狂気メイドのゴールデンボンバー
つまり、ゴールデンがボンバーなんです
あの金爆とはまったく関係ないよ。好きだけど
良い機体だ、と言ったクルーは椿姫の周りをぐるりと回り見渡す。他にもかなりの数のクルーが居る。皆、この可変機に驚いている。
艦長への挨拶を終え戻ってくると、タンクトレーラーから伸びていた推進剤、噴射剤注入の為のポンプが外された所だ。
艦長室から同行して来たトーマス中佐は、「変形後が見て見たい」と要望。準一は「分かりました」と応じ、ヘッドセットのスイッチを入れコクピットのレイラに声を掛ける。
「レイラ様。よろしいでしょうか?」
『あら、どうなさいましたの』
答えたレイラはコクピット内から、正面、下を見準一を確認する。「レイラ様、今からリモートで機を変形させます。よろしいですか?」
もしかして、デモンストレーション的な、と考えたレイラは『分かりましたわ』と応じ、シートに掴まる。
では、と準一はヘッドセットのスイッチを切り替え、音声認証。リモートコントロール。
「皆さん、退避してください」
準一の声に中佐が指示、クルーは皆壁際に退避。準一は確認後、ヘッドセットを押さえ口を開く。
「椿姫、形態変更」
アリシアの技術力で、多少のリモートコントロールが可能になった椿姫は立ち上がる。椿姫が居るのは、空母飛行甲板の真ん中、一番後ろまで下がると振り向き、バーニアを噴射させ飛び上がる。高度、100、変形。
機体下部の追加ノズルから火を噴き、垂直離発着機の様に空母にゆっくりと垂直に着艦。
「おお」「すげえ」
皆、驚きの中にその性能の高さを認める称賛を混ぜる。中佐は準一に近寄り、戦闘機形態となりアイドリング状態で待機する椿姫を見上げる。戦闘機形態の椿姫は、従来の戦闘機、戦闘爆撃機よりも大きい。
「こうも凄いとは、驚きです」と中佐。帽子を深く被る。「やはり、量産機とはいえ第五世代機。流石日本だ。こんな戦闘機を作り出すとは」
まるで、と中佐は準一を見「トランスフォームだな」
違いない、と思う準一は中佐に敬礼。
「では中佐。補給感謝します」
「こちらこそ、良いもの見させていただいた」中佐、敬礼。
中佐も笑みを浮かべ「では、いってらっしゃいませ」と付け加えると椿姫から離れ、準一は椿姫に乗り込む。
「どうでした? 海軍は」とレイラ。シートに座った準一は「良い人たちでしたよ」と答える。その顔に意味ありげな笑みを浮かべると「何ですの、その意味ありげな笑みは」と聞かれ、準一は前を見る。
「少し、驚かしてもよろしいでしょうか」
「揺れるんですのよね」
「申し訳ありません」
言った準一は操縦桿を引く前に外部スピーカーを入れ、「離れて下さい」と一言。誘導員が手を振り、誘導しようとするが椿姫はゆっくりと後ろへ下がる。
おい、どうした、と誘導員が思う中、後ろのギアが端ギリギリになった瞬間、スロットルを押す。機体下部のバーニアが火を噴き、まるで弾かれたように宙にふわりと浮いた椿姫は、海面接触ギリギリで浮き上がり最大噴射。
ドン、と音が響くと波が立ちあがり椿姫は加速。海面を割り、波の壁を作り、遥か彼方へ飛び去る。その後ろから円形の衝撃波が波の壁を破壊、飛沫が散り、虹が掛りクルーたちは再びの興奮に口笛を鳴らした。
「美しい戦闘機だ」
中佐は声を漏らし、笑みを浮かべ帽子かぶり直すと「持ち場へ」と指示。興奮の収まらないクルーたちは、仲間内で喋りながら艦内へ、デッキへと持ち場へ戻っていった。
過ぎた演出、とレイラは準一に言うと、心臓に悪いとも告げる。悪い事をしたな、と思い一応は謝った。レイラは気にしないで、との事で戦闘機へと変形した椿姫はフォートウィリアムのシャムロット城へと到着した。
使用人、バーネットは前と同じ、燕尾服で椿姫に駆け寄る。メイドさんや他の使用人も居る。皆、コクピットから降り元気なレイラを見て涙を流す始末。
準一は皆を宥め、どうにか落ち着かせた。
「つまりは、王室軍いえ、英国軍……そのトップの就任パーティーでございます」
と準一に言ったバーネット、2人は城の屋上にいる。昼過ぎなので空は明るい。
「エドガーと言う人物は実質的に、女王陛下の側近部隊、近衛大隊を指揮できる立場です」
その立場であれば、大半の部隊を指揮できる。それに陛下の側近の親衛部隊。近衛大隊を指揮。どういう家系の人物なのだろうか。
「彼の名は、誰もエドガー、としか知りません」
「皆? 王族もですか?」
「はい、詳しくご存じなのは現女王陛下、カルミラ・ヴィクトリア様だけかと」
次期女王陛下の女も知らない。との事。
「ただ……噂によれば、とある名家の生き残りだと」
思い当たる節の無い準一は、ただ頭を悩ませるだけで、バーネットは微笑む。「では、難しいお話はそれくらいに致しましょう。お食事、如何ですか?」
是非、と準一は快諾。ここの飯は美味い。
昼食を食べ終え、準一は案内された部屋にいた。レイラは「私のHDDが覗かれてしまいましたわ!」と叫んでいた。何の事かと言えば、思春期のパソコンの中だ。パスもかけていなかったので、メイドさん達が見ていたらしい。
関わりの無い準一、今回はタバコを控えている。資料を見直し、明日の予定を確認。
まず昼前にはパーティー会場となるウェルズ宮殿へ。その後、夕刻より就任パーティー。
ハードだな、と思う。移動には椿姫の使用を許可している。
椿姫は今回、日本の国籍を現す日の丸と、代理の猫。そして、レイラの騎士である証のブローチ、そのデカール。そして達筆で椿姫、と書かれてある。
最初、あれに乗った時より随分と様変わりしたモノだ。
あの機体だけ、椿姫シリーズの中でデュアルアイ、内部フレーム、装甲。逸品だ。弱小な機械魔導天使なら相手できる。従来のベクターであれば素手で装甲を貫ける。
自分専用、椿姫カスタム。
今は前と同じだ。アルぺリスの使用許可が降りないし、使うわけにもいかない。だから相棒は椿姫。
恐らく、ただイギリスでパーティーしてはいさよなら、なんて簡単に終わる訳は無い。今までのパターンで知っている。
「ビター・ファントム」
過った、あの天使。アルぺリス、アルシエル以外の実体翼装備の機体。敵か、味方か。収容所襲撃時、あの機体はこちらに攻撃を行って来ていない。その敵味方の判断すら出来ない。ただ、敵になった場合。この椿姫でやれるのか。
あれが教団、反日軍、はたまた他の私設武装組織。それともどこぞの国家の隠し玉なのかもハッキリしていない。
このイギリスに関わって来るだろうか。いや、関わって来るだろう。自惚れなんかじゃない。あの機体は、収容所で自分を見ていた。
厄介事を、と嫌になりそうになる。普通にイギリスを楽しみたいのだが。
そう思い、椅子に腰かけ瞼を閉じた。
意識が薄らとなり、周囲から聞こえる声が耳に入ってくる。女の声。何か、服が……ゆったり? いややたら腹部がキツイ。
何だ!
と準一が目を覚ますと、メイドさんが居た。金髪の美人だ。まだ10代だろう。若い。しかし何をしに? ここは案内された自分が使う部屋。掃除? と思っていると
「どうぞ」
とメイドさんは鏡を見せる。そして、準一は自分の姿を見て驚愕する。
女装させらていた。成程、腹部の圧迫感はコルセット。メイドさんの恰好。顔には化粧、カツラ。やってくれたなこの女。と準一は苦笑いし眉を引くつかせる。
「お似合いですよ、とっても」
嬉しくない。本当にうれしくない。前にも言われた。女装が思いのほか似合っていると。その所為か、学内では人気投票で一位に輝いた。筈。
「騎士を辞めて、メイドにジョブチェンジしては如何です?」
「嫌ですよ。それより、この化粧とか、落としてきますから」
駄目です、と立ち上がった準一の手を引くメイドさん。準一は、そのメイドさんの可愛らしい外見とは違う圧倒的なパワーに引き倒される。メイドさんは倒れた準一の上に馬乗りになる。
「やっぱり」と準一の頬に手を当て、肌を撫でる。「男性なのにきめ細かい肌。それに、あなたは家事万能……女としての才能が有ります」
準一は苦笑いし逃げようとするが、腿の間にメイドさんの膝が入る。
「あの、俺は男ですよ。男には女の才能なんてありませんよ、ね?」
「ですよね……付いてますもんね?」
付いてますもんね? 付いてる……、準一の思考が一つの答えを導きだし、股間に恐怖を覚える。気づいたメイドさんは「ふふ」と左手で準一の胸に手を置くと、ゆっくりと下腹部に降ろす。
「男性には、男性が付いてますものね? ……ご安心を、麻酔を用意しますから」
まずい、この女本気だ。と準一が逃げようとするがメイドさんはガッチリと逃がさない。力づくで引き剥がしたいが、そうもいかない。どうすれば、等と考えている間に、メイドさんはデーザートイーグルみたいな、対戦車拳銃みたいな、凄く大きな短針銃を取り出す。
「痛みは一瞬、次に目が覚める時にはジョブチェンジ。あなたから男性が消え、適切な医師の元、女性ホルモンを窃取させますのでご安心を。私が、あなたの衣食住。それに、最初は性欲も溜まるでしょうし、全て面倒見ますから。誠心誠意、ご奉仕いたします」
そのメイドさんの微笑み。ご奉仕、と言う単語に果てしのない魅力を感じたが男を辞めるわけにはいかない。仕方がない、気絶させて逃げるしか
と手を動かした瞬間だった。
「準一! あのロボットアニメの劇場版映画とOVAですわ! 今から……一緒……ん?」
部屋に入って来たレイラ。目の前には、女装した準一に馬乗りになるメイドさん。どんなプレイだよ。
「じゅ、準一は……ジョブチェンジしたんですのね。よくお似合いですわ」
と言い残すとレイラは扉をバタンと閉め、「刺激が強すぎですわ!」と自室に籠りメイドさんが再開しようとし、駆け付けたバーネットの手により何とか準一は一命を取り留めた。
晩御飯を終え、厨房で手伝っている中、準一は皿を洗いながら、角からの視線に背筋を震わせていた。あのメイドさんがじーっと準一を見ているのだ。とても嬉しそうに。
「気に入られましたな」とバーネット。冗談、と思うが口には出さず皿洗いを続行。「彼女は、準一様のレイラ様救出劇、そして心を閉ざしていたレイラ様の心を開いた、その事にいたく感銘を受けたらしく。あの有様です」
ちなみに、準一はもうメイドさんの恰好を辞めている。流石に自分がきついので。しかしレイラは依然として部屋に籠って、ゴールデンボンバーゴールデンボンバー、と繰り返しつぶやいては、某ロボットアニメを一話から流し見している。
「心の、トラウマです」とバーネットは涙ぐみ、目じりを抑えその場に膝を付き、コック達が駆け寄る。準一は多きため息を吐き、「ハードだ」と呟くと皿洗いを終わらせた。