休暇なんてありゃしない
休暇、と思い幼馴染を出そうとしたんですが
疲れるのでさらに疲れる選択をしました
首を捻りながらお楽しみください
「いいですかー、秋は活動の季節です。町内清掃、皆さん気合い入れて頑張りましょう」
とメガホンを持った初老の男性は、線路沿いの公園の砂場前、滑り台の上から集結した町内の老若男女に言う。これにより、ゴミ拾い開始だ。
現在、準一が帰省した翌日早朝。まだ空は完全に陽が昇っていないので赤紫色だ。
集結している人間はみなジャージとか、動きやすい服装。
「では、隣の町内会との合同ですので範囲は広くなりますが。皆さん、頑張ってください」
の後、何故か一番遠くの川沿い田んぼ道に連れていかれた準一は、溝に脚を突っ込んでゴミを拾っては袋に投げ入れている。ゴミ集めなんて、小学生以来だな、等と思いながらゴミを拾い集めていると、とんでもないものを見つけてしまう。
黒い袋、思い。中身は見えないが、拾ってみた感じ、覚えのある感覚だ。と袋からそれを取り出す。黒い小型の拳銃。
「何で……こんなもんが」
これをどうしたもんか、と思っていると
「おおエアガン!」
「すっげえ!」
と小学生がわんさか集まる。そこに「ほら、ゴミ拾い」と御爺さん。立ち上がった準一はその銃を隠すと「お腹がッ!」と下痢のふりをし、その場から逃ようとし、腕を掴まれ、振り向くと巡回中の警察官が居た。
「ちょっと、来てもらおうか」
「ってー事で、おらんとこの管轄でも似た事件あってな、福岡県で特別に活動できるようになってんでしてね」
黒崎にある八幡西警察署、銃の事で準一は警官に同行。事情説明後、その事に関係しているとか何とかで出て来たのは、ベクター、桜吹雪を運用する警察部隊。彼等はどうやら他県から福岡県まで出張ってきたようだ。
「つまり、君のベクター操縦技術をこっちは買ってるの。協力してくれないかしら」と婦警さん。準一は「嫌ですよ」と立ち上がり、部屋を出ようとすると婦警さんに腕を掴まれる。
「市民の警察活動への協力は義務よ」
「協力にも限度があります」
「朝倉君、君、碧武生でしょ? ベクター操縦の専門校、それに」
と婦警さんは続ける。
「君の家の近く、今の所の捜査で一番ヤバいのはあの地域なの」
「ヤバい?」
訊きかえすと、婦警さんは上司の中年を見る。中年は「いっちゃってな」
「捜査資料は協力してくれるのであれば閲覧できるようにしてあげる。まず、私たちの管轄で事件があってね、不法入国の外国人犯罪者達がどこからか、武器、薬物を入手して、その一部が私たちの管轄で、そして残りが博多港で」
「それで何で八幡西なんです?」
「一人、関係者を捕まえて吐かせたのよ。そしたら、八幡西区を拠点に活動しているって」
折角の休暇が、と思っていると婦警さんは携帯で何処かへ連絡を入れ、終わると準一に微笑んだ。
「それじゃ、君の両親の許可は取ったから。これからは、私たちと一緒に行動してもらうわ」
マジで、折角の休暇が。休暇は一週間、一週間以内に片付けて休暇を取り戻さなければ。本当であれば、この程度の状況制圧、簡単に出来るのだが警察組織と協力するのであればあまり動けないし、椿姫を使いたいのだが、椿姫はまだ整備が完了していない。
「参ったなぁ」
自然と洩れた声は、ため息と似ていた。
依然、彼ら管轄の県、その港湾地区に入港していたタンカー、その積み荷のコンテナの中のコンクリートの中から数億円以上になる麻薬が発見された。そのタンカーの他のコンテナからはロケット砲、バラされた軍用ベクター。マリン。戦争でも起こすつもりな数だ。
博多港からはその倍の数。
捕まえたのはフィリピン系外国人、薬の売人であり、武器輸入も行っていたようで、吐かせた結果、活動拠点はこの八幡西区。西区にはベクター運用の警察部隊は無い。万一、ベクターを使用し暴れはじめたら、自衛隊の出動だ。
できれば、動く前に片付けたい。桜吹雪は9m級、もし椿姫の様な15m級が出てきては不利だ。武器的にも。
「一応、捜査員を派遣してるけど、成果は無しね。取り敢えず、活動範囲を直方市まで広げたけど」
「もし、その外国人たちが武装したベクターを使用すればどうするんです? マリン相手じゃ桜吹雪は圧倒的に不利です」
桜吹雪が小型なのは、警察組織で運用する前提、及び市街地戦を想定しているからだ。そんな控えめな機体じゃ完全軍用機のマリンと張り合えるわけが無い。
「桜吹雪で相手するしかない。自衛隊や他県のベクター運用の警察組織を要請しようにも、敵がいる、という確かな証拠が必要だから」
一瞬、マリアや千早が浮かんだが駄目だ。彼女らは15m級を使う。市街地が火の海になる。いや、敵が使っても一緒だけど。
「取りあえず、警察としては事がこれ以上進展するのはよろしくないんでっしゃって」
口を開いた中年は、出されていた烏龍茶のボトルを手に取るとキャップを開け、一口飲み帽子を脱ぐ。
「そういう事ね。前に何かあって入国審査が厳しくなったでしょ?」
それは俺が一役買っている事だ、と思う準一だが知らないフリ。頷いておく。
「だから、真面な人間は入国できても、思う所のある悪人は入れない。正規の手段では入れないのであれば、後は」
「不法入国ですか」
「そ、コンテナ船、民間船の積み荷、まぎれるならいくらでも方法はあるから」
そうなって、現在日本国内は一体どれほどの不法入国外国人が紛れているのか。在日を殺して戸籍を奪う、という手段などもある。
「だとして、流石に桜吹雪の搭載武装では不安が残ります。申し訳ありませんが、協力する以上、幾つか勝手を許してもらいますよ」
「分かったわ。で、何をする気?」
「いいえ、ちょっと武器の調達を」
「調達? どこから? まさか密輸?」
「目を瞑って下さい。碧武の軍港に入れてもらいますから、上に話は通せます。後は、あなた方が目を瞑るだけですから」
「……分かったわ」
では、と確認するように中年を見ると「知らないフリしてまっせ」と耳を塞いでいる。黙っていてくれる、という事だ。一礼すると通信端末を取り出すと、署を出、メニューを開く。相手を選択。
クラフト商会へ。
「もしもし?」と出たのは若い女性、「どちら様ですか?」と続けて聞いてくる。「社長を出してくれ」と準一、「申し訳ありません。ストレンジ社長は出せません」
準一は息を吐くと瞼を閉じ口を開く。
「朝倉準一」
「あら、分かりました。ストレンジ社長をお呼び致します」
名前を出した途端、出せないと言っていた社長を出す。相変わらず、と思いながら社長を待つと回線が切り替わる。
「久方ぶりだな特級少尉」と、代わった瞬間声が掛る。声は若い女性のモノだ。「活躍は訊いているよ」
「そりゃどうも、それより俺は特級少尉じゃない。特別階級から正規階級へ上がりだ。今は大尉」
「やっと昇格か、遅い位だ。そんなに活躍しているのに」
「俺の階級を上げるのに揉めたんだろうな。上の連中には魔術師嫌いが居るからな、俺に部下が付いての反抗なんかを恐れているんだ」
「何だ、そんな事をする気なのか?」
まさか、と準一は返すと「本題に入ろう」
「靴箆から核弾頭まで揃えられるクラフト商会に武器を頼みたい。特殊になる」
「構わない、言ってみろ」
「日本国製、9m級ベクター桜吹雪に合う射撃武器が欲しい。とびっきり凶悪な奴だ」
「狙ったようなタイミングだな、凶悪なのが揃ってる。……どこで戦うんだ」
「分からない。あるとすれば、福岡県内だな」
「市街地戦か」
「バカ言え、田舎だ。市街地戦なんて呼べるもんじゃない」
「それでもお前は9m級で戦う気なのか?」
「小回りが利く。戦闘と言っても、殆ど奇襲の形で仕掛ける。小型の方が良いからな、ああ、武装の他に外装、アーマーが欲しい」
「用意できるが、どうする気だ。日本の警察の機体を改造する気か? 設備は? 言えば用意するが」
「碧武がある」
「分かった」
とクラフト、準一の耳に資料を捲る音と何かキーボードを打つカタカタという音が聞こえる。
「最速で届くのはいつになる?」
「ハワイからだからな、半日以内に着く。輸送は行うが、場所は提供してもらう。何処にする」
「言ったろ、碧武がある。九州校だ。碧武の外部来客用滑走路を開けてもらう。そこに来てくれ」
「オッケーだ、ガンシップを伴った輸送機隊を送る。落とすなと言っておいてくれ」
「下手な真似はするなよ? えっと」
言い留め、準一は九条経由で航空自衛隊に頼み込んでいたそれを見る。輸送部隊の護衛には悪鬼を付ける事に同意。悪鬼は現在厚木基地から九州校へ向かっているそうだ。
「日本国の領域に入った時点で航空自衛隊の悪鬼が護衛に参加する。下手な真似はするなよ」
「するわけないだろう、わざわざ日本と敵対する気は無い。兵器も魔術師も、質が桁違いだからな」
「ならいい。だが、日本国領域に入るまで護衛は付けられない。くれぐれも、何も無いように」
「分かった。細心の注意を払おう。……しかし、何でまた警察が負う件に首を突っ込んでいるんだ?」
「本当は休暇だったんだよ」
しかし、このタイミングで休暇を渡した安楽島、なんだか悪意を感じる。準一はその悪意にため息を吐くと、上を飛行機が過ぎ去り、その音がヘリのローター音と重なる。
「休暇とは、しかしな。面白い。遊ばれているな大尉」
「分かってるよ。だとして、逆らう訳にはいかない」
「言ってみただけだ、大尉殿。どうやって状況を打開するか楽しみだ。それと、ウチは商売敵の武器密売人が嫌いだ。そっちに都合の良い情報があれば流す。端末は持っていろ」
「了解した、じゃあ頼む」
「ああ、もう輸送機はハワイから飛んだ」
そうか、と応じ、準一は端末を切り、ベクターを乗せたキャリアの運転席のドアにしがみ付き窓をノック。「どうした」と顔を覗かせた、優しそうな運転手は準一に笑顔を向ける。
「碧武九州校まで走らせられますか?」
「うちの上司の許可が取れればね。急用かい?」
「はい、桜吹雪を、改造します」
瞬間、運転手は射抜かれたようにのけぞり、シートに背を当てる。顔は驚いており、次の瞬間には絶望の表情を浮かべている。
「ど、どうかしました?」
「い、いや……改造なんて、あの洗礼されたスペシャルスレンダーな桜吹雪を、改造? あの状態で仕上がったあの美しい機体を……いや、仕方ない。実戦だもの」
どうやら、運転手はかなり桜吹雪が好きな様だ。まぁ、確かに美しい機体だ。好きになる理由は分かる。桜吹雪は1/60でキット化されており、ホビーショウでは最速完売したようだ。人気だ。いや、準一も好きな機体だ。
「でも改造は認められないなぁ!」
「改造しなきゃ、マリンには勝てませんよ」
「あ……ああッ! そうだった! クソぉッ! 俺の桜吹雪を!」
どんだけ桜吹雪好きなんだよ、と思っていると、3階の窓が開き、中年が顔を出すと、「じゃあ、碧武に行ってらっしゃってな」
許可が降り、準一はキャリアの荷台に乗り込むと、桜吹雪のコクピットに納まる。取り敢えず、システムを去年の様に自分仕様に変更、立ち上げ、モニター起動。周囲が見渡せる。
そして桜吹雪を乗せたキャリアは走り出し碧武九州校へ向かった。




