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リスタート オブシディアン・ゴーレム

「ふふん。4勝」とレイラ・ヴィクトリアは勝ち誇った顔を浮かべると、お嬢様笑いを披露する。放課後、ショッピングエリアのゲームセンター、某戦場の絆。レイラと結衣の一騎打ちだ。


「わ、私のBD2号機が負けるなんて」

「おほほ、プロトタイプGは強いでしょう?」

「た、確かに」


 圧倒的なレイラの強さ。結衣は完敗だ。悔しそうに拳を握り「チクショウ」と嘆いている。 


「レイラ凄いじゃん! 全勝」

「いいな。G」

「うんうん。結衣は弱いな」


 とシャーリー、アンナ、菜月。結衣は弱いと言われ「うっ」と声を漏らす。ベクター操縦では卓越していようが、ゲームではこの有様。

 高等部最強もお姫様には勝てない。


「ちょ! 弱いとか言わないでよ。あたしのBD2号機」

「機体じゃないよ。結衣の方だよ」


 ストレートなアンナ。結衣はがっくりとうなだれ、それを見ているカノンはベンチに座り、浮かない顔をしている。


「あら、カノン大丈夫ですの?」

「え? あ、うん。大丈夫。ホント」


 取り繕うが、出来ていない事は自分の目からも他の者の目からも明らかだ。


「確かに、兄貴が居なくなっちゃったのは困るけど」


 結衣が言うが、カノンは作った笑いを向けるだけ。西園寺永華は兄に対し、殺しに行くような事を言っていた。どうなったのか。兄が死んだとは考えられない。


「よーし! 準一の誕生日パーティーがブッ潰れた憂さ晴らしだ! カラオケだ!」


 見かねたシャーリーが言うと、カノン以外は大声で賛成。カノンは何か言う前に皆に手を引かれカラオケボックスに連れて行かれた。





 


 

 朝倉準一の元には一枚の手紙が届いていた。現在は佐世保基地、ドッグ付近の自販機横ベンチに座っている時、千早が持って来た。


「誰から?」

「さぁ」


 ビリビリと開け、中から紙切れを取り出し、裏返すと『スウィート・ペイン・タイム』と書いてあり顔を顰める。


「なにソレ」

「お前、知らないのか?」


 頷いた千早を横目で見、手紙から離した顔を向ける。


「前に幾つかの魔法を掛け合わせて世界改変を造り出しただろう。その時、一緒にあの世界に取り込まれていた人間の1人だ」

「へぇ……どんな奴?」

「気味の悪い奴だ」


 ため息交じりに答えた準一は立ち上がり、手紙をポケットに押し込む。


「どこ行くの?」

「ん? ああ、呼ばれたからな」

「そっか……ねぇ、何か嫌な感じだから聞くけど。もしかして何か起こりそう?」

「ある可能性が高い。……そん時は頼りにしてる」


 はいはい、と千早は手を振り準一も手を振り返す。

 






 住宅街を抜け、古めかしい雰囲気を放つ建築物の群を抜けると長い階段があった。かなりの急勾配だが登れないわけでは無い。ゆっくりとした足取りで上ると、白い手すりの向こう。封鎖された線路の反対側、誰も居ない駅のベンチにピエロが座っていた。


「良い場所だろ? ここ」

「……何であんたがここに居る」


 顔を顰めた準一に、ピエロ エルディ・ハイネマンは口元をゆるませる。


「知ってるだろ? 十二使徒」

「ああ。それが?」

「今回の事、お前の知らない事情が幾つかある」


 顰めた顔を変えず、駅の構内に入った準一はハイネマンの座るベンチの横に立つ。


「何でそんな親切なんだ?」

「お前は俺のお気に入りだ」


 ごめんだな、と準一は呆れ顔になる。


「早速だ。情報を与える……お前は、対機械魔導天使装備って聞いた事あるか?」

「聞いた事だけはな」


 機械魔導天使最大の武器は魔術回路。対機械魔導天使装備は、一度の接触で回路を使用不能にさせる。天使から魔法を消し去る装備。魔術崩壊魔法は、発動術式を破壊するだけ、対機械魔導天使装備は回路自体を。


「今回、それが出て来る可能性がある」

「どうして俺の周りの人間は、情報が早いんだか」

「まぁ聞け、そしてその機体にはバンシーが付いている」


 バンシー? と準一は聞き返すと同時に顔を合わせた。


「死を予告する妖精……どういう訳か、対機械魔導天使装備はそのバンシーが与えたモノらしい」

「よく分からないんだが」

「俺もだ。……しかしだ、収容所で一悶着ある事は既に考えが付いているんだろ?」

「ああ」

「今回は、あのパワードスーツの集団も出て来る。手伝おう」


 言ったエルディ、拳銃を抜いた準一はこめかみに向け、睨みつける。


「ふざけるなよ」

「ふざけてなどいないさ。全て本気だ。俺はプラスにしかならない筈だ」

「何が目的だ」

「良くないんだよ。俺は反日軍が嫌いだ、今では教団もな。そして、この収容所襲撃が成功してしまえば、反日軍はかなりの数の魔術師を手に入れる事になる」

「今すぐ殺してやりたいんだが」


 準一が言うとエルディは両手を挙げ、呆れ気味にため息を吐いた準一は拳銃を下ろす。


「なら、信用させてもらうぞ」

 

 今回、収容所での戦闘で機械魔導天使はほぼ使えない。ベクターが居るのであれば、正規の部隊に任せ自分たちは進入してきた白兵部隊の排除。

 問題は、機械魔導天使を使用しての戦闘になった際、対機械魔導天使装備の機体が出て来ることだが、それは後に考える事にした。






 空間魔法の痕跡、それは収容所周辺に張られた防衛術式に映り込んだ。収容所に通じるたった1つの横断橋、展開した戦闘部隊はサブマシンガンを構え、装甲車でバリケードを作り、施設屋上からは戦闘ヘリが上がり、施設防衛の為に魔術師が出向く。周囲の海上では駆逐艦が戦闘態勢に入っている。

 駆逐艦の対潜ソナーには、潜航物が引っかかっていた。すぐにベクターと分かり応戦に入り、ヘリ部隊は山中からの戦闘ヘリ部隊に向かう。

 銃声の響く横断橋。展開した警備隊の先、銃弾を受けながらもひるまずに歩いてくる鋼鉄の人。パワードスーツの部隊。ジェイバックを先頭に魔力ブレードを手に持つと、駆けだした。





「お前……はぁ、どうやってそんな助っ人を捕まえた」と聞いた瞿曇は少し呆れ気味だ。答える準一は先ほどの駅ではなく移動用に使っているヘリの中だ。パイロットは九条の部下。


「いえ、手紙が届きましてね」


 準一は向かいに座る瞿曇から目を離すと、隣に腰を降ろしているエルディを見る。


「驚いたな。まさかあんたみたいな人間が出て来るとは」


 言うエルディは、瞿曇に驚いた表情を向け、続ける。


「……言っておくが、一応は私の教え子だ。あまり調子に乗った事はするなよでないと」と瞿曇。エルディに信用していない、と言う目で睨み付け「殺すぞ」


「悪いが、俺じゃ彼を如何こうできない……しかし何故あんたが? あんたが出る以上、彼は必要ないのでは?」


 瞿曇円華は朝倉準一以上、七聖剣の中で最強を誇っている。瞿曇は、めったなことが無い限り任務を与えられない。魔術師戦では彼女は切り札中の切り札。それを今回は最初から出す。エルディは少し考えるが思いつかない。


「必要だからだ」


 色々と、と付け加え瞿曇は準一を見ると顔を顰める。

 その目の理由を準一は知る由も無い。

 ローター音に意識を傾け、流れる景色に目を向けると瞿曇は大きなため息を吐いた。





 収容所の建物は、かなりの強度を持っているのだが爆発の規模が大きいのか収容区画に地響きがしている。ルームメイトである華人は、その揺れを感じた瞬間から「ヒヒ」と嬉しそうに声を漏らしてはチラチラとリンフォードを見ている。

 不快感を覚え、目を逸らす。自分が寝る為のベットに腰掛けると、着せられている白衣を見、ため息を吐く。


「こりゃあかなり暴れてるぜ。上じゃ、何人の日本人が死んだかな」

「さぁな。しかし本当に行うとはな。無謀だ」

「だが、こんなクソみたいな場所で死ぬよか、何かしらしてからの方が良い」


 そんなモンか、とリンフォードは隣の鏡を見る。映る自分の顔、夥しい文字。


「直にここまでくるだろうさ。助けが」


 と華人が言った瞬間、目の前の通路に巨大な氷柱が横に伸び、何人かが死ぬ。その冷気の元、白い煙を纏いスキンヘッドの男が現れる。


「居たか。……わりぃが、あんたの力が必要だ」


 言ったスキンヘッドは指を鳴らす。それはリンフォードの術を封じていた魔法を解いた合図。自分はバンシーに予言を受けていた筈なのに、と思いながら魔法が使えるのを確かめる。


「所属は?」とリンフォード。「教団、十二使徒」とスキンヘッド。続け「俺はローマンだ」

「教団か……感謝はする」


 枷が外れたような感覚、左手を握っては開き感触を確かめると睨みを利かせる。


「しかし、俺はあんたが必要じゃない」

「……残念だ。ゴーレム使い。殺すには惜しい」

 

 来る。と感じ術式を開くと氷の刃が幾重にも広がり、自分に迫る。しかし焦りも恐怖も無い、次の瞬間には横から区画に突き刺さった光線に、氷の刃は焼切られていた。


「あれが黒曜石オブシディアン巨人ゴーレム


 頷かず、リンフォードが左手を振るとゴーレムが区画に飛び入る。収容されている人間達を潰さない様に、ゆっくりと一歩を踏み出すと巨大な拳を構える。


「悪いが、あんたは好きになれない。快楽で人を殺すタイプだ」

「参ったな。フラれちまったぁ」


 ローマンの振り上げた手。発動される術式は周囲に絶対的な氷結を齎す魔法。知っている術式、高位の術式だが使える人間は限られていた筈。周囲に目をやると、収容されていた人間達は殆どが目の前の魔法に呆気に取られている。

 しかし今更動いた所でたかが知れている。

 助けようにも、今からでは、と思った瞬間、壁が爆発し30mmチェーンガンがばら撒かれ、リンフォードはゴーレムで防げるだけの人間を防ぐ。舌打ちしたローマンは術式を解き、氷の柱を足元に出現させると、壁の外、チェーンガンを撃っていたヘリに伸ばし、その上を走りヘリに近づくと手に持った剣でコクピットを貫く。


「化け物め」とリンフォードは呟き、敵が出来てしまった事に嫌気が刺しながらもルームメイトの華人の胸ぐらを掴む。「な、何だよ」と華人。

「今すぐだ、逃げろ。奴の目的は俺だ。あんた達はさっさと味方と合流して好きにすればいい」


 言うと華人を乱暴に離す。

 こうは言ったモノの、と考える。はっきり言って勝てない、何か別の策を考える。正面から向き合わず勝てる方法……必ず、何かしらの部隊が制圧に来るだろう。ソレに任せれば、いや、難しい。ほぼ無理だ。

 そんなに都合よく、助っ人になりそうな高位魔術師がいるものか。

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