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熱砂に轟く咆哮③

気が付きゃ一年以上だぜ

 嵐が弱まり、ラファエルと椿姫は動き出した。「大尉」と、フランセットの声。歩きながらの二機は現在ケーブル接続しての通信しかできない。


「椿姫の方が電装系が優秀だ。通信は?」

「無理だ。完全に通信を殺されてる」


 そうか、とフランセット。「困ったな」


「運がよければシルバークオーターのヘルブレイカー部隊と合流できるはずだ」

「運がよければ……か。確かにそうだな、あんな化け物が出たんだ」

「お前の言うケンタウロスか」


 フランセットは頷く。「しかし幸いだな。位置だけははっきりとわかっている」と準一。「フランス部隊がケンタウロスと遭遇したのは南の丘陵地帯だったか」


「そうだ」


 南か、と準一。マップに艦隊がいる位置を表示させる。フランス部隊がケンタウロスと遭遇した地帯は、上陸予定地点からそんなに離れていない。ケンタウロスの狙い、それにドラゴンとの因果関係。何がどうなっているのやら。


「そう言えば大尉、その椿姫は可変機なのだろう? 一度飛んで支援を要請などは出来ないのか?」

「空を飛んで誘導兵器が飛んでくるだけならそうしてる」

「何か、問題が?」

「お前と合流する前、俺はドラゴンと交戦した」

「ドラゴン?」

「そうだ……心当たりは?」

「知るわけがない」


 だろうな、と準一は胸中で呟く。


「所謂、魔術師絡みなのだろうか」

「そうだろうな」


 と、準一が答えた直後、ラファエルが膝をカクン、と曲げ動きを止める。


「おい」準一。「クソッ……こんなところで。すまない大尉、機体ダメージが今になって効いて来たらしい」

「サブモニターの機体ダメージは?」

「ダメージ表記は問題ないのだが」


 準一は椿姫をラファエルに近づかせ、脚部関節を見、ラファエルが動かなくなった理由を知る。






 赤城内ブリーフィングルームにパイロットや各員が集められ、艦隊司令官がディスプレイ前に立つ。


「諸君」と艦隊司令官。「今回の我々の任務は難民救出部隊の回収、それにドラゴンの調査だったが、回収したフランス部隊からケンタウロスに似た兵器の情報を得た」


 艦隊司令が言うと、ディスプレイにマップ、丘陵地帯がマークされる。


「だったら我々も動くべきでは?」と一人が言う。

「動いていいなら部隊を飛ばして、ミサイルでもなんでも送り込むさ……それで、命令が下った。朝倉準一との連携が取れない以上、我が艦隊は一旦引くしかない。インド洋上の移動式人工島米海軍港に寄港許可が出た」

「司令、まだ大尉がいるんですよ、退くんですか?」

「そうだ。我々は退く。だが」


 と、艦隊司令はカノンを見る。「君はここを引き継ぐ部隊に合流してもらう」





「魔術?」と、ラファエルから椿姫に移ったフランセットは後ろのサブシートに座ると、シートベルトを締める。「どういう事だ、大尉」


 フランセットがシートベルトを締めたのを確認した準一は、ラファエルを抱えようとするが、ラファエルの脚部関節がボロボロと砂のように崩れフランセットは目を疑う。


「空間に影響する魔術だ。恐らく、魔術師が活動しやすい様に現用兵器を使えなくしようとしたんだろう」

「これが魔術……では大尉の椿姫は? ラファエルと同じようになるのではないか」

「俺達は機械魔導天使との戦闘も想定しているから、この椿姫もある程度は魔術に耐性がある。この機体は特別だ」

「特別な機体で、魔術の影響下でも活動できるのだろう。ラファエルは使えなくなったが作戦の継続を」


 いいや、と準一は砂に埋もれて行くラファエルを一瞥し、機体を反転させ元来た道を歩き始める。


「大尉!」

「言っただろ。こいつは特別な機体だ。お前は怪我をしていて耐Gスーツも無いんだ。椿姫で本気を出せばただじゃすまないぞ」

「だったら私を降ろしてくれて構わない」

「だから、お前を降ろす為に戻ってるんだよ」


 そう言われ、フランセットは大人しくなる。悪いな、と言って準一は椿姫を艦隊が居る筈の方へと向かわせる。





 引き継ぐ部隊、と合流したカノンは呆れ顔をするしかなかった。それは長門旗艦艦隊から合流した部隊、超巨大潜水艦メガセリオンに移乗し、案内されたCIC、その艦長席でふんぞり返る海賊衣装の碧武九州校校長代理を見てしまったからだ。


「お疲れーカノンちゃーん! 見て見て! 海賊衣装! 可愛いでしょ!」

「わー……」

「あれ? もしかしてお疲れ気味だったりする?」

「ええ、代理を見てたら一気に疲れちゃいましたよ。何してるんですか? こんなところで」


 そりゃもう、と代理は席を立ち、「艦長やってんのよ!」と、ポーズを取る。


「はぁ……艦長なのはわかりましたけど、引き継ぎって代理はメガセリオンで何をするんです?」

「ドラゴン退治だよ」

「え、調査じゃなくて倒しちゃうんですか?」

「そういう風になっちゃったのよ。本当は操っているであろう術者の事とか調べたかったんだけどね」

「だったら私を兄さんの元へ送り込んでください。機体は砂塵対策もしてありますし」

「ドラゴンを倒さない限り、ベクターも人間もあの砂漠じゃ数時間も持たないよ」

 

 席に座り直し、代理は帽子を深く被る。「さて、そろそろかな」現在、メガセリオンは潜望鏡深度まで浮上を完了しそれを確認した代理は「艦をこのままの深度で待機させて。準一君との通信が回復するまでは警戒態勢を維持で」

「ラジャー」と、CIC要員が応答。


 さて、と代理。「カノンちゃんも、準一君とメガセリオンが連携を取れるようになるまでは待機ね」


「ちょ、ちょっと待ってください。ベクターも人間も砂漠じゃ数時間も持たないって」


 砂漠での持たない、砂漠での気温の変化、天気の変化、気温等の事を言っているのではない。とカノンは理解し訊く。


「言葉の通りだよ。そうでしょ、ライラ」


 ライラ? とカノンは代理の視線の先、ランチボックスのサンドイッチと睨めっこするシスターライラを見つけ、何となく理解する。


「さっき説明したのをもう忘れたの?」代理に軽く呆れ、シスターライラは壁際のシートに腰掛けるとカノンに手招きする。「あ、はい」とカノン、ライラの隣に腰掛けると彼女から紅茶の入った紙コップと卵サンドを渡され、「ありがとうございます」とサンドイッチを一口食べる。


「むっ!? ちょっと! これ兄さんのサンドイッチの味ですよ! 何でこのレシピを知ってるんですか!」

「流石は兄ラブの義妹ね。この味に気づくなんて、ふふ」

「ふふ、じゃありませんよ! 私だってまだ兄さんの料理のレシピほとんど知らないのに!」

「あらそうなの。やっぱりあなたのお兄さんと私、相思相愛なのかしら」

「兄さんと相思相愛なのは私です! ふふん、私は兄さんの妹であり僚機ですから」


 自信満々に答えるカノンにクスクスと笑うライラ、「からかってないで、カノンちゃんに事情説明してあげて」と代理が艦長席から。


「からかってたんですか!?」

「気が付いてなかったの?」


 少し呆れ気味のライラ、カノンは「ぬぁー!」と両手を上げ、艦長席の代理は「賑やかだこと」と軽く笑った。

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