日本海侵攻戦①
義妹vs実妹バトル翌日は、とうとう日本海へ出撃。準一、カノン両名は四時起きで、五時になる頃には滑走路に居た。
準一は作戦用に装備を増やした機械魔導天使、アルぺリスを召喚し乗り込む。
カノンは、実戦装備のフォカロルに。そして二機が飛び立つ。
滑走路では「行ってらっしゃーい」と代理が手を振っている。ちなみに結衣は、滑走路への立ち入りは許可されなかった。
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福岡県沖合、2機が雲の上まで上がった頃「兄さん」とカノンがインカムに話しかけ、準一に声を掛ける。
「どうした?」
「いえ・・その何だか結衣に申し訳なくて」
「え?」
「私は兄さんにずっと会っていられますが、結衣はこれから数日は会えないんです」
少ししおらしい声を出すカノンに準一は驚いた。
「大丈夫なのか?」
「やばいかもしれません。今日のさっきの段階で目から生気が無かったですから」
「はは」
準一は苦笑いし確かに、としか思えなかった。
カノンの言うさっきの段階で結衣の目は生気が無かった。の理由は、準一が作戦の事を教え、数日帰らない、お友達との共同侵攻作戦、とまで教えたからだ。
「2人とも死なないよね?」と今にも泣きそうな顔で2人に詰め寄るのでカノンが慰める始末。
だが、最後は「行ってらっしゃい」と送り出した。
この段階で準一は1つ気になっていた。
昨日は戦うまでなった2人だが、そのやり取りはとても仲が良さ気だった。
別にいつの間に仲良くなった? と聞く気は無かったが気になりはしたし、意外でもあった。
「兄さん、一応大和に着いてからも電話とかはしましょう」
そのカノンからの提案に「分かった」と準一は了承する。
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日本海には多数の艦艇が停泊している。米国海軍はチャールズ級空母1隻、ジョーンズ級駆逐艦4隻。日本側からは機甲艦隊より空母赤城、空母天月、戦艦大和。海上自衛隊より、ひすい型護衛艦、みずき、あまゆき、あまかぜ、みつき。計7隻の艦艇が来ている。
本来は米国海軍より、チャールズ級空母2番艦も参戦予定だったが、南米での武力衝突にかり出され中破、日本海へは来られなかった。
そして海上自衛隊からはヘリ空母の参戦があった筈だが、国土防衛線を崩しかねないと言う上層部の意見により却下された。
それにより、空母赤城は、戦闘機とヘリを同時に艦載する事になった為、想定よりも攻撃戦闘機の数が少なくなった。
「堪りませんよ。上のバカども・・、この数で敵の基地を攻めろなんざ」
大和後部甲板、主砲の下で1人の若い船員が呟いた。
「そう言うな。俺も同じ気持ちだがな」
ぼやく船員に副長、磯島直哉が言う。
「ですが副長。敵は反日軍ですがゼルフレストも居ると・・もし魔術師が居れば魔導兵器が出てくるでしょうし・・」
不安そうに船員は言った。磯島にも不安は無いわけでは無かったが、不安を払拭出来る助っ人は呼んでいる。
「ま、確かに居るのであれば厳しいかもな。だから、作戦には助っ人を呼んだんだ」
少し微笑みながら言った磯島に、船員は納得できないと言った表情を向ける。
「助っ人って・・碧武生ですよね。学生が来たところで何が出来るんですか?」
「詳細はまだ話してないからな・・・おい、そこの君」
磯島は後部甲板を拡張して作った飛行甲板で作業をする船員に声を掛ける。
「は、何でしょう」
「もうすぐ飛行甲板にベクターが来る。他にも作業をしている船員が居れば退避するように伝えてくれ」
「了解しました」
船員は了解し、他の船員に伝える為に駆けて行く。
「なぁ、詳細、聞きたいか?」
磯島に言われ「何のです?」と若い船員は返す。
「さっき言ってた碧武生のだよ」
「あ、ああ。教えてください」
磯島が話そうと思い、ふと空を見ると2つの黒い点を見つける。
「見た方が早いかな」
磯島が船員に言うと、ベクターの飛行ユニット独特の低い噴射音が聞こえる。
「え?」
船員は空を見る。すると、作業をしていた船員たちが走って磯島たちの所へ来る。
直後、2つの黒い点の1つ、アルぺリスが大和上空50mまで急降下し、白い翼を羽ばたかせ滞空する。
「ま、マジかよ・・」
後部甲板に羽の羽ばたき時の風が巻き起こる中、アルぺリスを見た整備員は驚愕する。
「これが、対魔術師戦の助っ人だ」
磯島が船員に向き言うと、アルぺリスは飛行甲板に着艦し、右膝を付く。
「ふ、副長・・・さっき整備員にベクターって言いましたよね?」
「ベクターも居るぞ、ほら」
磯島はアルぺリスの後ろに降りたフォカロルを指さす。
「ま、そういう事だ。今回の作戦は、機械魔導天使を起用しての作戦だ」
着艦した機から降りた準一、カノンは後部甲板で待ち構えていた船員たちに敬礼され、艦長室へ案内される。
艦長室へは、準一、カノン、磯島が入る。艦長である九条は艦長、と書かれた札を立て掛けた机に座っている。
「よく来たね2人とも」
九条が準一、カノンに言うと「2人とも、椅子に座っていいよ」と磯島に言われ椅子に座る。
「2人とも、悪いね。飛行甲板なんかに着艦させて・・・狭かったでしょ?」
「いえ。狭くはなかったです」
九条の問いにカノンが答える。
「九条さん、後部の飛行甲板、いつ増設したんですか?」
準一が聞く。
「つい昨日だよ。空母は一杯で2機は着艦できそうになかったから付けてみたんだ。急ピッチだったけど」
聞いて準一は「ありがとうございます」と礼を言う。
「さて、では一旦2人は休憩してくれ」
九条が言うと準一、カノンは立ち上がる。
九条に休憩してくれ、と言われ、準一は真っ先に喫煙所に向かった。九条も同行。副長、カノンは同行はしたが喫煙所には入っていない。
「準一君もワルだね。休憩って言って真っ先にタバコ吸いに来るなんて」
タバコを右手に持ったまま九条が言った。
「そう思うなら注意したらどうです? 俺未成年ですよ」
準一は口に火を点けたタバコを咥えながら言う。
九条はワザとらしく一度咳払いをすると「こら、タバコはいかんよ」と注意する。
「これ吸ったら止めます」
準一と九条とのやり取りは完全に冗談を言い合うような形だ。
「ま、俺も学生時代から普通に吸ってるから文句は言えないんだよな・・碧武は? 喫煙オッケー?」
「隠れて吸えない事も無いですけど・・・まぁ、カノンは知っているんで兎も角、結衣の方が」
九条は理解し「知らないのか?」と煙を吐きながら言う。
「ええ」
準一も煙を吐く。
「というか、隠れて吸わなくてもマナに言えば普通に吸えるんじゃないか?」
「マナ・・?」
聞き覚えのない名前に準一は聞き返す。
「ああ、知らないか・・マナってほら、ゴスロリバカツインテールだよ」
「代理ですか」
準一はその九条の言いように苦笑いし、九条と代理は親しいのだなと思う。
「そうそう、マナだったら別に君がタバコ吸いたいって言えば喫煙所くらい使わせてくれるんじゃないか?」
「でしょうかね? ・・・今度聞いてみます」と準一が言うと、喫煙所の扉が開き「兄さん」と不機嫌な様子のカノンが声を掛ける。
「どうしたカノン?」
「どうした? じゃありません! 私前にも言いましたよね? タバコは身体に悪いですから止めて下さいって」
「まぁまぁ、カノンちゃん。そんな怒んないで? ね? 準一君だって吸いたくなるんだし?」
怒ったカノンを宥めようと九条が入る。
「艦長、あなたがそうやって黙認するから。兄さんは未成年者です。止めてください」
「えー。俺も高校生の時吸ってたし・・文句は言えないっていうか」
カノンの剣幕に怯える九条。十代の少女に責め立てられる戦艦の艦長、なんとも情けない、と準一は思いながら新しいタバコに火を点ける。
「あー! 私が言ってるそばから! 兄さん!」
「分かった、今日は1箱で止める」
「多すぎです! タバコなんて年々値段が上がる上に百害あって一利無しですよ!」
カノンが叫ぶ中、準一は構わずタバコを吸い、九条はタバコを消し、外へ出る。
そして壁にもたれ掛る磯島に近寄り「止めてよ副長」と肩を落としながら言う。
「いや・・すいません。怒ったカノンちゃん怖くて」
磯島は頭を掻きながら謝罪する。
「俺たちは上に上がろう」
「ええ」
九条と共に磯島は艦橋へ繋がるエレベーターへ向かう。
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「全く。信じられません。兄さん前にあれだけ言ったのに止めてないなんて」
喫煙所から出て前甲板を歩くカノンは怒っている。
「ごめん」
準一は謝りながらタバコを咥え火を点ける。
「分かってないじゃないですか! もう、また吸おうとして」
カノンは準一から煙草を奪い取り、ポケットから出した携帯灰皿に押し込む。
この携帯灰皿は、カノンが準一から煙草を奪い取った際、こうやって押し込むために用意したモノだ。その辺にポイ捨ては出来ないからである。
「いや、だがなカノン。こんな時じゃないと吸えないんだ」
「兄さんは、一日に吸う量が多すぎるんです」
「え? 3箱?」
「4箱です」
ああ、と準一は思いだす。確かに多い。最初はそうでも無かったが今となっては気が付けば1箱無くなっている。
「量を減らそう」
「吸うのを止めて下さい。万事解決です」
「それは・・無理だな」
「結衣に報告します」
「分かった、譲歩する」
準一的には、これ以上、タバコにうるさい人間が増えると困るのだ。結衣は確実にタバコを嫌う。そうすればカノンの様にうるさく言うのは目に見えている。
「やめますか?」
「量を減らす」
よし、といった表情で言った準一に「はぁー」とカノンは呆れる。
「分かりました・・もう、幾ら言っても聞かないんですから、やめろとは言いませんけど、量は考えてくださいね兄さん」
「分かった。2箱にする」
十分多いです。とカノンは思ったがどうせ聞かないだろうとタカを括り、携帯を取り出し結衣の番号にかける。
時刻的には登校時間くらいだで、結衣はワンコールで出た。
『か、カノン? 死んでない?』
「死んでません。それより結衣。ちゃんと学校に行ってる?」
お前はお母さんか、と準一は思った。
『うん。ちゃんと行ってる。シャーリー達に引きずられて』
休もうとする程ショックだったのか。とカノンは「あはは」と笑い「電話代わりますね」と言うと準一に渡す。
「結衣」
『あ・・』
一番大好きな人に名前を呼ばれ結衣は黙り込む。恐らく電話の向こうでは結衣が顔を真っ赤にしているのだろう、とすぐに予測できた。
そして声は遠かったが、3バカの声を準一は確認していた。
「・・・結衣、まさか近くに3バカが居るのか?」
『う、うん居るよ。今あたしの両腕を引いて学校まで引きずってる』
本当に近くだな。
しかし、これだと迂闊な事は喋れない、と準一が思っていると『お電話変わりました。カルメンです』とカルメンが出る。
お前も居たのかと思いながら「どうも」と短く挨拶をする。
『話は校長代理から聞いたわ』
「どんな話を?」
『義妹と既成事実を作る為に旅行に行ったって』
カルメンの言葉を聞き、突発的に準一は通話終了ボタンを押した。
「あー、電波悪いなー」と隣のカノンに言い訳する。
カノンは「電波悪くなったんですね」と信じ、携帯を受け取りポケットに直す。
すると『艦長より達する。戦闘員、および助っ人の2人は至急会ミーティングルームへ集合せよ』と九条からの艦内放送が入る。
「行くか」
「はい」
カノンは返事をすると準一の右腕に抱き着く。
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「切れちゃった」
登校途中でカルメンは結衣に言った。
「ちょ、まだあたし兄貴と全然喋ってない!」
「てへ」
カルメンは可愛らしく舌を出す。
「カルメンのバカ」
「ご、ごめんね結衣」
いじける結衣にカルメンは謝る。
「にしても・・・準一は義妹と既成事実造りの旅か」
ふと菜月が言う。
それは校長代理の冗談、と混み合った事情から結衣が言えるはずもなく「ぶ、無事に帰ってくると良いね」と繕った笑顔で言う。
すると、やかましかった外野が一斉に黙る。
「あれ?」
結衣が4人を見て言う。
「い、一大事・・・」
アンナが驚いた表情のまま結衣を見る。
え? 何? と結衣が戸惑っているとシャーリーに肩を掴まれる。
「ゆ、結衣・・・あ、あんたまさか」
「え? え??」
「ブラコン卒業したの!?」
結衣は絶句した。何か深刻な顔をしている、と思ったがどうやら誤解されたようだ。
「そ、そういうわけじゃ・・・」
ブラコンを否定しなかった結衣を見て「び、びっくりした」と4人は口を揃える。
「あはは」
結衣が困って笑うと「結衣、ブラコン否定しなかったね」と菜月にボソッと言われ顔を赤らめる。
結衣は今日一日このネタでいじられるらしい。
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大和ブリーフィングルームに呼ばれた人間は全員集合した。
すると部屋の照明が消え、投影ディスプレイがホワイトボード前に映し出される。
艦長が入室、全員が立ち上がり敬礼。艦長は「楽にして」と一言。全員が席に座る。
「まず、休憩中にもかかわらず君等を招集した事について謝罪しよう。だが、休憩を裂いてでも知らせておかなければならない事実が分かった」
と艦長が言うと副長がディスプレイに画像を映し出す。
洋上を航行するタンカーを捉えた画像だ。
「このタンカーだが、つい先ほど、中華軍が確保した。反日軍に関わる船舶なのが判明したからだ」
このタンカーの何が重要なんだ。と全員が思った。
「そして中国政府から日本政府を通さず、直接大和に情報が送られてきた。このタンカーは敵の輸送船だ」
画像が切り替わり、タンカー内の積み荷の画像に変わる。その積み荷は、ロケットの様な見た目でミサイル兵器かと全員は思った。
「そしてその積み荷は、核だ」
準一を除いた全員が息を呑んだ。
「計、4発の核巡航ミサイル。恐らく、これは敵が我々へ切り札として使う武器だった筈だ」
ここまで言うと、画像が切り替わる。その画像には一機の人型兵器が写っている。
「次に、この画像だ。米国無人偵察機が撮影したものだ。恐らく、一機しかいないだろうが、機械魔導天使だ」
そして画像は、特殊な形状をした船舶に切り替わる。海面に顔を出した潜水艦に似たそれを、準一は知っている。
「そしてこの画像だが、敵の海上戦力と思っていい。魔術回路を搭載した魔導戦艦だ」
やっかいだな。準一は思った。準一が招集されたのは、敵が機械魔導天使を出してくるであろう事が予測された為だ。現に、敵、機械魔導天使は確認されている。しかし、それに魔導戦艦がプラスされようと、アルぺリス単機でなら問題は無かった。
だが、今回は艦隊へ参加している。敵の魔術兵器から艦隊を護らなければならない。
「恐らく、準一君には多大な苦労を掛けるだろうな」
「いえ」
「それと、一番重要な事を言っておこう。敵の基地規模が判明した」
画像は、航空写真。
「直径15kmにも及ぶ円形の洋上プラントだ」
全員がウソだろ、と言いたげな顔をした。
「我々の目的は、この洋上プラントを沈黙させる事だ。道は艦隊が開く、その後は空挺ベクター部隊が主力だ。やり方は変わらない。そして敵は何らかのアプローチを仕掛けてくる。それを確認次第、攻撃開始だ。各員、戦闘に備えたまま待機。以上」
言うと九条はブリーフィングルームを出る。
大規模作戦とはよく言ったものだ、と準一は思いながらため息を吐く。
ブリーフィングルームから出た準一、カノンは時間を見計らい食堂へ入った。
トレイを持ち、順に食事を貰う。今日の昼食メニューはシーフードカレーとサラダ盛り合わせだ。
「おや、2人とも久しぶりだなあ」
配給口から、笑顔の似合う人の良さそうな老人が準一、カノンに声を掛ける。
「炊事長、久しぶりです」と準一は一度会釈をするとカレーとサラダを受け取る。
「お久しぶりです」
カノンも笑顔で会釈をし2品を受け取る。
後ろが詰まるので「では」と言うと端の席に着く。
「いただきます」
席に着き、準一、カノンは同時に言う。そしてスプーンでカレーをすくい一口。
「やっぱり美味しいですね」
カノンが口に左手を添え、笑顔で言う。
「ああ、やっぱり炊飯長のカレーは別格だ」
準一も大いに賛同した。
そして2人が二口めを口に運ぼうとすると準一の隣に一人の青年が座る。
「久しぶりだな準一」
青年はテーブルにトレイを置き、席に着くと準一に言う。
「相原一等海士、どうも」
準一は一度会釈する。
「カノンちゃん、相変わらず可愛いね」
相原一等海士はスプーンを持つとカノンに笑顔を向ける。
カノンは相原に「ありがとうございます」と営業スマイルを向ける。
「相変わらず準一ラブなんだね」
「私は兄さん以外の異性に興味はありませんから」
カノンは頬を赤らめ、コップに入ったお茶を一口飲む。
「あ、そういや。準一、聞いたぜ。お前碧武に入ったんだろ? 妹さんとはあったのか?」
「ええ、会いました」
「よし。写メ見せろ」
「ありません」
相変わらずの相原の態度に呆れる。
「どうぞ」
カノンは自身の携帯に入っている結衣の写真を見せる。
何でお前が持ってるんだ。準一は苦笑いしながらお茶を飲む。
「・・・あれ? あのさ? 準一? お前の実妹って・・・この栗色のボブヘアの娘?」
写真を見てキョトンとした相原に「そうですよ」と準一は淡と答える。
「アイドルグループにでも入ってる?」
「いえ」
準一が短く答えると「貴様!」と相原が準一の首を腕で締め上げる。
「カノンちゃんだけじゃなく! こんな可愛い妹が居るなんざ! 死んで詫びろ!」
「ちょ! 俺になんの罪があるってんですか!」
「可愛い妹が居る。それだけが犯罪なんだよこのヤロー!」
相原が力を入れようとすると、その後頭部をフライパンで叩かれる。
「相原、ったくお前は」
叩いたのは炊事長だ。
「し、しかし炊事長!」
相原は結衣の写真を炊事長に見せる。
「はは、可愛い子じゃないか」
「炊事長!」
「あのな相原。お前、妹さんが反抗期だからって準一にあたるなよ」
炊事長は言いながら呆れる。
「反抗期なんですか?」
「うん」
準一が聞くと、相原は泣きそうな顔で答える。
「ある日の事だ。俺が家へ帰ると妹が居てな、久しぶりにゲームしよう? って言ったら『お兄ちゃんなんか知らない!』って言われた」
「何したんですか?」
カノンが聞く。
「さぁ」
相原に思い当たるフシは無い。
「・・・なぁ、相原。お前その日さ、俺達に彼女が出来たって自慢してたよな」
炊事長に言われ「あ、はい」と相原は肯定する。
「ヤキモチですね。相原さんに彼女が出来たから、妹さん嫉妬してるんですよ」
聞いてカノンが結論を出す。
相原は「そ、そうか」と言うとカレーを貪り始める。何か結論を出したようだ。
「どうするんだ?」
炊事長に聞かれ、口の中のカレーを飲み込むと「デレさせます!」と力強く答える。
いつになってもこの人はブレないな、と準一は安心しながら食事を再開する。
「済んだなら戻るな。相原、食堂では静かにな」
炊事長が注意すると「了解」と相原は返事をする。
そしてすぐ、食事を終えると「じゃあな準一、カノンちゃん」と大きな声で言うとトレイを返却口に置き駆けて行く。
「悪い人じゃないんだけどな」
「重度のシスコンですからね」
言った準一にカノンが微笑みかける。
「兄さんも早くシスコンになったらどうです?」
「なりません」
準一が返事をすると「むう」とカノンは頬を膨らませる。
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碧武校は昼休み。結衣、カルメン、悪の3兵器(3バカ)は屋上に居た。
「結衣さ、今日の弁当いつもと雰囲気違うね」
弁当を広げた結衣に、菜月が声を掛ける。
「あ、これ? えへへ、これね兄貴が朝作ってくれてたの」
緩みきった表情で結衣は「じゃーん」と弁当を見せびらかす。
綺麗に並べられた手作りのおかず。中にはクマや、ネコのキャラが見え隠れしている。ご飯は可愛らしい小さめの握り飯。
「凝ってるね準一。あんなに普段冷めた感じなのに」
シャーリーが正直に言う。
「でも可愛い」
アンナが目を輝かせる。
「ホント、可愛いわ」
カルメンも言いながらシャッターを切り、弁当を撮る。
そんな中に「ちょっといい?」と声が掛る。
5人は声のした方に向く。そこには魔術師会合会参加メンバー、真尋・リーベンスが立っていた。(会合会の事はシャーリーしか知らない)
「あら、真尋じゃん。どうしたの?」
交流のあるシャーリーが親しげに声を掛ける。
「いやちょっとね。本当は昨日喋りたかったんだけど・・・今日は朝倉準一居ないんだよね?」
真尋が言うと結衣は「むッ」と声を出す。
「うん。ちょっとね。今日から義妹と既成事実造りの旅らしいよ」
シャーリーが説明すると「ああ、代理言ってたね」と真尋はため息を吐く。
「でもどうしたの? 急に準一の事聞いてきて」
気になったシャーリーが聞く。結衣も気になっているようで聞き耳を立てる。
「うん、昨日から彼の事が気になってて」
真尋は、少し肩を落とし息を吐く。結衣は「なんで兄貴の事が気になるの?」と疑問に思い真尋に声を掛ける。
「あの・・良いですか?」
「ん? 何?」
結衣に声を掛けられ真尋は結衣に向く。
「どうして兄貴の事が気になるんですか・・」
いかにも不機嫌な表情を作った結衣は真尋に聞く。
「どうしてって・・・そりゃ、こないだの本郷義明との戦闘で、コネで入ったなんて言われてたのに勝ったのよ。不利な状況で、気になる要素は十分じゃない?」
「・・・さっき、兄貴と喋りたいって言ってましたよね。何を喋りたかったんですか?」
「そこまでアナタに喋る必要は無いんじゃないかしら。これは当人同士のプライベートな事でしょ? 朝倉結衣さん」
結衣のブラコンを読み取った真尋は、挑発的な発言をする。
「でもまあ、今は安心していいわ。まだ、好意ではなく興味だから」
言い捨てると真尋は5人に背を向け校舎内へ入る。
「ごめんね結衣。真尋あんな感じだから」
「うん、別にいいよ」
言った結衣だが穏やかではなかった。もし、興味が好意になったら? 可能性は十分だ。兄が帰ってきたらガードを固めようと決意する。
「あ、そういやこの後校長室に行くんだった」
結衣は思い出し弁当を食べ始める。
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「やっぱりデカいですね。あの輸送ヘリ」
昼食後、大和後部甲板に出たカノンは、隣を歩く準一に声を掛ける。
「ああ、あの天月のヤツか」
準一は、カノンが何をデカいと言ったのか認識する。
天月に着艦しているベクター輸送用ヘリコプター、VCH-88アストロンだ。ベクター輸送の為の10mを超える巨体は確かにでかい。
「ベクター輸送用のヘリなだけありますよね」
カノンがふと言葉を漏らす。
「良かったな、あれに運ばれなくて」
「何でです?」
準一に言われカノンは聞く。今少し運んでもらってみたいな、と考えたところだからだ。
「あのヘリ、運んでもらってる最中だが身体が下に向くから気持ち悪くなるぞ」
「成程」
カノンは納得する。ベクターには重力制御盤も重力調整コクピットなんかは備わってないので、ただシートに縛り付けられ身体が下に向くだけだ。
でも、準一がこういう事を言った、という事は経験があるのだろうな、とカノンは思うと嘔吐をする準一を思い浮かべ苦笑いする。
「あ、兄さん。ブリーフィングの事ですけど」
「それが?」
突然だな、と準一は思った。
「核の話が出ましたよね? どこを経由して手に入れたんでしょうか? やっぱり・・」
「米国だろうな」
準一は予想ではあったが言い切った。カノンはやっぱり、と思った。
「どうしてそう思うんです?」
一応準一には聞いてみる。何故、米軍だと思うのか。
「色々とあるさ、米軍の急な作戦協力、そして一昨日の米軍輸送機墜落事件」
準一の言う、米軍輸送機墜落事件とは、米国空軍輸送機、XF-05通称イクシオンが太平洋上に墜落した事件だ。米軍が横須賀から救助隊を送った。輸送機自体は海面に浮いていたが、乗員は全員死亡。積み荷は無くなっていた。
「恐らく、輸送機が運んでいたのは日本に密輸する為の核だろう。何で太平洋に堕ちたかは知らないがな。そして、艦長が言ってた中国側が確保したタンカーの核は、反日軍が輸送機から奪ったものだろうな」
「やっぱり、米軍の協力はメンツを護る為ですか?」
「だろうな。核が奪われただけでもヤバいのに、その奪われた核が使用されれば米国のイメージはダウンするだけだ。だから、核は自分たちの手で中国側から米国側に回したいんだろう。そして作戦協力は保険も兼ねている筈だ」
カノンは、準一の言った保険に首を傾げる。
「この作戦に協力し、核を自分たちで確保、そして敵基地の掃討。信頼回復にはピッタリだろう」
少し、嘲笑するように後ろの米国海軍艦艇を見ながら準一が言うと「兄さん、悪い顔してますよ」とカノンに指摘され無表情に戻す。
「でも、それなら納得です」
「さ、堅い話はこれくらいにして・・・一つお前に聞きたいことがあるんだ」
話題を切り替えようと準一が聞く。
「なんです?」
「お前と結衣の一騎打ちあっただろ。あれ、結局勝利したのはお前だったよな」
準一に言われ戦いの勝敗を思い出す。第一回戦引き分け。第二回戦、体力差で勝利。第三回戦、ゴチャゴチャ。
「そう言えば・・勝ってますね」
「だろ? 結局あれに勝って何かあったのか?」
そう言えば、言われてみれば勝ったのに何も無かったことをカノンは思い出す。
「無かったですね・・・あ、そうだ。兄さん勝ったのでご褒美下さい」
カノンが笑顔で準一におねだりする。
「いいよ。何が良い?」
準一は快く承諾する。別にへんなモノは要求されないだろう。とタカを括った。
カノンは少し考え込み「あ」と何かを閃く。
さて、何が来るか。
「兄さん、キスしてください」
「却下」と速攻で却下され、カノンは準一の胸板をポカポカと叩き始める。
「何で却下なんですか!」
「俺たちが兄妹だからです」
「義理って言う最高の響きが私の妹の前には付いてるんですよ! 義理って血が繋がってないんですよ! 特典ですよ!」
必死に義理をアピールするカノンに「義理でも妹だからアウトです」と準一は呆れ気味に言う。
「むー、兄さん相変わらずガードが堅いですね」
カノンはプイとそっぽを向く。
「堅くない」
準一は表情を変えず言う。
「兄さんは、昨日私や結衣と一緒に一夜を共にして欲情しなかったんですか?」
「しません」
「やっぱり・・・兄さんは本郷義明の様なカッコいい男性が好みなんですね」
カノンの言葉に準一は頭の回転を停止させられた。
「は?」
この言葉しか準一は出せなかった。何の事です? 準一は聞こうとするがそれより早くカノンが口を開いた。
「だって兄さん、私や結衣と居るよりも本郷義明と居る方が楽しそうです。お昼も仲良く食べてましたし」
「そりゃ、男同士だから気兼ねなく話せて」
「それに、昨日こっそり本郷義明と会ってましたよね!」
「あれは義明がから揚げを持ってきてだな」
「学生寮エリアで腕組んでましたよね!」
「マッスル同好会と何かあったみたいで俺はたまたま通り掛っただけなんだけど」
「それでどうして腕を組んだんですか!」
「いや・・・成り行きで」
「関係ありません!」
ああ、言い訳は無駄なんだ。準一は説明を諦めカノンの説教を受ける。
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「おー、結衣ちゃん。良く来たね」
校長室に入った結衣を代理は笑顔で迎える。
「どうも。その、どうしてあたしを呼んだんですか?」
「うん、結衣ちゃん気になってるんじゃないかなって」
「気になる?」
「そう、君のお兄さん、準一君の事」
代理が少し妖艶な笑みを浮かべ言うと、結衣は動揺する。
結衣は確かに気になっていた。こないだのタンカーでの救出劇で準一は単機、一人で制圧を完了させた。機械魔導天使での戦闘は納得がいった。機械魔導天使は、性能が高く、準一のベクターでの戦闘能力も把握していたからだ。
しかし、タンカー内で何があったかは知らない。機械魔導天使を所有した魔術師だという事は知っている。
だが、準一は時折恐ろしい目をする事を結衣は知っている。結衣がその目を見て、率直な感想は怖い、だった。
「考え込んでいる所悪いけど、気になる?」
表情を崩さずに代理が聞くと、考え込んでいた結衣は「は、はい」と返事をする。
「ま、準一君からは話すなとは言われてないしね」
代理は言うと立ち上がり、客用の席に着き「結衣ちゃんも座って」と言うと、結衣も向かいの椅子に着く。
座った結衣は、何から話そうか、と迷っている代理に「あ、あの」と声を掛ける。
「ん?」
「兄の事で聞きたいことがあります」
「何かな」
言葉を待っている代理。結衣は今聞こうとしている事を聞いて良いのか迷ったが、深呼吸をする。
そして意を決する。
「あ、あの、兄は・・その、人殺しに慣れているんですか・・・?」
震えながらに声を出したその言葉に代理は「ふふ」と微笑むと「ええ、慣れてるわ」と肯定する。
聞いて結衣は身体を震わせた。
「やっぱりですか」
声のトーンを落とし結衣が言うと「準一君は殺意を隠せないからね」と代理は笑顔で言う。
「じゃ、教えてあげる。ある程度の範囲だけど」
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「敵の迎撃用兵器は固定銃座に迎撃用ベクターだ。無人機を試しに飛ばしてみたらあえなく砲撃の的にされた」
艦長室で、九条は送られた映像を確認しながら副長に言った。
「どうして飛ばしたんですか、結構危険ですよ・・ってここまで来ては関係ないですね」
「いやさ、敵に全く動きが無いからさ」
九条はため息を吐きたそうな顔で映像を切る。
「成果は?」
「分かった事は、ベクター輸送のヘリ部隊はかなり危険だ。予想を超える防衛力だったからな」
副長は顎に手を置き「しかし参りましたね」と九条に向く。
「取りあえずは中国政府に後ろから攻撃してくれ、とは頼んだ」
「返事は?」
「オッケーだそうだ。作戦開始後、ヘリ部隊が敵射程内に入る前に後方から龍蒼で攻撃してくれるらしい」
九条は椅子に座り言った。
「龍蒼ですか、しかし良くオッケーしたものですね」
聞いて副長は納得がいかないような顔で言った。
アジア諸国に対し非協力的で、鎖国的行為を行う中国政府が協力する。
そして、龍蒼は中国が誇る航空兵器を使用しての爆撃機部隊だ。中華圏防衛軍の戦略においては重要な役割を果たすそれを投入してくるとは、と納得がいかないのだ。
「確かにな。米軍との裏取引でもあったかな」
少しからかうように九条は言った。
副長は顎に置いた手をどけ「ぞっとしますよ」と一言言うと「では、この事は後程各員に通達しますね」と言い艦長室から出た。
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ある程度の事情ではあるが、結衣は準一の参加した作戦を聞いた。その表情は驚くではなく、驚愕の表情だった。
「驚いた?」
驚愕の表情で唖然としている結衣に代理は問いかけた。
「え、ええ」
結衣は正気を取り戻したような返事をする。
この反応は代理からすれば想定の範囲だった。兄が大好きである彼女にこのような話をすれば、どういう反応をするか興味があった。
「ま、驚くのは当然よね」
結衣は黙ったままだ。顔は自分の膝元に向いている。
「・・・戸惑っている所申し訳ないんだけど、これも教えておくわ」
少し申し訳なさそうな代理。結衣は顔を上げ代理に向く。
「準一君がこの碧武校に強制的に転入させられたのはある理由があってなの」
ある理由? と聞こうとするも、結衣は声が出なかった。
「この碧武校はベクター兵器操縦者を育成する学校。魔術師側、反日軍側、どちらにしても、この碧武校は厄介なのは確か。卒業生が優秀なパイロットになれば、それは敵からすれば脅威よ。だから、今この2大勢力は全国の碧武を特別警戒してるわ。まだ未熟な生徒の段階で殺しておけば問題ないでしょ。そして、敵はいつ攻めて来てもおかしくない位になってるわ」
それって、と結衣は思った。
「気付いたみたいね。準一君は、碧武九州校を守護するために転入させられたの」
「・・・やっぱり」
代理の話の途中からそうは思っていた。でも、そうであっても結衣からすれば納得のいく話では無い。
その事を考える結衣は、感情を隠し切れておらず「納得いかないよね」と代理に気付かれる。
気付かれた結衣は、顔を俯け「はい」と返事をし、その返事を聞いた代理は少し困ったような顔をする。
「現在、どの国においても魔術師は敵か道具、この2つよ。あんまりこういう事は言いたくないけど・・・彼はまだ道具、で良かったんじゃないかしら」
言った代理に結衣は睨んだ目を向ける。
「だってそうじゃない? もし敵だったら――――」
「―――結衣ちゃんが殺さなくちゃいけなかったかもよ?」
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夕刻、日本海に停泊する大和は出撃はしておらず、船内にはただいつも通りの空気が流れていた。
「なーんにも無かったな」
後部甲板に出た相原はふと言った。手すり、に手を置き何か夕日に黄昏ている。
「そうですね」
それに準一は冷たく返した。ここで何か乗ってしまうと、この男は果てしなく面倒臭いからだ。
「何だよ準一、冷たいじゃねえか」
相原は準一に言いながらタバコに火を点けると「ん」と準一にタバコとライターを渡す。
準一は受け取ると口に咥え火を点け一吸い。
「冷たくないですよ」
「いや、冷たいね。昼間の3割増しは冷たいね」
「・・・そう言えば妹さんとは仲直り出来ましたか?」
昼間のバカ騒ぎの原因を聞く。
「お、おお! 良くぞ聞いてくれた! いやなあの後ー電話してさ『結婚しよう』って言ったのよ!」
実の妹に何言ってるんだこの男。準一は苦笑いのままタバコを吸う。
「そしたらよ・・・なんか、仲直り出来た」
「あんまり嬉しそうじゃないですね?」
仲直りできたならもっと喜ぶのかと思った準一は聞いてみた。
すると相原は準一に苦笑いを向け「結婚しようって・・・冗談のつもりだったんだよね」ととんでもない事を言った。
「・・・あの、どういった返事だったんですか?」
「ああ、録音してある」
相原は言うと通話に使った携帯を取り出し、通話録音した音声を再生する。
『はい、もしもし?』
『お、真美、俺だ良太だ』
『何だお兄ちゃんか・・・ウザいから切っていい?』
『ま、待ってくれ・・・あのな、お前に大事な話があるんだ?』
『は? 何、彼女さんと結婚? へぇーおめでとー』
『あのな真美、俺と結婚しよう』
ああ、問題の台詞はここで言ったのか。
『え・・えっとお兄ちゃん?』
『もう一度言うぞ、真美結婚しよう』
『え、えええええ。で、でもあたしたち兄妹で・・・で、でもお兄ちゃんが』
『真美?』
『わ、分かったお兄ちゃん。あたし、お兄ちゃんと結婚する』
『・・あれ?』
『じゃあお兄ちゃん、次帰ってきたら覚悟しててね。今まで損した分超甘えるから』
ここで通話は終了。成程、想定外の返事だ。
「俺的には、結婚しようの後に罵声の一つでも飛んできて仲直り、の筈だったのよね・・・なーにを間違えたかな?」
アンタはまず妹からの好感度の高さに気付いた方が良い。指摘したかった準一だがあえて言わなかった。
「今からうっそぴょーんって言った方がいいかな」
「言わない方が良いですよ。言ったら多分刺されます」
言った準一はタバコを海に投げ捨てる。
「参ったな・・家に帰ったら両親に消される」
相原が言うと「自業自得ですよ。帰った時に妹さんにしっかり説明しないと」と準一が厳しめに言う。
「だよなぁ・・・あれ? でも真美可愛いから結婚してもいいや」
相原は言うと「じゃあな」と準一に言いスキップしてゆく。
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日本海洋上反日軍基地。その中心部の司令部に司令官は居た。
「日本、米軍の艦隊はこちらの動きを待っているらしいな」
司令官の男が司令室で側近に言った。
「どうも、後方の中華圏防衛軍も騒がしいようですが」
「何、中華軍はベクターは投入せん。絶対にな。我々の問題は大和と、それに合流した機械魔導天使だ」
言った司令の顔に焦りの様子が見受けられた。
「確か・・アルぺリス、でしたね。しかし、それ程の相手なのですか?」
側近はまだアルぺリスの事を良くは知らない。疑問に思って当然だな、と司令は思うと側近に向く。
「あの機体、アルぺリスは他の機械魔導天使とはワケが違う。奴は、アルぺリスは確実にこの基地に乗り込んでくるだろう。・・・そうなれば貴様の出番だ」
言って司令は隅の男に向く。
「ええ、了解しています」
隅の男は笑みを浮かべ、モニターに映る日本、米軍艦隊を見つめる。
「ご安心ください。敵は全て我が機械魔導天使ブリザードの氷結魔術で凍らせます」
男が言うと司令は「頼むぞ」と一言。
「ええ、アナタの不安要素は全て、氷のオブジェクトに変えて御覧に入れましょう―――」
声には、自信しかなかった。司令に不安は無くなった。
機械魔導天使と魔術師が味方になる事がこれ程心強いとは、とモニターに向き、笑みを浮かべた。




