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ゴースト・パニック(幽霊騒動)

準一達が帰ってきてかれこれ1週間が経とうとしていた。


エルシュタは制服を貰い、準一と同じ教室に居た。エルシュタの希望、準一と離れたくない、との事で特別処置、となっているが、割とクラスの人間はすんなりと受け入れ、エルシュタの姿はカノン共々日常の風景になりつつあった。


そんな教室の扉が荒々しく開き、本郷義明が入室。そして準一に近づき「出たんだって!」と準一の机をたたく。


「何の話だ?」


「最近、碧武校を騒がせてる幽霊だよ。知らないのか?」


知らねえよ。んな話。というより、こんな金を無駄に使ったハイパー科学ハイテク育成学校に幽霊? と準一は笑いそうになった。


「あたしは知ってるよ」


「あたしも」


「実はあたしも」


準一の周りに溜まっていたカルメン、菜月、アンナが順に言う。


「あたし初耳」


「同じく」


「同意見」


「私も知らない」


結衣、綾乃、シャーリー、エルシュタの順。


どうやら、噂にはなっていても、知っている人間と知らない人間は半々らしい。


「なあ、その幽霊。どこに出るんだ?」


準一が本郷に聞くと全員が本郷に向く。


「出現場所は、学生寮エリア。場所は決まってない。でも時間帯ははっきりしてて午後9時から朝方までの時間らしい」


「ふぅん」


聞いて時間だけは案外はっきりしてるな、と準一が思った。その直後、教室の扉がこれまた勢いよく開いた。


扉の開く音を聞き、準一はしまった。油断した。と心で叫んだが、すでに遅かった。


何故なら、教室を開けた人間は校長代理で、大声でこう言ったからだ。


「だったら倒すしかないよね!」


クラスの人間は「ああ、朝倉準一に振るんだなコレ」と準一に同情する。


いや、まだ俺に振られると決まった訳じゃ―――


「準一君! 幽霊退治用の特別チームを編成して! 人数は問わないし、武器も言ってくれればこっちで用意するよ!」


準一の希望は打ち砕かれた。


一難去ってまた一難。作戦が終わって一息ついている時に幽霊退治が決まってしまった。






「聞いたよ。朝倉君。どうやらゴーストバスターの任務が入ったらしいね」


準一が放課後、生徒会室へ入るなり、揖宿に言われる。


「またあのバカ・・・いえ、校長代理の暇つぶしですよ」


今、バカって言ったな。と生徒会全員はバカに同意した。


「しかし、朝倉君も大変だな。何かと起これば君がイベントの中心になる」


同情するように子野日に言われ、準一は引きつった笑いを浮かべる。


「でも、大変でも楽しそうで羨ましいわ」


本当に羨ましそうな視線を志摩甲斐に向けられ、更に引きつった顔を浮かべる。


「ところで・・・幽霊退治には朝倉君が選んだ選抜メンバーが参加するって聞いたんだけど」


「気になるなー。誰を誘ったのかなー。気になるねー加奈ちゃん」


四之宮、雪野小路2人の期待を孕んだ視線に「参加したいんですか?」と準一は問いかける。


2人は何か悩みもせず「うん! 参加したい!」ズイと準一に近寄り宣言する。


「では決まりだな。朝倉君、まず2人、メンバー確保おめでとう」


揖宿に言われ準一は渋々承諾する。こうなっては、参加しないなんていう事は出来ない。


準一はため息を吐くしかなかった。







生徒会での雑務、を終え準一が生徒会室を出ると、待ち構えていたテトラ・レイグレー、ロン・キャンベル、真尋・リーベンスに確保される。


「やだなー朝倉。折角知り合ったのに殆ど絡み無しなんて、冷たくない?」


「どうして誘ってくんねえのかなー」


何か、不満があるような言い方でロン、テトラの順で言う。言われた後、準一は2人に詰め寄られる。


「な、何の話だ」


準一は2人の後ろでニコニコ笑う真尋に確認する。


「ほら。話題の朝倉準一プレゼンツ、対悪霊選抜攻撃部隊」


くそ。話題にあらぬ尾びれが装備されてやがる。


しかし、その位で準一は動揺しない。噂の根源は分かっている。あの碧武九州校最高権力者、ゴスロリバカツインテールだ。


騒動が収まったら校長室にグレネード弾でも投げ込むか。


「って広報部のカルメンと3バカと綾乃が言ってたよ」


真尋に言われ、準一は肩を落とした。どおりで生徒会室に綾乃が居なかったわけだ。しかし、とんだフェイントだ。奴らも代理と同じ、イベントごとを盛り立てやがる最悪の連中だ。


「って訳で私たち3人も攻撃部隊に参加するから」


「僕ら参戦決定だから」


「お前に拒否権ねぇから」


真尋、ロン、テトラの順に言われ、最後はテトラに肩をがっちり掴まれる。


どうやら、新たにメンバーが3人加わるようだ。







「聞いたぜ朝倉。幽霊退治? いや幽霊と筋肉について語り合う祭典の全指揮権をお前が持っているのだろう?」


学校から出ようとした時、準一は盛大な勘違いをしている筋肉、マッスル同好会首領、遠藤渉に後ろから右肩を強く握られる。


「どこからその間違いだらけの情報を仕入れたんですか、遠藤先輩」


「何、確かな情報筋からだ」


どうせロクな情報源じゃないだろう。


「その確かな情報筋とは?」


「広報部部長と、愉快な仲間たちだ」


予想通りだ。準一は苦笑いしながら遠藤に向く。


「それで、遠藤先輩。俺に幽霊退治の事を聞いて来るって事は」


「お前の想像通りだ。俺もその筋肉の祭典に参加するぞ」


先輩である手前、断れない。訳の分からないメンバーがどんどん増えて行く。この流れで行けば次は誰なんだろう。


準一は遠くを見つめるような目でそう思った。






遠藤の参加決定後、準一は駅に向かった。結衣、カノン、エルシュタは先に帰っているはずだ。一人での帰宅の為、スイーツ作りの為の材料の買い物でもして帰ろう。と思っていると、6人に駅までの坂道を塞がれた。


「お前ら・・・」


その6人の顔ぶれを見て準一はため息を吐く。


6人とは、カルメン、3バカ、綾乃、本郷である。6人とも何故か迷彩服に身を包んでいる。各装備はアサルトライフルやマシンガン。


「どうやらメンバーが続々集まってるみたいだね」


最初に声を出したのはカルメン、装備しているアサルトライフルを両手で構え、銃口を準一に向ける。


「誰の所為だろうな」


向けられ両手を上げ、準一はジト目でカルメンに言う。


「あたしの所為だとでも?」


「お前以外に誰が居る?」


準一の言葉の後、3バカが口を揃えて「あたしたちも居るよ」と空にマシンガンを乱射する。


「俺もな」


「あたしもね」


本郷と綾乃が3バカに続く。


「ああそう。で、お前ら何? 俺に何か」


「何って、用事は決まってるでしょ」


カルメンは言うと、どこからともなく大きな木箱を取り出し、地面に置く。それを準一が開けると、中にはインカム、迷彩服、装備品が一式入っていた。


ああ、なるほど。これを俺が装備して幽霊退治する訳か。と準一は理解すると6人に向く。


この格好は、6人共、参加する。という事だろう。ここまで準備した6人に参加するなとは言えない。渋々準一は承諾すると学生寮エリアへ向かう。



待ち合わせ時刻は午後10時。場所は学生寮エリア生徒会館。


各参加メンバーは、支給された装備を装備し、集合。


そして「各員遺書を書くように」と代理から通知を貰い、各員は自室で規定時刻まで待機を始める。







「ふぇッ・・・ゆ、幽霊退治?」


帰宅した準一が幽霊退治に出向くことを結衣に言うと泣きそうな顔になる。


結衣は昔から幽霊、ホラー、怪奇現象の類が苦手なのでその顔も頷ける。


「そう。今夜10時に集合、その後作戦開始だ。悪いが留守番頼むな。お前、やっぱ怖いだろ? 幽霊とか」


「う、うん・・・」


準一のする事には常に着いて行きたい結衣であったが、今回ばかりは怖くて素直に行きたいと言えない。仮に着いて行っても足手まといになる。


「兄さん。私は行きたいです」


「あたしもあたしも、幽霊退治行きたーい」


結衣がいかないと言うので、カノン、エルシュタが名乗り出る。


カノンがゴーストの類が好きなのは知っている。しかし、エルシュタの嬉しそうな顔を見る限りコイツも好きなのだろうな。


「ま、あんだけ人数が居るんだし、今更2人増えても問題ないか・・・2人とも、参加していいよ」


「やったー。深夜徘徊だー」


と喜ぶエルシュタ。


「久方ぶりの白兵戦だー」


喜び方を間違えるカノン。2人は何故か用意されていた支給品の入った箱を開け、武装を取り出す。


取り出した武装、カノンはロケット砲。エルシュタはマガジン式グレネードランチャー。


なんて凶悪な武装を。準一は代理の用意したソレに呆れる。


「ま、まって・・・2人とも行くって事は」


「ああ、一人でお留守番だな」


幽霊の恐怖に震える結衣に準一が淡々と言う。更に結衣は震えあがる。


「よし、じゃ今から2人が入る部隊を説明す―――あれ?」


説明しようとした準一の袖を結衣が弱弱しく握る。


「結衣?」


「・・・あ、あたしも行く」


「で、でもな結衣。作戦はお前の嫌いな幽霊退治だぞ」


「だ、だって・・・だって一人でお留守番」


顔を上げた結衣の目には涙。今にも泣きだしそうだ。


「よしよし。怖いんだね」


カノンとエルシュタが声を揃えて結衣の頭を撫でる。あやされる子供の様に「うん」とバツが悪そうに結衣が答え、見た準一は微笑む。


「じゃ、お前も来ような」


「う、うん」


言った準一に結衣は笑顔を向けるが「でも怖い?」とエルシュタが聞く。


「うん」


結衣は答えると顔を真っ赤にしそっぽを向く。




『皆さーん。元気ですか―』


会館内、会合会で使用した部屋。大型モニターを背に、迷彩服に身を包んだ準一が拡声器を使用して集まった隊員に呼びかける。棒読みで。


『元気でーす!』


結衣以外が大声で返事をする。


『元気ですね。では、早速ですが各員の参加メンバーの参加部隊を説明いたします。モニターをご覧ください』


準一はモニター左側へずれ、各員は用意されたパイプ椅子に座る。


『部隊は6、5、5人構成を3つ。部隊名はエンジェル、マッスル、クレイジー。エンジェル部隊には俺、四ノ宮さん、雪野小路さん、真尋、ロン、テトラ。マッスル部隊は、

遠藤先輩、義明、結衣、エルシュタ、カノン。そして、クレイジー部隊にはカルメン、3バカ、綾乃』


『異議あーり!』


結衣、エルシュタ、カノン、本郷が口を揃えた。


『本作戦に於いて、全指揮権は自分にあるので拒否、異議は一切受け付けておりません』


瞼を閉じた準一が言うと照明が消え、モニターが光り、学生寮エリアの全域地図が映し出される。


『これはあくまで現在使用されている施設、区画だけしか記されていません。エンジェル部隊は駅正面から、マッスル部隊は西、クレイジー部隊は東から学生寮中心を目指します。その後、3部隊合流。現在は使用されていない区画へ向かいます。幽霊と遭遇した場合、信号弾を上げてください』


準一が説明する中、地図上の3つのマーカーが3方向から中心へ移動し、北の区画へ移動する。



何かもっともらしく説明しているが、実は銃火器は全て訓練用弾。大げさにしたサバイバルゲーム、が一番最適な表現だろう。


何故サバイバルゲームかと言えば、対幽霊用装備、お札やお清めの塩なんかは全く持っていないからだ。



『ちなみに、この幽霊ですが、噂になる位ですから被害は数件あります。いずれも生徒で、幽霊と遭遇した人間は気絶。目撃証言から幽霊は数種類、武者、骸骨等他多数』


『おい。幽霊の攻撃方法は?』


テトラが手を挙げ、聞く。


『いえ、そこまでは証言が上がってません。他に何かありますか』


聞くと『ないでーす』と全員が口を揃える。


『では、各隊、配置についてください』


言葉の後、全員が会館を飛び出し、西、東、南に分かれる。







『こちら、マッスル隊。西、配置に着いた』


遠藤からの声が、準一のインカムに届く。


『こちらクレイジー隊。東、配置に着いた』


言ったのはカルメンだ。しかし、何故か布でも被っているかのようにフゴフゴと音が聞こえる。


「おいカルメン。お前なんか被ってる?」


『写メ送った』


カルメンが言うと、準一の携帯が鳴る。本当に来た。と準一が開き、画像を確認する。そこには、懐中電灯で顎下から照らされたスケキヨマスクの集団が写っていた。


流石に準一でも驚いた。なになに? とエンジェル隊の他メンバーが覗き「怖ッ!」と声を上げる。


「これじゃ、どっちが恐怖の対象か分からんぞ」


注意するような口調で準一はカルメンに言う。


『安心してあたし達はジャスティス、正義よ。別にストライクフリーダムする訳でもディスティニーな訳でもないわ』


応答したのは綾乃だった。


「面倒臭いから切るね」


DVD全巻貸したの間違いだったかな。と思いながら準一は通信を切る。



「じゃ、俺達も中心へ向かおう」


準一が言うと他5人は「おー!」と元気に返事をすると全員が歩き出す。


装備品がジャラジャラと音を立て、ブーツが地を踏む音が静かな学生寮エリアに響く。






「で、この3小隊だけど。どういう決め方? 絶対アナタの妹2人とあのちっこい子、納得してないよ」


準一の隣を歩く真尋が聞く。


「このメンバーだと一番楽かなって思ってさ」


言いながら準一は真尋に顔を向ける。


「そうでもないんじゃない?」


真尋は後ろの4人に目を向ける。4人ともノリノリで、背中合わせでマシンガンを構えている。


「まあ、アイツらや、他の部隊の奴は賑やかすぎるだろうけど、お前は節度を持って騒ぐかなって」


「それって褒めてるの?」


「かなり褒めてる」


納得いかない、と言いたげな表情を見せる真尋から目を離し、準一は辺りを見渡す。


その時、東の空に赤く光る信号弾が上がる。


遭遇したのか。準一が連絡を取ろうとするより先にクレイジー隊から通信が入る。


「こちらエンジェル。クレイジー隊、状況報告を」


『こちらクレイジー! アンナと菜月が!』


被害に遭ったか。準一は舌打ちし「2人はどうなった」と静かに聞く。


エンジェル隊全員がインカムから聞こえるカルメンの声に息を呑む。


『よく分かんない! 骸骨が居て・・気が付いたら―――』



『―――2人の顔面にアップルパイが飛んで来たの!』


は? エンジェル隊全員がポカンと口を開けた。誰も喋らない。ああ、これが拍子抜けってやつなんだな。全員が納得する。


「あー・・カルメン。取りあえず2人を引っ張って中心部に連れて来て」


『り、了解』


通信が終了。準一は何か起こってほしいわけでは無かったが、心のどこかで期待していた。しかし、期待とは全く違い、骸骨と遭遇後アップルパイ? 全く、どんな幽霊だよ。


エンジェル隊全員がため息を吐いた。







半端なく広い学生寮エリア。その中心部には目印となる小さな時計台がある。3部隊はその時計台で待ち合わせだ。


作戦開始より1時間程、ゆっくりと進行したため時間が掛ったが、まだ11時くらいで、どの寮にも灯りは灯っている。


一番乗りはマッスル隊。二番にエンジェル隊。三番にクレイジー隊スケキヨマスク装備。


最後のクレイジー隊のアンナと菜月はズルズルと引きずられて来た。


それを見た結衣はビクビク震えながら準一の背中に隠れ、涙目で裾を握る。



「本当に顔に」


「アップルパイが」


ロン、テトラが言った。


「じゃ、説明してくれる」


準一はカルメンに向く。カルメンはマスクを脱ぎ、頷き説明を始める。


「まず、あたし達が進行し始めて割とすぐにあたしが言ったの。『あ、マガジン落とした』って」


全員がうんうん。と頷く。


「そしたら『これじゃない?』って声が掛ったの。最初は『ありがとう』って礼を言って気にしないで進んだの。そして気付いたの。あたしの前に4人とも居た事に。で、怖くなって振り返ったら骸骨が居て」


「が、骸骨・・」


カルメンの後に結衣が小さく言い、準一の背中に抱き着く。


「あたしが悲鳴を上げたら4人がすぐに気付いて信号弾を上げたの。で、その後よ。暗闇から信じられない位の速さでアップルパイが飛んできて」


「こうなったワケか」


遠藤が聞く。


「はい」


カルメンは頷くと「しかもこのパイ。ただのアップルパイかと思ったら、ちゃんと競技用のモノでした」と続ける。


競技用のパイは食しても害はないが、好んで食べるようなモノではない。食べ物を粗末にしない、その点に気を使っている幽霊。


「結構えらいな」


「ホント、食べ物は粗末にしたらいけないよ」


「あたしアップルパイ好きだし」


本郷、綾乃、シャーリーが言う。



「でも2人脱落か」


「やり方は馬鹿らしいけど。しっかりと脅威にはなってるね」


四之宮、雪野小路は言うと準一を見る。今後の対応策を聞きたいのだろう。


「ひとまず、2人を第3女子寮に運びましょう。結衣、一旦帰るからな」


全員に言い、結衣に向くと「うん」と涙目で答える。少しでも安心させようと準一が結衣の頭を撫でようとした時、結衣は目を大きく見開き、次の瞬間には準一の背中に顔を埋めた。


何かに怯えている。声にならない悲鳴を上げている。


「兄さん!」


カノンが叫び、準一は結衣が見ていた場所を見る。そこには骸骨、ではなく矢が幾つも刺さった武者が立っていた。距離は結構離れている。立っている場所は木々が生い茂る林の中。この暗闇では姿も見えない筈なのに、青白く光っている。


「朝倉! 俺が先行する!」


本郷が大声で言う。


「義明! 止せ!」


準一の制止を聞かず、武者に突っ込む。本郷の姿が暗闇に消え、次の瞬間には遠藤も突っ込む。


「俺の天使! 今いくぞ!」


アイツは止めなくていいや。多分無事で帰ってきそうだから。と準一が思った矢先、数発の発砲音が響いた後、2人の悲鳴が聞こえ「2人の仇!」と言ってカルメン、シャーリー、綾乃が飛び出す。


止める暇は無かった。発砲音より先に悲鳴。


「遅かったね」


「まって確認する」


エルシュタの後、真尋が前に出て、暗視ゴーグルを装着。林を見る。


「武者は居ない。でも、全員やられてる」


真尋が言った後、「全員を回収し、一旦会館へ戻ろう」と準一は言う。全員が頷き林に倒れる隊員を回収する。


倒れた隊員は全員気絶している。




会館へ戻った生き残りメンバーは、やられた隊員の顔に着いたパイを落とし、会館に敷いた布団に寝かせる。


「さて、残ったメンバーで作戦会議だ」


準一は前に立つ。


「クレイジー隊は全滅。マッスル隊は遠藤先輩。義明。犠牲者計7名。生き残りはエンジェル隊6名と結衣、カノン、エルシュタの3名。計9人。ここからは全員一緒に行動します」


全員が納得する。あの霊の戦闘力は想定外だ。分散は得策ではないだろう。


「じゃ、すぐに行こう。目標は北区画」


全員は出発する為に会館を出る。




北区画に到着するまでは30分ほどの時間が掛ったが、目標との接触は無かった。北区画、その奥の廃倉庫は使用されていない。そしてその倉庫は一番怪しい。


全員の意見が一致し、倉庫へ入ろうとする。しかし、倉庫のシャッターは閉まっており、かなり重く堅い。


だが幸いなことに、生き残っているメンバーは魔術を認知しているメンバーだったので準一はブレードでシャッターを切り、無理やり入る事が出来た。


「さて、ここからが本番ですね」


カノンが言うと全員が銃を構える。結衣は準一の腕に抱き着く。さて行こう。と思った矢先、雪野小路、四ノ宮にパイが命中。


「みんな隠れろ!」


テトラが叫び、全員が倉庫内に置いてあったコンテナの陰に隠れる。


しかし、その間に準一、結衣以外の全員がパイの餌食になる。


準一は陰から顔を出し、暗視ゴーグルで辺りを見渡し、2階の手すりの所に骸骨を発見し、ライフルを向け1発撃つ。訓練用の弾丸は骸骨の頭部を弾く。


骸骨はそそくさと奥に退散する。準一は逃すまいと結衣を小脇に抱え魔術を使用し跳躍。二階まで一気に上がり、背中を見せている骸骨にドロップキックを決める。


骸骨はゴロゴロと転がり壁に激突し「痛ったいなもう!」と声を出す。


準一は呆れた表情で骸骨に寄り、ライフルを向け「おい」と声を掛ける。


「何よもう」と骸骨は言いながら立ち上がり準一に向く。


結衣は小脇に抱えられながら瞼を閉じ、震えている。


「結衣、これは幽霊なんかじゃないぞ」


「え?」


準一に言われ結衣は恐る恐る目を開け、骸骨を見る。身体は骨、のペイントが蛍光塗料でされておりそう見えるだけ。頭部に至っては、髑髏が外れ可愛いポニーテールの少女が顔を出している。


「ほんとだ。お化けじゃない」


結衣は安心し息を吐く。


「で、アンタら何してんの?」


「あたし達は校長代理からサバゲーだよって言われて」


準一に聞かれ、ポニーテールの少女は物陰を指さす。


武者の鎧を着た代理が顔を覗かせていた。


「・・・通りで作戦行動中静かだと思ったら。やっぱりアナタの仕業ですか」


「ま、待って準一君。まだ何にもしてないよ! ほら!」


代理は言うとマシンガンを見せる。


「さっきパイ投げてましたよね?」


「・・・・パイ?」


予想外の返答だ。代理は本当に知らないらしい。準一は少女に聞く。彼女らはコスプレ同好会。ただ、訓練弾でのサバゲーに呼ばれただけ。


「ちょっとまて・・・代理、あなた中心区画の林に居ましたよね?」


「え? あたしずっとここで待ってたけど?」


「アンタは迷彩服の女の子の集団に攻撃した・・・よな?」


「いや、ここに居たけど」


どういう事だ。準一は困惑する。結衣は泣きそうな顔になり「あ、兄貴・・・どういう事?」と聞く。準一は「分からない」と答える。


「さっき、ここの一階で俺達以外にパイが命中した。その時、アンタ2階の手すりに居たよな?」


「いや、手すりは、ほら」


準一に聞かれ、少女は手すりを指さす。さっきまで普通だった筈のてすりは腐食し腐って、ほとんど原型が無い。


「あんな状態だし。あたし、ずっとこの手すりに繋がる通路に立ってたよ――――」


少し、準一は背中をゾクリとさせた。結衣はガタガタと震えている。


「・・・ねぇ、準一君。あんま聞きたくないけど・・・その」


「・・・俺達、本物と会ってたみたいです」


準一はその場にヘタリ込んだ。


代理はそんな準一の肩をポンと叩くと「明日、お祓いしよう」とガッツポーズで言う。


準一はただ、無言で頷いた。





翌日、作戦参加メンバーは全員お祓いを受け、学生寮エリアもお祓いを受けた。どうも、幽霊の話は代理が流したデマ情報で、本物が出るとまでは思っていなかったらしい。


(カルメンは、かなり霊感が強く、人間相手だったら怖がることは無いらしい)


ちなみにその翌日。北区画にあった筈の倉庫は無くなっており、居たはずの代理、コスプレ同好会は覚えていない。準一、結衣以外の隊員も同様だ。


一体全体どういう事なのか、分からなかったが。この時、準一は初めて幽霊を怖い、と思ったらしい。

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