは軽く呆れるも、かなり先から聞こえた水を踏みつける複数の音、それにシミオンがライトを消したのを確認すると銃を抜き、シミオンを引っ張り岩陰に隠れる。


「シミオンさん、どういうことですか。足音からして……五人は居ますよ」

「驚いたな。一般人じゃないとは思ったが、離れしているようで安心したよ」


 それはシミオンも同じ、慣れているというよりは余裕があると言いたげな。そんな感じだ。


「でもこの暗がりじゃ」とカノン、「だね」とシミオン。


 するとシミオンは暗闇の中、バッグから透明な手のひらに収まる程のクリスタルを取り出す。


「こんな暗がりでっ走り回れるって事は、暗闇で活躍するゴーグルを付けているだろうね。どこぞの盗人か、それともただのチンピラかテロリストか」


 そうシミオンは言った後、右手の人差し指でクリスタルに触れ


「輝きを」


 そう言うと、クリスタルの中に魔法陣が広がり、次の瞬間には足元、それに壁の岩が薄く青に光り始め視界が開ける。


「これで十分かな」


 呟いて、クリスタルをバッグにしまいゆっくり立ち上がろうとするシミオンにカノンは銃口を向ける。


「だから魔法は使いたくなかったんだ」

「でも使ってしまった以上、お話を聞かせていただけますよね。……何の調査に――――ッ!」


 訊いている途中、足音が迫りカノンはシミオンをしゃがませ、岩陰から顔を覗かせサブマシンガンで武装した黒装束の五人を視界に捉え、顔を戻す。

 どう考えても魔法絡みの連中だ。となればここには魔法絡みの何かがある。ならば、この男も。


「こんなところに来るって事は、あの連中は間違いなく教団の刺客だろうね」

「私からすれば、あなたも同じですよ」


 シミオンに答えたカノンは、既にこちらの存在に気付いた黒装束の射撃が途切れるまで動かず、止んだ瞬間に身を乗り出し射撃。だが向こうの方が弾を大量に送り込んでくる。


「くそ……流石にバカじゃないか」カノンは言って、マガジンを交換。


 その様子を見、シミオンは軽く笑うと右手で光る地面を撫でる。


「―――青は刀身となりて」


 シミオンの言葉の後、左右の壁から刃のような形状を持つ光が黒装束に伸び、串刺しにし光は壁に戻るとカノンがシミオンに顔を向ける。


「撃ち合いやるよりも効率的じゃないかな」

「魔法攻撃を行うなら一言言ってくださいよ」

「それについては謝るよ。さて、どうする? 撃つかい? それとも捕えるかい?」


 こんな連中が動いているのにそういうわけにもいかないだろう、と胸中で呟きながらのカノンは溜息を吐き拳銃をポケットに収め、黒装束からサブマシンガンを拾い上げ、予備のマガジンと、今装着されているマガジンを外し、銃と、マガジン内の弾を確かめる。


「特殊なシステムや……魔法も確認できませんし、使えそうですけど。シミオンさんはどうします?」

「僕はやめておくよ。それより、僕を殴って気絶させるなりして、地上に運び出すなりしないのかい?」

「魔法が使える人間ならどんな手を隠しているか分からない、それにあなたがここで何をするのか興味があるんです」


 そっか、とシミオンは胸ポケットから煙草を取り出しカノンに渡そうとする。


「あの、このタバコは?」

「信頼の証だ」

「私、兄がタバコを吸うのでタバコ嫌いなんです」


 残念、とシミオンはタバコの箱を胸ポケットに戻し、背中のカノンが離れずに付いて来ているのを確認すると移動を再開する。周囲にはもう人の気配はない、カノンは辺りを見渡しながら、この隠れられる場所が無い事を確認。


「そんなに警戒しなくても、多分来ていたのは僕らと彼らだけだと思うよ」

「その彼らの仲間が隠れている可能性は?」

「無いだろうね」


 何でそう言い切れるのか、と疑うカノンだったがそれを言わせる事無く、シミオンは先に進む。


「あの、さっきの続きです。何の調査に来たんですか」

「君がよく知る、機械でありながら魔導兵器としての能力を持つ天使の調査だよ」


 機械魔導天使? こんなところにあるのか。


「それと、一つ謝っておこう。僕は君の事を知っているんだ」

「私の事?」

「ああ。……機甲艦隊、朝倉準一中尉。いや、今は大尉だったかな。そのアルぺリスと共に行動する僚機、フォカロルのパイロット」

「じゃあ服の事、名前を聞いて来たのは?」

「君がここでどういう動きをしているのか気になってね」


 そうシミオンが言って、カノンはマシンガンを構えようとするが、いつの間にかシミオンの右手にそれを止められ、マシンガンを降ろす。


「ただ誤解はしないでほしい。本当に調査に来ただけなんだ。だから僕は君にどうこうするつもりはない、勿論、カノン・ローレインとしての君の家族にもね」


 疑わしい男、魔術師であり機械魔導天使の事も知っておりその調査に来た男。それに自分の事、兄の事を知っている。

 だがどうにも敵意は感じられず、カノンは「はぁ」と息を吐く。


「変わった人ですね。……これだけ怪しくて警戒すべきなのに」

「それはどうも、さ。目標まではもうすぐだ。行こうか」


 再び前を向いてシミオンは歩き始める。



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