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少女の戦争

 戦闘場所は、想定通り。天候も望んだとおり、曇天から雨粒が降っており、視界が悪い。観客席には簡易屋根が敷かれているので幸いだ。


 市街地に姿を現した二機は、戦闘開始直後動き始める。まず動いたのはマリアのミゼル。ゴーグルセンサーを光らせ、持ったライフルを両手で構えたままビルの間を滑る。

 一方のカノン機、フォカロルは目の前の長いビルの根元にサイドアーマーのランチャーを向け発射。数回の爆発の後、根本が吹き飛び、ビルが倒れる。


「一気に、勝負に!」


 言い、カノンは倒れるビルにフォカロルを飛び乗らせ、足裏のランディングギアを吐出させ、ビルを滑る。滑った衝撃で窓がどんどん割れ、コンクリにヒビが入り煙に似た埃が舞い屋上近くでジャンプ。別のビルに飛び移ると、潰れかけの貯水タンクに身を隠し、膝を付きライフルを構える。

 フォカロルの構えたライフルはいつものレーザーライフル、カノンは実戦に近い戦闘なので、出力系を上げ、ミゼルが居るであろう地点を設定。



 ビル倒壊、爆発の音はミゼルに確認できており、マリアは「何を」と声を漏らすと武装変更。左手に持たせたミサイルランチャーを下に下げ、ビルに背を預ける。レイラの言った通り、ビルは強度が低いようでひびが入る。


「心許ない」


 盾にすらならない、というのは本当、と思った直後、ミゼルの左。30m程先のビルにオレンジの円が出来上がり、次の瞬間には円の中心から青のレーザーが飛び出し、円が液状に解け、そのレーザーはミゼルに迫り、レーザーの通り道である幾つかのビルは倒壊。

 迫るレーザーを避け、フォカロルに反撃しようとするミゼルだが、ビル倒壊の影響で煙が立ち込めているので確認できない。「これでは」と、マリアは舌打ち、一気に勝負に出たカノン、フォカロルに接近する為、ビルの間を匍匐飛行。

 その間、レーザーは何度もミゼルを狙っている、殆ど近く。恐らく、カノンは煙の動きなんかで狙っている、「流石」とマリアはレーザーの根元にミサイルランチャーを向け打ち込む。


「来た」


 ミサイルに気付いたカノンはフォカロル頭部バルカンをAAWアンチ・エア・クラフトに設定。30mmが火を噴き曳光弾がミサイルに迫るが、命中はしない。ミサイルは四散し、中からマイクロ弾が幾つも飛び出しフォカロルのいるビル、屋上に飛び次の瞬間には屋上は大爆発。

 しかしフォカロルはその中から飛び出す。数十メートルジャンプすると、少し先のガラス張りのビルの屋上へ。


「ダメか」とマリアはトリガーを押す。ミゼルのライフルが20発の弾丸をガラス張りのビルに撃ち込み、フォカロルの周囲にガラスの破片が舞う。フォカロルは破片の舞う中、ユニットを噴射させ、アイドリング状態へ。

 ライフルをマシンガン形態へ切り替えると、サイドアーマーから七つ、グレネード弾をビルの根元へ落とす。それが爆発し、ガラス張りのビルはミゼルの方へ倒れ、この距離では当たる、とマリアは判断。ライフルを構えさせたままミゼルを後退させ、距離を取ろうとしダメもとにライフルを発射。弾倉を空にさせると、弾倉をパージ。予備に切り替え。


「何を」と、カノンが何をする気なのか、とビルを見ると、フォカロルはユニットを使ってビルを滑って此方に迫っている。フォカロルはミゼルを視界にとらえマシンガン発射、同時に腰からハンドガンを抜き撃ち続ける。ミゼルはそれを回避、ミサイルランチャーを捨て、背中のマウントラックからブレードロッドを抜刀。


 ―――接近戦が望みなら


 マリアはミゼルをジャンプさせ、フォカロルに迫る。距離を詰められたフォカロルは、ミゼルのブレードロッドに気づきユニットを逆噴射させると、ガラスを突き破りビルの中へ。そのままサイドアーマーをガラスに着地したミゼルへ向けるとグレネードを撃ち込む。

 それを受けるミゼルではなく、すぐに回避すると先ほど捨てたランチャーへ戻ると、ライフルを撃ち、ビルに穴をあけ、その中にミサイルを一気に叩き込む。爆発がガラスを突き破り、オレンジの炎が溢れ出るとフォカロルは飛び出し、ハンドガンで牽制射撃。

 まるで、挑発しているかのようだ。


「いいわ」とマリア、カノンのフォカロルの行動は明らかな挑発。「乗ってあげる」フットペダルを踏み込み、ミゼルは加速。ビルの間を滑るフォカロルは、ユニットを使用していない。足裏のランディングギアで滑っているのだが、それでも早い。匍匐以降しかでき無い上、今回の戦闘では推進剤、噴射剤に制限が掛っている。その上、高度制限が敷かれている以上、ランディングギアを使った方が良い。

 速度では、ミゼルの方が勝る。


「乗って来た!」


 誘いに乗ったミゼルが迫っている。カノンは笑みを浮かべ、滑りながら機体をミゼルへ。後ろ向きの機動だ。トリガーを引き、サイドアーマーから発煙弾を撃ちだす。それらは大通りを挟んだビルの前に落ち、煙を発生させる。

 それを合図にライフル発射。手応え無し。


「やっぱり、ダメ……!」

「発煙弾だなんて、古典的!」

「こうでもしなきゃ、私はあなたとの戦力差を埋められませんからッ!」


 ここでビルを曲がる。ミゼルはフォカロルへ続く。曲がった瞬間、視界が真っ白に。発煙弾。しまった、と思うが遅く再び持っていたランチャーを撃ち抜かれ、誘爆を考え投げ捨てるとランチャーは爆発。飛び道具が減った。ミゼルの装備は腕部内蔵ガトリングガン、ライフル、ロッド。そして今壊れたランチャー。

 フォカロルはそれなりに飛び道具を持っている。目を向ければ、先を行くフォカロルは発煙弾を撃ち、それを最後に加速。


 ―――でも、これが彼女の勝負?


 勝負に出たにしては、乏しい結果だ。これが、と思うがまずはフォカロルの飛び道具を削ぎ落さなくては、近接戦に。


「接近戦に持ち込めば」


 言うと、マリアは武装切り替え。腕部内蔵兵器、砲口を角を曲がったフォカロルの進路上へ。間にはビル。障害物。だが問題ではない。耐久度が低いのだから。


「来ないッ! まさか……!」


 ミゼルの武装を把握していたカノン、それを思い出した時、フォカロルは大きな衝撃に揺られビルに叩き付けられていた。







「何? 今の」と訊いたシスターライラは、隣の準一を見た。「蜃気楼の波が見えたけれど」


「衝撃砲」


 と、準一はモニターから目を離さず紅茶の入ったカップを手に、口を開いた。「ミゼルの固定武装だ。左腕部に装備された、制圧用武装。別名、空圧縮砲」


「空圧縮砲?」

「ああ、空圧縮砲は本来、殺さずに生身の人間を制圧する装備。衝撃砲は、その強化版だ。超高密度の空気圧縮弾を撃ち、大きな衝撃を与える。ミサイル、ガンと違って機体にではなくパイロットにダメージを与える、衝撃砲ってのはそういう武装だ」

「じゃあ、あなたの義妹。不味いんじゃないの?」

「いいや、あいつは下調べをしている筈だ。衝撃砲対策は施してある、きっとな」


 ベクターに詳しくないライラは紅茶を一口飲むと、ボソリと呟いた。


「少女の戦争か」








 ビルを突き抜け、フォカロルのすぐ近くに着弾した衝撃砲。衝撃でビルに叩き付けられたフォカロルは思いのほか早く立ち上がる。コクピットのカノンは、いつもの運動着ではなく、ちゃんとしたパイロットスーツで、その上から耐衝撃のジャケットを纏っている。頭には頭部防護も兼ねたヘッドセット。

 頭は痛い、ガンガンする。これだけしていても、衝撃は来る。


「衝撃砲は、一度だけ」


 ミゼルは、本郷義明の愛機、スティラと違い連射できない。海外製品であり、衝撃砲に関しては数世代前のものであるからだ。切り替えていないのは、マリアがこれを気に入っているからである。


「直撃じゃなかった」


 とマリアは呟くとミゼルをジャンプさせ、フォカロルの居る場所まで行くと、ビルのワイヤーガンを撃ち込み、壁に張り付くとロッドを抜き、壁を突き破ってビルに入り込み、まだ足の覚束無いフォカロルの背後を取ると、フォカロルの背中のラックのレーザーライフルを弾いた。

 ラックのマウントアーム、ロッキングボルトが抉れ、ライフルは少し後ろへ。


 ―――まだ、前が!


 若干視界がぼやけて見える。その為、近くになければ敵が見えないカノンはロッドに殴られ続け、衝撃に揺られるだけ。仕方ない、とサイドアーマーからグレネードをばら撒くと、ミゼルが離れたのを確認し後ろへ下がる。

 

「逃がさない!」


 ミゼル、追撃開始。ロッドを手にライフルを撃ちながら接近。フォカロルは腕部装甲を厚くしており、それを盾の代わりに顔の前へ。弾丸は腕に弾かれ、マリアは舌打ち。


「ライフルが」


 武装が1つ消えた。ライフル、どうすれば。と考える。思いつかない、今はまず隠れるしかない。と、先にある広いホールのあるビルに潜り込むと、受付カウンターの見えるエントランスにフォカロルは膝を付く。


「損傷……確認、腕が。これじゃ」


 カノンはサブモニターの損傷率確認、フォカロルの腕、右腕の関節にダメージ。衝撃砲の影響と無理な体勢でビルに激突したからだ。右は利き腕だ、左で狙撃できないわけでは無いが。


 ―――直に、ここも発見される


 胸中で呟き、カノンは周囲を見渡す。そして上、吹き抜け、というより屋上まで空洞。中身の無い樹木の様なビル。このビルから出るのは、エントランスから出るしかない、が一本道。鉢合わせする。上しかない。壁を壊し、後ろへ逃げたいが、後ろ側の壁は堅い。壊すには、グレネードが居る。爆発で見つかる。

 現在、二機はレーダー機器が使えない。目視での戦闘になっている。その為、トラップなんかは使いやすい。通信機器は使える。

 マリアはフォカロルを探している最中、完全に発見されるまで、それなりに時間が掛る筈。何かするなら、今しかない。武装の出し惜しみは無し、この戦闘で負ければ、自分は兄の手伝いができなくなる。

 カノンは深呼吸し、機体を立ち上がらせた。

 





 雨が降る中、ビルの角から通りを覗くミゼルは、フォカロルが入ったビルを見つけた。それなりに高い建物、入口は広い。入るとすればここか、とサブモニターを見る。衝撃砲はまだチャージできていない。が、この周辺の建物の耐久度は低い。

 今のチャージ率でも、小出しに撃てばビルくらい。


「隠れてるとしたらあの中」の直後、ビルのエントランスからグレネードが飛び、ミゼルの近くに着弾。「やっぱり、この中に」


 今回の戦闘は、管理下にあるとはいえ実戦と違わぬそれを許可されている。「悪く思わないでね」とだけ言うとトリガーを引く。衝撃砲が数回鳴った直後、ビルの根元に煙が立ち上がり、マリアはライフルをエントランスに向け、セットしたマガジン内の弾丸を撃ち込む。

 これで、倒壊するビルから逃げ出せない様に足止め、倒れれば、フォカロルは動くのが手一杯。そうなれば、自分の勝ちだ。


 ―――彼の隣を奪うのは気が引ける


 勝てばうれしいだろう、が、罪悪感も大きい。彼女から奪ってしまう。彼女の全て、彼女の兄を。

 ミゼルは勝利を確信したのか、腕を下ろし、その場に立ち尽くす。

 だがそう言っていては、勝って彼女に申し訳ない。堂々と―――


「―――もう勝った気ですか?」


 聞こえた彼女、朝倉カノンの声に驚いた直後、ミゼルの腕のライフルが撃ち抜かれた。レーザーが飛んで来た方向を見ると、あの倒壊したビルより数十メートル後ろ、抉れたビル、屋上の貯水タンクの横にフォカロル。

 この雨で視界が悪く、確認できなかった。


「さっきのグレネードはリモート……私に、ここにいるぞと焦らせるための」

「そうです。……マリアさん、私は何が何でも勝ちに行きます」

「少し見縊っていたわ。やっぱり、侮っては危険ね」


 先ほどのグレネードは、エントランスにサイドアーマーの片方を置いていた。

 マリアは既に自分の機体がフォカロルに狙われている、と知っている。しかし、下手に動けば当てられる、が、動かなくても同じだ。角に隠れ、しゃがむとほぼうつ伏せに近い状態で匍匐飛行。フォカロル、ライフル発射。

 吹き付ける雨を蒸発させたレーザーは、ビルを突き抜け、ミゼルの目の前に飛び出す。ドロドロに溶けたコンクリから飛び出したレーザーを急停止で避け、ミゼルは再加速。角を左へ、このままフォカロルへの接近を試みる。


「次」


 と、カノンは撃とうとし、レーザーライフルの銃身加熱に気付く。出力を上げていた所為か、先ほど、ライフルを撃ち抜くまでにチャージしていた所為か。熱された銃身に雨が当たったからか。いずれにしろ、冷却されるまで待たなければ、このまま撃ってしまえば銃身が解け、回路に高熱が回りエネルギー回路が爆発し機体にダメージを受ける。


「やっぱり、銃身加熱」


 殆ど勘だったが、それを読んでいたマリアは止んだ狙撃に笑みを浮かべると、ワイヤーガンを高いビルへ打ち込み、巻き取り、ユニットで加速。同時、腕部ガトリングガンをフォカロルへ。腕部ガトリングガンが火を噴き、断続的な曳光弾がフォカロルへ飛ぶ、フォカロルはタンクを盾にハンドガンを構え発砲。

 ミゼルは一発を肩に受けるが軽微、気にする程度でもない。一方のフォカロルはそれなりに威力のあるガトリングガンを肩に受け、後ろにたたらを踏み、脚を踏み外し、ビルから落下。


「ッ!」


 カノンは歯を食いしばり、ワイヤーガンを打ち込んで急に止まった衝撃に堪えるが、次の瞬間にはワイヤーガンの先端がビルの壁から外れ、フォカロルは再び落下。ミゼルはワイヤーガンを使い、落下中のフォカロルへ接近すると、回し蹴りを叩き込み、フォカロルは道路に落下しコンクリートを抉りながら転がる。

 衝撃砲を喰らった程の衝撃波内にしろ、揺られ、起き上がった時にはミゼルが迫っており、ロッドを振り上げていた。


「終わりよ!」


 マリアは叫び、ミゼルは仰向けのフォカロルにロッドを振り下ろすが、フォカロルはもう片方の腰からハンドガンを抜き、両手に持ったハンドガンをクロスさせロッドを受ける。それに驚くマリア、カノンはフォカロルの足を上げ、ミゼルの腕を蹴ると、ユニットで後ろへ逃げ、起き上がり両手に持ったハンドガンを連射。

 構わずミゼルはフォカロルに接近、ロッドを横に一閃。

 フォカロルはしゃがんで回避すると、発砲しようとするが左のハンドガンは弾切れ、右を向けた瞬間、ミゼルのロッドに右手のハンドガンを弾かれ、回し蹴りを受ける。


 再びの衝撃に揺られ、フォカロルはこけそうになるが堪え、ユニットを使い後ろへ。左手のハンドガン、頭部バルカンを撃つがダメージは無い。そして、左手のハンドガンが弾切れになり、弾倉を切り替えようとするが、ミゼルの腕部ガトリングガンを腕に受け、ハンドガンは弾き飛ばされ、頭部バルカンだけに。


「そんな豆鉄砲で」

 

 マリアは言いながら機体を接近させ、ロッドを構える。


「こうなったら、近接戦しか!」


 バルカンで勝ち目はない、近接武器である伸縮式のロッドを取り出そうとトリガーを押すが、左袖、ロッドが飛び出る射出口が動いていない。ひしゃげている。


「どうして……! さっきので」


 先ほど、ミゼルのガトリングガンを受けた為、射出口がひしゃげて。しかしこうなっては武器は出せない、ロッドが無ければ圧倒的に不利。正面モニター、迫ったミゼルはロッドを振る、フォカロルは間一髪で避けるが、ミゼルに蹴りを受け、ビルに背中をぶつける。

 ミゼルは再びロッドを構えている、次、とカノンはフットペダルを踏み込み、右肩からミゼルにタックル。フォカロルはロッドを肩に受けたが、何とか持ちこたえ、距離を取る。が、左のユニットのロッキングボルトが外れる。

 ベクターの飛行ユニット、そのロッキングボルトは堅くは無い。アームで固定はしているが、無茶な格闘戦、壁にぶつけたりを繰り返せばこうなってしまう。


「こんな時に!」


 カノンが声を漏らした直後、フォカロルは体勢を崩し倒れ込み、起き上がるより早くミゼルが迫り、カノンは目を細めた。ロッドを振り上げたミゼルの中で、マリアは呟いた。


「これまでね」

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