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天使と対天使武器


 あっと言う間に機は拘束された。巨大な潜水艦だけあって、それなりの広さの格納庫。椿姫を拘束していたフロッグマンはそのまま、周囲を別の機体が囲み、射撃武器を椿姫に向けている。

 コクピット内の準一はコンソールを操作、機体は動作に問題あり。今からでは、細かなチェックだけで時間が掛る。治すなんて、自分だけじゃ無理。

 通信障害、いや通信回線を奪われている。外との連絡は無理。

 限界だな。と呟くと、ハッチを開け昇降用ワイヤーを垂らし床に降りると、武装した集団が開いた隔壁から飛び出すと銃火器を構えたまま準一に駆け寄る。


「随分と」


 と準一は片手をあげ、もう片方の手でヘッドセットを撫で「椿姫、機体ロック」とリモートで命令。椿姫はシステムをロック、ハッチを閉じる。


「この状況下では、流石の第五世代ベクターも打つ手なし、と言うわけね」


 聞こえる女の声。顔を向ける。


「まさか……驚いたな」


 準一は驚き、両手を挙げる前にヘッドセットのスイッチを切る。


「それは此方の台詞よ」


 言った女は困った様な笑みを浮かべる。


「何であんたがいるんだか……シスターライラ」


 準一に言われ、シスターライラが微笑むとその向こうからドレスの女性が歩いてくる。その相手を見、準一はこれまた驚く。


「さて、あなたにここに来てもらったのは、そうね。彼女から。ね、お姫様」とライラ。「ええ」と応じたお姫様は微笑む。


「初めまして、レイラの騎士、準一。私はカトレア・ヴィクトリア……レイラの従妹です」


 えっと、第何皇女かは忘れたが、準一は彼女の事を知っている。カトレアは、レイラの従妹。年齢は4つほど離れている。


「あなたに謝りたくなってきたわ。申し訳ないわね。遥々日本からパーティーに呼ばれて……想定外にエドガーの接触が早くてね」


 言ったライラはカトレアを見、頷く。カトレアも応じ「皆さん」と言うと武装集団は銃を降ろし武装解除。


「全部話すわ。着いて来て」と言ったシスターライラはカトレアと歩きだし、角に隠れていた少女、ジェシカが顔を覗かせた。







「哨戒艇より報告、巨大潜水艦、ロストしたとのこと」と言った大和、CIC要員の1人。コンソールを弾き、メインモニターへ報告、消失海域の座標表示。


 そうか、と応じた九条を余所にレーダーを睨む女性は顔を顰める。気付いた副長は目だけを向け


「どうした」


 と訊く。「はい」と応じた女性要員は一度顔を向け頷くと、「モニター借ります」と言いコンソールを操作。メインモニターにレーダー、それを画面半分分割、もう半分に映像を。


「暴風雨が止んでから、数機の英国軍ベクターが此方へ向かって来ています」


 それは、と言った九条は続ける。「事後処理なんかの部隊じゃないのか?」

 

「違うみたいです」と言った女性要員、映像が再生される。「英国海軍の通信ネットワークからリンクした物です。映像は、ベクターと随伴の電子偵察機から」


 向かって来ているベクター、ヘリもおり全てフル武装。この状況下では仕方ないだろうが、それにしてもヘリであってもベクターも、多少の救急装備すら付いていない。


「この装備は、英国空軍が単独で行う基地制圧戦装備です」


 制圧? と訊いた副長。九条は「戦闘態勢へ移行」と指示。皆応じ、戦闘態勢へ。FCS/ON。


「トーマス中佐へ繋いでくれ」

「了解」


 九条の後、応じた女性。トーマス中佐へ回線。


『どうしました、九条艦長』

「申しわけない。中佐、聞きますが其方の軍が基地制圧戦装備で向かって来ているが」

『確認中です。が、我々も困っている。負傷兵の医療措置どころか、回収すら終わっていない』

「支援部隊を編成しています。そちらから要請があれば、すぐに医療措置、回収共に手伝えるが」


 いや、とトーマスは続ける。


『考え過ぎだと思うが、基地司令、艦隊司令からの意見だ。すぐに英国を離れた方が良い』


 そうしたい所だが、椿姫が鹵獲された。それにベクターが向かって来ている以上、動き出しても逃げられない。

 いや、まだ敵、と断定したわけでは無いが。


『が、ベクターが来ている以上、そうはいかないか』


 だな、と応じた九条は礼を言い通信を切る。


「どうしますか」と訊いた副長は、艦長席の九条を見、息を吐く。


「トーマス中佐、艦隊、基地司令なんかも我々と同じ、置いてけぼりと見て間違いないだろう。俺の想像の範囲だが、向かって来ている部隊は制圧部隊とみて間違いない。……カノンちゃんとマリアちゃん。エリーナちゃん、エルシュタちゃん、レイラ姫に指示。今ならまだ隠れられる」





 九条の指示で、レイラ、マリア、カノン、エルシュタ、エリーナの5人は艦内へ。マリア、カノンは機体をロックし後部甲板へ降ろしている。2人が機体から降ろされたのは、敵の数が多いので戦闘になって撃破されるより、艦内に隠れていた方が安全、という点からだ。

 朝倉準一大尉がこの状況下、存在していない以上、大和の戦闘能力は激減する。フェニックスが居れば戦闘速度での離脱も可能だったが。









 巨大潜水艦の中を歩いて思った事は、潜水艦と思わせないほど広い。先導するカトレア、ライラの背中を見ながら隣に並んだジェシカを横目で見る。


「お姉ちゃんとは仲良くしてる?」

「それなりにな」


 準一は言い、向けていた目を前に向ける。


「クォーターであっても吸血鬼。あの能力を使った以上、婚姻の義とされる。……ねぇ、本当に結婚するの?」

「答えに困るな。何とも言えない」

「あ、そう……それにしても、あんた本当に巻き込まれ体質ね」


 え? と訊くと目的の部屋に着いたようで中に案内される。


「じゃ、後は2人に」とジェシカは「アデュー」と手を振り部屋を出、残ったのは準一、ライラ、カトレアの3人。


 

「さて、まずは気になっているであろう事、を答えたいのだけれど……多いでしょ?」とレイラ、青白くモニターだけが光る部屋の中、準一は無言で頷く。「じゃあ、まずは私たちの目的から」


 カトレアが頷くと、横目で確認したレイラは口を開く。


「まず、彼女、カトレアがここに居る理由が、私たちがここに居る理由よ。黒妖聖教会は、それなりに依頼を受けるわ。今回も依頼よ、カトレアからのね」

「何でお姫様が教会に依頼を?」

「そりゃ、依頼しなきゃいけない事態が起こったからよ。中心には2人、エドガー、そしてバンシー。私たちの目的は単純明快、エドガー・アニェスの打倒よ」


 本当に単純明快だ、と思いながら準一はジッと見て来るカトレアに目を向ける。


「アトランダムの潜水艦に乗艦し、黒妖聖教会に依頼するほど、エドガーを打倒したい理由とは?」


 それは、とカトレアはゆっくりと口を開く。 


「彼を倒さなければ、英国は彼の手中に堕ちてしまうからです。……近衛隊隊長、エドガー・エニェスは現在、女王陛下側近部隊の司令官。まだ陛下は女王の座を次期に譲るつもりはないそうですが、既に老いておられる方。言い方が悪いですが、頭が少しおかしくなっています。ですから陛下は殺し合いを黙認し、興味本位でエドガー等と言う男を王室の近くに招き入れた」

「……興味本位? 何かしらの経緯があったのでは?」

「ありません。ある日いきなりやってきて、あれだけの地位を手に入れた。気味の悪い男です。既に、英国軍の幾つかは彼の息が掛っています。王室打倒、彼が画策するのはそれです」

「どうしてエドガーはさっさと事を起こさないんです?」


 起こせないのよ、と口を挟んだシスターライラはカトレアに向けた目をすぐに準一に。


「英国は続いていた内部争いで国力は多少なり低下してるわ。ベクターは第4世代の初期が限界。数も足りない。ただ、クーデター紛いの事を起こすことは間違いないの。実際、このカトレアはエドガーに協力者になれ、と誘いを受けた訳だし。知ってる? このアトランダムの巨大潜水艦、完成の為のスポンサーは彼女よ」


 カトレアはそれなりの数の組織に顔が利く。だからこそスカウトしたのだろうが、カトレアはクーデターなどに興味なく、訪れた平和を崩されたくない、とも願っている。


「ま、平和が一番なんですけど、相手が相手ですから。こうやって世間的な悪を使う事にしました。ですが、誤算でしたよ」


 と困った顔を浮かべたカトレアは準一を見、ライラが口を開く。


「そ、一番の誤算はあなたよ、朝倉準一。まさかエドガーが接触できるだけの切っ掛けがレイラ・ヴィクトリア以外に揃っていたなんて……。知らなかったわ、あなたが1年前、バンシーと接触し仲良くなっていたなんて。どんな偶然よ。巻き込まれ体質もいい加減にしてほしいわ」


 何で俺が文句を言われなければ、と思う準一はため息を吐く。 


「本来であれば、騎士なんて呼ばない就任パーティーなんだけれどね。あなたという見逃せない存在がバンシーと関わっていた、それが原因でお呼ばれして今に至る訳よ。よろしいか?」とライラ。準一は頷き、青白い光を放つ床を見る。


「まぁ、端っから関わりたくなんて無かったから。さっさと帰りたいから軍港に戻りたいんだが」

「そうはいかないわ」


 目を細めるライラ、準一は「どうして」と訊きかえす。


「アトランダムの2度の襲撃、全ては貴方の為よ。1度目は無人機のテストを兼ねた襲撃、2度目の軍港襲撃はあなたをここに連れて来る為」

「テストって、迷惑な」

「2つとも、負傷者はいても死人はいないわ……それより、あなたはどうせ戦わなきゃならないわよ。確か、あなたはエドガーの誘いをパーティー会場で断ったわね」


 と言ったライラは壁に目を向け、準一も同じ場所を見ると映像が映し出される。

 映像は軍港の映像。

 軍港の部隊とは別の部隊が、軍港部隊の機体を踏みつけ、軍人たちを一か所に集め、ベクターが大和を囲んでいる。

 ベクターは、近衛部隊のエンブレムを付けている。 


「エドガーは狂っているわ。一体、彼がどこから来たのか、クーデター紛いを起こし、対機械魔導天使装備を手に入れ何をしようとしているか。さっぱり。ただ、今現在彼がやっている事は大和、クルーを人質にし、あなたを挑発する事」


 言ったライラは準一を見、続ける。


「見せつける様に大和を人質にしてる。あなたは行かざるをえないわ。望もうが、望むまいが。モテる男は辛いわね」


 冗談、と言った準一は諦めたようにため息を吐き、カトレア、ライラを順に見る。


「で? 結局行かなければならなくてよ? 私たちに付く?」と訊くカトレア。エドガーは信用できない、が、かといってカトレアが信用できるわけでもない為、準一は首を振る。


「そう、構わないけれど」とライラ。「あなた、相手は機械魔導天使よ? 幾ら椿姫でも無理があるわ。ビター・ファントムは相当な性能を持った機よ」


「分かってる……けど、あいつは対機械魔導天使を持っているんだろ? 規約違反してアルぺリスで戦っても、それを使われたんじゃ」

「……私の知る限り、対機械魔導天使が使用された例は少ないわ。で、ヴェネツィア美術館で読んだ文献の中にあったのが、対機械魔導天使装備の弱点」

「弱点? そんな物があるのか」


 それじゃ、てっきり対機械魔導天使との戦いじゃ有利な武器かと思ったが、数で掛られればそうじゃなくなるわけだ。


「ええ。昔は、機械魔導天使じゃなく『天使』と呼び対機械魔導天使も『対天使武器』となっていたけれどね。で、対天使武器の弱点は尋常じゃない量の魔力の消費よ。本来、対天使武器を使用する際は、かなりの手順を踏まなくちゃならないの。発動術式から使用可能術式、一番重要なのがバンシーを妖精の位から天使に上げ、堕天使に落とし、堕天使としたバンシーをコアにしなきゃならないの。エドガーは、その一番重要な手順を行っていない」


 流石、どうやってかある程度エドガーについて調べたらしい。


「コアにしないと、膨大な対天使武器の魔力を天使が上手く循環させられない」

「だったら、エドガーはすぐにコアにするんじゃないか?」

「しない、いえ。出来ないわ」

「何故?」

「だって、既にビター・ファントムにはコアがいるもの、相当レアなケース……いい? ファントムのコアは、操縦者である、エドガー自身よ」


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