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ルミナス

「流石、大尉殿。まさか彼を。主犯と違うのも差し引いてもとんでもない」と言った陸佐は、となりの準一に向けて言葉を言った。2人は、以前九条と2人で行った収容施設に居た。翌日の事である。


 幸い、昨日の銃撃戦では民間人に被害こそ無かったものの、公共交通機関の大手を担う鉄道車両の一両を大破させ、レールにも深刻な損害。当然準一は御叱りを受けた。が、それだけだ、反日軍の重要参考人である張・狼の確保に比べれば軽い。



「しかし、民間人の居る所で発砲か。考えモノじゃないか?」

「言わないで下さい、気にしてるんですから」

「昨日の犠牲者は1人、八幡西署の警官だとか。日本人では一人だが、日本人以外では結構な数だ」


 一体、昨日だけで何人殺したのやら、と殺しへの感情、感覚が薄れた自分の手を見、ため息を吐くと施設を見上げる。


「陸佐、先に言いますが。俺は休暇中ですよ」

「知っているよ」

「何故、俺も?」

「何故とは、愚問だな。流石、安楽島司令にシスターライラ、碧武の代理に巻き込まれ体質と言われるだけある。君は。本当に同情するよ。休暇中なのに」

 

 この野郎、と準一は胸中で言うと諦め、施設に歩く陸佐に続き、無機質な施設内を進んで尋問官の居る部屋まで行くと、陸佐が敬礼。準一はしない。休暇を潰された事はそれなりにショックだからだ。


「彼は?」と尋問官、スーツ姿の青年の事が分からず聞く。「海堂陸佐、あなただけだとお聞きしましたが」


「一人じゃなくて申し訳ないが、彼は張・狼を捕まえた張本人だ」

「彼が……成程、大和の」


 尋問官は準一の大和部隊での活躍を知っているらしい。


「初めまして朝倉君。ここで尋問官を務めている者だ」

「こちらこそ」


 と準一も言うと尋問部屋の扉が開き、中に案内され、耐爆ガラスを隔て、陸佐は張と向かい合い、隣のパイプ椅子をだし「君も座ったらどうだ」と準一に聞く、が準一は拒否し立ったまま。「捻くれたな」

 ほっとけ、と胸中で言うと、ガラスの向こうの張を見、ため息を吐く。


「あなたは?」と張、不敵な笑みの陸佐に聞く。「知らない顔ですね」


「陸上自衛隊の者だ」

「陸上自衛隊? 何故自衛隊が、ああ。そうか、そうだった。下手をやらかした連中が、そちらにどこまで話しました?」

「MMEの新型機。核を示唆する会話」


 やっぱり、と張は準一を見る。「何か言いたそうだね、君は」


「……あんたは、MMEの新型機、核を知っていた。どうでも良い事なのに、何であんたは首を突っ込んできた」

「何で、と言われても。MMEの新型機、アレは本来反日軍へのモノだったんです」


 MMEが反日軍に? と驚いたのは陸佐、陸佐は続ける。「何故、MMEが。何故、MMEの機体を反日軍じゃなくて、不法入国者たちが?」


「本当に、ちょっとしたミスですよ。ウチの受取人が警察と揉めて、その間にね」


 張の後、準一は口を開く。


「新型機だが。一機だけじゃないだろ」

「何故そう思うんです?」

「取りに来ないからだ」


 MMEの新型機、高性能は確かなので欲しいだろうに。奪う素振りすらない。奪い取るなら早い方が良い。なのに、黒崎に居て、何をしようと。


「黒崎に出向いた理由は簡単、彼らから直接聞こうかと思いましてね」

「何を?」


 陸佐が聞いた瞬間、施設が大きく揺れパイプ椅子がずれ、準一は構える。


「核の所在を」

 

 次の瞬間、張の居る側が瓦礫で埋もれ、その煙の中に巨大な手が見え準一は口を開いた。


「ベクターを」




「施設守備隊! 何をやっている!」と、施設の所長は受話器に叫び、ブラインドの下で動くイーターを見、目を細める。施設守備隊は応戦するが、イーターはあっという間に張・狼を連れ出し、姿を眩ませた。





「まだ連中は核を手に入れていないようだが、MMEの新型機は複数ある可能性がある。探せ」と陸佐は携帯の向こうの部下に言うと、ため息を吐いた準一を見る。


「今、君が守備隊のベクターに乗り追いかければ捕獲できるか?」

「無理ですね。この為だけの早い行動ですから、既に捕捉できませんよ」


 仕方ないか、と陸佐は再び携帯に「哨戒機、ヘリを飛ばせ。イーターだ」と吹き込むと、準一に続いて施設を出、先に帰った。






 昨日、マリアはレイラに特訓相手を頼んだわけだが、結果は10戦やってすべて引き分け。マリアはもはやレイラの強さに呆れかえっていた。


「あなた、実戦部隊にはいったら? やっていけるわよ。強いもの」

「でも実戦は怖いですもの。いやですわ」


 会話する2人はシュミレーターカプセルから出、ベンチに座っている。


「でも、英国じゃ割と暴れてたじゃない」

「あれはその場のノリで……活躍も、無かった事ですし」


 ああ、とマリアは納得すると手に持っているスポーツドリンクの容器のストローチューブに口を付け一口吸うとため息を吐く。


「それにしても、訊きましたけれど、カノンと準一の戦闘パートナーの座を掛けているのでしょう。嫁の私を差し置いて、あなたは自分が本妻だと」

「ぶふッ!!」


 ドリンクを吐きそうになる程咳き込んだマリアは顔を真っ赤にし、手の甲で口元を拭う。


「な、何を。わ、私が本妻だなんて。そもそも、嫁とかホント。妻とかホント」

「まぁいいですわ。まずは、強力な妹2人を撃沈後、あなたとはじっくり決着を付けてあげますわ」


 よくよく考えてみれば、このお姫様。誘っておいて何だが、結構真剣に付き合ってくれている。良い人だな、とマリアは息を吐くと笑みを向け、レイラは「ん?」と訊くと閃く。


「私、レズじゃありませんのよ?」


 良い人だが、お姫様は変わっている。








「MME、マイクス・マシン・エレクトロニクスの新型機は、実戦投入に先駆けたデータ収集用高性能実験機であり、驚く事に第五世代機と渡り合える性能を持ちながらコストが低く、量産に向いている」


 と、答えたのは本郷重工御曹司、本郷義明でもはや彼は準一と会う時は女装が当たり前だ。しかし、学校のショッピングエリア、そのコアな層が集まる区画だけあって視線は集まる。


「なぁ、何で急にこんな事を? 何かあるのか?」

「いいや。特に。しかし流石だな。こんな事を知っているとは」

「だろ? お前に訊かれたからって言ったら調べてくれてな」


 彼の父親は、準一に対してかなり恩を感じており、信用もしている。だからこそ、準一の頼みであれば断らない。


「あ、そうだ。あとな、その新型機の名前は『ルミナス』。椿姫以上の汎用性の高い機体だ。はっきり言って、現状のベクターの中じゃトップレベルでオプションが多いと考えていい。どんな武装も取り付ければフィットするのがルミナスだ」


 厄介だな、と思いながらもコストの低さ、量産に向いている。2機じゃない。まだいる。と考えため息を吐く。


「やっぱり、厄介な事になってるんだろ? 聞いてんだぜ、朝倉は今休暇中だって」

「はは。そう、厄介事だ。残念ながらな……ありがとう、義明」

「おう」


 と義明はピースし笑顔を向けた。






 ルミナスはまた一機、発見された。工場跡地にルミナスの右腕。どうやらルミナスはバラバラにされ保管されていたらしく、コンテナには『MME CONTAINER』


 見つけた捜査員はMMEのそれがあったとこにゾロゾロと攻め入った特殊部隊の後、その足音じゃない別の足音を聞き銃を持つ。相棒に背を預け音を探そうとした時、ピン、と音が鳴り直後、何かが転がる音。

 グレネード、ではなく発煙弾で、しまったと思う中、煙の中に張が入り込み、2人の首をナイフでパッと切ると、戻って来た特殊部隊の先頭の一人にナイフを投げつけ、隣に転がるとサブマシンガンを取り出し、1人を射殺。それから銃を奪い取らず、グレネードのピンを抜き、殺した部隊の男を奥に投げ、爆発。

 

「雑魚が」


 と呟いた張は黒煙の中を走り、壁を突き破った片腕だけのルミナスに近づくと、差し出された右手に飛び乗る。このルミナスは回収部隊だ。ルミナスは置いてあった腕を持ち上げると、集結していた警察機関の車両に向け頭部バルカンを斉射。薬莢がバラバラと落ち、オレンジの曳光弾が車両を次々と爆発に変える。


「メアリーのあるタンカーへ。ルミナスを回収できるだけ改修後、さっさと逃げる」


 張のそれに頷いたメアリーは、ハッチを開け張を収めるとすぐ横の湾に飛び込んだ。








「さっきだ。米海軍のリーベンス司令が直接俺に連絡してきたよ。核ミサイル確保、だってね」


 言った九条は大和艦長室、執務机の前に椅子に座りボカロのCDを並べている。


「どこで、確保したんです?」と訊くのは副長、磯島。九条は「ん」と声を漏らすとため息を吐き副長に目を合わせる。


「中東」

「中東? 奴ら、不法入国者達は中東から核を?」

「じゃないかな」


 中東には売人がうようよしている。核となれば大金だが、それさえ払えば手に入る。不法入国者にだってパイプはある。


「取りあえず、最近捕まった不法入国者達は施設でボコボコにされてるんじゃないかなぁ。きっと。よくよく考えたら最悪だよ」


 九条は椅子にふんぞり返り肘掛けを撫でる。


「あんな国籍偽ったりした連中の為に、俺達の給料が税金に抜かれて使われてたんだぜ」

「言っても始まりませんよ。前よりは、厳しくなり少なくなっています。それに、最早日本は彼らにとって住みやすい国じゃない。民主主義はとうの昔に終わりを告げています」


 だからこそ、内部崩壊を図れないからこそ。中国、韓国政府は反日軍を造り出し、言ってしまえば日本、中韓は冷戦状態だ。


「それより、核の入手経路は?」

「えっと、リーベンス司令の話じゃメイドインコリアだそうだ。ミサイルに韓国国旗が書いてあったとか」

「奪われた? とか」

「リーベンス司令は、そうらしいと。どっちにしろ、核の不法所有だ。何かされるだろうな」


 かわいそうに、と思っていない事を言った副長は呆れ気味に息を吐き、被っていた帽子を脱いだ。


「大尉は、張・狼なる反日軍の重要参考人と戦ったとか」

「うん戦ったね。しかも、銃撃戦からの殴り合いらしいよ」

「魔法は、ああ。安楽島部長が駄目だと。あの人も、人が悪い。大尉、朝倉君に迷惑かけすぎですよ」

「だよなぁ。今だって、準一君は休暇中の筈なのに駆り出されてるんだぜ」


 かわいそうに、とこっちには本心から言った副長はCDを重ねだした九条を見、苦笑いし思った。

 ――きっと。敵は、勝負に出るぞと


 



「ルミナス、各機、起動。確認」とアナウンスに頷いた張はタンカー、メアリーコクピットで微笑むと、「各自。奴を炙り出すぞ、一番機以外、搖動。一番機、いいか。クライアントからのお願い事は、朝倉準一の椿姫との交戦だ」

 

 低い声の了解、の後。ルミナスは太平洋から九州へ飛んだ。

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