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不穏な進展

話が思いついてきたので

 放課後の碧武九州校、カノンは稽古していた。稽古内容はいたって簡単、シュミレーターでの戦闘訓練だ。

 一週間後、困った事に決闘の際、ほふく飛行しか許されていない。ユニットで一定以上の高度を取る事は許されてい無い上に、一週間後は一日曇り、そして雨だ。あまり狙撃には向いていない天候であり、尚且つ、カノンの苦手な市街地戦だ。

 碧武で市街地戦があった場合、被害最小に抑える為に動かなければならないが、訓練地だ。好き勝手動いて構わない、が、市街地戦となればミサイルなんか撃って爆発が起こり、衝撃波で飛来した破片なんかで攻撃が出来たりする。

 敵にも味方にも、考えて行動しなければならない厄介な場所だ。


『LOST SIGNAL』


 とカノンのシュミレーターに赤文字。どうやら負けたようだ。モニターを見て見れば、接近されてナイフで止めを刺されている。


「負けました」

「みてりゃ分かるよ」


 の直後、不機嫌そうな顔をし、別のシュミレーターからマリアが出て来、ズカズカと準一に近寄ると口を開く。


「どうして義妹に手を貸しているのかしら」

「え?」

「だから、どうして義妹に手を貸しているの? あなたは強い、私やこの子以上に。そんなあなたが特定の1人に教えてたんじゃ不平等だわ」


 確かに、と思いカノンにごめんなさい、と謝る準一。「それもそうでした」とカノンは言うとマリアを見、「やきもちですね」


「だ、誰がやきもちよ! べ、別に私は!」

「マリアさんは可愛いですね。ツンデレですよ」

「にゃー!」


 頭が痛くなってきた準一は、じゃれはじめた2人から逃れる様に外へ出た。







 市街地戦、天候は雨。それに曇り。雨が細かく一種の霧に近い状態になって有視界戦闘は難しい。レーダーを頼っての狙撃戦。大丈夫、とシュミレーターを始めたカノンは仮想空間でフォカロルを戦場に入れると、マップ表示。索敵、同時に狙撃ポイントの特定。

 

「今回の戦闘じゃユニットはほふく飛行だけ」


 一番近いビルに着くと、フォカロルは腕部をビルの屋上に向けワイヤーガンを撃つ。固定、引いて確かめた後、それを巻き取り登って行くと屋上に。積んであるコンテナに隠れ、ライフルスコープで覗くと高速道路の下に敵機は隠れている。

 仮想的であるミゼルは、フォカロルのスコープに気付く事無く周囲を警戒するだけ。カノンがトリガーを引けば、ミゼルはコクピットブロックを撃ち抜かれ、動力炉に誘爆。


「終わり」


 と呟いた瞬間、ミゼルはショルダーアーマーから発煙弾を撃ちあげた。しまった、と思うが遅い。撃ってしまった後だ。まだ撃墜判定は出ていない、次、と動こうとした瞬間、ビルに弾丸の嵐。

 狙撃ポジションに気付かれた、ビルから飛び降り腰部グレネード弾を目の前の建物に撃ち、その中へ。そのままミゼルの居た方へ建物の中を進んでいる時、建物に攻撃を受け瓦礫が降り注ぎ、耳に響くセンサーの音。次の瞬間には左右から爆発が襲い、シュミレーターの機械音声はカノンの敗北を伝えた



 その仮想空間での戦闘をモニターで見ていた結衣は、市街地戦でのシュミレーター設定を確かめていた。先ほどの瓦礫の後の爆発。「トラップ設定、確認」とシュミレーターカプセルから出て来たカノンを見、息を吐く。


「兄貴から聞いたよカノン。一週間後に鹿児島でマリアと一騎打ちでしょ?」


 うん、と頷いたカノンはどうしよう、と考える。「何か対抗策はあるの? マリアって近接射撃共に弱点無しだよ」


「だね……だから始まってすぐにポジション確保。マリアさんの射程外から一撃で仕留めなきゃ」

「カノン、別に真っ向勝負じゃなくてもいいんじゃない?」


 結衣に言われ、カノンは「え?」と訊きかえした。結衣が言いたいのは、人のいない市街地戦だからいつものように気を遣わなくていい。


「確か、マリアって妹がいたよね」

「うん。今は別のトコらしいけど」

「あ、でね。前、マリアに聞いたんだけど、市街地戦でツーマンセル。妹が前衛でマリアは支援だったの。その時、マリアは市街地で自分たちは数が少ないからってトラップを使ったの」

「さっきみたいな?」

「そ、マルチランチャー式のロケット弾頭に発煙弾と遠隔で任意起爆できるそれを付けて」


 まずはランチャー発射。発煙させ、発煙させると煙玉と思わせ、それを残し、再びそこへ誘導。適当な弾幕牽制で足を止め、爆発させ脚部なんかにダメージを与える。


「私も、トラップを?」

「うん。あたしが言える事じゃないけど、ハッキリ言うと、カノンはマリアに勝てないよ。真っ向勝負じゃね」

「分かってるけど……トラップなんて。卑怯でしょ」


 え? とカノンは素っ頓狂な声を返し、すぐにため息を吐いた。


「カノン、あたし聞いてるんだから。ここで負けたら、カノンは兄貴の相棒じゃなくなっちゃうんだよ?」

「で、でも……一騎打ちだし。正々堂々」

「あのねぇ、何でそんなとこ真面目かなぁ。何でシュミレーターにトラップ設定したと思ってんの? カノン、兄貴の嫁ポジも、相棒ポジもマリアに取られていいの?」

「だ、ダメ!」

「じゃあ覚悟決めて。ってか、機甲艦隊の任務って実戦でしょ? 使った事無いの? トラップとか」

「私は殆ど兄さんの支援だから。殆ど空中か大和甲板」


 ない事を意外に思いつつ、常に兄が仕事を持って行っているのだろうな、と苦笑い。しかしすぐに真剣な顔になった結衣は口を開く。


「で、取りあえず。マリアもトラップを使うって考えた方が良いよ。マリアは意外にも兄貴に惚れてるみたいだし、簡単に譲らない。それに、狙撃戦じゃ決着つかないよ」


 いつになく結衣は真面目だ。伊達に碧武九州校最強等と言われているわけでは無い彼女は、よくよく考えれば2年生の中で成績トップだ。


「確実に、マリアは近接戦を仕掛けてくる。それを見越しての装備にしないと。……一騎打ちって言っても訓練に近い、きっと刀形状のロッド。伸縮性のそれか」

「前に兄さんがどこからか購入したガンブレード」


 拳銃に短めの刀身が装備された銃剣、ガンブレードだ。


「ダメかな」

「ダメ。あれは近接戦が得意な人じゃないと、リーチが短いから簡単に懐に飛び込まれる」


 そっか、とカノンは引き下がる。しかし、かといって自分は刀系の武器も使えない。


「ねぇ、何でカノンって近接戦が苦手なの?」


 何で、と訊かれてもと考える。「どうしてだろう。生身なら出来るんだけど、ベクターに乗ると剣とか使い難くて」


「ん……んん?」


 と結衣は何か思いつく。「カノン、今からあたしとシュミレーターで近接戦やってみよ」


「え? いいけど、ちょっとまって武器の設定」

「だめ、武器無し」

「武器無し?」


 武器無しの近接戦? そんな。出来るわけが無い。兄は何度か武器無しで数機を制圧した事を知っているが、自分は兄じゃない。

 無理だ、と思うが目の前の、栗色のボブヘアの美少女は何か確信した顔をしている。


「カノン、剣を振り回すだけが近接戦じゃないんだよ」


 目の前の彼女は近接戦に優れている、カノンの中には明確に負けたくない、という意思が込み上げていた。結衣に言われ、思った。マリアには譲らない、兄の隣にいるのは自分だと。









「良かったでしょ? カノンちゃんの腕」


 訊いた代理は、歩道、隣を歩く朝倉準一を見上げ声を掛けた。腕、というのはあの術式の事だ。カノンが早々に退院できた理由である。


「骨に直接術式を、カノンは玩具じゃありませんよ」

「知ってるよ。準一君にとって、数多き大切な女子の一人でしょ?」


 嫌な言い方だな、と思いながら前を見ると信号機が赤に変わる。現在、妹2人が結託した翌日、休暇中の朝倉準一は自宅に押し掛けた校長代理に連れ出され、ある場所へ向かっていた。

 現在、準一はスーツ、代理は私服だ。


「ってか代理、何であなたまで来るんです? 関係ないでしょう」

「関係あるよ。君はあたしの学校の生徒だからね。にしても流石準一君だよね。休暇貰ってすぐに拳銃見つけて、外人犯罪組織のいざこざに巻き込まれて、空自が解決したかと思えば再招集。休めた?」

「まさか、夜中に電話貰ったんで寝不足ですよ」


 と言うと信号機が青に変わり、音楽が流れ始め、昼下がりの横断歩道をサラリーマンが走る。恐らく、昼飯を食べに出、遅くなったのだろう。時計を確認している。


「で、準一君。お嫁さん候補と義理の妹、君はどっちを応援するの?」


 どっち、と言われても、と準一は「さぁ」


「さぁって、はっきりしなきゃ」

「昨日マリアに言われたんですよ。カノンに教えてる時に、それは不公平だろうって」

「ああ、マリアちゃんはツンデレだからね」

「戦力的な意味で言ったんですよ、きっと」

「鈍感」

「何とでも」


 答え、横断歩道を渡り終えると目的地が目に入った。八幡西警察署だ。






「では、これより」と、言った初老は茶色のスーツ、ネクタイをキュッと締めパイプ椅子をずらし立ち上がると頭を下げた。「捜査会議を始めさせていただきます」


 八幡西警察署内には捜査本部が設立され、現在は会議室。

 会議室内は煙草臭い、会議前から年配警官たちがタバコをガンガン吸っているのだ。

 言わずもがな、準一、代理も参加している。何の事件の捜査本部かと言えば、悪鬼が事態終結に乗り出した不法入国者達の件。準一は拳銃を拾った事と、必要以上に情報を提供されたので呼ばれていた。


「まず我々から」


 と若い男が立ち上がり、長机に置いてあった緑茶缶をずらすとメモ帳を持ち上げる。


「博多港で押収した武器、薬物。あれ以外に若松のコンテナ載積所から新たに武器が見つかりました」と、一枚捲る。「MMEの試作機です」


 準一は眉を顰めた。MME、マイクス・マシン・エレクトロニクス。後輩である本郷義明の実家、本郷重工と繋がりのある海外の重工企業、その試作機。何故そんなものが日本に。しかも密輸でだ。


「MMEに確認は」

「しましたが、知らないの一点張りです」


 以上です、と若い男は座り、灰皿に置いたタバコを吸い始める。準一が吸おうとすると、代理に手を叩かれ、止めておく。


「はい」と次に立ち上がったのは女性の捜査員だ。「その試作機に関わりがあるかは分かりませんが、我々は折尾地区で聞き込みをした所」


 折尾地区は外国人が多い。日本国籍の有無にかかわらずだ。


「この間と同じ、一泡吹かせる。と、そして」と、女性捜査員は隣の若い男性捜査員を見る。男性捜査員は立ち上がり、メモ帳を広げ、緊張しているのか咳き込む。「すいません」と、謝ると、他の捜査員たちは気が抜けたようになる。


「こ、この地区で訊き込みをし、在日外国人からの話です。その不法入国者の中でも過激な一味が言っているのを聞いてしまったと」


 言い難いのか、捜査員は唾をのむ。


「早とちりは奴らの勝手だ。俺達には、『核』がある、と」


 一瞬、時間が止まったように静かになるとざわめく。準一、代理も驚いている。ホワイトボード前の初老が「静かに」と言うと静かになり、続行。続いての情報。


「空自の一件の後の不穏分子一斉摘発の際、陸上自衛隊小倉駐屯地周辺で、ロケットランチャーなんかの携行火器が多数見つかり、芦屋基地周辺ではかなりの量の爆薬を積載したトラックが発見されました」


 言ったのは、中年の捜査員。


「恐らく、小倉、芦屋基地を潰し」と中年は後ろの方の席に座る碧武九州校校長代理を見る。「恐らくは、碧武に襲撃を」


「碧武九州校校長代理、何か知りませんか?」

「いえ」


 と言った代理は準一を見る。準一も同じ、何も知らない。すると、一番後ろのオールバックの男が手を挙げる。準一は、その男を見て驚いた。深い緑の制服、陸上自衛隊の海堂陸佐だ。


「陸佐、自衛隊側から何か?」

「はい。試作機についてです」


 落ち着いた陸佐に合わず、場はざわめく。


「今朝方仕入れた情報です。大使館を通して、米軍からのモノなので信用できるかどうかは分かりませんが。現在、MMEは日本の重工企業に劣っています。高性能試作機を開発したMME側としては、日本の高性能機を負かすか、互角に張り合える、それを証明したいようです」


 つまりは、購買意欲を沸かせるための実践デモンストレーション。


「密輸はMMEが?」と、初老が聞くと陸佐は頷く。


「そう考えるのが妥当でしょう。反日軍は金を持っていませんから、安物しかありません。マリンなんて高性能機は到底手に入れられないでしょう」


 相変わらず情報の早い男だ、と準一は息を吐く。すると陸佐と目が合う。


「しかし陸佐。何故、九州に?」

「さて、そこまでは分かりません、が。機甲艦隊の大和部隊には既存の最新世代、第五世代ベクターを遥かに凌ぐ、椿姫のカスタム機があるとか」


 陸佐は準一から目を離す、ここの捜査員たちは準一は碧武生、だとしか知らない。


「それに、仮に九州、福岡だけでも混乱すればMMEとしては儲けです。日本の技術が手に入りますから」


 現在の日本における福岡県は、工業、電装等に関しては国内随一の企業が集まっている。その上、現在は東シナ海で中華軍と沖縄の部隊が防空識別圏で睨み合いだ。戦力はそこに向いており、今、九州における内陸戦闘部隊の数は少ない。


「核に関しても、MMEが絡んでいるかもしれません」

「警察では限界がある。核は任せられますか、陸佐」

「分かりました。核の捜索は自衛隊が」


 言うと、陸佐は一歩下がる。そのまま捜査会議は進展なく終了、準一と代理は人に紛れて外に出ると、すぐに署の外へ。2人はそのまますぐ近くの公園のベンチに。

 代理は「煙草臭かった」とため息を吐き、準一はマルボロに火を点け、煙を吐く。


「タバコ! 臭い!」

「じゃあ。離れます」

「離れないでー」


 煙草臭い、と言うので離れようとすると代理は準一に抱き着く。どっちなんだよ、と準一はため息を吐くと、捜査会議の事を思いだす。核がある。危惧すべきだが、どうやって核を。ベクターのロケットランチャーで撃てたとしても、自殺行為。船舶? いや、そんな船がある訳ない。

 それに、まだ国内に核が入り込んだとも決まっていない。


「日本でミサイルサイロがあるのは富士、それ以外で核を撃ちたいのなら、イージス艦の弾道ミサイルにでも積むしかない。航空機で空中発射もあるけど、今それやっても的だし。射程が短くなる。核はどこにあるんだろうね」

「さぁ、分ればいいんですがね」

「だよねぇ。まだ核が完全に彼らの手中にあるか、それとも味方を鼓舞する為のハッタリか。はたまたまだ入手してないけど、事の保険なのか」

「考えても始まりません。俺からすれば、核よりも一週間後の一騎打ちの方が心配ですよ」

「え? この状況でやるの?」

「やるらしいですよ」


 全く、とタバコを吸い、地面に落とすと革靴で踏みつけた。


「何を考えているのやら」

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