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収容所

 十二使徒の1人、ローマンの罪は魔法を私的な快楽を使用した事にある。他にも存在する魔術師は、私的な快楽に魔法を使用しているが、彼らは教団に所属していない。ゼルフレスト教団は、魔法とは人々が幸せを手に入れる為の物、と考えている為、私的快楽、殺人暴行虐殺などに使用した場合、罪となる。

 が、最早それは形だけだ。律儀にそれを護っている人間は、今の教団にはほとんど存在しない。



「初めまして」と海堂陸佐は、佐世保基地ドッグに入った大和を背にし、此方を見ている朝倉準一に手を出した。握手の手だ。「私は陸上自衛隊陸佐、海堂だ」


「初めまして」と準一も握手する。海道の大きな右手に自分の右手を合わせ堅く握る。合った目は細く、何か善からぬ事を考えているように思えた。

「朝倉準一です」

「会えて光栄だ。活躍は常々」


 手を離し陸佐は笑みを向ける。陸上自衛隊には自分の話がどこまで伝わっているのだろう、等と考え手を下ろす。


「聞いたよ。十二使徒と鉢合わせしたようだね」


 陸佐に言われ目を細める。十二使徒と言う単語、別に何かの映画などの単語でならいいが、この言い方では空港跡地でのローマンの事を知っている。

 一体、どこで聞いてきたのやら。


「不審そうな顔をする。まぁ、そうだな。言ってしまえば、魔法は常に想定外だ。……何をするにも、な」と陸佐は笑みを向ける。善人の顔ではない、と思った準一は何か考えようとし止める。


「早期の情報収集は大切だろう? 一体、どこでどうやって魔法が関わって来るかもわからないんだからな」

「仰る通りです」


 と準一は会話を切り上げようと、興味の内容な返事をする。あまりこの男とは関わりたくない。一方の海道は細めた目で、睨むかの勢いで準一を見る。


「君の腹の内が読めないな……朝倉準一」

「俺の?」

「ああ。何を考え、何をしようとしているのか。少なくとも敵ではないのだろうが、分からないな。味方であるのかどうかも」

「味方ですよ」


 だな、と応じ陸佐は再び笑みを向ける。愛想の無い。作り笑いにすらなっていない。


「時間を取らせたな。すまない」

「いえ」


 では、と準一も愛想なく踵を返すと陸佐を見ずに去った。






 準一は、陸上自衛隊の海堂陸佐について話を聞いた事が無かった。彼が接触して来た理由も不明、何を考えているかすら分からない。ガタイの良い、目の細い不気味な男。それが準一の中での陸佐だ。

 そんな事を考え、ドッグに入ると短い髪のポニーテール、ジーンズに上着。チェスターコートの女性が居り、準一は一歩後ずさりした。


「お? ああ、準一。何してんだよ」

「そ、それは此方の台詞です。先生、何故こんな所に」

「失敬だな、教え子の顔を見に来ちゃまずいわけ?」


 いえ、と準一は先生を見る。20代後半だがまだ若い。

 彼女の名は瞿曇円華、朝倉準一の戦闘に於ける先生。


「つーかさお前、学校入ってからまーったく連絡無くなったよな? ん?」

「そりゃ、先生が必要以上に連絡するなって」

「聞く事とかあるでしょうよ」

「代理、黒妖聖教会も居ましたし、俺自身知識を付けました」


 と言うと「生意気」と準一は頭を叩かれた。




「で、十二使徒の事。分かってる?」と場所を移動し、自動販売機のあるベンチに腰を降ろした瞿曇は準一に聞く。「ええ」と応じた準一は瞿曇の隣に腰を降ろす。


「上は、本格的に先生を投入する気ですか?」

「どうだか。安楽島に聞いたらお前はまだ先だ、って言ってたけどな」

「じゃあ、どうしてここに?」

「言っただろ?」


 と瞿曇は手に持っていたコーラを開け、グビグビと飲む。「教え子の顔を見に来たんだよ」言うと続ける。


「十二使徒が関わって来た。それだけ、教団の戦力も限られて来たのか、それとも本腰を入れて来たのか……」

「前者でしょう、神聖なる天使隊も有効手段じゃなかったんですから」

「……必ず次が来る。あの男、ローマンは氷魔法のエキスパート。それと、ローマンの大剣は接触した魔法をキャンセルする」

「ファルシオンは?」

「さぁ、ぶつかってどうなるか。……多分、鍔迫り合いだな。キャンセルする以上、切断は不可能だ」


 対魔術師戦における白兵戦。機械魔導天使戦なら兎も角、生身で準一が恐れているのは加速・硬化、この2つの魔法をキャンセルされる事だ。この2つがキャンセルされた場合、準一の戦闘能力は激減だ。

 シスターライラからの護符もあるが、あれは使用中の魔力の消費が大きく実戦向きじゃない。


「さて、厄介なことになる前に動きたいんだが。上は動かない。……あるぞ、面倒臭いの」


 ローマンは出直す、と言った。戻るわけでは無い。ただ戦力を整える。いや、力を分散させる。


「収容所、ですか?」

「当たりだ」


 魔術師や反日軍、日本にとってマイナスを齎す者達を収容した施設。だが警備はしっかりしている。フリゲート艦数隻。ベクターも居れば戦車だってある。

 だが大丈夫かどうかと聞かれれば、少し考える。不意を突かれれば必ず隙が生まれる。


「あのリンフォードとかいう奴、まだ処刑されていない」


 言った瞿曇の顔を見る。リンフォードは稀なゴーレム使い。それも、黒曜石で神の位へと上げた、となれば研究対象だ。収容所から連れ出されてはいない。反日軍関係者だってかなりの数が居る。


「どこまでこれがあってるかは知らないが、確実に十二使徒は何かを起こすぞ。奴は紳士じゃない。頭のネジが幾つか飛んでる」

「紳士と言えるほど誠実な人間、俺は知りませんよ」


 そうか、と言うと瞿曇は立ち上がり、コーラの缶をゴミ箱に投げ入れ「ナイス」と自分で言うと「じゃ、お前も来いよ」と言い残すと歩き去る。準一は「はい」と頷くと息を吐き、少し頭を抱えた。







 よくもまぁ、と心中で呟いたローマン、彼は既に移動しており、山中に居た。その山中の大きな山道。交通規制が敷かれる中、大型のトラックが数台以上。巨大なコンテナを背負っている。


「あんた達がお膳立てなわけか?」と聞いたローマンは、トラックの周囲に居た男に声を掛ける。「そうだ」と応じた男は、被っていたヘッドセット付きのヘルメットを脱ぐと、韓国人寄りの顔を露わにし、口元に笑みを浮かべる。


「同志、同胞たちの救出。あんたにとっても丁度いいのだろう?」

「ああ」


 頷かず、声を出したローマンはコンテナを見る。「あれは?」


「ベクターだ。それにヘリ。収容所に来る回収部隊、それまで持ち堪える為のな」


 無謀だ。とローマンは思う。だが成功すれば、高位魔術師の幾つかはこれの収拾に向かう。その間に任務を果たせる。


「あんたの目的の人物、悪いが区画が違う。あんたで誘ってくれ」

「分かってるよ。あんたらの邪魔はしない、出来る限りサポートする」

「こちらもだ。……では、利害の一致だ。よろしく」


 細めた目、向けられた微笑みは不快なモノでローマンは目を細めながらも、握手の為に差し出された手を握り返した。






 収容所では、収容される者達がよそよそしくしていた。リンフォードはその中、食堂におり、聞こえてくる日本語ではない言葉に嫌気を感じる。ここに来てから、術式を弄られ、顔の夥しい文字はただの飾り。折角のゴーレムも実験。

 だから殺されない。しかし、ここではずっと知らない国の言葉が聞こえて来ている。色々な国の言葉がねり混ざっては、耳に入る。

 嫌な気分だ。

 そう思い、食事の入った白いトレーを見る。パンに実験の為の合成肉。地下で栽培した野菜。魚。酷い味のジュース。

 最悪の食事だ。

 合成肉は、鶏肉、豚肉、牛肉他の動物と関係なく合成され、調理方法も最悪。魚、野菜はマシだ。魚は焼き、野菜はいためただけ。

 問題はジュースだ。色は赤。口に含んだ瞬間、むせ返るような生臭さが口から鼻に広がる。

 しかし人間は不思議なモノで、不味い、クソだ。と思いながらも慣れてしまう。

 周りを見渡せば、咽返っていたモノも、今ではジュースを平気で飲み干している。


「味覚が狂ったか」


 ここでは、顔の文字は不思議がられない。それ以上の人間もいるからだ。隣に座るのは、同じ区画、部屋の男。どうも元は在日華人らしい。ここに居る理由は反日軍に加担しており、日本で若者を中心に薬物を回していた売人で、見つかった為だ。

 収容所は、そんな人間の集まりだ。犯罪者より性質が悪い。


「慣れたか」


 と華人に聞かれる。「ああ」と応じたリンフォードは簡素なフォークで合成肉を突く。「この肉にも慣れたよ」フォークを刺した個所から漏れる肉汁に目を細める。


「お前、所属は」

「フリーだ」

「変わってるな。何したんだ」


 興味本位からの質問だろうが、その好奇心からの目をウザいと感じ、リンフォードはため息を吐く。


「あんたはクスリを運んでたんだな」

「運んでただけだぜ? それをこの国の若者が買っただけだ」


 この男は小さい。所詮はクスリ、この施設のヤバい奴ともなれば核輸送を画策していたり、等とある。中韓の造り出した反日軍。聞けば最終目標は中韓共同で、日本を植民地化させるとか。

 しかし他国の事だ。とリンフォードは華人に目を向ける。


「俺は魔術師だ。聞いた事あるだろう、碧武って学校」

「ああ、あのおっかねぇ学校、まさかそこを?」

「そう。攻めて呆気なくな」


 へぇ、と華人は赤いジュースを飲み干す。飲み干した後のカップには、ドロリとしたのがこべり付いている。


「珍しいな。魔術師とは、訳ありか?」

「あっても話さない。……あんたは? 何かあるのか?」

「あるもなにも、俺は反日軍に加担してる。っても、俺には特段、日本に恨みなんて無いんだがな」


 だったら、と聞く。肉に刺さったフォークを引き、先端に刺さっているささみの様な肉を一口。


「何で? と思うか」と華人は訊き、頷いたリンフォードを見、自分のトレーに目を落とすとカップを置く。「金だよ。反日軍は金になる」


 中国は貧富の差が激しい。反日軍、反日とは名ばかり、結構な数の人間は金目当ての貧困層の人間だ。


「俺の国での年収、その10倍以上の金が入る」

「家族の為か?」

「俺はそんな人間じゃない。借金まみれだったからな。丁度良かった。取り立てに追われるのも、軍に入っちまえば終わりだ」

「しかし何故反日軍に? 防衛軍に入れば」

「あそこは」


 と、華人はリンフォードに目を向けるとフォークを置く。


「貧困層の入れる場所じゃない。だから、中華圏防衛軍じゃなく反日軍なんだよ。危険も多いからな。だから、2国は絶対に表立っての干渉はしないだろ? 収容している人間を返せと」

「そうだな」


 薬は、とトレーに目を落とし、魚を突き華人は続ける。「薬の運び屋は良い。金の幾つかは俺の懐に入る」


「薬を回せる人脈があるなら、何故繁華街の人間を頼らなかった」

「金だよ。頼れば、金が消える。それに薬の売買ルート、折角掴んだそれを、あいつ等に独占、もしくは変えられちゃ堪んねえからな」

「その欲に塗れた結果がこれか」


 と半ば呆れ気味にリンフォードが聞くと「違いない」と華人は首を振ると、疲れたような表情を浮かべため息を吐く。


「良い国だよ。ここは。貧富の差はあっても目立たない。魔法も戦争も遠い国の話みたいに感じる。今が平和だって言われりゃ、この国では信じられるぜ」


 それはリンフォードも感じていた。 


「アジアの軍拡競争じゃ日本はトップ。俺の国じゃ、日本はかなりヤバい、って聞いてたんだがな。来てみりゃ拍子抜けだ」

「で、聞きたいんだが。何であんた達や韓国人達はあんなよそよそしいんだ?」


 ああ、と声を漏らすと表情を和らげ、華人は魚の切り身を二口食べる。


「俺は断ったが、血気盛んな連中は息巻いているんだ」

「何をだ?」

「ここから逃げだすんだよ」


 そうか、と言うリンフォードは手早く野菜を口に運ぶ。成功するわけが無い、必ず失敗する。


「無謀だな」

「俺もそう思うよ。……魔術師、あんたはどうする? 乗ってみるか?」

「止めておく……騒がしいのは御免だ」





 

 模型屋の外、日本人離れした銀髪長髪の男は、整った顔を少女に向けた。少女は緑のシャツに白のスカート。灰色のカーディガンの少女はガンプラを持っている。


「やっとか」


 男は、スーツのポケットに入れていた手を出すとため息を吐く。「何を買ったんだ?」


「バンシィ」


 少女はガンプラの箱を男に見せる。


「何故、プラモデルを?」

「前に」


 と少女は思い出す様に笑みを浮かべると、空を見る。


「夏にね……2人と一緒にお出かけしたから」


 2人か、と車に目を向け「移動しよう」と少女に言う。「バンシー」

 そう呼ばれた少女は、ガンプラの箱を持ったまま長い髪を揺らすと車へ駆け寄った。

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