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スーパー・ドレッドノート

 ハーマイオニー級45型駆逐艦は、アドミラル・ラミリーズの周囲に展開していた。夕刻の北海、艦隊の乗組員たちは、「いいなー。パレード」と口ぐちに言っていた。

 もう、VIP達は通らない。基地に帰りたい、と皆が思う中、海軍艦隊は明日までこの海域で展開だ。

 とんだ貧乏くじだ。

 と思う中、各艦に反応がある。艦のルート上、深度400m。巨大だ。


「各艦水雷戦闘スタンバイ! デカいぞ!」


 この海域に、それだけの島、沈降物などありはしない。この短い間に出て来たのだ。


「何だ。長いな」

「どこぞの兵器でしょうか」


 さぁ、と艦隊司令は言い、索敵を開始。「画像出せるか?」


「CG処理したものになりますが」

「構わん」


 そう言うと、CICにCG処理された画像が表示され、一同は息を呑んだ。





「あ、これも美味しいわよ」と言ったマリアはカノンにスイーツの入ったパックを渡す。「食べてみる?」

「いただきます」


 カノンは応じ、フォークでスポンジケーキを刺し、口に運ぶ。

 

「ほんと、美味しいれふ」


 良かった、とマリア。周囲を見、賑わう街に笑みを浮かべる。

 現在、マリア、カノン、エリーナ、エルシュタの4名はイギリスに来ている。記憶の断片捜索はいったん打ち切り。

 保護者役は九条、磯島。イギリスの海軍基地まで大和が出張って来ているのだ。


「準一には会えないわけ?」


 エリーナが九条に訊くと、九条は頷く。「多分、今頃パーティーだから、明日まで待たなきゃな」


「残念」とエルシュタはため息を吐く。と同時、九条が耳に付けていたインカムが鳴り、手を当てる。


 大和からの通信、九条は顔を顰める。


「どうした。何か揉め事か?」

『ええ。北海に展開していた英国艦隊からです。海底から巨大な潜水艦が、深度を上げて来ていると』


 分かった、と応じた九条は4人に言い、一番安全な大和へ戻る事にした。






 強く手首を掴まれていたが、それを振り払い準一はエドガーから一歩下がり、睨みつける。「あんた、何の真似だ!」


「何の真似とは?」と聞いたエドガーは準一に一歩近寄ろうとするが、駆け寄ったレイラが準一の腕を引き、エドガーから準一を阻む様に前に立つ。


 レイラはエドガーを睨む。


「あ、あなた! 気は確かですの!? 準一は男ですわよ!」

「分かっていますよ。レイラ・ヴィクトリア様。……これが俺なんです。俺は、昨日も彼に間接的に接触しました」


 微笑んだエドガーは準一に目を向け、手すりに背を預ける。


「中尉、これが俺の本心だ。先ほどのキスは本気だ。中尉、俺の元へ来い」とエドガーはレイラの横を抜け、準一の前に立つと手を差し出す。


 準一は先ほどの様に一歩下がり、目を細める。


「お前は戦いに相応しくない。俺の元へ来い。お前を魔術師と言う呪縛から解放し、平穏な生活を約束する」


 胡散臭い、なんてわけでは無い。この男は本気で言っている。レイラ、準一は理解し驚く。レイラは息を呑み、準一は目を細めたまま。


「悪いですけど、断らせていただきます」

「だと思ったよ……悪いな。時間を取らせて」

「いえ」

「では。これで失礼する」

 

 言うとエドガーはマントを翻し去ると、レイラはへなへなとへたり込む。


「し、心臓に悪いですわ」

「ですね」


 準一は答えると、大きなため息を吐くと、角に知った顔を見つけ目を見開くと無意識の内に駆けだした。「準一?」と聞いたレイラは後を追いかける。

 

「お前」と聞いた準一は角から見ていた少女の前で足を止める。


 少女は緑のドレス、灰色のカーディガン。一瞬、悲しそうな顔を浮かべた少女は下を見、ドレスのスカートを短く握る。


「セラ……何でここに」準一。セラと呼ばれた少女は夕日に照らされた顔を向け、再び下を向く。


「久しぶりだね……準一」

「ああ……だが、お前はあの時」


 セラと別れた日、その光景を思い出す。彼女は先生が連れていった筈。身元が分かったと、いやあれは嘘だ。


「一年ぶり、カノンは?」

「別の場所だ」

「そっか……カノンと仲良くなった?」

「ああ、義理の妹になった」

「そっか、よかった。仲良くなってて」


 言ったセラは次に何を話せば、と考え込み、それに気づいた準一が先に口を開く。


「お前は、今どこで何をしているんだ」


 直後、セラの後ろから燕尾服、長い髪の青年が姿を現し「屋敷で保護しているんですよ」と口を挟む。


「確か」と言った準一は、その青年、執事さながらの恰好の彼を見、送迎担当していた人間だと思いつく。「エドワードとさん」


 どうも、と一礼したエドワードはセラを見、「あなたはご自分のお立場を分かっていらっしゃらないのか」

 立場、と準一は訊こうとしたが止める。


「でも」

「ダメです。事が起こる前に、屋敷へ」


 渋々頷いたセラは、最後、準一に向く。「早く、イギリスから逃げて」

 どうして、と聞く間もなくセラはエドワードと会場に消える。


「準一、あの子は?」

「昔の知り合いです」


 知り合い、とレイラが呟いた瞬間、テラスへ出る扉が開かれ、案内の人間が血相を変え近づいてくる。


「お二人とも! 中へ」


 何事か、と思うがテラスの他の人間は従っている。準一達も従い中に入ると、扉の前に隔壁が下りる。耐爆用の隔壁だとすぐに分かり、窓に近かった準一はレイラを後ろに下げる。見渡せば、戦闘服の男達。武器を構えている手前、会場の警備だろうが穏やかじゃない。


「穏やかじゃありませんわね」


 レイラが言い、準一は頷くと端末を取り出し、耳に仕込んだ通信機のスイッチを入れ「椿姫、音声認証。モード、リモート」と小さく言うと滑走路の椿姫はデュアルアイを光らせる。端末を開き、起動した椿姫のレーダーを表示させると、所属不明機。


「何ですの」とレイラが覗きこみ、準一は見せる。「椿姫からのレーダーです。所属不明機が付近に展開しています」


 数は多くは無い。ヘリにベクター。しかし周囲には英国軍の対空網などが敷かれていた筈。

 考え始めた直後、隔壁を叩くような音がし揺れが会場内に伝わる。殆どの参加者はうろたえ、怯える中、レイラは慣れた様子だ。 


「情けないですわね。この位で」


 逞しいお姫様だ、と準一は椿姫を出すか出さないかを考え、有事の際、機械魔導天使を使用しない範囲での戦闘であれば許可されている事を思い出す。

 出した方が、と呟いた直後、隔壁がヘコミ音が一層激しくなると、巨大な手が隔壁を引きはがした。剥がしたのは、反政府軍御用達のイーター。

 その後ろには戦闘ヘリ、何かを探す様にサーチライトを会場内に当てている。


「椿姫、リモートそのまま。俺の元へ」


 言った直後、テラスを壊す勢いで無理やり会場に身を乗り出したイーターは、ライトの照らす先、見ればセラ、エドワード。そこに手を伸ばそうとする。しかし、それより早く青色の輝く粒子を纏わせる翼を背負った巨人、ビター・ファントムがイーター直上から舞い降り、イーターの頭部を右手で掴むと庭に投げ捨てた。

 その巨人のそれに、会場の人間は息を呑み、ファントムの美しさにため息に似た息を吐く。


『ご来場の皆様ご安心を』とファントムは会場に顔を向ける。デュアルアイ、口の装甲が開き口があるようになっている。『ここは、女王陛下の近衛部隊長である私、エドガー・アニェスにお任せを』


 そうエドガーは言い、ファントムの手を伸ばす前に足裏で地を蹴りジャンプし、手を伸ばすとヘリを叩き落とす。オレンジの爆発が広がり、突風に似た風が海上に吹き荒れる

 とんだ演出家だな。と思う準一は、ファントムが飛び去った後、椿姫が到着したのに気付き「レイラ様。あのエドワード、と言う男に着いて行ってください。大丈夫、敵じゃない筈です」

 流石にベクターで戦う以上、着いて行くわけにはいかない。理解しているレイラは頷くと、準一を見送った。

 準一は椿姫に乗り込むと、全開でファントムを追いかけた。






「特殊装甲ね」と呟くマリアは、大和後部甲板、プロトⅡのコクピットに居た。CICからは、「やっぱり」と返す女性の声。


 マリアのプロトⅡ、オールビューモニターその隅には海中から出現し、内陸へ飛び去ったイーターの画像。それよりも、気がかりはそのイーターやヘリが飛び出した潜水艦だ。遠目でも、空母よりもでかい。この大和以上だ。400m以上ある。


「あのデカさだと、ミサイル発射管は何十基あるのかしら」




「哨戒ヘリ、英国海軍電子偵察機より画像、モニターに映します」と言った大和CIC要員はコンソールを弾き、モニターに画像を写し一同は目を見張る。もう夕刻ではないが、若干空は紫だ。それなりに明るい為、その潜水艦の画像はよく撮れている。


「デカいな……該当艦、とかあるわけないよな」と九条。「はい」と応じた女性は、既に調べ終えた後、各国の潜水艦と見比べてもノーマッチング。と出るだけ。該当艦種無し。


 画像を見れば、潜水艦にはとんでもない数のミサイル発射管がありそれらが全て開いている。全て、左、右。にある。ベクター、ヘリを出したであろう大型射出機は発射管に挟まれる形で数基。


「英国の潜水艦は?」

「出ていましたが、既に反応なしです」


 沈められた、と言うわけなのか。


「ッ! 反応あり! 英国艦隊へ真っ直ぐ! 深度300! 恐らく、水陸両用ベクターです! 数6!」


 言った直後、英国艦隊からミサイルが上がり、近づく脅威。艦隊周辺に機雷をばら撒く。すぐに正面に水柱が幾つも立つと、そこにミサイルが飛び込む。そしてそれが切り離したハイドロエンジンを積んだ追加装備、言えばダミーだと気付いた時、アドミラル・ラミリーズのデッキに一機のベクターが這い上がり、戦闘機の機首を蹴り上げ、小柄な機らしく、機敏にCIWSを回避、腕部を護衛艦隊に伸ばすと内蔵型ガトリングガンでCIWSを撃ち抜き、そのまま撃ちながら銃口を主砲に向けるとハーマイオニー級一隻は、その薄い装甲に穴を開けられる。

 空母のデッキでは、歩兵隊が高性能爆薬を使用するロケット砲を構えるが、すぐに薙ぎ払われる。そして、そのベクターが銃口を空母艦橋に向け、艦橋の人間は震え上がり、皆が一斉に動きを止める。


「そ、総員退艦!」


 艦隊司令がなんとか持ち直し言った瞬間、脅威たるベクターの腕部、その関節が撃ち抜かれ、次の瞬間には上空から舞い降りた椿姫の一閃で、水陸両用ベクター、そのパイロットは血しぶきを散らせ、機体は力なく倒れ込む。


「助かった」と司令。舞い降りた椿姫は独特だ、フォルムもだし、デカールもだ。日の丸に猫。そして、その名の通り、椿の花を持ち、傘を差す日本のお姫様。すぐに、準一の機体だと分かる。「中尉」


「いえ、それよりも」と準一はサブモニターを見る。ファントムは、人の退避した後、まだ屋台の明かりの灯るストリートでイーターと戦っている。「まだベクターは居ます。爆雷、対潜ミサイルで攻撃を」


 分かっている、と応じた艦長は命令。艦隊からミサイルが飛び、6機中、6機を撃破し、残る脅威はあの潜水艦だけとなった。

 しかし、既にアドミラル・ラミリーズからは数回の警告がなされていた。あの潜水艦は、一度も応答していない。


「敵と判断していい」と司令。


 直後だった。潜水艦は全ての発射管からミサイルを一斉に撃ちだす。それは全て艦隊へ。大和からは対空ミサイル、それを飛ばそうとするが間に合わない。

 椿姫はデッキに立ったまま、身体を向け、背中、脚部からミサイルを一斉に撃ちだすと、両腕をミサイルへ向け、頭部、腕部内蔵型ガトリングガンをAAWオートへ。

 艦隊はミサイルを撃ち、速射砲の狙いをミサイルへ。迎撃。

 潜水艦からのミサイルは、かなりの質量の爆薬を積んでおり、一発一発、撃破していくが爆発が大きく周囲が一気に明るくなる。そして、全てを迎撃し終わる頃、潜水艦は潜り、レーダーからその姿を眩ませた。

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