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日本海侵攻戦②

大和では起きる時間は5時だ。準一達は夜勤組と入れ替わり。


他の船員に、準一は男性組、カノンは女性組に混じり、手伝いに入る。


「ごめんねカノンちゃん。準一君と居たかってでしょうに」

女性船員が、艦内清掃をするカノンに謝る。


「いえ、気になさらないで下さい」

準一と居たかったのは本当だったが、顔にも態度にも出さず言った。


「流石に男たちの中にカノンちゃんみたいな超可愛い娘を放り込むわけにはいかなくて」


言われ、カノンは小さく微笑み返す。


確かに、とは言えなかった。この大和の船員に、異性が居たとして不純な感情を持つ人間は居ない。カノンも、女性船員も男性陣を信頼している。


「で、聞きたいんだけど、カノンちゃん、準一君とは? 上手く行ってる?」


「う、上手くだなんて・・・そんな。私と兄さんはまだ学生で結婚だなんて」

女性船員は聞いて思った。馬鹿なこと聞いたなと。


「で、でも兄さんが言ってくれれば私は――」

これから数十分、カノンは準一への愛を語り続けた。



一方、準一は手伝いをしようとしたが、艦長に呼ばれ艦長室に居た。


艦長室には艦長、九条と準一の2人。入った準一に九条は中華圏防衛軍の作戦参加の旨を伝える。


「龍蒼・・ですか」


「ああ、呆気なくオッケーされた。正直拍子抜けだったよ」

九条が準一に向く。腑に落ちない表情で準一は考え込む。


「やっぱり納得・・ってか腑に落ちないよな」

言われ準一は九条に向き「ええ」と返す。


中華圏防衛の重要戦力。それの投入。


「・・・準一君、どう思う?」


意見を聞かれ、準一は出されたコーヒーを一口啜る。


「艦長。これはあくまで推測です。俺のいう事は何も気にしないで下さい」


九条は黙って頷くと椅子にふんぞり返る。


「米軍、中国政府は裏で取引をしているんじゃないでしょうか。核を窃取した中国側は、核密輸を公表しない代わりに核を受け取ったんでしょう。恐らく、中華軍は米軍の核を爆撃機に搭載し、使用するつもりです」


準一がここまで言うと九条は幾つか疑問を浮かべた。中国側が核を使用するメリット、核を米軍がおとなしく渡した理由。


「そうですね。まず、中国側が核を使うメリットはこの大和を沈める為でしょう。そして、米国が中国に核を使用させる理由も同じです。利害の一致、と言った所でしょうね」


言い終えた準一は再びコーヒーを啜る。九条は「よくもまあ、んな事思いついたね」と呆れ顔でため息を吐く。


「最初に言いましたよ。あくまで俺の推測ですので」


「にしても、この大和を沈める為にそこまで」


「大和はこの2大国にとって、脅威でしかありません」


準一の言った事はもっともで、大和は参加した各作戦において、華々しい戦果を残している。アジアの小国、と小馬鹿にしていた日本がこれ程に戦闘艦を所有する。2大国としては、いつ牙を向くか分からない脅威でしかない。


「失敗する、となると躊躇わず米軍は後退、中華軍は核を持って大和を沈める。成功が分かると米軍の別部隊が基地制圧に入り手柄を持って行く。そして、手柄を貰った米軍は撤退、中華軍の核攻撃・・・俺はこう思う」

九条が体勢を変えず準一に言う。


「ですので、万が一を考え艦長に頼みがあります」


「お、なんだい?」

コーヒーの入ったカップを手に持ち聞く。


「敵基地攻撃に関してです。成功が分かると、米軍は確実に別部隊を送り込みます」


九条は頷く。


「司令部制圧、ではなく基地は完全に破壊できませんか」


真摯な眼差しの準一に、九条は「参謀本部の命令は、司令部の制圧だ。流石に命令外の事は出来ないな」と言うとコーヒーを啜る。


「そうですか」


「とは言ってもついさっき、参謀本部から知らせが来てね。横須賀でV-24十数機がいつでも飛べるように待機してる」


九条が説明する。準一は「マジですか」と苦笑いする。


V-24は、米国軍海兵隊で運用されている垂直離着陸可能な、ヘリコプターと固定翼機の特性を併せ持つ輸送機である。ティルトローター方式を採用したそれは、運用能力が非常に高い。


「それと、これも司令部から。敵対する、と分かれば米軍だろうが中華軍だろうが構わず潰して構わない。だそうだ」


聞いて準一は笑みを浮かべる。


「って事で準一君。君は先陣を切ってくれ。遠慮はいらない、存分に暴れてくれて構わないよ」

笑顔を浮かべた九条。準一は「了解」と一言言うと艦長室を後にする。


<><><><><><><><><><><><>


「と、言うわけで結衣に元気がない」

お昼時、ショッピングエリア東街のカフェテラスで菜月が言った。


カフェのテラスに居るメンバーは3バカ(シャーリーを除く)の2人である。


ちなみに何故昼時に生徒がショッピングエリアに居るのかというと、今日は碧武校はお昼で終了なのである。


「あれじゃない? 準一君とカノンちゃんの既成事実造りの旅が無事に成功したっていう報告でも来たんじゃない?」


アンナが言うと、菜月はカフェモカをズズッと啜る。


「でもそうだったら結衣のあの様子は納得」


啜るのを止め、アンナが言うと4人は今日の結衣の様子を思い出す。


一日中俯き何かを考え込んで、顔も曇っており、テンションは超が付くほど低かった。


「何か、放課後になるやいなや結衣はシャーリーとどっか行っちゃたね」


「シャーリーは結衣に何があったか聞く。と言ってた」

言った菜月にアンナが答える。


「そういや、綾乃もどっか行ったね」

アンナは言うとカフェモカのグラスを持つ。


「んー」


「菜月。どうしたの? 考え込んで」


「いや、準一とカノンちゃん・・・子供の名前どうするんだろう」


「あー、気になるね」


アンナは言うと小一時間ほど菜月と考え込んだ。


<><><><><><><><><><><><>


午後、時刻が5時を回る頃。大和に通信が入り、大和を旗艦とした機甲艦隊は戦闘態勢に入った。


入った通信は、中華軍核搭載戦闘機、閃星が核搭載長射程巡航ミサイルを発射。


戦闘態勢に移行した大和艦長室で九条は受話器を置いた。


「やってくれたな中華軍。てっきり俺達をエサに使うかと思ったが」

九条はすぐに艦橋に移動する。


艦橋では副長を含む艦橋要員が待っていた。


「艦長、戦闘態勢とは一体」

副長が聞く。いきなり戦闘態勢とは、穏やかではない。


「中華軍だ。勝手に作戦を始めやがった。もうこうなりゃ予定繰上げだ。いいか、各艦に通達! 敵基地に向け最大船速で向かう! 対空対潜対水雷警戒を厳となせ!」

艦長は言うと帽子を被る。


直後、全艦は大和を筆頭に最大船速で敵基地へ向け発進する。




閃星の発射した各巡航ミサイルは1発。反日軍日本海基地中心部へ向け発射した。ミサイルは真っ直ぐ基地へ向い、爆発するはずだった。


しかし、ミサイルは基地に近づくまで出来ても、凍結し海中へ落下。中華軍は次のミサイルを撃つ前に攻撃戦闘機、蛇祷を飛ばした。


機甲艦隊到着前に、中華軍は戦闘を開始した。


<><><><><><><><><><><><>


碧武九州校、完全防音会議室に生徒会メンバー、会合会メンバー、シャーリー、結衣、校長代理が居た。


「特別・・ですか?」


「そ、君たちだけ特別なの。大和旗艦の機甲艦隊の戦闘をモニターで見せてあげる」

聞いた子野日に代理が答える。


んなモノ易々と見せて良いのかよ、と全員は思った。


「ま、直に始まるでしょう。ゆっくり見ましょ」

微笑みながらの代理の声を聴き、全員は正面の大画面モニターに向く。


<><><><><><><><><><><><>


現在、大和CICは緊張した空気が支配していた。機械魔導天使、魔導兵器だけではない核兵器もプラスされ、各員は額に汗を浮かべている。


「中華軍の発射した核。起爆せず」

CICで通信士が言うと全員が顔を曇らせる。


起爆しなかった事は、CICに移動した九条に伝わる。


撃ったならちゃんと成功させろよ、と九条が思っていると「艦長、敵基地、巡航ミサイル射程内です!」と砲雷長が九条に言う。


九条は無言で頷くと「各艦に知らせ! 射程に入り次第巡航ミサイルを反日軍基地へ撃ち込めと」指示を出す。


すぐに通信士がヘッドセットを押さえ「各艦へ通達」と先の指示を伝える。


「艦長」

砲雷長は催促する様に声を掛ける。


「前甲板、VLS解放! 巡航ミサイル3発、発射始め!」

九条が言う。


「目標反日軍基地、巡航ミサイル3発、発射始め!」

砲雷長が復唱する。


直後、大和前甲板VLSが開き巡航ミサイル3発が舞い上ると、後を追うように海上自衛隊、ひすい型護衛艦からも巡航ミサイルが上がる。


米国海軍、ジョーンズ級駆逐艦も日本艦隊後方から長距離巡航ミサイルを発射。


ミサイルが高度を上げ、真っ直ぐ基地へ向かうのを確認すると「艦載戦闘機、全て飛ばせ! 朝倉君のアルぺリスもだ!」と言う。


すぐに空母赤城では、飛行する為にF-35Jがリニアカタパルトに入り発進できる機から順に発進する。


<><><><><><><><><><><><>


「兄さん!」

大和後部、飛行甲板に艦内から飛び出したカノンが、アルぺリスの足元の準一を呼ぶ。


「カノン、どうした」


「兄さん・・急に出撃なんて、それにミサイルも上がって」

不安そうに言うカノンの頭に準一は手を置くと数回撫でる。


「中華軍が先に動いたんだ。俺はこれからF-35Jの攻撃隊を抜いて、敵の機械魔導天使、魔導兵器を潰す」

準一が言うとカノンは頭に置かれた手を両手で握り、胸の前にやる。


離れたくない、一緒に戦いたい、と感情が抑えられないのだろう。


「カノン、お前は大和で待機だ。フォカロルの装備はハイパーロングレンジスナイプ用だ。ここから、ベクター輸送隊の援護を頼む」


「はい」

カノンは手を更に強く握る。


「・・・それとな、カノン。後方の米軍には気を付けろ。危険と思ったら構わず沈めて構わない」


「え・・・?」

言われ疑問を浮かべ、混乱するカノンに「行ってくる」と準一は言うと握るカノンの手をどけアルぺリスに搭乗する。


準一が乗るとアルぺリスは起動。背中に装備された純白の翼を羽ばたかせ、両手に持った大型荷電粒子砲がガコンと音を立てる。


「アルぺリス、攻撃隊より先行します」

準一が言うと、アルぺリスは飛行甲板を蹴り飛翔。蹴った瞬間、大和が揺れたが、構わずアルぺリスは翼を羽ばたかせ、反日軍基地へ音速で飛ぶ。


「兄さん・・・気を付けて下さい」

残ったカノンは、揺れにこけそうになるのを堪え、飛翔したアルぺリスを見ながら、兄の無事を祈った。


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「動いたか、アルぺリス」

男が言うと、基地中心部で待機していた機械魔導天使、ブリザードが起動し、起き上がる。


「魔導船は出てるな」

魔導船が先陣を切って基地防衛に回り、基地周辺に展開している。


展開を確認すると男は顔に笑みを浮かべる。


「この私、ウィリアムスと我がブリザードの攻撃、受けてもらうぞアルぺリス」

ウィリアムスと名乗る男が言うと、ブリザードは空に上がり、接近するアルぺリスへ向け飛ぶ。


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反日軍基地、中国側に中華軍攻撃戦闘機、蛇祷じゃとうが空対地ミサイル攻撃を開始した。


蛇祷はミサイルを撃つが、あちこちに繋がっているパイプやよく分からない施設に命中するだけで効果は今一つである。


目的は迎撃装備。龍蒼による攻撃の為には迎撃兵装は邪魔だ。しかし、何故ここまでやって出てこない? パイロット達が疑問に思った。


そして、攻撃に来た蛇祷が全て基地上空に入ると、それを待ち構えていたかのような迎撃用ベクターによる対空砲火が始まった。圧倒的な弾幕を張られ、蛇祷戦闘攻撃隊は呆気なく壊滅。


被弾した蛇祷は基地に落下。ベイルアウトしたパイロットは、構えていたベクターの30mmバルカンの餌食になる。


ここまで、核の失敗、攻撃隊の壊滅と中国側は失敗が続いている。


<><><><><><><><><><><><>


アルぺリスは、すでに編隊を組んだF-35Jの攻撃隊を追い抜き基地へ向かっていた。準一の役割は、攻撃隊に先駆け敵基地を防衛する魔術戦力を破る事である。


準一は、アルぺリスが両手に持った荷電粒子砲を見て、肩に装備された2門の大型レールガンを見る。


ロングレンジレールガンの射程は300km。大型になった分、艦艇に積む物より射程が短くなっている。荷電粒子砲は、連射は出来ないものの、撃ちっぱなしで振り回す事が出来る。


そして、背中には多目的ミサイルコンテナを背負っている。ミサイルコンテナは、翼の邪魔にならない様に翼よりやや下に背負っている。


武装は多い。その所為だろう。普段よりも多少速度が遅い。と思い少しイラついていた。


その後、すぐに基地が視認できる距離になる。基地からは黒煙が上がっていない。ミサイルの航跡は基地より前で途切れている。


撃墜されたな。準一は思うとアルぺリスを一旦停止させ、肩の大型レールガンを数発基地に撃ち込む。2秒経たない内に、レールガンより発射された弾丸は、基地に命中。2機の迎撃用ベクターが爆発。


再びアルぺリスを発進させ、海面にかなり近い高度まで下げ、基地に接近を試みる。


準一はコクピット内でミサイルを基地に撃ち込もうと考え、パネルを操作し、ミサイルコンテナを開こうとした。直後、アルぺリス右側の海面から直径20mの水柱が数百メートル上空まで上がり、凍結する。


「何だ」


準一が答えを出す前に、アルぺリス真下から水柱が来る。アルぺリスは左ロールで回避。しかし、それを追うように水柱はどんどん上がっては氷結していく。


「成程、敵の魔術か」

パネルを操作、ミサイルコンテナの操作を一旦止め、周囲を索敵しつつ水柱を回避する。


数百メートルの水柱、超上空まで回避すれば良いのでは、と考えた準一だったが、すぐに却下した。超上空まで逃げても、同じように攻撃は来るはず。


やらなければならないのは、この水、氷結魔術の根源の破壊だ。


結論が出る頃、準一の視界に数隻の特殊な形状の船舶が映る。


「見つけた」

敵魔導船を発見した準一は、顔に悪い笑みを浮かべると、荷電粒子砲とサイドアーマー内の魔導砲を向け同時に発射し、数隻を沈める。


残りの数隻は、味方の損害に構わず蒼い紋章を展開させては水柱を巻き上げ、その度凍らせている。


準一は残りを沈めようとするが、魔導船は魔術で海水を巻き上げているだけ、氷結を行う魔術師とは別と気付く。直後、アルぺリス直上より巨大な氷の塊が落下。アルぺリスは、上昇しながら右にそれ、塊を回避。


準一は塊が海に落下するのを確認すると、塊の落ちてきた空を見てブリザードを発見する。


「あれか、凍らせてたのは」

ブリザードを睨むとそのブリザードから通信が入る。


『どうも、アルぺリス。どうだったかな、私の氷のイリュージョンは?』


「ああ、最高だったよ」

と準一がウィリアムスに答えている間も海水は巻き上がり、氷の柱が幾つも誕生している。


『なあに、私はただこの殺風景な海を、巨大な氷の柱を以って光り輝く戦場に変えただけ。我がブリザード、貴様のアルぺリス、美しい者同士の戦いにこそ、この戦場は相応しい』


「そうか。じゃ、さっさと始めよう」

準一が言うとアルぺリスは、左手の荷電粒子砲を腰にマウントさせ、サイドアーマー内からブレードを取り出し構える。


『短気だな』

ウィリアムは声のトーンを下げ言う。ブリザードは背中から巨大な槍を取り出し両手で構える。


F-35Jが来る前になんとしても片付けておきたい。準一は短期決着に持ち込もうと無言で意気込む。


直後『行くぞ』とウィリアムの声が入るとブリザードが接近し槍をアルぺリスに振るう。アルぺリスは左手のブレードで槍を防ぐとブリザード腹部を蹴り、後方に逃げ荷電粒子砲を発射する。



幾つもの氷の柱が日に照らされ、幻想的に立ち並ぶ中、2機の機械魔導天使が戦闘を開始した。


「アルぺリス、敵機械魔導天使と交戦を開始」

全速前進する大和CICでオペレーターが言う。


「映像出せるか」

「長距離望遠になりますが」

「構わん」


 艦長に言われ、モニターに2機の姿と周辺の海が映し出される。


 魔術によって数百メートルに及ぶ氷の柱が幾つも立ち並ぶ中、交戦する二機を見てCICの全員が息を呑んだ。


「な、何だあれは?」


 艦長が小さく声を漏らした。


 艦長以外も同じことを聞きたかった。魔術だという事は頭では分かっていた。しかし、幻想的なファンタジー世界に似た光景に本当に日本海なのかを疑う。


「イカした魔術だ」

 冷静さを取り戻した艦長が苦笑いで言う。


 他のCIC要員も冷静さを取り戻し「巡航ミサイル、次弾撃てます」と砲雷長が艦長に言う。


「では発射しろ、氷の柱には当てるなよ」


 モニターから目を離した艦長が言うと、艦隊から巡航ミサイル群が再び基地へ向かい飛ぶ。


「艦長、チャールズ級空母よりF-27Eシルバーウィドウ6機、発進シークエンスに入っています」

「何? 聞いてないぞ」


 艦長が確認を取ろうとするが、米国側は通信回線を全て切っており、シルバーウィドウは空母から構わず発進する。


「シルバーウィドウの装備は?」

「ガンポッド三門に多目的ミサイルコンテナ二」


 ガンポッドは、対空対地に使える。多目的ミサイルも然りだ。狙いは敵基地、敵要撃機、迎撃機攻撃か、それとも先遣するF-35部隊か。


「どっちにせよ、理に適った装備だな」


 言った艦長はあくどい笑みを浮かべた。




<><><><><><><><><><><><>




 2機はまだ戦闘を続けている。

 日に照らされ幻想的な雰囲気を醸し出す氷の柱、その間で戦う天使二機は、幻想的な雰囲気を盛り立てている。


 コクピット内の準一は無表情でブリザードを見つめていた。アルぺリスの戦闘方法は撃って切り、蹴り回避。機械魔導天使に搭乗する魔術師でありながら魔術は使用していない。


 ウィリアムスはそれに疑問を抱き『貴様は魔術を使用しないのか』と準一に聞く。


 聞いた時、ブリザードは柱の陰に隠れ停止。アルぺリスも荷電粒子砲を構えたまま動きを止める。


 『どうした、答えろ』


 ウィリアムはだんまりの準一をけしかける。

 しかし、準一は構わずだんまり。


 『だんまりか』


 ウィリアムが言うと、アルぺリスが荷電粒子砲を撃ち、ブリザードが隠れていた氷の柱を狙撃。命中すると、柱から細かな氷が散り倒壊が始まる。ブリザードは倒壊前に柱から離れ、左手をアルぺリスに向け、掌の前に槍の形をした氷を形成させる。


 『魔術を使え。アルぺリス』


 その形成された槍をアルぺリスに放つ。

 アルぺリスは槍を避けずにブレードで弾き、即座に多目的ミサイルが収まったミサイルコンテナを起動させ、ブリザードをロック。納まった全ミサイルを発射。ブリザードは小さな氷の結晶を無数に作り出し、それを放ち、ミサイルを迎撃する。


 迎撃されたミサイルが爆発した時の爆炎で幾つかの柱が蒸発し倒壊。ブリザードの眼前は爆炎と、散った氷の粒でアルぺリスが見えなくなっている。


 ウィリアムスは面倒なと小さく言うと、ブリザードの高度を上げる。高度を上げると、視界は晴れ移動しながらアルぺリスを探す。


 そして、すぐにアルぺリスを見つけ『見つけたぞ』とウィリアムスが声を出すと同時、ブリザード右腕部が内部フレームごと切断される。


 『何が』


 切断された右腕部を見てウィリアムスが声を出す。直後、真上にアルぺリスが出現し、ブリザードは踵落としを頭部に喰らい近くに立っていた氷の柱に叩き付けられる。


 ウィリアムスはブリザードの体勢を立て直させ、アルぺリスを睨む。


 戦闘スタイルが変わった? 気付いたが、声には出さなかった。声が出せるような状況では無かったからだ。


 甘く見過ぎていた。ウィリアムスは強さを納得し、氷結魔法の術式を頭で組むと発動させる。


 魔術発動時の紋章がブリザード直下の海面に浮かび上がる。準一は紋章を確かめる。


 「召喚術式か」


 紋章には、生き物が描かれている。紋章に生き物が描かれている場合、それは召喚されるモノを描いている。ブリザードが発動させた紋章には龍、長く伸びた蛇のような龍がとぐろを巻いている。


 機体の氷属性にあった龍だろう。


「それも氷の龍か。面白い」


 機械魔導天使に搭乗した状態での召喚術式、それが出来る人間は少ない。久々の相手に準一は笑みを浮かべ、アルぺリスの高度を上げ、召喚される龍が出てくるのを待つ。


 出て来るまで待つつもりか。ウィリアムスは思うとアルぺリスに鋭い眼光をぶつける。アルぺリスは待っている。明らかに舐められている。しかし、それは当然で、このまま戦ってもアルぺリスに圧倒されるのが目に見えており、ウィリアムスは歯ぎしりをする。


 直後、紋章が輝きだし、中から氷の小さな結晶が無数に飛び出す。


 出て来るか、と準一は小さく言うと高度はそのままで後ろに退く。


 「F-35がそろそろ来る。さっさと片付けよう」

 そう準一はアルぺリスに言った。アルぺリスは、荷電粒子砲をマウントさせ両手にブレードを構えさせる。


 向かって来る意思をウィリアムスが確認すると、紋章から機械魔導天使の3倍はあろう真っ白な、氷の龍が飛び出す。飛び出した龍は、口を開け、巨大な牙を光らせ、真っ直ぐアルぺリスに向かう。


 あっという間に龍はアルぺリスに喰らいつき、ウィリアムスはやった、と小さく声を出す。


 「期待外れだな」


 『ッ――!!』


 聞こえた声に顔を歪ませる。どういう事だ。喰らいついた。死んだ筈だ。これまでの敵は全てそれで死んだ。


 そう心で叫ぶが、次の瞬間には龍の頭は両断されていた。

 見て何か言おうとするが、声も出ない。信じられない現実に頭が追いついていないのだ。


 完全に動きを止めた龍は海面に堕ち、巨大な波を立て、波は魔導船を呑みこむ。一方、ブリザードは魔術回路がオーバーヒートし、海に落下する。


 確認すると、準一は少し息を切らす。魔術を2つ、魔術回路と併用して使った事が原因で、体に負担が来ている。硬化魔術はともかく、加速魔術は身体を何かしら改造でもしない限りキツイ。


 これ以上は、いいか。と準一はブリザードには止めを刺さず、残った魔導船を片付け、氷の間を過ぎるミサイルとF-35を見送る。


 「次は基地か」


 魔導兵器は全て片付け、次は基地突入。準一が一瞬気を抜いた瞬間だった。飛行するF-35、10機中、後方を飛ぶ1機がミサイルの餌食になった。


 F-35は散開、準一もどこから飛んで来たのか確認しようとするが、答えは直ぐに見つかった。


 後方から来る、ラムジェットの尾を引く銀色の戦闘機。


 『シルバーウィドウ・・・だと!』


 1人のF-35パイロットが言った。残る9機は、シルバーウィドウを敵機と認定。3機がシルバーウィドウと向き合おうとするが、ガンポッドの斉射を喰らいキャノピーをやられ、撃墜。


 戦闘機の相手は面倒臭い。準一は「基地に向かいます」とだけ言うとシルバーウィドウをF-35に任せ加速。


 F-35部隊は右に散開したシルバーウィドウに機銃を撃ち、2機を落とす。残るは2機、数で勝っている。と油断した瞬間、シルバーウィドウは多目的ミサイルコンテナから全ミサイルを発射。F-35は3機まで数を減らされる。




<><><><><><><><><><><><>




 『ジョーンズ級駆逐艦、主砲旋回。大和に向きました!』

 CICで叫んだ。


 大和にジョーンズ級駆逐艦(先頭艦)の主砲が向く。完全な敵対行動だ。遠慮をする必要は無い。


 『後部主砲、ジョーンズ級駆逐艦に向け!』


 艦長が言うと後部甲板の3つの砲身を持つ主砲が駆逐艦に向く。向いたのを確認した艦長が『沈めろ』と小さく言うと、48cm主砲が爆音を轟かせ、1トンの砲弾を発射。


 ジョーンズ級駆逐艦は、命中してすぐ火柱に呑まれ、竜骨を折られ、船体が真っ二つに割れ、後続のジョーンズ級駆逐艦が割れた先頭艦に引っ掛かり動きを止める。


 そこに、大和副砲と、自衛隊艦の魚雷攻撃が集中し、米国海軍艦は空母だけとなった。米国空母にはヘリしかあらず、艦載されていた強襲用ベクター5機は、カノンの駆るフォカロルの狙撃の餌食になった。


 しかし、米国側は最後の悪あがき、と言わんばかりに天月のベクター輸送ヘリ、アストロンを全機破壊。


 『アストロンが使えなくなった! 大和はこれより、船尾パワーブースターを使用し、一気に基地へ向かう!』


 艦長が達すると、フォカロルは大和飛行甲板に向け腰からアンカーを撃つ。

 機体の固定が完了。


 大和は船尾の4つのノズルを吹かせ一気に加速し、基地へ向かった。




<><><><><><><><><><><><>




 基地は混乱状態だった。呆気なく魔術師、魔術兵器が全て倒されたからだ。そんな混乱を余所に、アルぺリスは上空からレールガンを撃ちまくっている。


「もう・・・お終いだ」


 基地司令官が言うと、アルぺリスの撃ったレールガンの弾丸が司令部に直撃。司令部に居た司令官を含む人間は瓦礫に圧殺される。


 まさか、今のが司令部か? 準一は上から確認する。司令部の証しの旗が瓦礫の中に見える。間違いない。本当は生け捕りにしたかったが、仕方ないとアルぺリスを降下させ、迎撃用ベクターの掃討に入ろうとする。


 その時だ。準一の耳に聞きなれない女の子の声が聞こえた。その声は、準一を呼ぶ声。


『朝倉準一、私は此処に居る』


 誰? と考える前に準一はアルぺリスを基地に降ろした。降ろした先にはベクターや迎撃兵装はあった。これ等は無人機で、何故か声が聞こえ、アルぺリスが下りた今は攻撃をしてこない。


『此処に居る』


 声がどこからしているのかは分かっていない。だが、準一はアルぺリスから降り、基地内へと入って行った。


 その準一は、何かに憑かれた様な、嗾けられた様な顔で基地内を駆け、意識のない状態でありながらも、道を塞ぐ反日軍兵士を斬殺していった。




 広い基地内を、走り周り、かなりの時間が経った頃、準一は一つの扉の前に着いた。


 通路に並ぶスライドドアをは違う。十字架が彫られた銀色の扉。準一はブレードで扉を切り裂き、中に入る。


 そこで、意識が戻る。準一は辺りを見渡し「どこだ・・・?」と疑問を浮かべる。


 広い室内。碧に光る照明、そして謎のカプセル。


 準一はカプセルに近寄り、付いてある開閉スイッチを押す。


 プシュと音を立て、白い煙を吐きながらカプセルの蓋が開き、準一は中を覗き込む。


 覗き込むと、目を瞑り、眠っている医療用の服を着た、茶髪の中学生くらいの少女が目に入り、後ずさりした。準一この少女の事を知っていた。


 準一が目を見開き驚いていると、少女は目を覚ます。寝たままの状態で、両目をゆっくりと開いた少女は「やっと、見つけた」と安堵の表情を浮かべ、上半身を起こし、脚を上げカプセルから出る。


 出た少女は酔っぱらったような、おぼつかない足でよろける。


「大丈夫か・・?」


 準一はブレードを仕舞い、少女の手を握る。


「ありがとう」


 少女は微笑み返す。直後、準一が付けているインカムにノイズ交じりの大声が響く。


『兄さん! どこにいるんです!』


 カノンの声だ。心配しているのだろうか。しかし何故だ。


『大和はもう基地周辺まで来てます! 兄さんがどかないと艦砲射撃が行えません!』


 大和が基地周辺まで来ている? どういう事だ。幾らブースターで加速しようと、まだかなり時間が掛る筈だ。


 しかし、考える余裕はない。準一は少女をお姫様抱っこすると「今すぐ艦砲射撃を開始してくれ」と言うと、走り出す。


『い、今すぐって――』


 カノンが何か言おうとしていたが、準一はインカムを投げ捨てポケットからハンドガンを取り出す。


「ねえ、あたしをどこに連れて行くの?」

「学校だ。悪いがお前には聞きたい事がある」


 走りながら準一は答えると、無意識で来たのでどこが出口か分からないのを思い出す。


 そして、遠くから爆発音が聞こえたのを確認する。


 大和の攻撃が始まったな。と準一は心の中で呟いた。




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 大和の艦砲射撃、ミサイルによる攻撃は圧倒的な火力で、基地の2割を壊滅させた。海中から伸びる、基地を支える支柱がバキバキと音を立てて折れ、幾つかの区画が海中に沈む。


「さて、始めたけど。朝倉君は無事かな」


 言った九条だが、態度は何だか嬉しそうだ。CIC要員はそんな九条は見慣れており、気に留めない。


 それよりも、いつの間にか敵の迎撃兵装が全て沈黙している事が気になっている。しかし、それ故に大和の攻撃は着実に基地にダメージを与えていった。




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 少女を抱えた準一は、やっとの思いで外へ出た。


 いつの間にか空は夕日に染まっており。大和の艦砲射撃による黒煙が基地日本側を覆いつつあった。


 もうすぐ射撃はこの区画まで来るな。準一は走ってアルぺリスに近づき、少女を抱えたまま搭乗し、少女を膝上に乗せる。


「しっかり掴まってろ」

「うん」


 少女は準一の注意を素直に受け止め、準一の腹部に抱き着く。


 掴まったな。と準一は確認すると、アルぺリスを浮かせようとしたその瞬間、中国側の夕日の空に、巨大な紅の火球が出来上がる。


 爆発か、と準一が思った矢先、衝撃波が基地を駆け抜け、残骸を吹き飛ばす。


「この衝撃、核ミサイルか」


 恐らく、龍蒼だろう。シナリオ通り大和を沈めに来たのだろうが、逆に落とされたんだろう。


 だったら、もう脅威は無い。さっさと戻って休みたい。と準一は安心し息を吐く。


「疲れたの?」


 少女に聞かれ準一は目を丸くした。ここまで半ば無理やり乗せてきたつもりだが、警戒していない。


「まあな」


 準一は視線を送る、少女は足をパタパタと動かし、映る景色を見て目を輝かせている。


「警戒とかしたら?」


 連れて来ておいて何を馬鹿な事を言っているんだろう。


「する必要は無いよ。だってお互い『顔見知り』なんだし」


 少女が言うと準一は「やっぱりか」と外を見る。


「やっぱりお前あの日、第二北九州空港に居たんだな―――」


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「かれこれ何時間かな」


 落ち着いた表情で代理が言った。集まった生徒は退屈そうな顔をし、ため息を吐く。戦闘状況をモニターで見るはずだった。なのに映像が全く送られてこないまま、時間だけが過ぎている。


「よし、九条に文句言ってやる」


 代理はガッツポーズをすると携帯で電話する。揖宿は代理に近寄り「スピーカーでお願いします」と柔らかく言う。頷き、代理がスピーカーボタンを押すと丁度九条が出る。


『もしもし』


「約束が違うんだけど。モニターは? 映像は?」


『あ、ゴメン。カメラ壊れちゃった』


「は?」


『いや、コーヒー零しちゃっ―――』


 言い終える前に代理は通話を終了させ、全員の正面、モニター前に立つと「すんません」と平謝りする。


 全員ため息を吐くと、ぐったりと前のめりになる。


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 核搭載爆撃機を撃墜してからの流れは、実に呆気なかった。接近するV-24は、大和の攻撃により壊滅した基地に用が無かったようで、簡単に引返し、大和は艦隊に戻り作戦終了。


 この作戦で参加したF-35全機、F-27Eシルバーウィドウ全機、アストロンが無くなり被害自体は結構なものだった。


 作戦終了後、直ちに日本政府は米国政府に確認を取る。


 参加した米国軍の日本機への攻撃はどういう事だ?


 此方は何も知らない。攻撃したのは彼らの独自判断だ。とシラを切られる。


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「ちょっと待って。今混乱してる。タンマ、ストップ、チョイ待って」


 艦長室で九条は頭を抱えていた。


 頭を抱える理由は、準一にピッタリとくっ付いた少女。準一が、拉致ってきた少女だ。


「に、兄さん・・・三次元でのロリコンは犯罪ですよ」


 カノンがドン引きしている。準一は「あはは」と苦笑いするしかなかった。


「え、えっと・・・朝倉君。結局その娘は?」


 普段は落ち着いている磯島でさえ、動揺した態度。


「知り合いです」

「うん。あたし達知り合いだよ」


 苦笑いの準一が言うと、少女は笑顔で言った。


「へぇ、どんな知り合い?」


 九条が子供をあやす様な笑顔で聞くと「えーっと・・・只ならぬ関係?」と疑問系で返す。


「おいおい」


 とうとう九条も引き、準一をジト目で見る。


「に、兄さん今なら警察が学割ですよ」


 カノンが壊れた。頭が錯乱しているらしい。


「本庁の知り合いっと」


 まるでスレを建てるように磯島は携帯を操作しだす。まずい、このままでは収集が付かなくなる。さっさと本当の事を言おう。


「あの、第二北九州空港事件の時の知り合いです」


 準一が言うと3人は安堵の息を吐く。



 大和はその日のうちに帰港。準一とカノンと少女は基地にもう一日滞在する事になり、聴取や検査などで一日をすり減らした。


 少女は、詳しい事は一切覚えていなかったようで、準一が空港で顔を見ただけとだけ言うと「アンタが世話しなさい」と偉い人に言われ、碧武で一緒に暮らす事になった。


 ちなみにエルシュタ、と名前だけは覚えていた。


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