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第一楽章

「レノックス級駆逐艦と言えば、去年の環太平洋合同軍事演習リムパックで英国が投入した最新鋭の駆逐艦ですよ」と言ったカノンは、マリアらと共にいた。


 ねぇ、とエルシュタ。「リムパックって?」


「リムパックって言うのはアメリカ主催の海軍合同軍事演習の事ですわよ」とレイラ、「へぇ」とエリーナは感心する。


「でも、それが壊滅なんでしょ?」


 マリアが聞くとカノンは頷く。レノックス級が撃沈された事は、索敵障害から解放された大和のレーダーで分かっていた。それをカノンらに伝えたのだ。


「やはり、あの超弩級潜水艦スーパードレッドノートでしょうけど……問題は兄さんです」とカノンが顎に手をやると、「カノンカノン」とエルシュタが護符を取り出す。カノンはそれに見覚えがあり「それって、黒妖聖教会の?」と訊く。


「うん」


 頷いたエルシュタからそれを受け取ると、相手は要件を一方的に伝えてきた。

 どうやら、助っ人らしい。従者、ピエロ、オブシディアン・ゴーレムに漆黒天使。 


「随分と愉快なメンバーね……4人とも、準一にしか味方しなさそうだけど」

「でも、助かりますからね」


 カノンがマリアに言うとエリーナは「おほん」と咳払い。


「一応、私も機械魔導天使ブラッド・ローゼンがあるんだけどな」

「まだ駄目よ」


 エリーナにマリアが言う。


「ここで召喚しても、敵の動きの方が早いわ。私たちは、その助っ人に便乗しましょう」


 それに皆が頷いた。







 それはまさに急な事だった。急速接近する高速飛行物体、メガセリオンは浮上しており対地ミサイル発射前。急速潜航より先に敵機の方が辿りつく。それを考え、艦長はデッキに椿姫を出させた。

 椿姫が立つデッキの真ん中、接近してきた機、エドワードの駆るレイフォンは目の前に。てっきり沈めるのかと思ったが、考えてみればこの規模の潜水艦の装甲は、英国ベクターのマシンガンなんかじゃ撃ち抜けない。


「やる気か」と思った直後、映像回線。開くと、エドワードが睨みを利かせていた。

 

「先に訊くが朝倉準一……当主様に付く気は無いのか」

「無いからこうしているんだ」


 エドワードはもう敬語ではない。自分は、もう招かれざる客だ。


「ここまで来てしまった。もう、射撃を行おうにも逃げようにも、貴様とこの潜水艦に分がある」


 のエドワードの後、レイフォンは射撃武器を全てパージ。何、と思う間もなくレイフォンは左足を振る。椿姫は後ろに飛び、回避。刀を構えようとするが「無粋な!」と言いながらのエドワード、レイフォンのパンチが迫りしゃがむ。そのままレイフォンの顎にアッパーを叩き込む。

 怯んだレイフォンは3歩下がり、顎を抑える。


「流石、あれだけの活躍をしただけはある……強い」


 エドワードは言い、フットペダルを踏み込む。バーニア燃焼、ドン、と押されたレイフォン左腕を後ろにやり、椿姫からの回し蹴りを右腕で流すと、前に出していた右膝を曲げた直後に左足を回し椿姫の足を払う。

 デッキに音が響くと椿姫は尻餅を付く。レイフォンはそのまま追い打ち。両拳を合わせ、一気に振り下ろさせる、が、椿姫はそれを受け止め、左足でレイフォンを蹴り飛ばす。

 レイフォンの足裏がデッキ装甲板を削り火花が散り、30m程進んで止まる。

 次の攻撃を、とエドワードが思った直後、2機のレーダーに反応。瞬く間にメガセリオンより対空ミサイル。デッキが一気に白煙に呑まれエドワードが油断した瞬間、椿姫が大きく一歩を踏み出すと同時、ユニットを全開にさせる。

 一瞬、爆発が見えた、と思った。椿姫の接近に「しまった」と思うエドワードだったが、次の瞬間、椿姫は突如飛来した天使に攫われた。

 レーダー反応はファントム、ミサイルを掻い潜り、椿姫の腹部を掴んで急上昇。エドワードのレイフォンも続いて、メガセリオンより対空ミサイル。しかし当たる事無く2機は空の彼方へと消えた。





 レーダーに反応する事無く、太陽光を変換した矢は軍港に降り注いだ。接触地点より数メートル進んでの爆発は一気に広がる。避けるベクターもあれば、避けれず直撃の機もあり爆発は大きくなる。そして爆炎が止んだ頃、周囲一帯を埋め尽くした業火を漆黒の翼で斬り裂き、漆黒の天使が降臨。

 その過剰演出からか、エドガーの部下は一瞬恐れたがすぐに攻撃を開始する、が漆黒天使、アルシエルはサイドアーマーの砲口を向け、敵を薙ぎ払った。


「雑魚」


 と千早は退屈そうに言い、下を見る。鎧と虎が歩兵隊の制圧。舞華の任意箇所起爆魔法も正常に作動している。ゴーレムは後方より火力制圧の役割だ。



 敵のベクターはほぼ沈黙、大和は抜錨。九条の命令で後部ブースターを作動させ一気に動きだし、カノン、マリアが先に後部甲板に出た瞬間、マリアは何かに吹き飛ばされ、堤防に落ち、カノンも同じように堤防に落とされた。

 何が、と2人が上半身を起こすと、くせ毛の目にクマのあるメイド、フリスベルグが異形の銃を構えていた。


「トリガー変更。第一楽章。術式構築、処刑場をこの『多重演奏者』とし、悪しき者どもを」

 

 トリガーに指が掛る。


「処刑する」


 マリア、カノンはその高い身体能力を生かし、射線から離れる。異形の銃から撃ちだされたのは、蜃気楼の弾丸。風、かと思えば彼女らの横を通り過ぎた蜃気楼は地面を抉り、先の木箱などを破壊。


「よく切れる。これはギロチン、水か風が理想的。この開放的な軍港であればなおの事」


 笑みを浮かべるフリスベルグ、カノンは腰から拳銃を抜き、手近なコンテナに隠れ発砲。どうせ、これだけ余裕なら何かあるのだろう、と思っていたらフリスベルグは本当に何かあるようで無傷。銃弾は彼女の目の前で止まりポロポロと落下。


「私には効きませんよ。さて、観念しては如何です? 備品に備品が味方したところで結果は同じです」


 とフリスベルグが言うと、彼女の直上から巨大な影が迫る。その影はアルシエル、巨大な腕を突き出しフリスベルグを射抜かんとするが、それは叶わずアルシエルは倉庫に激突した。

 何が起こったかと言えば、突如飛来したファントムがアルシエルに蹴りを決めたのだ。その為、アルシエルは倉庫群へ落下。そこに椿姫も投げつけられる。


「兄さん!」


 カノンは声を出すが、聞こえる訳も無い。「余所見禁物ですよ」フリスベルグ、銃口が光ると再び蜃気楼の弾丸。撃ちだされたそれは、進行ルート上で光った爆発の爆風に呑まれ打ち消される。


「全く」とマリア、カノンに声を掛ける舞華は、太刀を肩に落とす。「妹達よ、余所見するなら余裕を持て」


「無茶言わないでほしいわ」

「そうですよ。そんないい魔法、持ってないんですから」


 いい魔法、と言われ「そうかそうか」と舞華は笑みを浮かべ、カノンの隠れるコンテナの前に立つと、不機嫌そうなフリスベルグに太刀の切っ先を向ける。


「そういう訳だ。私が相手をしよう。マニアックなメイドよ」

「いいでしょう。備品2つに倒しがいのありそうなお姉さん……備品よりは楽しませてくださいね」


 フリスベルグの微笑みに微笑みで返した舞華は任意箇所起爆魔法を発動させ、次の瞬間にはフリスベルグのいる海に面した堤防が業火に呑まれた。








「随分と……。ちょっと」と頭を抑えながらの氷月千早はアルシエルのコクピット内でモニターを開き、椿姫の準一に声を掛ける。「大丈夫?」


 隣に横たわる椿姫が起動、上半身を起こし膝を付く。


「ああ」と応じた準一、アルシエルのモニターに映る準一はコンソールを操作している。「どうかしたの?」と千早、「ダメージチェックだ……」問題ない、と準一は一緒に開いていた端末を閉じ操縦かんを握り、アルシエルと共に椿姫は立ち上がる。

 

 倉庫の天井に空いた穴を見、千早が目を細めるとビター・ファントムが真上から天井を突き破り襲来。椿姫はアルシエルを両手で掴むが落下のパワーと合わさった天使の力に押し込まれ、背中が地面に押し付けられる。

 が、黙っている準一ではない。フットペダルを思い切り踏み込むとスロットルレバーを危険値まで。床の埃なんかが燃え、オレンジの火花と灰色の煙が周囲に広がると椿姫はファントムを押しながら起き上がり、そのまま左フックをファントムに叩き込み、ファントムは倉庫の壁を突き破り弾き出される。

 無理やりの危険値。これでは、とサブモニターの損傷箇所チェック。バーニア損傷。

 戦闘に差支えありの損傷。

 くそ、と思うとアルシエルが飛び出し抜刀、ファントムに接近。起き上がったファントムはサイドアーマーを翻すと抜刀、右に回り終えるとアルシエルから突き出された剣を受け止め回し蹴り。

 アルシエルは蹴りを避け、上に上がった脚部で頭部に蹴りを入れようとするがファントムの肘で止められ、次の瞬間には足を掴まれ投げ飛ばされる。

 投げ飛ばされたアルシエルはコンテナの山に激突。コンテナの山はひしゃげる音を立てながら崩れ、アルシエルはすぐに起き上がる。準一はそれを見、椿姫をファントムへ飛ばす。ユニットを全開に、先の無理も祟ってか、出力が思うように上がらずバランスを崩したたらを踏みながらもブレードを抜き、突きの体勢でファントムへ。

 ファントムは椿姫に気付くと右掌で椿姫のブレードを逸らすと、左掌で椿姫の横腹を押す。すると蜃気楼の波、衝撃波が発生し椿姫は地面を転がる。


「良い技だろう。手を差出し、添えるだけで良い。無理な力は必要ない」


 聞こえたエドガーの声に、千早、準一は機体を起き上がらせる。


「しかし懸命だな。朝倉準一、ここに来ても機械魔導天使を使用しないか」


 それには答えず、準一は目を細め椿姫の手のブレードを構えなおさせる。刀身のチェーンが回転。耳に響く音が入り、それを合図にアルシエルが飛び掛かり、椿姫はブレードの切っ先を地面に突き立てると足裏のランディングギアをおろし起動。そのまま滑るように急発進するとファントムへ接近。


「丁度良い。白き天使より先に黒き天使から魔法を奪うとしよう」


 聞こえた時、千早は加速魔法で機を右にそらさせ翼を羽ばたかせると上昇させるが、ファントムの姿が無い。


「上だ!」と準一の声に見上げると掌を向けたファントムが直上におり、次の瞬間、アルシエルは頭部を掴まれる。


「終わりだ」


 とエドガーの後、幾つもの魔法陣が2機の周囲に浮かび上がり、その全てがアルシエルに取り付く。回路停止、そうなっては機械魔導天使は動く事すらできない。これから脱するには、このファントムを倒さなければならないのに。

 アルシエルは落下、軍港のクレーンの幾つかを潰し尻餅をつくと力なく腕を下ろす。千早は機から降りようとするが、目の前にエドワードのレイフォンが現れる。


「動けないのであれば」


 エドワードは言い、レイフォンの腕の内蔵ブレードを吐出させると胸部に突き刺そうとするが、レイフォンの腕は深紅の機体に掴まれ投げ飛ばされる。レイフォンは空中で姿勢制御、足裏でコンクリートを削り地面にブレードを突き立て減速し、目を深紅の機体に向ける。


ブラッド薔薇ローゼンか……大和に」


 コクピット内で冷や汗を掻くエドワードだが、すぐにブラッドローゼンの弱点に気付く。あの機体は魔法が使えない。


「幾ら機械魔導天使と言えど、魔法が使えなくては」

「ベクターで私のブラッド・ローゼンに勝てると思わない方が良い」

「言ってくれる!」


 エリーナからの挑発とも取れる言葉にエドワードはフットペダルを踏み込む。ドン、とユニットの噴射に押されたレイフォンは急発進、するがすぐに接近警報。何、と思い、見ると、太刀を構えたプロトⅡが迫りながら腕部ガトリングガンを連射している。

 ジャンプし回避、そのまま後ろに下がり始めると、ブラッド・ローゼンが背中のスラスターウィングを起動させる。蒼の炎を噴き出したブラッド・ローゼンはレイフォンに接近、同時に持ったブレードでの一閃を振るうが受け止められる。


「この程度!」


 吼えるエドワードは操縦桿を押し、ブラッド・ローゼンを引きはがそうとするが、迫っていたプロトⅡにまで気が回らずレイフォンは頭部に回し蹴りを喰らいたたらを踏む。

 

「くそ、ベクターもか」


 エドワードの悪態に「ええ」と答えた声は続ける。


「今回の私がただ黙っていると思ったら大間違いでしてよ!」


 まさか、と笑ったエドワードは背中のマウントラックから剣を抜くと刀身に熱を走らせる。


「レイラ様が戦列に参加してしまうとは」


 ふん、と言ったレイラは勝手に借りたマリアのプロトⅡ、その腰から剣を抜くとユニットを全開にしブラッド・ローゼンと共にレイフォンへ斬りかかった。








 幾つもの爆発が広がり、その中に呑まれたフリスベルグは風の弾丸を撃ちだし業火を渦巻かせた。まるで竜巻のような炎の渦は堤防横の海面から海水を巻き上げさせ、フリスベルグは魔法を発動させる。

 術式構築。


「処刑用の刃を変更、風に水を含める事により切れ味が高まる」


 青の光が銃身に走ると周囲から集められた水が収束、一気に撃ちだされ渦が舞華たちに迫る。カノン、マリアに避ける術は無く舞華が2人の前に立ち太刀を振り下ろし、術発動、任意箇所起爆魔法、迫る渦を挟む様に紅の紋章が幾つも出現し、次の瞬間には爆発。

 周囲に衝撃波が走ると爆風波はその渦を掻き消し、舞華は加速魔法でフリスベルグに迫る。


「いい魔法ですね。私も欲しかった」


 言ったフリスベルグは眼前に迫った舞華に微笑むと、舞華よりも早く動き踵で舞華の顎を蹴り上げる。


「でも、いいのは魔法だけみたいですね」


 宙を舞いながら、歯を食いしばった舞華は太刀を振る。任意箇所起爆魔法は正常に作動し、フリスベルグは爆発に呑みこまれ、爆風に押された舞華は堤防をバク転しながら着地すると、太刀の切っ先を向け魔法を発動。

 断続的に爆発が起こるとフリスベルグは爆炎から飛び出し、『多重演奏者』を舞華に向ける。


「興ざめですよ。お姉さん。魔法が良いだけみたいですね。あなたには工夫が無い。飽きました」


 直後、フリスベルグはスカートの中からもう一丁、『多重演奏者』と取り出す。「デュエット開始です」

 2丁の銃身に魔力が届き、光が灯る。浮かび上がった魔法陣は赤。それがオレンジに変わる。同じ、爆発系、いやそれに近い。

 気付いた時には遅く、その迫ったオレンジに光りは舞華を呑み込んだ。


「舞華さんッ!」


 火球の膨れ上がり、衝撃波が届き激しい爆風から身を護る為コンテナの陰に隠れたカノンは、衝撃波が収まると顔を覗かせ、力なく倒れ込んだ舞華に叫んだ。マリアも舞華を助けようとしたが、動けない。


「冗談……あのクソメイド。朝倉準一と同等の強さだなんて」


 フリスベルグの戦闘能力に気付いた時、マリアは背筋を震わせた。勝てるわけが無い。自分たちでは、あの朝倉準一と同等の強さ。あのメイドは、加速魔法に対応できている。恐らく、そういった判断が出来る人間なのだろう。それに追いつく理由は、風魔法を体に纏わせているからだ。風魔法は、加速、防御、両方に使える為、加速、硬化魔法以上に使い勝手が良い。

 

「まだッ」


 膝を立て、舞華は立ち上がると太刀を構えるが多重演奏者の銃口は狂い無く舞華を捉え、次の瞬間には同じオレンジの光が迫り、先ほど以上の爆発が広がり、すぐ横の海面に蒸発からの水蒸気と波が立ち上がった。

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