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多重演奏者

 戦闘より2時間後、準一はレイラ回収後、大和と合流した。大和はトーマス中佐の居た艦隊、その拠点である軍港に身を寄せていた為、椿姫もそこに向かった。



「スーパードレッドノート」と九条。艦長室に呼ばれた準一は、九条の座る執務机の前に居る。「超弩級潜水艦だね。ありゃ」


 全長400m、幅、全高は通常潜水艦の3倍以上。化け物みたいな潜水艦だ。あんなモノ、実用には不向きだ。と思うが性能はかなり高いようで、未だに発見できていない。


「マリアちゃん曰く、特殊装甲だとか」と九条は写真を見せる。会場を襲撃したイーター。そのアップ、高解像処理画像。


「私は」と口を開いたマリアは、準一の横に並ぶ。「前の職業柄、運び屋もやってたの。その時、あの装甲を見たわ」


 詳しく、と準一が言うとマリアは続ける。


「あの装甲は、一種のステルスよ。レーダー波を打ち消すね。普通に動いていても、ステルス戦闘機以上にレーダーから姿を眩ませられるわ」


 成程ね、と準一は写真を置くと、右目の眼帯を外す。右が見えないのは分かっているが、眼帯は疲れる。


「治んないね」と九条。「何ででしょう」準一。


 呑気ね、と言ったマリアはため息を吐き写真を見つめる。


「にしても、戦艦大和の艦長のあなたはあの超弩級潜水艦をどうするの?」


 マリアに訊かれ、九条は脱いで机に上に置いていた帽子を少し奥にやると、準一、マリアを順に見る。


「本音言えば、興味深いよね」


 だと思った、と準一は苦笑いする。


「現段階まで発見できず。あり得ないよ、あのサイズを見つけられないなんて。あの海域にはそれなりに海溝があってさ、そこや海底にはソナーが仕掛けてある。発見できないってのがちょっとね」

「魔法とか?」


 九条の後、マリアは横目で準一を見、準一は目を合わせず無表情に口を開く。


「可能性はある」言った準一は、少し考えマリアを見、続ける。「以前、大和が消えた際、榛名旗艦の艦隊で出向いただろ? あの時の魔法、霧の広範囲空間魔法なら、あるいは」

「そりゃまた。とんでもないわね」

「はたまた、あの潜水艦が本当に現代技術を超越した兵器であるか、ですかね」

 

 俺にはさっぱり、と九条は椅子にふんぞり返る。


「英国海軍は? 動いていますか?」

「空、海、海中、この3つで動いてるよ。今は、海中で無人機が潜ってる……そうだ、忘れてた」


 と九条は引き出しから別の資料を取り出す。


「市街地付近に展開していた王室軍から届けられた資料、襲撃して来たイーターだけど、無人機らしいよ」


 ヘリも同様に、と九条は付け加える。厄介だ、と思う。ステルス、無人。とんだ戦略兵器だ。


「少なくとも、あの撃墜されたヘリ、ベクターの残骸は本物だよ。魔法じゃない」


 だとすれば、それなりに力のある敵、と言うわけだ。


「可能性として、敵対国家や軍需企業が居るかも」とマリア。肩に掛った髪を後ろにやる。「そうなれば大事ね。英国の平和の繁栄は打ち止め、戦争になるわ」


 軍需企業クラスであればどうにかなるが、国家が敵となっては本当に大事だ。同盟国を巻き込んでの戦争になりかねない。


「だとしてさ、それだけの事を仕掛けるって、目的がさっぱりだね」


 九条は、参ったね、と言いたげに両手を振る。しかし準一は会場に居て、その場を見ていた。

 ヘリのサーチライトはセラ、エドワードに向けられていた。あの2人、じゃない。恐らくセラだ。

 あのエドワード、とかいう奴は事情を知っている様だ。

 聞き出すか、と思った瞬間


「ふーん」


 とマリアが準一の顔を覗き込み、声を漏らす。「何だよ」と準一、眼帯を付ける。「別に」答えるマリア。

 ばれたか、と準一はため息を吐き敬礼、「では」と言い失礼します、と踵を返す。

 マリアも形だけの敬礼をし、準一に続いて艦長室を出、扉を閉めると準一のスーツの裾を握る。


「何だよ」

「何か思い当たるふしがあるんでしょ? 一緒に着いて行ってあげるわ」


 好奇心からのマリア、まぁ、いないより居た方がマシかもしれない、と許可し準一は「探すのは明日だ」と言い部屋に向かった。

 





 翌日、九条が準一にある事を伝えた。もうすぐお昼時、一枚の紙切れを渡し「はい、中尉から昇格」と短く。


 そんなこんなで、朝倉準一は大尉へと昇格。いきなりだな、と思いながら、マリアと大和を降りた時、英国軍人が準一に客人がいる、という事で2人は基地ゲート前まで行くと、高級そうな車の前にエドワードが居た。


「何、あの胡散臭い執事は」


 言ったマリアは顔を顰め、準一を見る。


「事の次第を知っているかもしれない、俺の中での重要参考人だ」

「胡散臭さ倍増ね」


 とマリアの後、エドワードは顔色一つ変えず車のドアを開け「どうぞ、お二人とも」

 従った2人は車に乗り、会話の無いまま屋敷へと案内された。 





 屋敷は結構な広さだった。外の外周だけでもどのくらいあるのか、と準一はそれとなく見、考えていた。屋敷の警護だろうが、ヘリ、ベクター。英国製の物ばかり。

 どんな屋敷だよ、と思っていると車は屋敷の扉の前で止まり、外に出るとエドワードが先に行き、扉を開け「どうぞ」と屋敷に招き入れる。だが、エドワードは直ぐに踵を返し「では、私は車を戻さねばなりません」


 と言い車に向かう途中


「フリスベルグ」


 小さく言い、車に乗り込む。すると、物陰から目にクマがあり、くせ毛のメイドが姿を現す。


「お二人のご案内は、私が引き継がせていただきます」


 言うと、フリスベルグは「どうぞ」と屋敷の中を歩きはじめ、準一達はついて行く。




 長い廊下を歩けば、西洋の甲冑に日本の鎧。日本刀や各国の武器が並べられ、不気味な絵画、小型の像が立ち並ぶ。はっきり言うと、趣味が悪い。「随分と趣向がバラバラね」とマリア。


「申し訳ありません」と感情の無い声のフリスベルグ、準一の横のマリアは顔を顰める。「私たちを呼んだ理由は?」


 あなたは、とフリスベルグは間を空ける。「本来であれば、招待客は朝倉準一様だけでした。あなたはおまけ、得点にもならないクソみたいな余剰品に過ぎません。備品以下ですが、準一様の連れです。備品にしてあげますよ」

 

「なっ」とマリアは驚くが、準一も驚いていた。何てメイドだ、とんでもない事を何でもないかのように、冷淡に近い抑揚のない声でスラスラと。


「ですので、朝倉準一様からの質問であればお答えしますが、備品には答えたくありません。黙っていてください。空気が汚れます」


 どんだけ口が悪いんだこのメイドは。と準一は思いながら聞く。


「メイドさんの接客は、いつもそういった、一種のプレイに近い形なんですか?」

「ふふ、まさか」


 メイドさんは打って変った美しい声で準一に笑顔を向ける。


「あなたのお連れの備品、の様に、私が気に入らなければ私はそれなりの対応しかいたしません」

「つまり、あなたは準一が気に入ったワケ?」とマリア。

「備品が喋ってはいけないんですよ?」


 すぐにメイドさんは笑顔を解き、冷淡な口調へ。軽く苛めだな。


「今日、エドガーさんが俺を呼んだ理由は?」

「エドガーだとは言っていませんが」

「昨日の今日です、あの人くらいしか、俺を呼びつける人間は居ません」


 成程、とメイドさんは続ける。


「昨晩の海上襲撃、所属不明潜水艦。あなたは大和クルー、英国海軍軍人よりも近い場所に居た筈。当主様は、是非話が聞きたいと」

「そうですか……にしても、口調、過激ですね」

「あら? お気に召しませんか?」

「まさか、見ている分には楽しいですよ」


 と準一がマリアを見ると、顔を顰めている。余程頭に来たのだろうが、マリアは暴れるなんてことはしない。理性的だ。


「あなた、私の味方をしてくれないの?」と準一に、拗ねたように聞くマリア。「見てると、結構面白いからな」と準一が言うとマリアは頬を膨らませた。


 さて、とメイドさんは1つの扉の前で足を止め、2人を見る。


「当主様のお部屋です。ケーキや紅茶はすぐにお持ちいたします。では」


 メイドさんは会釈し、スカートを摘み上げ、ローラーシューズで廊下を滑って行った。何て奴、と思う間もなくマリアが不機嫌な顔で扉を開け、室内に入る。




「おや」と執務机から立ち上がったエドガーは、入室した2人を見て笑みを浮かべる。長い銀髪を手早く結い、2人に近寄ると扉がバタン、と閉まると同時、手を差し出す。


「昨日ぶりだな、中尉。それとクォーターの少女。さぞ、ウチのメイド、フリスベルグがひどい言葉を並べただろう」

「ええ。あのメイドは教育した方が良いわよ。あんな教育のなっていないメイドは初めてだわ」


 それは、とエドガーは困ったように笑い、すぐに接客用の長椅子へ案内し、準一達が座ったのを確認すると向かいに腰を降ろす。


「早速だ。朝倉準一、本来であればお前を巻き込みたくは無かった」

「何の事です?」

「お前は、俺からのキスに否定を返した。お前が俺の提案を受けていればお前を救えたのだが、そうはいかない」

「おい」


 と準一は睨む様にエドガーを見、続ける。「勝手に進めるな。説明しろ」

 口調を変えたな、とエドガーは笑う。


「先日の襲撃、目的は知っているか?」

「さぁ」

「……お前が、そう。セラ、と呼んでいる少女。彼女の事はどこまで知っている?」


 似た質問を、去年の夏先生からされた。しかし、今も同じだ。まともな答えを持ち合わせてはいない。


「死を予告する者。知る人ぞ知る存在。バンシーだ」


 驚きはあったが、それを表に出さず準一はエドガーに目を向け続ける。


「襲撃して来たものの狙いは彼女だ。そして、奪った後はターゲットを中尉に変更するだろう」

「まさか、何で俺が」

「自覚がないわけないだろう。中尉、お前は目立ち過ぎた。あの圧倒的大量破壊魔法、核ミサイル阻止、日本海、中東。首都戦。味方以上に敵は多い」

 

 それは知っている事だが、まさかここでも、と準一は考える。


「で、敵の組織は何なの」


 とマリア。同時、扉が開きフリスベルグがケーキ、紅茶をテーブルに並べる。顔を顰めたマリアだが、何も言わずすぐにエドガーに視線を戻す。


「教団、反日軍ではない、それなりの規模の組織。それも、魔術師もおり軍用装備も持ち合わせている」

「調べは着いてるの?」

「粗方な」


 エドガーはティーカップを持ち上げ、一口啜る。


「以前、米国軍魔術師部隊テンペストが、国連の決定である組織の内偵を進めていた」


 言うエドガーだが、準一、マリアからすれば初耳だ。


「疑っている様だが、本当だ。確かめてもらってもいい。組織の名は『アトランダム』。中東の紛争、西側へ武器を流す売人とも関わりがある組織、だそうだ」

「で、セラ、じゃない。バンシーを狙う理由は?」

「対機械魔導天使装備だ」


 それに、とエドガーは続ける。


「中尉自身とアルぺリス」


 恐らくは、アルぺリスに対機械魔導天使装備を。そうなればアルぺリスの戦闘能力は格段に上がる。


「アルぺリスと中尉を制御下に置けば、その情報だけでアトランダムは各国と交渉のテーブルに着く事が出来る。言ってしまえば、核以上の抑止力だ」

「あんたは、違うのか?」

「そんな野蛮な目的は無い。一度は考えた、がな。しかし俺は本心からお前を気に入っている。嘘じゃない」

「あ、ああ。そう」


 準一は返答に困り、口を尖らせる。隣のマリアは肘で準一を小突き「何で歯切れが悪いのよ」


「慣れてないからだよ」と準一。


 含んだ笑みのエドガーは背もたれに背を預け、カップを置く。


「さてどうする?」

「何が?」

「何が、じゃないだろう。もう事は大体把握しただろ。後はお前の答えを待つだけだ」


 エドガーは右手を準一に伸ばす。


「俺に協力してくれ」


 真剣な顔のエドガー、準一は「はぁ」とため息を吐くと「ヤダね」とキッパリ。

 流石にエドガーは参り「どうしてだ」と訊く。


「どうしても何も無い。これまでの話が本当だとしても、あんたを信用する理由が無いからな」

「俺が信用できないか……俺とくれば、お前は安息を得られる」


 どうやって、と準一は低い声で訊く。エドガーは黙り込み、息を吐くと準一に向ける目を細める。


「言えないな。アトランダムの件が片付かない限りは。確かに、理想に近い。しかし俺は嘘や絵空事を言っているのではない」

「……最初、テラスで話した時は何も思わなかったが、話していれば居る程、あんたは胡散臭い」

「理想を語る人間が嫌いか?」

「ああ、結局胡散臭いからな」


 この男の細かな経緯。どうやって軍上層部まで上り詰めたのか。全てが不明な男。


「なれば、俺とお前は敵同士だな」

「随分と極端だな」

「手に入らぬば、自らの手で壊して見せるさ」


 堂々と宣言され、準一は立ち上がる。


「あんたは、そのアトランダムからバンシーを護り抜いて、何をするつもりだ? 何が目的なんだ」

「ただ、対機械魔導天使装備が欲しく朝倉準一という個人を求めただけだ」

「軍に入った理由は?」

「ここは俺の祖国だ。祖国の為に軍に入って、ファントムを示しただけ。利用する気は無い」


 よく分からない奴だ、と思いながら準一は扉へ向かうと、マリアはそれに続き2人は部屋を後にした。






「あの男が安息を得られる、と言った時、あなた凄い顔をしていたわね」と訊いたマリアは準一と並んで廊下を歩いている。「ああ」と応じた準一は目だけを向ける。


「何か気付いたの?」


 それなりに、と言った準一は続ける。


「お前、趣向がバラバラだと言っただろう? 鎧、甲冑、刀等の武器。不気味な絵画、像」

「ええ。良く覚えているわね。で、それが?」


 だからさ、と準一は脚を止め、同じく足を止めたマリアに体を向ける。


魔法おまじないだよ」

「おまじない?」

「そ。随分と雑だがな。何かしらの力を借り、鎧や武器、絵画や像に役を与え、術を発動させる」

「何でそんな事を知っているのかしら」

「知り合いのシスターに聞いてな」


 鎧、甲冑は肉体と同じ。人型の器、入れ物であり盾。武器は矛。絵画は額縁が扉、窓。絵は術者の意思。像は人の代わり。だとかシスターライラは準一に教えていた。しかし、これなんかは聞いたほんの一部。しかし、条件はそろっている。

 これだけ揃い、手順を踏んだ魔法を使用すれば氷月千早の造り出した世界を築き上げる事が可能。だとか。しかし、それには幾重にも条件が重なり、かなり運任せになる為、成功した事例は無いとか。


「それを、あの男が実行すると?」

「可能性の話だ。まだ、あんな仮想とは限らないがな」

「種類があるの?」

「ああ。世界の基盤を変えるような物もあれば、ある一定の歴史を無かった事にして。後は……そうだな、千早だとあの浮遊島もそうだな」


 デタラメだ事、とマリアが言うと、廊下の向こうからカツカツ、と音を立ててメイド、フリスベルグが歩いて来ている。


「お話は済んだようですね。準一様にクソッタレな備品」

「その口の悪さ。どうにかしたら? ウザいわよ」

「あら、備品に喋る権利はありませんよ? あ、喋らないで下さい。あなたが二酸化炭素を必要以上に排出してしまうと、地球環境によくありませんので」


 流石に限界なのだろう、マリアは腰に手を当てている。マリアの腰には拳銃。止めよう、と思うが遅く、マリアは銃を抜いた後。だったが、フリスベルグの動きも早く、スカートから異形の大型拳銃を抜く。

 シルバー、赤の装飾。銃口は円形ではなく、大きな四角。銃じゃない。トリガーはあるが、弾倉は無い。

 

「マリア」と準一はマリアの銃を持つ右腕、関節部に手を乗せ、無理やり降ろさせる。


「何? 邪魔しないで。すぐに終わるわ」

「バカ。お前が殺されるぞ」


 言うと、準一はフリスベルグに視線を向ける。窓から差し込む昼間の光を浴び、フリスベルグはニコ、と笑う。「やはり、準一さまは備品とは違い、物を知っていらっしゃる」

 不満げに顔を顰めたマリアは舌打ち、フリスベルグを一瞥後銃を仕舞い、準一に目を向ける。


「で、あの銃は?」

「魔法武器、それも剣なんかより性質が悪い。名前は知らないが」

「知らないんだ」


 言ったマリアは、その異形の銃を降ろしたフリスベルグを睨む。


「武器の名前は『多重演奏者』。この銃は、属性魔法を撃ちだすモノです。炎氷雷、岩だって風だって。この銃は撃ちだせますし、術式の張り方次第で、生身での魔法白兵戦に於いてこの武器に敵うものはありません」


 賢明です、と付け加えたフリスベルグは「それでは」と多重演奏者を仕舞い「屋敷外へご案内します」と2人を出入り口である大きな扉まで案内した。

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